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グルテンってなに? 小麦粉、スペルト小麦粉から実際に取り出してみた!

グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質で、伸びやすく、弾力と粘着性があるため、パンやめんの生地を作る際に、なくてはならない成分です。一方で、消化酵素で分解されにくく、免疫原性があるため、からだに悪影響を及ぼすことがあります。このグルテンを、強力粉、薄力粉、スペルト小麦粉から、実際に取り出してみました。

グルテンは特殊なたんぱく質

グルテンは、小麦、大麦、ライ麦とその交雑種に含まれる 特殊なたんぱく質 です。一部の国では、オーツ麦をグルテン含有穀物として扱っていますが、それは流通過程で小麦などが混入する可能性があるからです、オーツ麦自体には、グルテンは含まれていません。

一方、小麦の原種であるスペルト小麦には、グルテンが含まれていない、あるいは含まれいるグルテンの量が少ない、という情報がネット上にありますが、事実ではありません。スペルト小麦にグルテンが含まれていることは、後ほど実験で証明します。

グルテンは特殊なたんぱく質だといいましたが、何がどのように特殊なのでしょうか。

たんぱく質の集合体

実は、グルテンという名前のたんぱく質があるのではなく、グルテンは、数種類のたんぱく質の集合体なのです 1)。その主成分はプロラミングルテリンという 2 種類のたんぱく質で、これに水が加わって混じりあうことで、グルテンと呼ばれる状態になります

パンやめんの生地を作るとき、小麦粉に水を加えてこねると、もともとサラサラだった小麦粉が、粘り気を生じるようになります。このとき、生地の中にグルテンが生じます。小麦に含まれているプロラミンはグリアジン、グルテリンはグルテニンです。穀物によって、含まれているたんぱく質の名前が異なります。ややこしいので、表にしておきます。

 

 

 

 

 

プロラミン グルテリン
小麦 グリアジン グルテ
大麦 ホルデイン グルテリン
ライ麦 セカリン グルテリン
特性 ・粘着性(凝集性)がある
・伸展性(伸びやすさ)がある
・水に溶けにくく、消化されにくい
・弾力性がある
・強度がある

 

 

網目状で伸びやすく弾力があり粘着性がある

プロラミンには、粘着性と伸展性(伸びる性質)があり、グルテリンには弾力性と強度があります。そのため、この 2 種類のたんぱく質が合わさってできたグルテンは、2 つのたんぱく質の特性を兼ね備えています。この特性は小麦やグルテンを食品として使う際に重要で、ふっくらとしたパンができるのも、コシが強くて切れにくい麺ができるのも、グルテンが含まれるからなのです。

人間の消化酵素で分解されにくい

通常、たんぱく質は、胃液(胃酸)と胃液と膵液に含まれる消化酵素で、その構成単位であるアミノ酸に分解され、小腸で吸収されます。ところがグルテンはその構造から、消化酵素で分解されにくいことがわかっています 2)。完全に分解されないまま小腸に到達し、粘着性があるため腸内に留まり続けることや、グルテンの破片が体内に吸収されることで、さまざまな影響を及ぼします。

免疫原性ペプチドを持つ

たんぱく質は、アミノ酸がつながってできていますが、これが部分的に分解されて短くなったものをペプチドといいます。ペプチドの中には、免疫系に作用するものがあり、これを免疫原性ペプチドといいます。免疫原性ペプチドは、体質によって炎症反応を起こすことがあります。

グルテンを構成するたんぱく質の中には、免疫原性ペプチドが複数あることがわかっており、腸内で炎症反応を起こすことで、腹痛になることがわかっています 3)。また小麦アレルギーやセリアック病は、免疫原性ペプチドを排除するために過剰に炎症反応が起きている状態、すなわちアレルギー反応です 4)

リーキーガットを起こす

人間の腸には、病原性微生物や異物が体内に侵入するのを防ぐためのバリア機能がありますが、グルテンはこれを壊すことで、通常は体内に入らない物質の侵入を許してしまうことがわかっています 5)。この状態をリーキーガットといいます。通常は体内に入らない物質の中には、免疫原性ペプチドも含まれています。

小麦粉に含まれるグルテンの量

小麦にはデンプンが約 70 % 含まれていますが、たんぱく質も 10~20 %(平均すると約 12 %)含まれています。小麦に含まれるたんぱく質は細かく分けると 100 種類以上ありますが、その中で最も多く含まれるのが、さきほど紹介したグリアジンとグルテニンです。

グリアジンとグルテニンはどちらも水に溶けませんが、エタノールに溶ける、溶けないで分けることができます。小麦の場合、グリアジンとグルテニンはだいたい同じ量ずつ含まれており、合わせるとたんぱく質の 85 %を占めます。つまり、小麦に含まれるたんぱく質のおよそ 85 %がグルテンということになります。

 

 

 

 

小麦粉に含まれるグルテンは、小麦粉から作る食品の性状に大きく影響します。グルテンが少ない小麦粉で作ったパンは、発酵するときに生地が膨れないため、硬くなります。またグルテンが少ない小麦粉で作った麺はコシがなく、細くすると切れてしまいます。

 

 

 

 

そのため、小麦粉は含まれているグルテンの量で分類されます。強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉の「力」とは、グルテンの力、すなわち含まれているグルテンの量のことです。パンやピザのように小麦粉に水を加えて練った生地を酵母(イースト)で発酵させる場合、生地に粘り気がないと膨らまないので、グルテンの多い強力粉が使われます。一方ケーキ、クッキー、天ぷらの場合は、弾力・粘着力が弱く、粒度が細かい薄力粉を使います。

最もグルテンが多い強力粉では、100 g あたり 12~13.5 g のグルテンが含まれています。一方、最も少ない薄力粉では、7~8.5 g のグルテンが含まれています。

準強力粉や中力粉は店頭で見つからない場合もあるので、その場合は強力粉と薄力粉を混ぜて使います。料理のレシピで違う種類の小麦粉を混ぜているのは、グルテンの量を調節しているのです。一方、グルテンの粉も売られています。こちらは薄力粉に加えて使うというよりも、米粉でパンを作るときに、加えることが多いようです。

 

 

強力粉 準強力粉 中力粉 薄力粉
グルテン含有量 12~13.5 % 9~11.5 % 9~10.5 % 7~8.5 %
弾力・粘着力 強い 弱い
粒度 粗い 細かい
主な用途 パン、ピザ パン、フランスパン、中華麺、パスタ うどん、
餃子の皮
ケーキ、クッキー、天ぷら

 

 

ところで小麦粉は、小麦から表皮と胚芽を除いた胚乳という部分を粉にしたものです。胚乳を使っている理由は、でんぷんが最も多く含まれているからです。表皮や胚芽には、たんぱく質や脂質、ミネラルといったでんぷん以外の成分が多く含まれるため、粉に余分な色、味、匂いが付いてしまいます。

業者間で取引する際に、小麦粉には特等粉、1 等粉、2 等粉、3 等粉、末粉という分類があり、でんぷん以外の成分が少ない粉ほど上等な粉として扱われています。ちなみに一般向けに流通しているのは、特等粉か 1等粉です。

 

 

 

 

胚芽と表皮には、胚乳よりも多くのたんぱく質が含まれています。特に発芽して「芽」となる胚芽の 33 %がたんぱく質です。また表皮は小麦ふすま(英語ではbran)といわれ、主に家畜のエサとして使われていますが、低カロリーでミネラルを多く含むことから、シリアル食品の原料として使われていることもあります。

小麦粒全体のグルテンの分布をまとめると次のようになります。なお、グルテン量は、小麦粒 100 g に含まれるグルテンの量で、強力粉の原料となる小麦の場合です。

 

 

胚乳 胚芽 表皮(ふすま)
小麦粒のうち占める割合(%) 83 2 15
たんぱく質の比率(%) 15 33 16
グルテン量(g / 100 g) 10.6 0.6 2.0

 

 

小麦以外でグルテンを含む穀物には、大麦とライ麦があります。大麦は主食用に使われるほか、麦茶や青汁、ビール、焼酎、ウイスキーなどの原材料としても使われます。ライ麦は日本では馴染みが少ないですが、ライ麦パンやウイスキーの原材料になります。大麦そのものやライ麦粉を扱う機会は少ないと思うので、それらを使った食品に、グルテンが含まれているかどうかを、関連記事で説明しています。よかったら、こちらもご覧ください。

 

 

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小麦粉からグルテンを取り出してみた

グルテンは小麦粉から簡単に取り出すことができます。なぜかというと、グルテンは水に溶けず、網目状の高分子になるからです。小麦粉の主成分であるでんぷんも水に溶けませんが、でんぷんの粒は非常に小さいので、水で洗うと流れてしまいます。次に、小麦粉に 8~16 %含まれるたんぱく質のうち、グルテン以外のたんぱく質は、ほとんど水に溶けます。そのためキッチンにある道具だけで、小麦粉からグルテンを取り出すことが可能です。

今回は、グルテンを多く含む強力粉、グルテンが少ない薄力粉、そして古代小麦の一つで、グルテンが少ないといわれている(実際には間違いですが)スペルト小麦粉から、グルテンを取り出してみました。

材料

強力粉(日清製粉カメリア

 

 

 

スペルト小麦粉(鎌倉てとら合同会社

 

 

 

薄力粉(日清製粉フラワー)

 

 

方法

① 小麦粉 100 g に、30 ℃ のぬるま湯 70 ml を加え、手で 10 分間こねる。

 

 

 

② こねたものを、30 ℃のぬるま湯で、白濁液が出なくなるまで、手でこねながら洗う。

 

 

 

③ 得られたものの重量を測る(これを湿重量といいます)。

強力粉

 

 

 

 

 

スペルト小麦粉

 

 

 

 

 

薄力粉

 

 

 

④ 110 ℃で乾燥し、90 分ごとに重量を測定。重量の減少がなくなったときの重量を測る(これを乾重量といいます)。

 

 

 

結果

110 ℃で 16.5 時間乾燥した結果、

  • 強力粉 100 g に含まれるグルテンは 13.5 g
  • スペルト小麦粉 100 g に含まれるグルテンは 14.0 g
  • 薄力粉 100 g に含まれるグルテンは 8.0 g

という結果でした。

 

 

 

 

今回は小麦粉からグルテンを取り出しましたが、グルテンは食品添加物として普通に使われるため、スーパーなどで購入することができます。

 

 

 

 

 

 

もっともよく使われる用途は、米粉パンの添加物です。米粉パンって米粉だけでできているじゃないのか?と思われるかもしれませんが、米粉だけではパンがうまく膨らまないので、通常、米粉とグルテンを 8 : 2 の比で混ぜた粉を使います。米粉パンについては、関連記事も参考にしてください。

 

 

 

スペルト小麦にも大量のグルテンが

今回驚いたのは、スペルト小麦に強力粉を上回る量のグルテンが含まれていたことです。スペルト小麦はグルテンが少ないとか、グルテンレスとかいわれていますが、全くの間違いです。上の動画にあるように、確かにゴム状の物質が得られ、その粘り具合は、強力粉とほとんど変わりませんでした。

スペルト小麦のグルテンの量を調べた研究論文がありますが、いずれもスペルト小麦に含まれるグルテンの量は、普通小麦(ふだんわれわれが食べている小麦)と差はないという結果が出ています 6, 7)

後で手に発疹(紅斑)ができました

小麦粉をこねるとき、手袋をはめずに、素手でやりました。作業が終わってから 2 時間後に自分の手を見ると、紅斑ができていることに気づきました。グルテンとの因果関係はわかりませんが、いままでこんな場所に、紅斑ができたことなかったので、ちょっと気持ち悪いです。

紅斑は、アレルゲンとなる物質が皮膚に接触し、それが原因で起きる即時型アレルギーです。幸いに軽かったので、かゆみも腫れもありませんでした。指の外側だったので、作業をした後、きれいに洗い流せていなかったのではないかと推測します。

 

 

 

 

まとめ

  • グルテンは小麦、大麦、ライ麦だけに含まれる特殊なたんぱく質。プロラミンとグルテリンに水が加わって混じりあうことでできる。
  • 網目状で伸びやすく、弾力があり粘着性があるため、パンや麺をつくる際に重要な役割を果たす。
  • 人間の消化酵素で分解されにくく、免疫原性ペプチドを持ち、リーキーガットを起こすことなどから、からだにさまざまな影響を及ぼす。
  • 小麦粉には 5~13 %のグルテンが含まれている。小麦の胚乳だけでなく、胚芽や表皮にも含まれており、その比率は胚芽、表皮の方が高い。
  • グルテンは小麦粉から簡単に取り出すことができる。スペルト小麦からも多くのグルテンが回収された。

 


参考文献

1) Cebolla Á, Moreno ML, Coto L, Sousa C. Gluten Immunogenic Peptides as Standard for the Evaluation of Potential Harmful Prolamin Content in Food and Human Specimen. Nutrients. 2018; 10(12): 1927. Published 2018 Dec 5. doi: 10.3390/nu10121927

2) Ludvigsson JF, Leffler DA, Bai JC, et al. The Oslo definitions for coeliac disease and related terms. Gut. 2013; 62(1): 43-52. doi: 10.1136/gutjnl-2011-301346

3) Aguilera-Lizarraga J, Florens MV, Viola MF, et al. Local immune response to food antigens drives meal-induced abdominal pain. Nature. 2021; 590(7844): 151-156. doi: 10.1038/s41586-020-03118-2

4) Morita E, Matsuo H, Chinuki Y, Takahashi H, Dahlström J, Tanaka A. Food-dependent exercise-induced anaphylaxis -importance of omega-5 gliadin and HMW-glutenin as causative antigens for wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis-. Allergol Int. 2009; 58(4): 493-498. doi: 10.2332/allergolint.09-RAI-0125

 

5) Fasano A. All disease begins in the (leaky) gut: role of zonulin-mediated gut permeability in the pathogenesis of some chronic inflammatory diseases. F1000Res. 2020;9: F1000 Faculty Rev-69. Published 2020 Jan 31. doi: 10.12688/f1000research.20510.1

6) Koenig A, Wieser H, Koehler P. Distinguishing wheat and spelt using typical protein markers, Proceedings of the 10th international gluten workshop 7–9 September 2009, Clermont-Ferrand, France (2009), pp. 142-145

7) Escarnot E, Gofflot S, Sinnaeve G, Dubois B, Bertin P, Mingeot D. Reactivity of gluten proteins from spelt and bread wheat accessions towards A1 and G12 antibodies in the framework of celiac disease. Food Chem. 2018; 268:522-532. doi: 10.1016/j.foodchem.2018.06.094

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