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グルテンとグルテンフリーについて 7分間でまるっとわかる解説

グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質ですが、肉や魚のたんぱく質とはかなり異なる性質を持っています。グルテンフリーはグルテンを摂らない生活スタイルですが、もともとはセリアック病という病気の治療食でした。近年、グルテンがからだにさまざまな悪影響を及ぼしていることが明らかになり、健康目的でグルテンフリーを取り入れる人が増えています。グルテンフリーの正しい意味と効果、また表示の意味など、薬剤師がわかりやすく解説します。

グルテンとは

グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質

グルテンは、小麦、大麦、ライ麦に含まれる特殊なたんぱく質です。たんぱく質というよりプロテインといった方が、ピンとくる方が多いかもしれませんね。小麦に含まれているので、でんぷんや糖類などと同じ炭水化物と勘違いしやすいのですが、グルテンは肉や魚、卵などに多く含まれている栄養成分であるたんぱく質の一種です。たんぱく質なら、からだによいのでは、と思うかもしれませんが、実はそうではありません。グルテンは栄養価が低いうえに、からだにいろいろな問題を起こす、ちょっと変わったたんぱく質なのです。

まず、具体的にどんなものか見ていきましょう。パンや麺の生地を作るとき、小麦粉に水を加えてこねます。もともと小麦粉はサラサラですが、水を加えてこねると生地に粘り気が出て、こねればこねるほど、粘り気が強くなります。これは生地の中にグルテンが作られるためです。

グルテンが作られるとは、どういう意味でしょうか。実はグルテンは小麦粉に含まれているグリアジンとグルテニンという2種類のたんぱく質に水が加わって混じりあうことでできる物質なのです。小麦粉にはたんぱく質が8~13%含まれており、そのたんぱく質の42%がグリアジン、42%がグルテニンです。グリアジンとグルテニンが合わさってグルテンができるので、小麦粉に含まれるたんぱく質の84%がグルテンということになります。つまり、小麦粉には7~11%のグルテンが入っているということになります。

グリアジンはたんぱく質の成分であるアミノ酸が、鎖のように一直線につながっています。そのため伸びやすい性質があり、また強い粘着力を持っています。もう一つのグルテニンは多数のアミノ酸でできた複数の鎖が部分的につながった構造をしており、強い弾力がある一方で、伸びにくいという特性があります。このグリアジンとグルテニンが合わさって作られたグルテンには

・網目状になっており
・伸びやすく
・弾力があり
・粘着性がある

という性質があります。そのため、ふっくらとしたパンが焼けたり、コシのある麺ができるのです。

ところでと名前の付く食べものはいろいろありますが、グルテンが入っているのは、小麦、大麦、ライ麦とその交雑種だけです。交雑種というのは、2種類の植物を交配させたもので、ライ小麦などがありますが、日本ではほとんど流通していません。もち麦押麦は大麦の品種あるいは加工品なので、グルテンは含まれています。また古代小麦スペルト小麦には、グルテンが入っていない(あるいは、含まれている量が少ない)といった記事を見かけますが、グルテンの量はふつうの小麦とほとんど同じです1)。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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グルテンは小麦粉で作られたパンやめんに、乾燥重量で7~8%含まれています2)。例えばそうめん1人前(1束)は100gなので、そうめんを1人前食べると、だいたい8gのグルテンを摂ることになります。

ところでグルテンからできている食べものがあるのですが、ご存じでしょうか。それは麩(ふ)です。小麦粉から取り出したグルテンを茹でると生麩、焼くと焼き麩、茹でた後に乾燥すると乾燥麩になります。
グルテンは小麦粉から簡単に取り出すことができます。こちらの記事に写真付きで解説しています。

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グルテンのよい性質

グルテンは、伸びやすく、弾力があり、粘着性があることを説明しました。小麦粉から作られる食べものの中でも、特にパンと麺は、この性質を活かすことで、その品質が保たれているのです。

パンはパン生地をイースト菌で発酵させて、膨れてから焼きます。このパン生地は小麦粉の中でもグルテンを多く含む強力粉に水、塩、砂糖などを加えてこねることで作られます。塩を加えるのは、グルテンができやすくするため、砂糖を加えるのはイースト菌が増殖する際の栄養源にするためです。
十分にこねた生地の中に網目状のグルテンが作られているため、発酵の際にイースト菌が作った炭酸ガスが生地の中に閉じ込められ、パン生地が膨らみます。このように、ふっくらとした柔らかいパンを作るのに、グルテンは欠かせません。

小麦粉から作られる麺も、伸びやすく、弾力があり、粘着性があるというグルテンの性質を使っています。麺の原料となるのは、小麦粉の中でもグルテンがやや多い中力粉です。中力粉に水と塩を加えてこねることで生地を作り、それを薄く延ばして切ることで、麺を作ります。麺の生地の中にも、網目状のグルテンができ上っているため、コシがあり、細くしても切れにくい麺に仕上がるのです。

グルテンの悪い性質

グルテンがからだにいろいろな問題を起こすことが知られるようになったのは、いまから80年ほど前です。最初はそれは一部の人だけへの影響だと思われていましたが、2000年を過ぎたころから、実は多くの人にいろいろな影響を及ぼしている可能性が指摘されるようになりました。現在では、次のような性質が問題にされています。

人間の消化酵素で分解されにくい

通常たんぱく質は、胃酸と胃液と膵液に含まれる消化酵素で、その構成単位であるアミノ酸に分解され、小腸で吸収されます。小腸で吸収されたアミノ酸は体内でたんぱく質として合成され、筋肉、内臓、皮膚などのからだの構成成分になるほか、ホルモンや酵素といったからだの調節をするための成分としても使われます。

たんぱく質というと、肉、魚、乳製品に含まれる動物性たんぱく質や、大豆に含まれる植物性たんぱく質を思い浮かべる人が多いと思います。これらのたんぱく質は胃酸と消化酵素で割と簡単に分解されてアミノ酸になり、体内に吸収されます。一方、グルテンはその構造から、消化酵素で分解されにくいことがわかっています3)完全に分解されないまま小腸に到達し、粘着性があるため腸内に留まり続けることや、グルテンの破片が体内に吸収されて体内で作用することで、さまざまな問題が起きることがわかっています。

例えばグルテンが分解されてできるグリアジン33-merという破片は、人間の尿からも検出されています。体内に吸収されて、分解もされないということです8)

アレルギー反応を起こす原因になる

アレルギー反応というのは、からだの中に入ってきた物質を人間の免疫系が異物と勘違いして、それを排除するために起こす炎症反応のことです。花粉症の症状を思い浮かべてください。花粉症は花粉に含まれるたんぱく質が原因で起きるアレルギー反応です。グルテンを構成するグリアジンとグルテニンは、一部の人に対して、アレルギー反応を起こすことがわかっています4)。例えば先ほど説明したグリアジン33-merは、小腸で遅延型アレルギー反応を起こし、小腸の絨毛細胞を破壊します8)

腸のバリア機能を壊す

人間の腸には、病原性微生物や異物が体内に侵入するのを防ぐためのバリア機能がありますが、グルテンはこれを壊すことで、通常は体内に入らない物質の侵入を許してしまうことがわかっています5)。この状態をリーキーガットといいます。通常は体内に入らない物質の中には、最初に説明したグルテンの破片も含まれています。

リーキーガットで起きる可能性が指摘されている症状としては、慢性的な下痢、便秘、腹部膨満(鼓腸)、倦怠感、頭痛、錯乱、集中力の低下、にきび、発疹、湿疹、関節痛、広範囲にわたる炎症などがあります。

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グルテンフリーとは

グルテンフリーの本当の意味

グルテンフリーというのは、セリアック病の人が食べても大丈夫という目印です。

グルテンは一部の人に対してアレルギー反応を起こすことを説明しました。グルテンが関わるアレルギー反応はいくつかありますが、食べものとして体内に入ったグルテンを排除するために免疫系が働き、小腸の細胞を傷つけてしまうのがセリアック病です。日本ではあまりなじみがありませんが、南北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアではよく見られる病気で、100人に1人の割合で患者さんがいるといわれています。

セリアック病には根本的な治療法がありません。症状を悪化させないためには、生涯にわたってグルテンの入っていないものを食べ続ける必要があります。そのセリアック病の人が食べても大丈夫な食べ物が、グルテンフリーの表示をされた食べものです。

グルテンフリーをする理由

いまグルテンフリーが注目され、多くの人がグルテンフリーの食生活にチャレンジしていますアメリカでは成人の3人に1人が、グルテンフリー食材を摂りたいと考えているという調査結果もあります6)。もともと、セリアック病の人のための治療食であったグルテンフリー食が、人気を集めている理由は何でしょうか。

一つは、セレブやスポーツ選手がグルテンフリー生活をしていることが雑誌などで紹介され、その姿へのあこがれが理由といわれています6)。セレブやスポーツ選手の体型から、ダイエットにも効果があると考えている人も多いようです。
もう一つは、グルテンによるからだへの悪影響を回避し、健康な生活を送りたいと考える人が増えているからです。世の中は健康ブームです。誰もがいつまでも若々しく、元気で過ごしたいと考え、日々、情報収集に励んでいます。その中でグルテンフリーのメリットに気づき、グルテンフリーにチャレンジしているようです。

ところで、日本でもグルテンフリーの食生活を送っておられる方は近年増加しており、SNSを通じてご自身の実体験を発信されている方もよく見かけます。日本でのグルテンフリー生活でネックになるのは、間違いなくしょうゆです。パンやめん類は避けることができても、料理に少しだけ入っているしょうゆまで避けようとすると、外食はほぼできなくなります。

日本でグルテンフリー生活をしている方の多くは、セリアック病の診断を受けた方ではありません。セリアック病でないのであれば、セリアック病の患者さんのために作られたグルテンフリーの基準に従う必要はありません。自分のライフスタイルに合わせて、からだの中に入るグルテンの量が少なくなるように調節すればよいのです。このサイトでは、セリアック病や小麦アレルギーでない方が、グルテンの悪影響を回避する方法として、ゆるグルテンフリーをおすすめしています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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グルテンフリーの表示

海外の食品スーパーやレストランでよく見かける “Gluten-free” の表示は、セリアック病の人が食べても大丈夫という意味です。では具体的に、どのような食べ物に “Gluten-free” の表示がされているのでしょうか。

セリアック病の人は、食べものに含まれるグルテンの量を1日50mg以内にする必要があるといわれています7)。これをもとにアメリカでは、食品1kg中に含まれるグルテンの量が20mg未満(濃度でいうと20ppm未満)の場合に、グルテンフリーという表示をしてよいと決められています。なおグルテンフリーの表示基準は国ごとに決めらているので、国によって若干の違いはあります。

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グルテンフリーの表示は、各国とも、製造販売業者が自主的に行っているものです。そのため表示する・しないは、業者の自由なので、グルテンが含まれていない食品で、グルテンフリーの表示をしていないものはたくさんあります。あくまで、セリアック病の患者さんの便宜を図る目的で行っているものなのです。ただ最近は、グルテンフリー食品の方が健康的であると考える人が増えているため、グルテンフリーの表示をした方が、よく売れるというのも、理由のようです。

ところで日本にはグルテンフリーの表示ルールはありません。アメリカの場合、グルテンが20ppm以上入っているのにグルテンフリーの表示をした場合は、不当表示となり、悪質な場合は業者名や商品名が公表されますが、日本の場合は処罰の根拠になる法律そのものがないので、結局、何もできません。国内で販売されている商品のグルテンフリー表示とは、そういうものだと思っておいた方がよいでしょう。

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グルテンフリーに関する誤解

日本でもグルテンフリーについて関心が高まるにつれて、いろいろな情報が出回っていますが、その中には明らかに間違っているものがあります。主なものを紹介します。

グルテンフリーはダイエット法である

グルテンフリーの食生活をすると、結果的にダイエット効果はある場合が多いですが、グルテンフリーはダイエット法ではありません。痩せることが目的なら、別の食事法の方が効果的だと思います。

グルテンフリーは日本人には関係ない

日本にセリアック病の患者さんが少ないので、セリアック病の患者さんのための食事法であるグルテンフリーは関係ないという意味で、このように言われるのだと思います。ですが、グルテンが関係している病気・症状はセリアック病以外にも多数あります。グルテンフリーにすることで、これらの症状が軽減する可能性があります。

小麦アレルギーではないのでグルテンフリーは不要

グルテンは小麦アレルギーの原因の一つですが、グルテンが原因となる病気・症状は他にもたくさんあります。グルテンフリーにすることで、これらの症状が軽減される可能性があります。なおグルテン以外にも、小麦アレルギーの原因となるたんぱく質があることも、知っておいてください。

これ以外についてはこちらをご覧ください。

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まとめ

  • グルテンは、小麦、大麦、ライ麦に含まれる特殊なたんぱく質。グリアジンとグルテニンという2種類のたんぱく質が合わさってでき、網目状で、伸びやすく、弾力があり、粘着性がある。小麦粉には7~11%のグルテンが含まれている。
  • グルテンはパン生地が発酵する際に炭酸ガスを生地の内部に閉じ込めることで、ふっくらとした柔らかいパンを作る。また麺の生地にグルテンがあるおかげで、コシがあり、細くしても切れにくい麺を作ることができる。
  • グルテンには、人間の消化酵素で分解されにくい、アレルギー反応を起こす原因になる、腸のバリア機能を壊すといった悪い性質がある。
  • グルテンフリーとは、グルテンが原因で起きるアレルギーの一種であるセリアック病の患者さんが食べても大丈夫であることを示す目印である。
  • もともとグルテンフリーの食事はセリアック病の人のための治療食であったが、ダイエット目的や健康目的でグルテンフリーにチャレンジする人が増えている。この場合、セリアック病の人のために作られたグルテンフリーの基準に従う必要はない。
  • グルテンフリーの表示は製造販売事業者が独自の判断で行っているものだが、食品1kg中に含まれるグルテン量が20mg未満の場合に、グルテンフリーと表示できることが、一部の国ではルール化されている。日本にはグルテンフリーの表示に関する規則等はない。
  • グルテンフリーに関する情報の中には、明らかに間違っているものも多いので注意が必要。

参考文献

1) Escarnot E, Gofflot S, Sinnaeve G, Dubois B, Bertin P, Mingeot D. Reactivity of gluten proteins from spelt and bread wheat accessions towards A1 and G12 antibodies in the framework of celiac disease. Food Chem. 2018;268:522-532. doi:10.1016/j.foodchem.2018.06.094
2) 文部科学省、日本食品標準成分表2020年版(八訂)
3) Ludvigsson JF, Leffler DA, Bai JC, et al. The Oslo definitions for coeliac disease and related terms. Gut. 2013;62(1):43-52. doi:10.1136/gutjnl-2011-301346
4) Morita E, Matsuo H, Chinuki Y, Takahashi H, Dahlström J, Tanaka A. Food-dependent exercise-induced anaphylaxis -importance of omega-5 gliadin and HMW-glutenin as causative antigens for wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis-. Allergol Int. 2009;58(4):493-498. doi:10.2332/allergolint.09-RAI-0125
5) Fasano A. All disease begins in the (leaky) gut: role of zonulin-mediated gut permeability in the pathogenesis of some chronic inflammatory diseases. F1000Res. 2020;9:F1000 Faculty Rev-69. Published 2020 Jan 31. doi:10.12688/f1000research.20510.1
6) Jones AL. The Gluten-Free Diet: Fad or Necessity?. Diabetes Spectr. 2017;30(2):118-123. doi:10.2337/ds16-0022
7) Itzlinger A, Branchi F, Elli L, Schumann M. Gluten-Free Diet in Celiac Disease-Forever and for All?. Nutrients. 2018;10(11):1796. Published 2018 Nov 18. doi:10.3390/nu10111796
8) Cebolla Á, Moreno ML, Coto L, Sousa C. Gluten Immunogenic Peptides as Standard for the Evaluation of Potential Harmful Prolamin Content in Food and Human Specimen. Nutrients. 2018;10(12):1927. Published 2018 Dec 5. doi:10.3390/nu10121927

グルテンフリー食品まとめ

小麦粉を置き換えるには、グルテンの役割をカバーするための知識や技術が必要です。メーカーさんの工夫によって製造されている、おすすめのグルテンフリー食材をカテゴリー別にご紹介!