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鉄欠乏性貧血と診断されたら、グルテンによって起こる鉄の吸収阻害も疑ってみて!

貧血は赤血球のヘモグロビンが不足している状態で、疲れやすくなり、めまいを起こすこともあります。原因は鉄分の不足ですが、食事で十分な量の鉄分を摂っていても、貧血になることがあります。鉄は十二指腸で吸収されますが、小麦などに含まれるグルテンが鉄の吸収を妨げるからです。グルテンフリーで、症状が改善された例も報告されています。

貧血の主な症状とヘモグロビン濃度

貧血は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度が低下している状態で、ヘモグロビンの値が成人女性で 12 g / dL 未満、成人男性で 13 g / dL 未満、80 歳以上の場合は 11 g / dL 未満の場合、貧血と診断されます。

ヘモグロビンは肺から全身へ酸素を運ぶ役割があるため、貧血になるとからだ全体に酸素が行き渡らなくなる結果、疲れやすくなり、めまい、ふらつき、立ちくらみ、息切れなどの症状がおきて、ひどくなると胸や頭に痛みを感じることもあります

厚生労働省の調査では、30 代の女性の 18.2 %、40 代の女性の 13.8 % が貧血というデータがあるように、若い女性にとっては深刻な問題です 1)

貧血の原因は大きく分けると、

  • 失血(出血)
  • 赤血球の産生不足
  • 赤血球の過剰な破壊

の 3 つです。

失血は重度の月経や消化管のがん、胃や小腸の潰瘍が原因で起こることがあります。赤血球の産生不足は、鉄、ビタミン B12、葉酸の不足や、一部のがんが原因で起こります。赤血球の過剰な破壊は何らかの病気が原因で起こることがふつうです。

貧血の 8 割以上を占めるのが、鉄の不足のために十分な量の赤血球が作られないことによる鉄欠乏性貧血です。

最も一般的な原因は失血(出血)で、生理や子宮筋腫、子宮内膜症に伴う出血で、体内の鉄が失われることで起きます。このほかに、吸収される鉄の量が少ないため、鉄欠乏性貧血になることもよくあります。鉄は十二指腸から空腸の上部で吸収されますが、ここでの吸収がうまくいかないと、鉄欠乏性貧血になります。

 

 

若い女性の貧血は鉄分不足の可能性

鉄の必要量や摂取目安については、いろいろなデータが使われています。

鉄をたくさん摂ってほしいサプリメントメーカーは、日本人とは体格の違う外国人のデータを引用したりしていますが、ここでは厚生労働省が作成・公表した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」のデータをもとに説明します 2)

まず鉄の食事摂取基準として、年齢と性別、月経の有無ごとに、推定平均必要量と推奨量が掲載されています。ちなみに推定平均必要量は、50 % の人が必要量を満たす量(50 % が人が欠乏、50 % の人が充足)で、推奨量は 97.5 %の人が必要量を満たす量です。ですから摂取をする量としては、推奨量を基準にすべきです。

18~29 歳女性(月経がある場合)
  • 推定平均必要量 8.5 mg / 日
  • 推奨量 10.5 mg / 日
30~49 歳女性(月経がある場合)
  • 推定平均必要量 9.0 mg / 日
  • 推奨量 10.5 mg / 日
50~64 歳女性(月経がある場合)
  • 推定平均必要量 9.0 mg / 日
  • 推奨量 11.0 mg / 日
18~64 歳女性(月経がない場合)
  • 推定平均必要量 5.5 mg/日
  • 推奨量 6.5 mg / 日
18~64 歳男性
  • 推定平均必要量 6.5 mg / 日
  • 推奨量 7.5 mg / 日

となっています。

一方、同じく厚生労働省が実施した「平成28年国民健康・栄養調査」では、日本人成人の鉄摂取量の平均は、女性で 7.3 mg / 日、男性で 8.1 mg / 日です。

月経のある女性は、10.5~11.0 mg / 日が必要なので、そもそも必要な量の鉄を食事から摂れていない可能性があります。鉄分を多く含む食品、例えば卵、レバー、小松菜やホウレンソウを意識的に多く摂るようにしましょう。

鉄の過剰摂取についても触れておきましょう。さきほど紹介した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」には鉄の許容上限量も示されており、15 歳以上の女性では 40 mg、15 歳以上の男性では 50 mg とされています。この報告書によると、通常の食生活で過剰摂取が生じる可能性はないが、サプリメントや鉄強化食品の不適切な利用によって、過剰摂取が生じる可能性があると指摘しています。

便利なサプリメントがたくさん出回っていますが、必要な栄養素は食事から摂るのが基本です。サプリメントはあくまで、食事で摂れなかった分を補うためのものです。サプリメントを飲むことを前提に献立を考えるのは、好ましくありません。

ただ、鉄分の多い食事や鉄を含むサプリメントを飲んでいたとしても、鉄が不足している人はいます。そうでなければ、30 代女性の 5 人に 1 人が貧血なんてことにはなりません。

 

鉄分の吸収が悪いのはグルテンが原因?

鉄欠乏性貧血と診断されると、鉄剤(成分は、クエン酸第一鉄ナトリウム)が処方され、これで体内の鉄不足を補うのが一般的です。ところが鉄剤を飲んでも貧血の症状がよくならないケースがあります。これは十二指腸で鉄がうまく吸収されていないことが原因です。

アメリカの例ですが、鉄欠乏性貧血の人を対象に十二指腸の検査を行った結果、26 % の人に組織学的な変化が見られたという結果があります 3)。組織学的な変化とは、十二指腸の細胞が正常な状態ではないということです

鉄は十二指腸の細胞から血液中に吸収されますが、この細胞に異常があると、鉄の吸収効率が低下します。仮に十二指腸での吸収効率が半分になると、ふつうの人の倍の量の鉄分を食事から摂らないと、同じ量の鉄分がからだの内に吸収されないことになります。

 

 

ところで、小麦などに含まれるグルテンというたんぱく質は、セリアック病という自己免疫疾患を起こすことが知られています。自己免疫疾患というのは、自分の免疫細胞が誤って自分のからだを攻撃することによって起きる病気で、セリアック病の場合は十二指腸を含む小腸の細胞が破壊され、栄養吸収ができなくなります。その結果、全身にさまざまな症状が現れることがわかっています。

このセリアック病で、消化器以外にもっともよく見られる症状が鉄欠乏性貧血です。6 か国で行われた 10 の研究結果をまとめた論文によると、初めてセリアック病と診断されたおとなの 21〜84 %で鉄欠乏性貧血が見られたそうです 4)

セリアック病の唯一の治療法は、グルテンを含まない食事、すなわちグルテンフリー食を摂ることです。グルテンフリー食を摂り始めると、2 週間程度で多くの症状は改善します。これは小腸の細胞がもとの正常な状態に戻ることで、栄養の吸収が正常になるためです。

ところが、鉄欠乏性貧血が改善するためには半年から 1 年、完全に貧血の症状がなくなるまでに 2 年かかる場合もあります 3)。この理由はわかっていませんが、十二指腸の細胞が鉄の吸収性能を取り戻すためには、かなり時間がかかるということです。

セリアック病以外にも、グルテンが原因で起こる病気がいくつか知られています。非セリアックグルテン過敏症(NCGS)もその一つです。

この病気は、グルテンを含んだ食事を摂ることで、腹部膨満、腹痛、下痢といった消化器症状や、もやもや感、貧血、疲労、関節痛、発疹などが起きます。2000 年ごろから広く知られるようになった病気なので、まだわからない点が多々あります。海外では 16 人に 1 人くらいの割合で患者さんがいるといわれていますが 5)、多くの人が自分が NCGS だと気づかずに過ごしているといわれています。

この病気は日本ではあまり知られておらず、病院で NCGS と診断されることはほとんどありません

貧血は NCGS の症状の一つで、患者さんの 20 % に貧血の症状があることは以前からわかっていましたが 5)、最近になって、その部分の研究がさらに進むようになりました。

2020 年の論文では、NCSS の患者さんの 18.5〜22 %に貧血の症状が見られ、それは十二指腸の超微細構造および分子の変化が関わっていること、また NCGS になりやすい遺伝的要素は鉄欠乏性貧血の発症とも関わっているということがわかりました 6)

つまりグルテンを摂取することによって、十二指腸における鉄の吸収が妨げられた結果、鉄欠乏性貧血になっている可能性があります。セリアック病ではグルテンを異物と認識して起きる免疫反応で十二指腸の細胞が破壊されることがわかっていますが、NCGS で十二指腸の細胞が損傷するしくみはまだわかっていません。ただ、グルテンを抜けば貧血の症状がなくなり、グルテンを含んだ食事を食べると、また貧血になるということだけはわかっています。

 

 

試しに 1か月グルテンフリー食にしてみては

あなたがセリアック病か、NCGSかはさておき、鉄欠乏性貧血の症状で悩んでいるのなら、グルテンフリー食を試してみてはどうでしょうか。

グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質で、グルテンフリーとはこれらを摂らない食事のことです。パン、めん類、ピザ、クッキーなど、小麦が使われている食品はたくさんあるので、これを抜くとなると少々面倒なのですが、これで貧血の症状がよくなる可能性があります。

グルテンが含まれている食品の大半には鉄分は含まれていないので、グルテンフリーにすることで、鉄分の摂取量が減ることはありません。1 か月ほど試してみることをお勧めします。何を食べればよいか等については、このサイトの関連記事も参考にしてください。

 

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まとめ

  • 貧血は血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度が低下している状態で、疲れやすくなり、めまい、ふらつきなどの症状がある。30 代女性の 5 人に 1 人は貧血。
  • 貧血の 8 割以上を占めるのが鉄欠乏性貧血。生理や子宮筋腫、子宮内膜症に伴う出血で起きることが多いが、十二指腸での鉄の吸収が不十分なことでも起きる。
  • 成人女性で月経がある場合、1 日 10.5~11.0 mg の鉄が必要。鉄分が多い食品を意識的に摂ることが重要。
  • グルテンが原因で起きるセリアック病、非セリアックグルテン過敏症(NCGS)では、貧血がよく見られる。これはグルテンが原因で十二指腸の細胞が変化し、鉄の吸収効率が低下しているのではないかと考えられている。
  • グルテンフリー食にすることで、十二指腸での鉄の吸収が正常に行われるようになるため、貧血の症状が改善する可能性がある。

 


参考文献

1) 令和元年国民健康・栄養調査報告(2020)、厚生労働省

2) 日本人の食事摂取基準(2020年版)(2020)、厚生労働省

3) Bathrellou E, et. al., Celiac disease and non-celiac gluten or wheat sensitivity and health in later life: A review. Maturitas. 112 29-33 (2018)

4) Talarico V, et. al., Iron Deficiency Anemia in Celiac Disease. Nutrients, 13 (5) 1695 (2021)

5) Sapone A, et. al., Spectrum of gluten-related disorders: consensus on new nomenclature and classification, BMC Med, 7;10:13 (2012)

6) Stefanelli G, et. al., Persistent Iron Deficiency Anemia in Patients with Celiac Disease Despite a Gluten-Free Diet, Nutrients, 12 (8) 2176 (2020)

グルテンフリー食品まとめ

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