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グルテンフリー、グルテン不検出、グルテンによって健康影響がないは意味が違います

グルテンフリーという表示があること、グルテンが検出されないこと、グルテンによる健康影響がないことは、意味が違います。この違いが分かりにくいため、同じ食品でもグルテンが入っているという記事と、入っていないという記事があったり、食べてよいと書いてある場合と、食べてはいけないと書いてある場合があるのです。

 

グルテンフリーは単なる表示ルール

食品のパッケージやレストランのメニューのグルテンフリーという表示これは、セリアック病の患者さんの大部分の人が食べても、健康上問題を生じないという意味で、グルテンが検出されなかったとか、食べても健康に影響がないという意味ではありません。またこの表示ルールは国によって微妙に違いがあります。アメリカの場合は次の通りです。

小麦、大麦、ライ麦とその交雑種である穀物を含まないこと。

含む場合は、食品 1 kg 中のグルテンの量が 20 mg 未満であること。

セリアック病は小麦などに含まれるグルテンが原因で小腸の上皮細胞が破壊され、軽度の下痢に加え、栄養吸収障害から倦怠感、筋力低下、貧血、舌炎、口角炎、皮膚炎が起きる病気です。セリアック病の人は現在、100 人に 1 人の割合でいるといわれており、その数はこの 50 年で 4~5 倍に増加しました 1)

セリアック病には根本的な治療法がないため、生涯にわたってグルテンを含まない食事を摂り続ける必要があります。この人たちが食べても健康に影響がないという目印がグルテンフリーという表示なのです。

では食品 1 kg 中 20 mg(濃度で表すと 20 ppm)という数値はどのようにして決められたのでしょうか。それは、

  • 1日に摂取するグルテンの量を 10 mg 以内にすることができること
  • 分析可能な濃度であること
  • グルテンフリーの表示をする食品の数を増やすこと

の3つが理由といわれています。

セリアック病の患者さんの中でも症状は人によって異なり、1 日 100 mgのグルテンを摂っても影響がない人もいれば、1 mg のグルテンで影響が出る人もいます。1 日 10 mg というのは、ほとんどのセリアック病の患者さんに影響がないとされる量です。つまり、食品 1 kg 中のグルテンの量が 20 mg 未満の食品だけを食べることで、1 日に摂取するグルテンの量を 10 mg 以内に抑えることが可能なため、20 mg という数値が決められました。

次に、20 ppmというのは、確実に分析可能な濃度です。現在は分析技術が進歩し、1 ppm 以下のグルテンも検出可能ですが、このルールが決まった 2013 年当時、20 ppmというのは複数の方法で定量分析が可能な濃度でした。

さらにグルンフリーの表示要件を 20 ppm よりもっと厳しくすべきとの意見もあったようですが、そうすると、グルテンフリーの表示をする食品の数が減ってしまいます。それは結果的にセリアック病の患者さんの不利益になるということで、20 ppm に落ち着いたといわれています。

このように、グルテンフリーの表示というのは、あくまでセリアック病の患者さんが、治療食を選ぶ際の目安に過ぎません。ですからセリアック病でない人が、グルテンフリーの表示の有無で食品を選ぶのは、それほど意味があるとはいえません

誤解しないで欲しいのですが、セリアック病でない人が、グルテンを摂らないようにすることが無意味だ、と言っているのではありません。このサイトで詳しく紹介しているように、グルテンにはさまざまな害があることがわかっています。グルテンを摂らないようにすることで、あなたが日頃感じているからだの不調が無くなる可能性があります。グルテンを摂るメリットはほとんどないので、グルテンはできるだけ摂らないようにしたほうがよいでしょう。

 

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グルテンの分析結果は推算値だった

食品 1 kg 中のグルテン濃度が 20 mg 未満ならグルテンフリーと表示できる(アメリカのルール)と説明しました。ところで、この判定のために行われるグルテンの分析では、グルテンの量を計測しているわけではなく、グルテンを構成する一部のたんぱく質の量を測定しているのです。

グルテンは主にグリアジンとグルテニンというたんぱく質が絡み合ってできます(小麦の場合)。そのグリアジンはさらに 4 種類、グルテニンは 2 種類に分かれますが、グリアジンの一つであるα-グリアジンというたんぱく質が、先ほど説明したセリアック病を引き起こす主な原因です 2)

食べものに含まれているたんぱく質は消化酵素で分解され、アミノ酸となって小腸から吸収されますが、グリアジンは消化酵素で分解されにくく、アミノ酸が数十個つながったペプチドの状態で分解が止まってしまいます。特にα-グリアジンには免疫刺激性のあるペプチドが 4 種類あり、その中で最も影響が大きいものを、グリアジン 33-mer と呼んでいます3)。これはアミノ酸が 33 個つながったもので、消化酵素で分解されないまま小腸に到達して、小腸で免疫細胞を活性化させて炎症反応を起こします

ペプチドは腸内細菌のエサになることも多いのですが、グリアジン 33-mer は腸内細菌によっても分解されず、糞便からも検出されています。さらにリーキーガットになった小腸から吸収され血液中に入りますが、体内でも分解されず、尿から検出されることもあるほど、難分解性の物質です 4)

ほとんどのグルテンの分析では、サンプルに含まれるグリアジン 33-mer の量を測定し、その量からグルテンの量を推算しています。もともとグルテンフリーは、セリアック病の人のための表示ルールだったので、セリアック病の原因となるグリアジン 33-mer の量を調べるのが、最も理にかなっていました。

つまりグルテンが検出されたと言っているのは、グリアジン 33-mer が検出されたという意味で、グルテンの量はグルテン全体に占めるα-グリアジンの量に係数をかけて求めています。小麦の場合は、グリアジンとグルテニンの比はだいたい 50:50 ですが、品種や栽培環境によってこの比率が変わることがわかっています。さらに大麦やライ麦では 65:35 という報告もあるため、グルテンの量を過大評価している可能性もあります 5)

グルテンが検出されたというのは、セリアック病の直接の原因となるグリアジン 33-mer が検出されたということです。グルテンの量はこれを基にした推算値であり、かなりの誤差を含んでいます。ですから品中のグルテン濃度が 60 ppm の食品の方が、100 ppm の食品より安全、ということにはなりません

 

グルテンによる健康影響と摂取量の関係

一般的な西洋式の食生活を送っている人は、1 日にグルテンを 5~30 g 摂っていると言われています 2)。一方でグルテンフリー食品だけを食べて生活すれば、1日に摂るグルテンの量を 10 mg以下にすることが可能です。

セリアック病の患者さんの場合、1 日に摂るグルテンの量を 10 mg 以下にすることで、ほとんどの場合、その発症を抑えることができます。しかしグルテンが関係している病気・症状は、セリアック病だけではありません。最近の研究で、さまざまな病気や不快な症状の発症に、グルテンが関わっていることが明らかになってきました

ただグルテンの摂取量と発症の関係が明らかになっているのはセリアック病だけで、16 人に 1 人の割合で患者さんがいると推定されている非セリアックグルテン過敏症でさえ、摂取したグルテン量と症状の関係はわかっていません

グルテンによる健康影響には、個人差があります。そのため、まずはグルテンを全部抜いて、体調が変化するか確認する必要があります。またグルテンの摂取量と健康への悪影響の間には、比例関係があると考えられます。そこでグルテンの量を増やして、体調にどのような影響が出るのか、自分自身を観察してみることが重要です。そして、自分自身の許容値を決める必要があります。

セリアック病の人と同じレベルのグルテンフリーができれば、それに越したことはありませんが、それを実行するためには食事の制約が多く、費用もかかります。グルテンによる悪影響を避けるために、グルテンフリー表示のある食品だけを食べるという選択肢もありますが、セリアック病でないのなら、からだの中に入るグルテンの量をできるだけ減らすゆるグルテンフリーという対処法で十分です。

 

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古代小麦はグルテンフリーと誤解される理由

さきに断っておきますが、古代小麦にはグルテンが含まれています。セリアック病の患者さんは基本的に食べることはできません。

ときどき、古代小麦はグルテンフリーだと書いてあることがあります。また小麦を品種改良の結果、グルテンが増えたとも書いてあります。これについて、説明しましょう。

現在、われわれが主に食べているのは普通小麦デュラム小麦です。デュラム小麦を粗びきした粉がデュラムセモリナで、パスタの原料となります。それ以外の小麦粉は、すべて普通小麦から作られます。下図の中にあるゲノムというのは遺伝子のことで、普通小麦は AABBDD という6つの遺伝子を、デュラム小麦は AABB という 4 つの遺伝子を持っています。

 

 

普通小麦の直接の祖先がスペルト小麦で、これは普通小麦と同じ AABBDD です。スペルト小麦に含まれるグルテンの量は、普通小麦とほとんど変わりません。スペルト小麦は、フタツブ小麦(エンマー)とタルホ小麦が交配してできたものです。

さきほどグルテンの分析は、グリアジン 33-mer というペプチドの量を測定していると説明をしました。実はグリアジン 33-mer を含むたんぱく質を作る遺伝子は、D 遺伝子上にあります 2)。そのため、D 遺伝子を持たないヒトツブ小麦(アインコーン)、フタツブ小麦(エンマー)、カムカット小麦、デュラム小麦にはグリアジン 33-mer が含まれていません。そのため現在よく使われる分析方法で検出されず、グルテンが含まれていないと勘違いされることがあるのです。

グルテンとは、小麦、大麦、ライ麦とその交雑種に含まれるたんぱく質の総称で、グリアジン33-merのことではありません。ですからグリアジン33-merが検出されなかったとしても、グルテンが含まれていないことにはなりません。

ただセリアック病の人にとっては、グリアジン 33-mer を含まないヒトツブ小麦、フタツブ小麦、カムカット小麦やデュラム小麦は、症状を悪化させにくい場合があることも事実です。そのため、小麦粉の販売業者が、セリアック病の人でも食べられる小麦粉と称して、これらの古代小麦を売っている場合があります。これが、古代小麦はグルテンフリーだと誤解される理由です。

一方でセリアック病の原因になる免疫刺激性ペプチドはグリアジン 33-mer 以外にもあるので、これらの古代小麦をセリアック病の人が食べても安全ということはありません。

もうひとつ、品種改良をした結果、グルテンが増えたという話ですが、これは一部事実です。小麦の品種改良は、おいしいパンが作れること(製パン特性といいます)を改良の指標として行われてきました。これはグルテンを構成するたんぱく質のひとつである高分子グルテニンの比率が目安になっています。品種改良の結果、グルテンの総量が増えたわけではありませんが、高分子グルテニンの量が増えたことは事実です。

まとめ

  • グルテンフリーはセリアック病の患者さんが食べても、大部分の人は大丈夫という意味の表示。各国でルールは若干異なり、アメリカではグルテン濃度が 20 ppm 未満のとき、グルテンフリーと表示することができる。そのため、セリアック病でない人にとって、グルテンフリーの表示の有無は、さほど意味はない。
  • グルテンの分析は、グルテンに含まれるα-グリアジンのグリアジン 33-mer というペプチドの量を測定している。グルテン量はこれを基にした推算値で誤差が多い。そのため食品中のグルテン量の数値のちょっとした違いに気を使う必要はない。
  • グルテンが関係している病気・症状は多いが、グルテンの摂取量と発症の関係が明らかになっているのはセリアック病だけ。グルテンの影響の有無は個人差が大きいが、グルテンの摂取量と健康への悪影響の間には、比例関係がある。
  • グリアジン 33-mer を含むたんぱく質を作る遺伝子は、D 遺伝子上にある。そのため D 遺伝子を持たないヒトツブ小麦、フタツブ小麦、カムカット小麦、デュラム小麦のグルテンを分析したら、検出されないことがある。しかしグリアジン 33-mer が検出されなかったとしても、グルテンが含まれていないわけではない。

 


参考文献

1) Lebwohl B, Ludvigsson JF, Green PH. Celiac disease and non-celiac gluten sensitivity. BMJ. 2015;351:h4347. Published 2015 Oct 5. doi:10.1136/bmj.h4347

2) Cebolla Á, Moreno ML, Coto L, Sousa C. Gluten Immunogenic Peptides as Standard for the Evaluation of Potential Harmful Prolamin Content in Food and Human Specimen. Nutrients. 2018; 10(12):1927. Published 2018 Dec 5. doi:10.3390/nu10121927

3) Sánchez-León S, Gil-Humanes J, Ozuna CV, et al. Low-gluten, nontransgenic wheat engineered with CRISPR/Cas9. Plant Biotechnol J. 2018; 16(4):902-910. doi:10.1111/pbi.12837

4) Herrera MG, Pizzuto M, Lonez C, et al. Large supramolecular structures of 33-mer gliadin peptide activate toll-like receptors in macrophages. Nanomedicine. 2018; 14(4):1417-1427. doi:10.1016/j.nano.2018.04.014

5) Cebolla Á, Moreno ML, Coto L, Sousa C. Gluten Immunogenic Peptides as Standard for the Evaluation of Potential Harmful Prolamin Content in Food and Human Specimen. Nutrients. 2018; 10(12):1927. Published 2018 Dec 5. doi:10.3390/nu10121927

グルテンフリー食品まとめ

小麦粉を置き換えるには、グルテンの役割をカバーするための知識や技術が必要です。メーカーさんの工夫によって製造されている、おすすめのグルテンフリー食材をカテゴリー別にご紹介!