グルテン失調症は抗グリアジン抗体が小脳を攻撃してしまう

グルテン失調症はもともとグルテンに対する感受性が遺伝的に高い人がグルテンに曝露することによって小脳の神経細胞が破壊され、ふらついて、まっすぐ歩けなくなったり、話すときに呂律が回らなくなったりする病気です。

小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンが原因で起こる自己免疫疾患で、グルテンフリー食で症状の進行は抑えられます。早期に発見し、早期に治療を開始することが重要です。

小脳の運動調節機能が損なわれる運動失調

小脳は脳の後ろ側にある器官で、知覚と運動機能を統合しています。大きさは大脳の10分の1ほどしかありませんが、脳の神経細胞の半分以上が小脳にあります。
小脳の機能が損なわれると運動や平衡感覚に異常をきたし、

  • ふらついて、まっすぐ歩けない。
  • 動作が遅い。
  • 細かい動きができない。
  • 話すとき呂律が回らない。

といった症状が現れます。

一方で多くの場合、意識はふだんどおりで、知覚もほぼ正常です。このような症状を「運動失調」といいます。

運動失調には先天性のものや遺伝性のものもありますが、薬物やアルコール、重金属が原因で起きる後天性のものもあります。

グルテン失調症はグルテンが原因の運動失調で遺伝性

グルテン失調症(gluten ataxia)は、小脳の損傷が原因で起きる運動失調症のうち、小麦などに含まれるたんぱく質のグルテンが原因で起きる病気で、グルテン運動失調ともいわれます。

グルテン失調症はグルテンが原因で起きますが、後天性ではなく、遺伝性の自己免疫疾患です1)。もともとグルテンによって影響を受けやすい体質の遺伝子を持っていたところに、グルテンの摂取がきっかけとなって症状が現れるものです。

花粉症になりやすい体質の人が、長年にわたって花粉を繰り返し吸いこんだ結果、花粉症を発症するのと似ています。

グルテン失調症は、すべての運動失調の中の15%、特発性の散発性運動失調の40%を占めており、発症時の平均年齢は53歳です2)。また日本の小脳性運動失調症患者の10%以上がグルテン性運動失調症であるという論文を、東京医科大学の研究グループが出しています3)。欧米と比べて日本にはグルテンの関係する病気はほとんどないという人もいますが、気づいていないだけという可能性もあります。

グルテン失調症の原因はグリアジンで抗グリアジン抗体を作る

グルテン失調症の患者さんは、小麦たんぱく質のグルテンの成分であるグリアジンを異物と認識しており、体内に抗グリアジン抗体(AGA)を持っています

AGAにはIgGとIgAの2種類がありますが、IgGまたはIgA、あるいはその両方を持っていると報告されています4)。なおこの抗体は、小麦アレルギーなどの即時型アレルギーを起こすIgE抗体とは異なり、遅延型アレルギー反応に関与しているものです。

ところで人間の体には無数の細胞がありますが、それぞれの細胞の表面には、特定の物質とだけ結合することができるような鍵穴があり、その鍵穴に入る鍵を持った物質とだけ結合できるようになっています。

小脳で神経伝達を担っている細胞の中に、プルキンエ細胞顆粒細胞というのがありますが、この細胞にも鍵穴があります。

一方、グリアジンの表面にも鍵穴があります。人間の体がグリアジンを異物と認識すると、グリアジンを攻撃するための抗体である抗グリアジン抗体が作られますが、グリアジンが持つ鍵穴に合う鍵を、抗グリアジン抗体は持っています。そのことによって、抗グリアジン抗体は効率よくグリアジンと結合して、グリアジンを攻撃できるのです。

グルテン失調症

問題は、小脳のプルキンエ細胞と顆粒細胞が持つ鍵穴に、抗グリアジン抗体が持つ鍵が入ることです。

体内に抗グリアジン抗体が増えると、グリアジンを攻撃するだけでなく、小脳のプルキンエ細胞や顆粒細胞まで攻撃してしまいます。もともと抗グリアジン抗体は、グリアジンという異物から自分の身を守るために作られたものでした。ところがこれが誤って自分の体を攻撃してしまうのです。このような状態を自己免疫疾患といいます。

なお抗グリアジン抗体が小腸細胞を攻撃するのがセリアック病で、これも自己免疫疾患のひとつです。グルテン失調症の患者さんの24%が栄養吸収不良を併発しているといわれており、これは抗グリアジン抗体が小腸細胞を攻撃したためではないかと考えられています。

グルテンフリー食によって症状が改善、急性の場合は治療も必要

グルテン失調症の患者さんの小脳を調べると、小脳皮質全体に斑状にプルキンエ細胞が消失しているほか、小脳のいたるところに、炎症が起きたときに増える細胞が認められます。

しかしグルテンフリー食を行うことによって、ある程度運動失調が改善し、その効果は持続することが分かっています5)

一方でグルテン失調症が急性に表れ、症状の進行が早い場合は、グルテンフリー食への切り替えだけでは小脳の損傷を止めることができないため、ステロイド、静脈免疫グロブリン、ミコフェノール酸、リツキシマブなどを用いた免疫療法による治療が必要であるといわれています6)

グルテン失調症は検査で早期発見するのがよい

グルテン失調症は、グルテンに対する感受性が遺伝的に高い人が、グルテンに曝露することによって起こされる小脳性運動失調症です7)

グルテン失調症を発症している人は、セリアック病や非セリアックグルテン過敏症、疱疹状皮膚炎など、ほかのグルテン関連障害を併発している例が多いこともわかっています。グルテン失調症でいったん損なわれた小脳の神経細胞はもとには戻らないので、早期に発見し、早期に専門医による治療を受けることが重要です。

グルテンに感受性が高いことがわかっている場合は、グルテンを含む食品はなるべく摂らないほうがよいでしょう。

グルテンに対する感受性が高い人は16人に1人くらいはいることがわかっているので、心当たりがある場合は、グルテンの摂取を控えることをお勧めします。

まとめ

  • グルテン失調症はもともとグルテンに対する感受性が遺伝的に高い人がグルテンに曝露することで小脳の神経細胞が破壊され、ふらついて、まっすぐ歩けなくなったり、話すときに呂律が回らなくなったりする病気
  • すべての運動失調の中の15%、特発性の散発性運動失調の40%を占める。発症時の平均年齢は53歳。日本の小脳性運動失調の10%以上がグルテン性運動失調症との報告もある。
  • グルテン失調症は、グルテンに含まれるグリアジンに対する抗体ができ、これが小脳のプルキンエ細胞と顆粒細胞という神経細胞を攻撃することで、小脳の機能が損なわれることで起きる
  • 早期発見しグルテンフリー食に切り替えることで、進行は止めることができるが、いったん破壊された神経細胞はもとには戻らない。

参考文献
1) Hadjivassiliou M, et. al., Gluten ataxia. Cerebellum, 7 (3) 494-498 (2008)
2) Hadjivassiliou M, et. al., Gluten-related disorders: gluten ataxia, 33 (2) 264-268 (2015)
3) Nanri K, et. al., Gluten ataxia in Japan. Cerebellum, 13 (5) 623-627 (2014)
4) Jonas F Ludvigsson et. al., The Oslo definitions for coeliac disease and related terms, Gut 62 (1) 43-52 (2011)
5) Hadjivassiliou M et.al., Gluten ataxia, Cerebellum 7(3) 494-498 (2008)
6) Newrick L, et. al., Recognition and management of rapid-onset gluten ataxias: case series. Cerebellum Ataxias, 8 (1) 16 (2021)
7) Taraghikhah N, et. al., An updated overview of spectrum of gluten-related disorders: clinical and diagnostic aspects. BMC Gastroenterol, 20 (1) 258 (2020)

グルテンフリー食品まとめ

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