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自閉スペクトラム症(ASD)の発症に、グルテン、カゼインが関係している!?

海外ではASDの発症に小麦たんぱく質のグルテン、乳たんぱく質のカゼインが関係しているという説があり、これらを抜くことで、ASDの症状が改善したという研究報告が出ています。一方で、グルテンやカゼインは関係ないとする研究結果もあり、結論は出ていません。ただ、少しでも改善する可能性があるのなら、試してみてはどうでしょうか。

自閉スペクトラム症(ASD)は 59 人に 1 人

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は、対人関係が苦手で、強いこだわりを持つといった特徴がある発達障害のひとつです。

多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こり、胎内環境や周産期のトラブルとの関係も指摘されています。病気というより、持って生まれた個性と考えてよいでしょう。以前は、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群など、いろいろな名前で呼ばれていましたが、2013 年以降、ASDとしてまとめて表現するようになりました。

最新のデータでは、アメリカの 8 歳児の 59 人に 1 人は ASD と報告されており、性別では男性が多く、女性の約4 倍となっています 1)。また近年、増加傾向にあります。

ASDの特徴として、

  • 対人関係の障害
  • 言語やコミュニケーションの障害
  • パターン化した興味や活動

の 3 つがあります。

また ASD の人の半数以上は知的障害を伴っており、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や学習障害、てんかんを合併しやすいことが知られています。一方で、3 割の人は知能に遅れはありません。

現代の医学では ASD を治療することは困難で、一人ひとりにあわせて、教育的方法で支援を行っています。また、かんしゃく、多動、こだわりなどの個別の症状を、お薬によって軽減させることもあります 2)

 

 

ASDは遺伝的素因と胎児期・新生児期の環境が原因で発症?

遺伝的な素因

まず、ASDが発症やすい遺伝的な素因があることがわかっています。ASD と関係のある遺伝子が 800 種類ほど特定されており、その中の 50 ほどの遺伝子のどれかを持っていると、ASD の発生リスクが高くなることがわかっています 3)

ただ、特定の遺伝子を持っているだけでは、ASD は発症しません。ASDの発症メカニズムとして提唱されているものの一つが、次に示す「オピオイド過剰仮説」です 4)

オピオイド過剰仮説

食べものに含まれるたんぱく質はアミノ酸にまで分解されたのち、小腸の上皮細胞から吸収されます。

ところが、小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンと、乳たんぱく質の80%を占めるカゼイン分解されにくく、人によっては、アミノ酸が十数個つながった状態のペプチドのまま、小腸に到達します。分子量の大きいペプチドは通常、小腸から吸収されることはありませんが、小腸のバリア機能が低下していると、誤って吸収されてしまうことがあります。

吸収されたペプチドが血流に乗って運ばれ、脳のオピオイド受容体に結合すると、オピオイド受容体が過剰に働きます

その結果、脳内の神経調節プロセスの混乱を引き起こすことで、ASD が起きるというのが、オピオイド過剰仮説です。この仮説は、ASD の患者さんの尿から、これらのペプチドが多く検出されることからも、裏付けられています。

母体内での胎児の環境

胎児のおかれた環境も、ASD の発症に関係しているといわれています 2)。例えば母体のウイルス感染、母体のサリドマイド(睡眠薬の一種)の使用、妊娠中のアルコール消費、胃腸障害、水銀、バルプロ酸の摂取、自己免疫疾患などにより、ASD の発症リスクが上がります。

新生児期に摂取したグルテンやカゼイン

ASD は新生児期に、脳のオピオイド受容体が過度な活動をすることで誘発される可能性があるともいわれています 2)。ASD は先天性であると考えられていますが、ASD であることが明らかになるのは、生後 2~3年 経ってからです。ですから、新生児期の栄養環境が原因で発症している可能性もあります。

食物として摂取されたグルテンやカゼインは、アミノ酸に分解され、小腸から吸収されますが、完全に分解されず、アミノ酸が十数個つながったペプチドの状態で止まってしまうことがあります。

バリア機能が低下した小腸からこのペプチドが吸収され、血流に乗って脳のオピオイド受容体に結合すると、脳内の神経伝達を妨害し、脳の成熟、学習、社会的関係の構築に影響を及ぼします。さらに、酸化ストレスの増加と抗酸化能力の低下、および脳内のミトコンドリア機能障害などが起きるため、ASD が起きるのではないかと考えられています。

 

 

ASDの人の食事からグルテンとカゼインを除去すると・・・

アメリカ国立衛生研究所(NIH)が運営する、医学・薬学分野の文献データベース Pub Med を使うと、過去約 50 年に発表された約 2,000 万件の研究論文にアクセスすることができます。これで “ASD”, “gluten”というキーワードを入れて検索すると、79 件の論文が見つかりましたので、内容を確認しました。ASD の原因や治療法に関する研究が世界中で行われています。ただ、すべて海外の論文で、日本のものは 1 件もありませんでした。

現時点ではグルテンやカゼインと ASD との関係ははっきりしていません。グルテンやカゼインを抜いた食事で、ASD の症状が改善されたという論文と、抜いた場合と抜かない場合とで差はなかったという論文の両方があります。それぞれ主なものを紹介します。

グルテンやカゼインを抜くとASDに効果があるとする論文

  • グルテンフリー食、カゼインフリー食、プレバイオティクス、プロバイオティクス、マルチビタミンの補給が、ASD に有望な結果を示す(2020 年、インド)5)
  • グルテンフリーの食事療法は、ASD の治療法の開発に希望を与える前向きな結果をもたらした(2020 年、インド)6)
  • ASDの人は、グルテンフリー、カゼインフリー、ケトジェニックダイエットなどで、症状を軽減することがある(トルコ、2019 年)7)
  • 修正グルテンフリーケトン食療法は、ASD のコア機能を改善するために有益(アメリカ、2018 年)8)
  • 改変アトキンスダイエット(ケトン食療法)と、グルテンフリーとカゼインフリーの食事療法は、ASD の症状を安全に改善する可能性があり、ASDのこどもに推奨される(エジプト、2017 年)9)
  • ASD の人の 54 % に胃腸症状があったが、グルテンフリー食を導入すると減少した。グルテンフリー食は胃腸の症状と ASD の行動を制御するのに効果的である(イラン、2016 年)10)

グルテンやカゼインを抜いてもASDには効果がないとする論文

  • グルテンフリー食は、ASD の人の間で採用率が高い。ただし、ASD でグルテン摂取の悪影響は証明されていない(イギリス、2021 年)11)
  • 6 か月のグルテンフリー・カゼインフリー食は、自閉症の行動症状に有意な変化を引き起こさない(スペイン、2020 年)12)
  • オピオイド理論に基づいて、ASD 治療のためにグルテンフリー食、カゼインフリー食が使われるが、有効性を証明するには証拠が不十分(トルコ、2020 年)13)
  • グルテンフリー食と、グルテンが入った食事が、ASDのこどもの機能に影響するかどうかを調べた。自閉症の症状、不適応行動、または知的能力において差はなかった(2020 年、ポーランド)14)
  • グルテンフリー、カゼインフリー食がこどもの ASD の症状に有益であるという証拠はほとんどない(2018 年、ポーランド)15)
  • ASD のこどものための、栄養補助食品または食事療法の使用を支持する証拠はない(アメリカ、2017 年) 16)
  • 自閉症の治療法として、グルテンフリー食を行うことを支持する十分な証拠はない。一部の患者はグルテンフリー食のメリットを受ける可能性があるが、その特性はわからない(2013 年、アメリカ)17)

 

 

グルテンとカゼインを抜いて様子をみませんか

日本の公的機関のサイトを見ると、「ASD の原因は不明」としか書いていてありません。

確かにそうなのですが、現に ASD と向き合っている人にとっては、ASDの原因を明らかにすることよりも、いかにしていま現在の症状を楽にするかの方が重要です。海外で「食事中のグルテンやカゼインを抜くことで症状が改善した」という研究結果があるのならば、それを積極的に公開し、多くの人に試してもらうべきだと私は思います。

新たに薬を飲むわけではなく、食事から小麦と牛乳を抜くだけです。アメリカの ASD のこどもの 40 % は、グルテンとカゼインを抜いた食事を摂っているという論文もあります 18)。ただしこの論文は、グルテンとカゼインを抜いた食事に、効果はあるかどうかわからないというスタンスでした。

ただこのチャレンジに問題点が全くないわけではありません。小麦と牛乳を抜くことで、必要な栄養素が摂れなくなる可能性があります。もう一つは食費が高くなることです。この点を理解したうえで、できれば専門家の指導の下で、チャレンジしてみてください。

この記事を読んで下さった方で、もし自分の周囲に ASD の方がおられたら、このサイトの存在を教えてあげてください。そして、次のような手順で食事からグルテンとカゼインを完全に抜いて、変化がないか、確認してみてください。

グルテンとカゼインを抜いて症状を確認する方法

これまでグルテンとカゼインを含む食べものを食べてきたので、グルテンとカゼインの成分が体内から完全になくなるまで、時間がかかります。そのため、最低でも1 か月間、グルテンとカゼインを完全に抜いた食事を摂ってください

グルテンもカゼインも、完全に抜いてください。このサイトではグルテンの摂取量を減らす「ゆるグルテンフリー」についても紹介していますが、ASDへの影響を確認するためには、ゆるグルテンフリーではなく、完全に抜く必要があります。また期間中に、誤って食べてしまった場合は、もう一度、最初からやり直す必要があります。1 か月間は誤って食べることがないよう、十分注意してください。

食べてはいけないものは、「小麦成分と乳成分を含む食べものすべて」です。

容器に入っていたり、包装された食品は、これらの成分が入っている場合、原材料表示欄に「小麦」「乳成分」と書いてあるので、容易に見分けがつきます。調味料などを含め、一切摂らないようにしてください。

ふだん、パン、めん類、バスタ、ピザ、菓子類を食べることが多い人は、大変だと思いますが、和食にはグルテンフリー、カゼインフリーのメニューが多いので、工夫してチャレンジしてください。

まとめ

  • 自閉スペクトラム症(ASD)は、対人関係が苦手で、強いこだわりを持つといった特徴がある発達障害のひとつで、59 人に 1 人の割合で発症する。知能に遅れがない人も30 %いる。
  • ASDが発症しやすい遺伝的な素因があるが、それだけでは発症しない。
  • ASDの発症メカニズムとして提唱されているのが、オピオイド過剰仮説。小麦のたんぱく質であるグルテンや、牛乳のたんぱく質のカゼインが完全に分解されないまま、小腸から吸収されてしまい、脳のオピオイド受容体を過剰に働かせることが原因する説。
  • ASDの人の食事からグルテンとカゼインを抜くと、ASD の症状が改善されたという報告と、改善されなかったという報告がある。

 


参考文献

1) Ng QX, Loke W, Venkatanarayanan N, Lim DY, Soh AYS, Yeo WS. A Systematic Review of the Role of Prebiotics and Probiotics in Autism Spectrum Disorders. Medicina (Kaunas). 2019; 55(5):129. Published 2019 May 10. doi: 10.3390/medicina55050129

2) 厚生労働省 e-ヘルスネット

ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について

3) Di Liberto D, D’Anneo A, Carlisi D, et al. Brain Opioid Activity and Oxidative Injury: Different Molecular Scenarios Connecting Celiac Disease and Autistic Spectrum Disorder. Brain Sci. 2020; 10(7):437. Published 2020 Jul 9. doi: 10.3390/brainsci10070437

4) Ng QX, Loke W, Venkatanarayanan N, Lim DY, Soh AYS, Yeo WS. A Systematic Review of the Role of Prebiotics and Probiotics in Autism Spectrum Disorders. Medicina (Kaunas). 2019; 55(5):129. Published 2019 May 10. doi:10.3390/medicina55050129

5) Chidambaram SB et. al., Autism and Gut-Brain Axis: Role of Probiotics, Adv Neurobiol. 24, 587-600 (2020)

6) Sumathi T., et.al., The Role of Gluten in Autism, Adv Neurobiol, 24 469-479 (2020)

7) Cekici H., et. al., Current nutritional approaches in managing autism spectrum disorder: A review, Nutr Neurosci. 22 (3) 145-155 (2019)

8) Lee RWY, Corley MJ, Pang A, et al. A modified ketogenic gluten-free diet with MCT improves behavior in children with autism spectrum disorder. Physiol Behav. 2018; 188:205-211. doi: 10.1016/j.physbeh.2018.02.006

9) El-Rashidy O., et. al., Ketogenic diet versus gluten free casein free diet in autistic children: a case-control study, Metab Brain Dis, 32 (6) 1935-1941 (2017)

10) Ghalichi F. et. al., Effect of gluten free diet on gastrointestinal and behavioral indices for children with autism spectrum disorders: a randomized clinical trial, World J Pediatr, 12 (4) 436-442 (2016)

11) Croall ID et. al., Gluten and Autism Spectrum Disorder, Nutrients, 13 (2) 572 (2021)

12) González-Domenech PJ., Influence of a Combined Gluten-Free and Casein-Free Diet on Behavior Disorders in Children and Adolescents Diagnosed with Autism Spectrum Disorder: A 12-Month Follow-Up Clinical Trial. J Autism Dev Disord, 50 (3) 935-948 (2020)

13) Baspinar B. et.al., Gluten-Free Casein-Free Diet for Autism Spectrum Disorders: Can It Be Effective in Solving Behavioural and Gastrointestinal Problems? Eurasian J Med., 52 (3) 292-297 (2020)

14) Piwowarczyk A., et.al, Gluten-Free Diet in Children with Autism Spectrum Disorders: A Randomized, Controlled, Single-Blinded Trial, J Autism Dev Disord, 50 (2) 482-490 (2020)

15) Piwowarczyk A., et. al., Gluten- and casein-free diet and autism spectrum disorders in children: a systematic review, Eur J Nutr, 57 (2) 433-440 (2018)

16) Sathe N., et. al., Nutritional and Dietary Interventions for Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review. Pediatrics, 139 (6) :e20170346 (2017)

17) Buie T., The relationship of autism and gluten, Clin Ther. 35 (5) 578-583 (2013)

18) Madzhidova S, et. al., The Use of Dietary Interventions in Pediatric Patients, Pharmacy (Basel), 7 (1) 10 (2019)

グルテンフリー食品まとめ

小麦粉を置き換えるには、グルテンの役割をカバーするための知識や技術が必要です。メーカーさんの工夫によって製造されている、おすすめのグルテンフリー食材をカテゴリー別にご紹介!