薬剤師が解説するどこよりも詳しいグルテンフリーガイド

小麦やグルテンに中毒性や依存性があるというのは本当ですか?

小麦やグルテンには中毒性や依存性があるため、小麦が入ったものを食べるとやめられなくなり、太る原因になる、だからグルテンフリーにすると痩せられる、と言った説明を見かけますが、これは完全にウソです。一方でグルテンは脳に影響することが知られており、体質によっては、グルテンフリーが病気の治療や予防につながることもあります。

小麦やグルテンには中毒性、依存性がある!?

書籍・雑誌やネット上の記事に、小麦やグルテンには中毒性があると書いてあるのをよく見かけます。しかし、これは明らかなウソです。

まず中毒とは何かを説明しましょう。中毒というのは、有害物質を飲み込んだり、吸い込んだり、皮膚や眼、または口や鼻などの粘膜に接触したときに生じる有害作用です 1)。中毒を起こす可能性のある物質としては、お薬、違法薬物、ガス、化学物質、ビタミン類、食べもの、キノコ類、植物や動物の毒などがあります。

これまでに小麦や小麦成分を含むものを摂って中毒が起きたという報告は、一切ありません。では、小麦アレルギーで起きるショック症状は何なんだ、といわれるかもしれませんが、これは小麦アレルギー(即時型アレルギーの一種)です。食物アレルギーと中毒は、全く別の症状です。世界中で食品として流通している小麦やグルテンに、中毒性があるなんてことは、ありえません。

では、小麦やグルテンに依存性はあるのでしょうか。

こちらは厚生労働省の「依存症」の解説から引用して説明します。依存症とは特定の何かに心を奪われ、「やめたくても、やめられない」状態になることです 2)。アルコールや薬物といった精神に依存する物質の摂取を繰り返すことによって、以前と同じ量や回数では満足できなくなり、次第に使う量や回数が増えていき、使い続けなければ気が済まなくなり、自分でコントロールできなくなってしまった状態が、依存症です。(ギャンブルなどのプロセスを対象とした依存症もありますが、ここでは省きます。)

小麦やグルテンは、精神に依存する物質なのでしょうか。後ほど詳しく説明しますが、小麦やグルテンに依存性があることを科学的に説明したデータはありません

では、小麦やグルテンに習慣性はあるのでしょうか。

習慣性ということばがあいまい過ぎて、何とも言えません。朝食にパンを食べる方は多いと思いますが、これは単なる習慣であって、小麦やグルテンに依存しているわけではありません、習慣性の有無を論じること自体、無意味です。

 

 

グルテンに依存性があるという根拠

小麦やグルテンには依存性がある成分(グルテンエキソルフィン)が含まれており、それが脳に作用して、食べ続けなければ気が済まなくなるので、食べ続けた結果、太ってしまう。だから、グルテンフリーにすれば痩せて、健康になれる、という説明を聞いたことはありませんか。市販されている複数の本にそう書いてあるので、私も最初はそのように思っていました。そして、このウェブサイトでも、そのような説明をしていました(現在は訂正済みです)。

でも本当なんでしょうか。ちゃんとした根拠(臨床データ)があるのでしょうか。そしてその根拠をたどっていくと、約 10 年前に米国で出版された 2 冊の本にたどり着きました。

 

① Davis W.  “Wheat Belly”, New York, NY: Rodale Inc (2011)

② Perlmutter D.  “Grain Brain”, New York, NY; Boston; London: Little, Brown and Company (2013)

 

① は「小麦は食べるな!」、② は「『いつものパン』があなたを殺す」というタイトルで日本でも出版されており、読まれた方も多いのではないでしょうか。① では「小麦が引き起こすヘロイン同様の中毒症状」というタイトルで、小麦やグルテンの「恐ろしさ」が描かれています。その後、日本人が書いたグルテンフリー本の多くや、ある公立大学のウェブサイト 3) でさえ、これらの本を引用して、小麦やグルテンに中毒性や依存性があるので注意が必要と言っています。

既に述べたように、中毒性があるというのはいくら何でも言い過ぎですが、依存性があるという説明には、納得できる部分もあります。その内容は次のようなものです。

 

  • 小麦に含まれるグルテンが分解してできる破片の中には、グルテンエキソルフィンという物質がある。
  • グルテンエキソルフィンは脳神経のオピオイド受容体に結合し、脳内のドパミン量を増やす
  • 脳内のドパミンの量が増えると、幸せな気分になり、やる気が出る(多幸感という)。
  • グルテンエキソルフィンの量が減ると、脳内のドパミンの量が減るが、多幸感を得たいという強い欲求が起きる(禁断症状という)。
  • グルテンエキソルフィンを増やすために、小麦を含む食べものが欲しくなり、食べてしまう(依存症)。

 

これはケシの実から採れるアヘンや、それを精製したヘロインで起きる麻薬中毒のメカニズムと同じです。アヘンやヘロインには、大量かつ高濃度のエキソルフィンが含まれており、上で説明したメカニズムで、強い依存性と禁断症状を伴う薬物中毒を起こします。

一方、小麦グルテンに含まれるグルテンエキソルフィンで、中毒が起きたという報告は、一切ありません。グルテンエキソルフィンがオピオイド受容体に作用することは、動物実験などで確認されていますが、量も濃度もわずかなので、中毒になることはあり得ません。

グルテンエキソルフィンについては、いくつか研究論文が出ており、からだに与える影響が指摘されています。食欲の調節に関してモルヒネと同じような役割を果たすという事実は確認されなかったという報告 4, 5) がある一方で、グルテンエキソルフィンが血液脳関門を通過し、食欲に影響を与える可能性があるという研究結果もあります 6)

要するに、グルテンエキソルフィンは脳に影響を与える可能性はあるが、依存症や中毒を引き起こすことはないというのが、現時点での正しい情報です。

グルテンが脳に与える影響は解明が進んでいる

グルテンエキソルフィンには依存性はありませんが、脳に影響を与える可能性はあります。また、グルテンエキソルフィン以外にも、グルテンの成分は脳に影響を与えることがわかってきました。これを整理して説明します。

グルテンエキソルフィンが関係するASDと統合失調症

ASD(自閉スペクトラム症)は対人関係が苦手で、強いこだわりを持つといった特徴がある発達障害のひとつで、59 人に 1 人の割合でいるといわれています 7)。病気というより、持って生まれた個性で、ふつうに生活している人もたくさんいます。

この ASD の発症メカニズムとして提唱されているのが、オピオイド過剰仮説です。小麦たんぱく質のグルテンと、乳たんぱく質のカゼインは分解されにくく、アミノ酸が十数個つながった状態のペプチドのまま、小腸に到達します。分子量の大きいペプチドは通常、小腸から吸収されることはありませんが、小腸のバリア機能が低下していると、誤って体内に入ってしまうことがあります。

吸収されたペプチドのうち、グルテン、カゼイン由来のエキソルフィンが脳のオピオイド受容体に結合すると、オピオイド受容体が過剰に働きます。その結果、脳内の神経調節プロセスの混乱を引き起こすことで、ASD が起きるというのが、オピオイド過剰仮説です 7)。この仮説は、ASD の患者さんの尿から、これらのペプチドが多く検出されることからも、裏付けられています。

 

関連記事

海外ではASDの発症に小麦たんぱく質のグルテン、乳たんぱく質のカゼインが関係しているという説があり、これらを抜くことで、ASDの症状が改善したという研究報告が出ています。一方で、グルテンやカゼインは関係ないとする研究結果もあり、結論は出てい[…]

 

統合失調症は、幻覚、妄想、意欲の低下、感情表現の減少を特徴とする精神疾患で、仕事や人間関係のストレスや就職、結婚、死別などのストレスがきっかけで発症することがあります 8)。生涯のうちに 100 人 に 1 人がかかるといわれており、珍しい病気ではありません。グルテンが統合失調症に関係することは 60 年前からわかっており、グルテンフリー食によって統合失調症の症状がよくなるという研究結果が多数報告されています 9)

統合失調症に関係しているといわれるのも、グルテン、カゼイン由来のエキソルフィンです。分子量が大きいため、通常は吸収されませんが、何らかの理由で小腸のバリア機能が損なわれていると、吸収されてしまいます。これが脳のオピオイド受容体に結合し、ドパミン作動神経を活性化させ、脳内のドパミン量を増やしますドパミン量が増えると幻覚、妄想が起き、ドパミン量が減れば、幻覚、妄想は治まります。

これ以外にも、グルテンの成分が統合失調症の発症に関わるメカニズムが提唱されています。

 

関連記事

統合失調症は、幻覚、妄想、意欲の低下、感情表現の減少を特徴とする精神疾患で、仕事や人間関係のストレス、就職、結婚、死別などのストレスがきっかけで発症することがあります。グルテンが統合失調症に関係することは 60 年前からわかっており、グルテ[…]

 

炎症性サイトカイニンが関係する認知障害

グルテンに対してアレルギー反応を起こす人は、自分の体にとっての異物であるグルテンが体内に入ると、それを撃退するために、炎症性サイトカインという物質を作ります。この炎症性サイトカインが次々と生産されると、血液中の炎症性サイトカインの濃度が上昇し、体全体に循環することになります。

脳の血管には、血管脳関門といって異物が脳の中に入らないようにしているバリアがあります。ところが炎症性サイトカインが血液脳関門の上皮細胞に結合すると、このバリア機能が緩み、脳へ白血球が入ってしまいます白血球は脳の神経線維を破壊するため、神経伝達速度(処理速度)が低下し、認知障害が起きます 10)

これは ブレインフォグ(脳霧、グルテン誘発性神経認知障害)といわれるもので、頭の中がもやもやしたり、集中力、注意力の低下が起きます。この症状はセリアック病や非セリアックグルテン過敏症の人の 9割で見られます。また最近では、新型コロナウイルス感染症の後遺障害としても報告されています。これはウイルスを撃退するために、体内の炎症性サイトカイニンの濃度が上昇した結果と考えられます。

 

関連記事

グルテンが原因で、頭の中がもやもやしたり、集中力、注意力の低下が起こることがありますが、これをブレインフォグ(脳霧)といいます。セリアック病や非セリアックグルテン過敏症の人の 9 割で見られる症状で、白血球が脳の神経線維の炎症化と損傷を促進[…]

 

抗グリアジン抗体が関係する運動障害

グルテンを構成するたんぱく質の中に、グリアジンという名前のものがあります。グリアジンを異物と認識する人は、グリアジンが体内に入ると、それを撃退するために 抗グリアジン抗体 ができます。この抗グリアジン抗体は、グリアジンを攻撃するだけでなく、運動機能を司る小脳を攻撃してしまうことがあります。その結果、小脳の神経細胞が破壊され、ふらついて、まっすぐ歩けなくなったり、話すときに呂律が回らなくなったりする、グルテン失調症(グルテン運動失調)という病気になることがあります 11)

 

関連記事

グルテン失調症は、もともとグルテンの影響を受けやすい人が、グルテンにさらされ続けることで起きる病気です。運動機能を司る小脳の神経細胞が破壊され、ふらついて、まっすぐ歩けなくなったり、話すときに呂律が回らなくなったりします。グルテンフリー食で[…]

 

間違ったことも多くの人が唱えると真実になる!?

2020年 に Frontiers in nutrition という栄養学の雑誌に掲載された論文 12) に、次のような記述があります。論文なので、第三者による査読(内容に合理性があるかどうかのチェック)を受けたものです( ① と ② は単なる書籍なので、誰のチェックも受けていません)。

 


過去 10 年間、小麦が健康と栄養に及ぼす影響について活発な議論が行われており、小麦は多くの人の間での否定的な評価を受けています。その主な原因は、”Wheat Belly” や “Grain Brain” などの、ニセの科学書です。

これらの本は、健全な科学的証拠と間違った記述が入り混じっており、消費者が真実と神話を区別することを事実上不可能にしています。これらの本の要旨である「小麦から作られた食品は、人々を病気にし、愚かにし、太らせ、依存症にする」という内容は、消費者に混乱を招きました。


 

約 10 年前に米国で出版された本の内容を引用する形で、日本でたくさんの書籍や記事が生まれました。いま日本で「グルテン、中毒、依存」などのキーワードをいれて出てくる情報のほとんどが、これらの書籍に書かれている内容です。中には、どこから引用したのか書いていない、悪質なものもあります。医学の進歩は早く、次々と新しい知見が生まれているにも関わらず、いまだに古い情報、しかも間違った情報が流れ続けているのは、大変残念です。

 

 

まとめ

  • 小麦やグルテンには、中毒性も依存性もない。
  • 小麦やグルテンにはグルテンエキソルフィンという成分が含まれており、それが脳のオピオイド受容体に結合して、脳内のドパミン量を増やす。このメカニズムがアヘンやヘロインで起きる麻薬中毒と同じメカニズムであるというのが、小麦やグルテンに中毒性や依存性があるとする根拠と思われる。
  • グルテンエキソルフィンは ASD(自閉スペクトラム症)と、統合失調症の発症に関係していることがわかっている。
  • グルテンに対してアレルギー反応を起こす人は、グルテンを撃退するために体内で作られた炎症性サイトカイニンが原因で、認知障害が起きることがある。
  • グルテンを構成するグリアジンを異物と認識する人は、グリアジンを撃退するために抗グリアジン抗体を作るが、これが小脳を攻撃することで、グルテン失調症になることがある。
  • 現在世間に広がっているグルテンに関する間違った情報の元は、約 10 年前に出版された書籍であり、日本ではいまでもこの間違った情報が流れ続けている。

 


参考文献

1) MSDマニュアル家庭版

2) 厚生労働省、依存症についてもっと知りたい方へ

3) 島根県立大学、グルテンフリー

https://izumo.u-shimane.ac.jp/campus/healthcenter/blog_cms/2016/7/14.html

2023 年 3 月にはアクセスできましたが、5 月時点でアクセスできなくなっています。

4) Pruimboom L, de Punder K. The opioid effects of gluten exorphins: asymptomatic celiac disease. J Health Popul Nutr. 2015; 33:24. Published 2015 Nov 24. doi: 10.1186/s41043-015-0032-y

5) Morley JE, Levine AS, Yamada T, et al. Effect of exorphins on gastrointestinal function, hormonal release, and appetite. Gastroenterology. 1983; 84(6):1517-1523.

6) Liu Z, Udenigwe CC. Role of food-derived opioid peptides in the central nervous and gastrointestinal systems. J Food Biochem. 2019 ;43(1):e12629. doi: 10.1111/jfbc.12629

7) Ng QX, Loke W, Venkatanarayanan N, Lim DY, Soh AYS, Yeo WS. A Systematic Review of the Role of Prebiotics and Probiotics in Autism Spectrum Disorders. Medicina (Kaunas). 2019; 55(5):129. Published 2019 May 10. doi: 10.3390/medicina55050129

8) 国立精神・神経医療研究センター、こころの情報サイト

https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=tQtLd1xVUp1wHJMQ

 

9) Casella G, Pozzi R, Cigognetti M, et al. Mood disorders and non-celiac gluten sensitivity. Minerva Gastroenterol Dietol. 2017; 63(1):32-37. doi: 10.23736/S1121-421X.16.02325-4

10) Anderson J., Gluten-Related Neurological Symptoms and Conditions, very well health (2020)

https://www.verywellhealth.com/gluten-related-neurological-symptoms-and-conditions-562317

 

11) Hadjivassiliou M, Sanders DS, Woodroofe N, Williamson C, Grünewald RA. Gluten ataxia. Cerebellum. 2008; 7(3):494-498. doi: 10.1007/s12311-008-0052-x

12) Wieser H, Koehler P, Scherf KA. The Two Faces of Wheat. Front Nutr. 2020; 7:517313. Published 2020 Oct 21. doi: 10.3389/fnut.2020.517313

グルテンフリー食品まとめ

小麦粉を置き換えるには、グルテンの役割をカバーするための知識や技術が必要です。メーカーさんの工夫によって製造されている、おすすめのグルテンフリー食材をカテゴリー別にご紹介!