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グルテンフリーについてよく見かける間違い 7選 どこが間違っているのか?

世の中には、さまざまな情報があふれています。グルテンフリーに関する情報もたくさんありますが、明らかに間違った情報が、堂々と公表されていることがあります。ネット上は仕方がないにしても、本や新聞、雑誌の記事にもあるのは、驚きです。ここでは、グルテンフリーについて、よく見かける間違った情報を 7つ選んで、 解説します。

「小麦成分が含まれない = グルテンフリー」は間違い

最近レストランのメニューに、グルテンフリー( Gluten Free )と書いてあるのを見かけるようになりました。インバウンド需要を見越して、グルテンフリーメニューを用意する飲食店も増えているようですね。

ところがあるレストランで、押麦のリゾットを、「これはグルテンフリーメニューです」と説明されたことがあります。

押麦は、大麦を調理しやすくするためローラーなどで押しつぶしたもので、白米に比べて糖質が少なく、食物繊維が多いということで、ヘルシーフードとして人気です。でも、大麦はグルテンが含まれる穀物です。

大麦は、そのまま食べる以外にも、麺(もち麦麺)、シリアル、ビールなど、身近な食品に使われていますが、入っているかどうかは、原材料表示の内容を見なければわかりません。

小麦はアレルギーを起こすことが多い特定原材料として、容器に入っていたり包装されたりした食品には表示するルールになっていますが、大麦は特定原材料でもそれに準ずるものではないため、表示の必要はありません。そもそもレストランで提供する料理には、原材料表示やアレルゲン表示は必要ないのでがないので、お店の人からの情報だけが頼りです。

大麦のほかに、ライ麦もグルテン含有穀物です。日本でライ麦が使われている食品としては、ライ麦パンとシリアルくらいでしょう。ライ麦パンについて紹介したサイトに次のような一文がありました。

『ライ麦パンは、小麦粉の使用分量が少ないために、グルテンの摂取量も少なくできます。』 ← 間違い

整理しましょう。

グルテンが入っている穀物は、小麦、大麦、ライ麦とその交雑種です。交雑種とは、その穀物と別の穀物が掛け合わされてできた穀物で、例えばライ小麦というのがあります。

これらの穀物が全く使われていないか、使われている場合は、食品中に含まれるグルテンの濃度が 20 ppm 以下(アメリカは未満)の場合、グルテンフリーと表示することができます。

なお、EU、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのルールでは、オーツ麦もグルテン含有穀物に含まれていますが、アメリカ FDA のルールでは、オーツ麦は対象外です。

実は、オーツ麦には、グルテンは含まれていません

では、どうしてオーツ麦を対象にしている国があるかというと、オーツ麦の加工・流通の過程で、小麦や大麦などが混入する可能性を排除できないからだそうです。

 

 

「スペルト小麦はグルテンが少ない」は間違い

この情報、ネット上で、結構広まっています。情報の出所を探してみましたが、わかりませんでした。ネット情報は、他の人が書いた文章をコピペしていることが多いので、最初に間違った情報が載ってしまうと、それに気づかずに、どんどん広まってしまいます。

スペルト小麦は、現在の小麦が品種改良されて生まれる前の古代小麦の一種で、ドイツや東欧の一部で栽培されています。昨今の健康ブームで注目され、需要が伸びているそうです。日本でも手に入れることができますが、通常の小麦より値段はかなり高いです。

ヨーロッパでは、スペルト小麦に関する研究論文がたくさん出ています。なぜ研究されているのかというと、安い普通小麦をスペルト小麦と偽って売る業者が現れたため、スペルト小麦と普通小麦を見分ける方法を研究しているのです。日本でも、安いコメをコシヒカリと偽って、売っていたことがありましたね。

いくつかある論文の中で、2018 年にベルギーの農業研究所の研究者が書いた論文の内容を紹介しましょう 1)。195 の普通小麦品種と 240 のスペルト品種について、グルテンの含有量(厳密には、セリアック病のモロクロナール抗体への反応性)を調べています。

結論は、普通小麦とスペルト小麦で、グルテン含有量には差はなかったばかりか、最も多くグルテンを含んでいた品種は、スペルト小麦のひとつであったこともわかりました

あるサイトにこんな文章が載っていました。

『グルテンフリーに朗報!グルテンレスなスペルト小麦。グルテンアレルギーが発症しにくいと言われる注目の食品です!』 ← 間違い

Gluten-less、グルテンがない? でしょうか。聞いたことがない言葉です…。もちろん海外でも通じません。

どこの国のグルテンフリーの表示ルールにも、スペルト小麦はグルテン含有穀物として明記されています。

スペルト小麦粉を使ってパンをつくると、ちゃんと膨らみます。またスペルト小麦からグルテンを取り出してみたので、下の記事を見てください。

 

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「グルテンフリーには全粒粉パンがおすすめ」は間違い

小麦粉は小麦の胚乳の部分を粉にしたものですが、全粒粉というのは、小麦の表皮、胚芽、胚乳すべてを粉にしたものです。色も小麦粉に比べると、茶色味かかっています。小麦粉と比べて食物繊維、鉄分、ビタミン B1 を多く含んでいるため、健康食として人気があります。ネット上のある記事に、こんな一文がありました。

『全粒粉は一般的な小麦粉よりグルテンが少ない、グルテンフリーには全粒粉パンがおすすめ』 ← 間違い

これは明らかな間違いです。全粒粉の方が、普通の小麦粉より多くのグルテンを含んでいます。根拠をお示ししましょう(データ:日本食品標準成分表 2020 年版(八訂))。

 

エネルギー(kcal) たんぱく質(g)
小麦粉/強力粉・1等 337 11.8
小麦粉/強力粉・全粒粉 320 12.8
小麦粉/中力粉・1等 337 9.0
小麦粉/薄力粉・1等 349 8.9

 

上の表にあるように、パンの原料となる全粒粉の強力粉は、ふつうの強力粉と比べて、たんぱく質を多く含んでいます。たんぱく質は胚乳、胚芽、表皮すべての部分に含まれていますが、特に胚芽に多く含まれるため、小麦まるごと全部を粉にした全粒粉は、胚乳だけを粉にしたふつうの小麦粉に比べて、たんぱく質を多く含んでいます。

小麦の場合、たんぱく質の約 85 % がグルテンなので、全粒粉はふつうの小麦粉より多くのグルテンを含んでいます。そのため、全粒粉で作ったパンを食べると、普通のパンを食べるより、多くのグルテンを摂ってしまうことになります。

「グルテンフリーにはふすまがおすすめ」は間違い

ふすまとは、小麦の表皮のことです。小麦ふすまの 16 % はたんぱく質なので、そもそもグルテンフリーではありません

ふすまは、お米でいうと「ぬか」に相当する部分で、ほとんどが家畜のエサとして使われています。最近、食物繊維が豊富ということで、高い値段で売られていますが、あまりおいしくありません。そもそも小麦ふすまは小麦粉の代わりにはなりません。

わたしが見つけたネットの情報では、「おすすめ」と言っているだけで、グルテンフリーとは言っていないのですが、読んだ人は、小麦ふすまにはグルテンが入っていない、と勘違いする可能性もあります。特に「おすすめ」する理由は見当たりませんし、そもそも小麦粉より重量あたりのグルテンの量は多いので、食べるべきではありません。

「米粉パンはグルテンフリー」というのは間違い

グルテンフリーにするなら、パンの代わりに米粉パンを食べたらいいと、よくいわれます。でもほとんどの米粉パンにはグルテンが入っているのをご存じでしょうか。

米粉パンには 3 種類あります。

① 小麦粉に米粉を加えることで、もちっとした食感を生み出したパン

② 米粉だけで作られたパン(ただし、グルテンを 2 割ほど加えている)

③ 米粉だけ、あるいは他のでんぷんも加えて、グルテンを加えずに作られたパン

このうち、グルテンフリーのパンは、③ だけです。

 

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パンは小麦粉の中でも、グルテンを多く含む強力粉を使って作られます。それはパンが発酵するとき、グルテンがあるおかげで、きめの細かい気泡が作られ、ふっくらとしたパンになるからです。グルテンの少ない薄力粉で作ったパンと比較すると、一目瞭然です。

 

 

米粉にはグルテンは入っていませんので、米粉だけではパンはうまく膨れません。パンを作る際に米粉 8 に対してグルテン 2 を加えています。農林水産省が作った米粉の用途別基準 3) によると、パン用として売られている米粉には、グルテンが 18~20 % 添加されています。グルテンを添加した米粉と、添加しない米粉で作ったパンを比較すると、グルテンが入っていない米粉パン(写真左)は、パンがほとんど膨れていません。

 

 

このように、米粉だけでは、小麦粉のパンのようなふっくらしたパンを作ることが難しいのです。また米粉は小麦粉よりも値段が高いため、米粉パンは原材料費が高くなります。

さらに小麦アレルギーの人でも食べられる米粉パンを作るためには、小麦やグルテンを扱う厨房と、米粉を扱う厨房を完全に分けなければなりません。グルテンフリーの米粉パンは、このような困難を乗り越えて作らなければならないので、作っているパン屋さんも少なくなるわけです。

ところでパン屋さんの店頭で販売されるパンには、原材料表示、アレルギー表示が義務付けられていません。米粉パンと書かれていても、①、②、③ のどれなのか、見分けがつきません。グルテンフリーだと思って米粉パンを買ったら、グルテンが入っていた、なんてこともよくあります。買う側がすぐに見分けがつくような表示ができればいいですね。

「グルテンフリー米粉よりノングルテン米粉の方よい」というのは無意味

米粉パンの話をしたので、ノングルテン米粉についても触れておきましょう。

ノングルテン米粉は、農林水産省が「米粉製品の普及のための表示に関するガイドライン」1) で公表したもので、グルテン含有量が 1 ppm 以下の米粉です。グルテンの分析に使う試薬もガイドラインで指定されており、第三者機関に申請し、認証を受けて初めて、ノングルテンという表示とロゴマークの使用ができます。認定を受けるには、最初の 2 年間で 25 万円ほどかかります。

日本には米粉を販売している会社が 70 社ありますが 3) 、ノングルテンの認証を受けた米粉はわずか 3 社です。あとで説明しますが、普及していないのには、理由があります。

ところで、国内で販売されている米粉の中には、グルテンフリーと表示しているものもあります。日本には、グルテンフリーと表示するにあたってのルールはありませんが、国際機関であるコーデックス委員会の規格や、アメリカの規則に基づくならば、グルテン含有量が 20 ppm 以下の米粉、ということになります。

ノングルテンの米粉は、グルテン含有量が 1 ppm 以下、グルテンフリーの米粉は、グルテン含有量が 20 ppm 以下、ということなので、ノングルテンの方が「安全・安心」なのでしょうか?

いいえ。利用する側からすれば、何も違わないと思います。

まず、セリアック病の場合は、グルテンフリーの表示ルールに従った食生活を送っていれば、問題ありません。次に小麦アレルギーの場合ですが、小麦由来のたんぱく質が 数 ppm 以上含まれている場合は、食品表示法でアレルゲンとして「小麦」と表示しなければなりません 4)。アレルギー表示欄に「小麦」と書かれている米粉なんて、見たことありませんよね。

つまり、小麦アレルギーであっても、普通の米粉を使って大丈夫です。

ノングルテン米粉というのは、いったい誰を対象にしているのでしょうか。ノングルテン米粉をわざわざ選ぶメリットがないので、普及していないのだと考えられます。

 

「輸入小麦の残留農薬が心配だからグルテンフリーにする」というのは一部間違い

農薬が人間の体によいわけがありません。一部の食品添加物も同様です。できるだけ体の中に入れないようにすべきです。とくにアレルギーやアトピーのお子さんをお持ちの場合、細心の注意を払って食材を選んでおられることと思います。

輸入小麦のほとんどは、化学肥料と農薬を使って栽培されています。一部は収穫前に、プレハーベスト農薬といって、小麦を枯らしてから収穫しています。また輸出用の小麦は、輸送・保管中に病害虫による損傷を受けないようにするため、収穫したあとにポストハーベスト農薬を使用することが認められています。

 

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農林水産省では、小麦を含めた輸入穀物の残留農薬を検査して、その結果を公表しています 5)。令和元年度は食品衛生法および飼料安全法に基づく規制値、基準値を超えたものはなかったとのことです。しかし、この規制値、基準値そのものに対して疑問を感じている人もいると思います。そうなると、輸入小麦を食べないようにするしかありません。

小麦の 86 % は輸入なので、小麦を使ったものをできるだけ食べないようにするというのは、ひとつの選択だと思います。ただ、グルテンフリーにするのではなくて、輸入小麦を使った食品は買わない、食べないというのが、正確な表現だと思います。厳密なグルテンフリーにすると、小麦成分がわずかに入ったものまで避けなければならず、手間とコストががかかります。

一方で、わたしたちの身の回りにある野菜や穀物で、化学肥料や農薬を使わずに育てられたものなど、ほとんどありません。またスーパーやコンビニで売っている食品の大半には、何らかの食品添加物が使われています。でも、忙しい毎日の中で、有機食材を購入して、すべての食事を手作りするのはなかなか大変です。限られた時間とお金の中で、何を避け、何を許容するのかは、難しいことです。この問題については、別の機会に考えてみたいと思います。

 


参考文献

1) E. Escarnot, et.al., Reactivity of gluten proteins from spelt and bread wheat accessions towards A1 and G12 antibodies in the framework of celiac disease, Food Chemistry 268, 522-532 (2018)

2) 米粉の用途別基準、米粉製品の普及のための表示に関するガイドライン、農林水産省(2017)

3) 米粉販売事業者一覧、農林水産省

4) アレルゲンを含む食品に関する表示、消費者庁

5) 輸入米麦のかび毒、重金属及び残留農薬等の分析結果、小麦(食用)輸入時の検査、農林水産省

グルテンフリー食品まとめ

小麦粉を置き換えるには、グルテンの役割をカバーするための知識や技術が必要です。メーカーさんの工夫によって製造されている、おすすめのグルテンフリー食材をカテゴリー別にご紹介!