グルテンを摂りすぎると、からだによくないことはご存じと思います。でも、その影響が深刻ではなかったり、グルテンフリーのハードルが高かったり、その効果があいまいだったりすることで、グルテンフリーを始めるのをためらっている方も多いのではないでしょうか。部分的にグルテンを抜く「ゆるグルテンフリー」なら、無理せずに実行できます。
グルテンフリーのメリット
グルテンフリーは、小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンを摂らない食生活です。グルテンが原因で発症する病気や、グルテンがからだに悪い影響を与えることはご存じだと思いますが、グルテンフリーにすることで、病気の発症を防いだり、からだへの悪影響をなくすことができます。
病気に強いカラダをつくります
いま、腸活がブームです。人間の腸には 1000 種類、100 兆個の腸内細菌が棲んでおり、ビタミン類や神経伝達物質のセロトニンを合成して人間に供給しているほか、栄養吸収に必要なエネルギーを作ったり、病原体や異物を排除する腸内バリアとして働くことで、人間の健康を支えています。小麦などに含まれるグルテンは、この腸内細菌のバランスを崩したり、腸内バリアを破壊することがわかっています。
食事の後、 2 時間くらいすると、下腹部が重く感じたり、膨れて苦しくなることはありませんか。これは消化・吸収されなかった食べものの成分が腸に留まり、それを腸内細菌が分解してガスに変えているからです。腸内細菌のエサになるものを食べるのは悪いことではありませんが、腹部膨満や腹痛が起きるのは、からだに負担がかかっている証拠です。
小麦などに含まれるグルテンは、たんぱく質の中でも特に消化・吸収が悪いものです。小麦粉 100 g あたり 7~13 g のグルテンが入っいるので、小麦粉を使った食品をたくさん食べると、腹部膨満、腹痛、下痢などが起きることがあります。これは、腸内細菌のバランスが崩れかけている状態なので、せっかくヨーグルトやサプリメントで腸活を頑張っても、このようなことを繰り返していては意味がなくなります。パンやめん類をたくさん食べると、お腹の調子が悪くなるという方は、からだの中に入るグルテンの量を減らしてみてください。
ところで、人間の腸は、生きていくために必要な栄養分の大半を吸収するとともに、からだにとって有害な物質が入らないようにブロックしなければなりません。そのため、腸管細胞の透過性を上げたり下げたりすることができるようになっています。グルテンはその透過性を上げることで、本来体内に入らない有害な物質の侵入を許してしまうことがわかっています。このように、腸の透過性が上がった状態をリーキーガット(Leaky:漏れやすい、Gut:腸)と呼びます。
リーキーガットになると、腸から吸収された有害物質が血液中に入って、からだ全体に行き渡ることになるので、その影響は全身に及びます。食べたものが原因で、脳に影響が出るなんてこともあります。リーキーガットを起こさないようにすることで、さまざまな病気・症状の発症を防ぐことができます。
アレルギーに関わる病気の発症を防ぎます
アレルギーとは、もともと人間にとって有害でないものに対して免疫系が過剰反応し、それを排除するために炎症が起きた状態をいいます。アレルギーに関わる病気は、ある日突然起こります。例えば、日本の大人の 2 人に 1 人が罹っているといわれる花粉症。経験した人はわかると思いますが、前年まで全く何の症状もなかったのに、ある年から鼻水が出たり、目がかゆくなったりします。そしていったん花粉症になると、生涯治ることはありません。
花粉症の原因は、植物の花粉に含まれるたんぱく質です。これを吸い込み続けていると、からだの中に花粉のたんぱく質な対する抗体ができます。そして花粉が鼻から入ると、鼻で炎症反応が起きて鼻水や鼻詰まりになり、花粉が目の粘膜に付着すると、眼で炎症反応が起きて目がかゆくなるのです
グルテンもたんぱく質で、しかも複数の種類のアレルギー反応を起こすこがわかっています。アレルギー反応は、体質によって起こりやすい人とそうでない人がいます。アトピー素因を持つ人は、花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎など、免疫に関わる病気になりやすいといわれています。日本人の 2.5 人に 1 人がアトピー素因を持っているといわれているので、あなたもその一人かもしれません。
アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎のなりやすさではなく、免疫異常を起こしやすい体質のことです。日本人の 40 %はアトピー素因を持つといわれています。アトピー素因があると、花粉症や食物アレルギー、小麦やグルテンが関わる病気が発症しやすくなり[…]
将来起きるか起こらないかわからないアレルギーのために、努力をするのは無駄だとは思わないでください。花粉症も、アトピー性皮膚炎も、食物アレルギーも、増加傾向にあります。からだの中に入るグルテンの量を減らすことで、グルテンが原因となるアレルギーの発症リスクを減らすことができます。
慢性的な体調不良から解放されます
グルテンが関係する慢性的な体調不良は、結構たくさんあります。例えば倦怠感、慢性疲労、関節痛、しびれなど。これらは一見、腸とは何の関係もないように見えますが、先ほど説明したリーキーガットが起きて、本来は体の中に入らない物質が神経系に影響した結果、起きると考えられています。もちろんほかの原因で起きることもありますが、グルテンに体質的に弱い人で、このような症状がよく見られること、またその人がグルテンを摂らなくなると、症状が解消したことが、研究論文として発表されています。
ほかにも、新型コロナウイルス感染症の後遺症として話題になったブレインフォッグも、グルテンが原因で起きます。これはグルテンを撃退するために体内で増えた炎症性サイトカイニンが原因で脳の神経線維が損傷を受け、神経伝達速度が低下するのが原因です。新型コロナウイルス感染症の場合は、ウイルスを撃退するために体内で増えた炎症性サイトカイニンが原因です。脳の神経線維の損傷具合によっては、元の状態に戻るまでに1年くらいかかる場合もあります。
グルテンフリーはハードルが高い?
しかし、いざグルテンフリーを実行しようとすると、いろいろなハードルがあります。グルテンフリーは、小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンを摂らない食生活のことです。グルテンフリーにすると、小麦が主成分のお料理や、小麦成分が入っている食品は、食べられなくなります。
おいしいものには、たいてい小麦が使われています。パン、めん類、ケーキ、菓子類はいうに及ばず、カレーやシチュー、ハンバーグ、天ぷら、から揚げに至るまで、多くのお料理に小麦粉が使われています。
また加工食品やお惣菜などにも、小麦成分が使われています。容器などに入った食品はアレルゲン表示をしなければならないので、小麦が使われている場合、原材料欄に「小麦」と書いてあります。グルテンフリーを実行する際の目印になりますが、「小麦」と書いていない食品を探すのは一苦労です。
さらに問題になるのは調味料です。特に、和食で必ずといってよいほど使われるお醤油の原料は、大豆と小麦です。お醤油を避けることにすると、外食や中食はほぼできなくなってしまいます。
グルテンフリーを実行しようとすると、グルテンフリーの食品を探すところで行き詰ってしまいます。食べるもの全てを、材料から手作りすることができれば、グルテンフリーは可能です。ネット通販を使えば、パン、めん類、お醤油などのよく使う食材については、グルテンフリーのものを手に入れることができます。そしてそれを使って食事を用意すれば、グルテンフリーになります。
しかし、そのような余裕のある方ばかりではないででしょう。コンビニやスーパーのお惣菜や冷凍食品も使いながら、食事を用意し、たまには外食をするというのが、ごく一般的な生活ではないでしょうか。
ゆるグルテンフリーのすすめ
そこでお勧めしたいのは、グルテンフリーのルールに従って行うグルテンフリーではなく、からだの中に入るグルテンの量をできるだけ少なくすることに主眼を置く「ゆるグルテンフリー」です。
まずあなたは、お医者さんからグルテンフリー生活をするように指示されましたか。セリアック病や小麦アレルギーで食事制限がある場合は、それに従う必要がありますが、そうでない場合、欧米で一般的なグルテンフリーのルールに従う必要は、全くありません。
グルテンフリーとは、グルテンが入っていないという意味ですが、実際のところ、食品 1 kg に含まれるグルテンの量が 20 mg 未満のとき、グルテンフリーと表示できます(アメリカの場合)。
食品のパッケージやレストランのメニューで見かける Gluten free という表示。欧米では、食品に含まれるグルテン濃度が 20 ppm 未満という意味です。製造販売事業者による自主表示ですが、一部の国では法律で規定されており、事実と異な[…]
グルテンフリーの表示は、グルテンが原因で起きる自己免疫疾患(遅延型アレルギー反応の一種)であるセリアック病の患者さんが食べても、健康に影響がないという意味なのです。セリアック病の患者さんは、欧米では 100 人に 1 人の割合でおられ、年々増加しています。この方たちは生涯にわたって、グルテンを含まない食べものを食べなければなりません。
セリアック病は、グルテンの成分であるグリアジンを、免疫がからだに有害なものと認識し、グリアジンが付着した小腸の細胞を攻撃し、破壊することで起きます。症状は小腸だけでなく、全身に現れます。患者さんは人口の 1 %といわれていますが、近年、増加[…]
こちらのセリアック病に関する説明を読んで、当てはまると思った方は、病院を受診してください。そうでない方は、少量のグルテンを摂ったところで、大した問題にはなりません。そもそも今まで食べていたのですから。
ゆるグルテンフリーとグルテンフリーの違いは、次の通りです。
ゆるグルテンフリー | グルテンフリー | |
目的 | からだに入るグルテンの量をできるだけ少なくすること | からだに1日 50 mg を超えるグルテンを入れないこと |
対象とする人 | セリアック病の患者さん以外 | セリアック病の患者さん |
食べないもの | ・小麦粉が主原料の料理・食品 ・それ以外のグルテンを含む食品については、自分のライフスタイルに合わせて判断する ・健康に影響がある一部の食品成分(自分の体調・年齢にあわせて判断) |
・小麦、大麦、ライ麦とその交雑種を原料とする食品 ・1 kg 中グルテンが 20 mg 以上含まれる料理・食品 |
食べてよいもの | ・上記以外全て | ・本質的に小麦、大麦、ライ麦とその交雑種が含まれない料理・食品 ・グルテンフリーの表示がある料理・食品 |
グルテンフリー表示に対するスタンス | 参考にするだけで、従う必要はない | 厳密に従う |
期間 | できるだけ長い期間 | 一生涯 |
西洋式の食生活では、1 日 5~30 gのグルテンを摂っています 1)。また世界の人口の 97 % の人が 1 日に摂っているグルテンの量は 5〜30 gと予想されています 2)。日本人がふだん口にしているものにも、多くのグルテンが含まれています。例えばラーメン、うどん、パスタなら 1 食で 5~10 g、食パン 1 枚、菓子パン 1 個で 5~6 g、たこ焼き 8 個で 4 g といった具合です。そのため、小麦粉が主原料の食べものを食べないだけで、かなりの量のグルテンを減らせます。
天ぷらやから揚げの衣にも小麦粉は使われていますが、1 人前当たり 1 g 以下です。米粉を使った天ぷら粉や、小麦フリーの冷凍から揚げもあるので、手に入るのであればそれを使えばよいですが、これまでどおりのものを使っても、大した量にはなりません。
ふつうのお醤油は大豆、小麦、食塩が原料なので、グルテンフリーという表示はできませんが、原料のたんぱく質は醸造の過程で分解されてアミノ酸になっており、お醤油にはたんぱく質の形では残っていません。セリアック病でない人が、値段の高いグルテンフリー醤油をわざわざ使う理由はありません。
微量のグルテンまで排除しようとすると、大変な手間、時間、お金が必要になります。もしその余裕があるのなら、それを別のことに使ってください。ここでは詳しく説明しませんが、合成甘味料のアスパルテーム、スクラロース、アセスルファムKや、輸入小麦の残留農薬であるグリホサートなど、からだに悪い影響があることが分かっているものがあります。また慢性的にお腹の調子が悪い場合は、FODMAPと呼ばれる成分が原因の場合があります。トータルで考えれば、グルテンを厳密に抜くよりも、こちらを摂らないように注意した方が、メリットが大きいと考えられます。
そして最後に、自分の生活リズムにあわせて、可能な範囲で行ってください。無理をすると長続きしないばかりか。、逆にストレスになります。健康になるためにやっていることでストレスを感じていては、意味がありません。自分でルールを決めて、まずは始めてみてください。
ゆるグルテンフリーは、慢性的な体調不良をなくし、病気に強いカラダをつくるため、からだの中に入るグルテンの量をできるだけ減らすことです。厳密なグルテンフリー生活はかなり大変なので、原材料表示を見て、食べるかどうか自分で判断しましょう。ご自身の[…]
まとめ
- グルテンフリーには、病気に強いからだをつくる、アレルギーに関わる病気の発症を防ぐ、慢性的な体調不良から解放される、というメリットがある。
- グルテンフリーは小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンを含む食品を摂らないこと。いざ実行するとなると、ハードルが高い。
- ゆるグルテンフリーはからだの中に入るグルテンの量をできるだけ少なくすること。まずは小麦粉が主原料の料理・食品は摂らないこととし、それ以外は自分のライフスタイルに合わせて食べるかどうか判断する。あわせて健康に影響がある一部の食品成分も摂らないようにする。
参考文献
1) Barbaro MR, Cremon C, Wrona D, et al. Non-Celiac Gluten Sensitivity in the Context of Functional Gastrointestinal Disorders. Nutrients. 2020; 12(12):3735. Published 2020 Dec 4. doi:10.3390/nu12123735
2)Cebolla Á, Moreno ML, Coto L, Sousa C. Gluten Immunogenic Peptides as Standard for the Evaluation of Potential Harmful Prolamin Content in Food and Human Specimen. Nutrients. 2018; 10(12):1927. Published 2018 Dec 5. doi:10.3390/nu10121927