グルテンが原因で、頭の中がもやもやしたり、集中力、注意力の低下が起こることがありますが、これをブレインフォグ(脳霧)といいます。セリアック病や非セリアックグルテン過敏症の人の 9 割で見られる症状で、白血球が脳の神経線維の炎症化と損傷を促進し、神経伝達速度(処理速度)が低下することで起きる、軽度の認知障害です。
ブレインフォグ(脳霧)とは軽い認知障害
あなたは、こんな経験、ありませんか。
・よく寝たのに朝からひどく疲れている感じがする。
・頭の中がもやもやして考えがまとまらない。
・考える速度がいつもより遅くなったような気がする。
・自分がしゃべっているのがぎこちなく感じる。
・字を書いているとき、簡単な字が思い出せない。
わたしは、以前はときどきありました(いまはありません)。
ブレインフォグとは、軽い認知障害のことです。頭の中に霧がかかったような感じがすることから、 “brain fog” (脳霧)といわれています。
日本では脳霧といってもほとんど通じませんが、海外では “brain fog” でちゃんと通じます。最近の論文では、グルテン誘発性神経認知障害と呼ぶようになっているので、この記事でもこの呼び方を使うことにします。
グルテン誘発性神経認知障害の症状としては、次のようなものがあります 1)。
・集中力の低下
・注意力の低下
・少し前のことを覚えていない
・話したり書いたりしながら、正しい言葉が出てこない
・物忘れ
・考えがまとまらない
・見当識障害(時間や場所、人間関係がわからなくなる)
症状には個人差が大きく、これらの症状が単独で現れる場合もあれば、複数の症状が同時に現れる場合もあります。
もうお気づきかと思いますが、このような症状は加齢によっても起こります。また「認知症」を思い浮かべる人もいるかもしれません。加齢によって起こる認知機能の低下との違いは、ときどき起こるという点です。グルテン誘発性神経認知障害の症状は、常に出ているわけではなく、一時的に起きて、また解消します。これに対して加齢で起こる認知機能の低下や認知症では、このような症状が継続します。
ときどき起こる認知障害の原因がグルテンの証拠
小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンは、一部の人に対して悪い影響を与えることがわかっています。
セリアック病は、グルテンを異物と勘違いして自分の免疫系がグルテンを攻撃することで起きる病気で、消化器、皮膚から全身に、さまざまな症状が現れます。100 人に 1 人の割合で患者さんがいるといわれています。また非セリアックグルテン過敏症(NCGS)は、メカニズムははっきりわかっていませんが、グルテンの摂取で、消化器、皮膚、全身に症状が出る病気で、こちらは 16 人 に 1 人の割合で患者さんがいます2)。
最新のデータではセリアック病患者の 89 %、非セリアックグルテン過敏症患者の 95 %が、グルテン誘発性神経認知障害の症状を示しています 3)。また 2013 年に発表された症状別の発生率は次の通りです 4)。
集中困難
具体的な症状
・集中でない。
・考えがまとまらない。
・考える速度が遅くなる。
・注意力が散漫になる。
発生率
セリアック病 患者の 72 %、非セリアックグルテン過敏症 患者の 7 %
短期記憶の欠如
具体的な症状
・話していて言葉が出てこない。
・書いている途中で、簡単な文字が書けない。
発生率
セリアック病 患者の 60 %、非セリアックグルテン過敏症 患者の 65 %
精神的な混乱
具体的な症状
・理由もなく腹が立つ。
・自宅にたどり着けない。
発生率
セリアック病 患者の 45 %、非セリアックグルテン過敏症 患者の 57 %
ふらつき、ひどい疲労
発生率
セリアック病 患者の 58 %、非セリアックグルテン過敏症 患者の 69 %
無関心、ものごとに興味がなくなる
発生率
セリアック病 患者の 47 %、非セリアックグルテン過敏症 患者の 54 %
さらに、次のような試験結果もあります。
通常はグルテンフリー食を摂っている非セリアックグルテン過敏症の 125 人 を対象に、約 3 g のグルテンが含まれているサンドイッチを食べさせて、症状の変化を見たところ、48 % の人に神経認知障害の症状が現れたとのことです。ちなみに、最も多く発生した症状は腹部の不快感(被験者の 79 %)でした 5)。
炎症性サイトカインの役割と認知障害が起こるメカニズム
セリアック病や非セリアックグルテン過敏症(NCGS)の人は、自分の体にとっての異物であるグルテンが体内に入ると、それを撃退するために、炎症性サイトカインという物質を作ります。この炎症性サイトカインが次々と生産されると、血液中の炎症性サイトカインの濃度が上昇し、体全体に循環することになります。
脳の血管には、血管脳関門といって、異物が脳の中に入らないようにしているバリアがあります。ところが炎症性サイトカインが血液脳関門の上皮細胞に結合すると、このバリア機能が緩み、脳へ白血球が入っていきます。白血球は、脳の神経線維の炎症化と損傷を促進するため、神経伝達速度(処理速度)が低下し、認知障害が起こると考えられています 6)。
グルテン誘発性神経認知障害に関する研究は、まだ始まったばかりで、原因物質と発症メカニズムが、完全にわかっているわけではありませんが、この仮説で説明することができます。
心当たりがあるならグルテンフリーを
グルテンを異物と認識する人、すなわち、グルテンに弱い体質の人は、本人が気づいていない人も含めると、16 人 に 1 人はいると推定されます。もしここで取り上げた症状に心当たりがあるのなら、一度グルテンフリーの食生活を試してみてはどうでしょうか。
セリアック病、非セリアックグルテン過敏症と診断された人が、グルテンフリーの食事を摂るようになると、12 か月以内に、神経認知障害の症状が見られなくなることがわかっています 6)。
腹痛、下痢、便秘のような消化器症状と違って、神経症状はすぐに変化があらわれないので、数か月間、グルテンフリー生活を続ける必要があります。
いったん破壊された神経線維は、もとに戻りません。神経線維の破壊が進むと、体のあちこちに痛みを生じることもあります。とにかく、心当たりのある人は、1 日でも早く、グルテンを含む食品を食べるのを控えてください。
まとめ
- グルテンが原因で起こる脳の軽い認知障害をグルテン誘発性神経認知障害または脳霧(ブレインフォグ)という。
- グルテン誘発性神経認知障害の症状としては、集中力、注意力の低下、少し前のことを覚えていない、話したり書いたりしながら、正しい言葉が出てこない、物忘れ、考えがまとまらない、見当識障害などがある。
- セリアック病の人の 89 %、非セリアックグルテン過敏症の人の 95 % が、グルテン誘発性神経認知障害の症状を示す。
- グルテンに感受性が高い人は、グルテンが体内に入ると炎症性サイトカインの濃度が上昇する。炎症性サイトカインは異物が脳の中に入らないようにしているバリアである血液脳関門のバリア機能を緩める。その結果、白血球が脳へ入り、脳の神経線維の炎症化と損傷を促進するため、神経伝達速度(処理速度)が低下して認知障害が起こると考えられている。
- グルテンフリー食を導入することで、グルテン誘発性神経認知障害の症状は 12 か月以内に解消する。
参考文献
1) Anderson J., Gluten-Related Neurological Symptoms and Conditions, very well health (2020)
https://www.verywellhealth.com/gluten-related-neurological-symptoms-and-conditions-562317
2) Catassi C., Gluten Sensitivity. Ann Nutr Metab, 67 (Suppl 2) 16-26 (2015)
3) Edwards George JB, et. al., Gluten-induced Neurocognitive Impairment: Results of a Nationwide Study. J Clin Gastroenterol. 2021 May 28. doi: 10.1097/MCG.0000000000001561. Epub ahead of print. PMID: 34049371.
4) Kristin N. et.al., Leffler, Neurocognitive E-ects of Gluten Exposure: Results of a Nationwide Survey, 15th International Celiac Disease Symposium (2013)
5) Croall ID, et. al., Brain fog and non-coeliac gluten sensitivity: Proof of concept brain MRI pilot study. PLoS One. 15 (8) e0238283 (2020)
6) Gregory W Yelland, Gluten-induced cognitive impairment (“brain fog”) in coeliac disease, Journal of Gastroenterology and Hepatology, 32(S1) 90-93 (2017)