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10人に 4 人が持つアトピー素因、小麦やグルテンの摂り過ぎに注意が必要!

アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎のなりやすさではなく、免疫異常を起こしやすい体質のことです。日本人の 40 %はアトピー素因を持つといわれています。アトピー素因があると、花粉症や食物アレルギー、小麦やグルテンが関わる病気が発症しやすくなります。アレルゲンが蓄積すると、ある日突然発症することがあるので、注意が必要です。

アトピー素因は遺伝的な体質

アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎を始めとする免疫に関わる病気になりやすい遺伝的な体質のことです。あくまで体質であり、病気や症状ではないので、アトピー素因を持っていても、健康に暮らしている方はたくさんいます。

日本皮膚科学会ガイドラインでは、アトピー素因を次のように定義しています 1)

 

気管支喘息アレルギー性鼻炎結膜炎アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数に、自分自身または家族がかかったことがある。

または

IgE 抗体というアレルギー反応に関わる抗体を産生しやすい体質である。

 

自分か、血縁関係のある家族が、以下の病気にかかっている人、あるいは、かかったことがある人は、アトピー素因がある可能性が高いです。

・気管支喘息
・アレルギー性鼻炎
・結膜炎
・アトピー性皮膚炎
・花粉症
・食物アレルギー

 

2008 年に行われた全国的な調査では、アレルギー性鼻炎の有病率は 39.4 %花粉症の有病率は 29.8 % というデータがあります 2)。これをもとに考えると、アトピー素因を持つ人は、日本の人口の 40 % 近くいるということになります。

アトピー素因は遺伝します。したがって、今後、結婚・出産によってアトピー素因を持つ人が増加する可能性があります。またアトピー素因は遺伝的な体質なので、変えることができません。

アトピー性皮膚炎などの民間治療で、○○を飲んだら体質が変わって、アトピー性皮膚炎がよくなる、という広告をときどき見かけますが、これはウソです。アトピー素因、すなわち免疫に関わる病気になりやすい体質は変えることはできません

 

 

アトピー性皮膚炎の発症にはアトピー素因が関係している

アトピー性素因がある人は、アトピー性皮膚炎になる可能性が高いのでしょうか。さきほど引用した日本皮膚科学会ガイドラインによると、「アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す瘙痒(かゆみ)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されています。つまりアトピー素因のある人はない人に比べて、アトピー性皮膚炎になりやすいということです。

実際に、両親ともにアレルギー疾患の既往歴がある場合、4 歳児がアトピー性皮膚炎になるリスクは、両親ともにない場合に比べて 7.6 倍母親のみに既往歴がある場合でも、両親ともにない場合に比べて 4.0 倍高いことがわかっています 3)

ところで、ほとんどのアトピー性皮膚炎は、親から遺伝的に受け継いだアトピー性素因に、さまざまな要因が合わさることで発症すると考えられています。さまざまな要因とは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

まずアトピー性皮膚炎になる人は、もともと皮膚のセラミドと天然保湿因子が不足しています。そのため細胞と細胞の間にすき間ができやすく、皮膚のバリア機能が低下しています。このすき間からアレルゲンや刺激物質が入ると炎症反応が起き、病原菌が入ると化膿します。一方、細胞のすき間から皮膚の内部の水分が失われやすくなり、皮膚が乾燥しがちになります。

ただ、これだけではアトピー性皮膚炎にはなりません。アトピー性皮膚炎を発症・悪化させるものとして、次のようなものがあります。

○ アレルギー性の悪化因子(アレルゲン)

・食物 (乳製品、卵、大豆、小麦、ピーナッツ、魚)
・ダニ(ダニが入ったほこり)
・細菌、真菌(カビ)
・ペット
・かぶれの原因となる化学物質(化粧品、香料、石鹸、外用薬など)

 

○ 非アレルギー性の悪化因子

・ストレス
・衣類のチクチク
・汗、汚れ
・直射日光(ほてること)
・乾燥
・風邪
・夜ふかし
・皮膚をひっかくこと

アトピー性皮膚炎を悪化させる食べものと、症状を和らげる食べ物については、別の記事にまとめていますので、ぜひご覧ください。

 

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アトピー素因がある人が気を付けるべき病気

アトピー素因を持つ人がかかりやすい病気には、アトピー性皮膚炎のほかにもさまざまなものがあります。
アトピー素因というのは、免疫に関わる病気になりやすい遺伝的な体質のことです。免疫に関わる病気が皮膚に現れるとアトピー性皮膚炎、鼻に現れるとアレルギー性鼻炎花粉症、目に現れるとアレルギー性結膜炎花粉症、気管支に現れると気管支喘息になります。また、特定のたんぱく質を摂ることで起きる食物アレルギーも、免疫に関わる病気です。

近年、花粉症の人の増加が際立っています。花粉症にかかっている人は 2008 年の調査で全国で 29.8 %でした。その後、全国的な調査は行われていませんが、2016年に東京都が実施した調査では 48.8 %というデータもあります 4)

ところで、アレルギーマーチということばをご存じでしょうか。乳児期にアトピー性皮膚炎を発症した場合、成長にともなって食物アレルギーや気管支喘息、アレルギー性鼻炎など、ほかのアレルギー疾患を次々発症することをいいます。

またアトピー性皮膚炎が重症になればなるほど、食物アレルギーを発症しやすくなるというデータもあります 5)

アトピー性皮膚炎になると皮膚のバリア機能が低下するため、食物のアレルゲンが皮膚から体内に入りやすくなり、その結果、皮膚の中で炎症が起きて、このアレルゲンに対する IgE 抗体がつくられます。今度その食べ物を食べたときに、体内にできた IgE 抗体がその食べ物を異物と認識することで、食物アレルギーが起こりやすくなるのです。

アトピー性皮膚炎の治療をきちんと行い、皮膚のバリア機能を高めて炎症が起こらないようにすることで、食物アレルギーの発症を防ぐことができます。アレルギーマーチとされる気管支喘息やアレルギー性鼻炎も同様です。さらにアレルゲンとなる物質を体の中に入れないようにすることが重要です

 

 

小麦やグルテンが関わるアレルギー

小麦にはグルテンを含め、50 種類以上のたんぱく質が含まれており、その中のいくつかはアレルギー反応を起こすことがわかっています。また小麦のたんぱく質が体内に入る経路も、食べものとして口から入るものだけでなく、皮膚から入るものや、空気中に漂っている小麦粉を吸い込むことによるものもあります。

ここでは小麦やグルテンが関わるアレルギーについて紹介します。アトピー素因のある人や、アトピー性皮膚炎や花粉症を発症している人は、注意が必要です。

小麦アレルギー

小麦アレルギーは、食物に含まれる小麦のたんぱく質がアレルゲンとなって起きる食物アレルギーで、食物アレルギーの中では、卵、乳に次いで 3 番目に多いものです 6)。小麦成分が含まれているものを食べてから数分から 30 分程度で、体のいろいろな部位に炎症が起きます。一番多いのは皮膚症状で、じんましんが出たり、皮膚が赤くなったり、かゆみが出たりしますが、症状が重い場合は呼吸困難や血圧の低下から、意識を失うこともあります。

炎症が生じる部位、程度は人によって異なります。また少量なら症状が出ない人もいる一方で、ほんのわずかな量でも重い症状が出る人もいます。命にかかわることもあるので、専門医の診察を受け、その指導に従う必要があります。

なお、小麦アレルギーについては、こちらの記事をご覧ください。

 

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小麦

 

もしお子さんが小麦アレルギーになったとしても、きちんと対応すれば大丈夫です。乳児期に発症した小麦アレルギーの 63 %は、3 歳の時点でアレルギー症状を示さなくなります。一方で、アトピー性皮膚炎を併発している場合、他の食物アレルギーも発症している場合、症状が重くアナフィラキシーショック(血圧低下や呼吸困難)を起こす場合などは、6 歳を過ぎても治りにくいといわれています。

また学童期を過ぎてから、小麦アレルギーを発症することもあります。この場合は次に説明する小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)であることが多く、治ることはほとんどありません。

小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)

WDEIAはグルテンの成分である ω-5グリアジン というたんぱく質が原因で起きる、特殊な食物アレルギーです。日本の成人の小麦アレルギーの発症率は 0.21 % といわれていますが、そのほとんどがWDEIAであると考えられています 7)

WDEIA はグルテンが入った食べものを食べたあと、運動などをすることでじんましん、下痢、腹痛、呼吸困難などが起こり、症状が重い場合は、アナフィラキシーショックを起こすこともあります。えび、果物でも起きることがあり、それも含めると発症頻度は中学生 6,000 人に 1 人の割合といわれています。また初めて発症するのは、10~20 歳代です8)

ベイカーぜん息

ベイカーぜん息は、毎日小麦粉に触れる機会の多いパン職人に発生する喘息で、1700 年にイタリアで初めて報告されました 9)。その後、20 世紀の初めに詳しい研究が行われ、小麦粉を繰り返し吸い込むことで、小麦に対する IgE 抗体ができ、それが原因で、気管支喘息、鼻炎、結膜炎、皮膚症状が現れることがわかりました。

また症状は、小麦を吸い込む環境で働き始めてから、数か月から数年、遅い場合は数十年経ってから発症すること、パン屋で働いた期間と症状の重さの間に相関関係があること、時間が経つにつれて、休暇中にも呼吸器症状が解消しなくなることなども報告されています。

現在、パン職人の方は、換気設備の整った厨房で、マスクをつけて作業しているため、ベイカーぜん息は少なくなりましたが、小麦粉の麺を茹でた蒸気を常に吸い込んでいるうどん店やラーメン店などで働いている方に、起きることがあります。

加水分解小麦たんぱく運動誘発アナフィラキシー(HWPEIA)

洗顔せっけんが原因で、小麦アレルギーが起きた例です。2010 年まで販売されていた「茶のしずく石鹸」という製品には、保湿性を高める成分として小麦加水分解物が含まれていました。この中に含まれていたグルテンの成分であるグリアジンというたんぱく質がアレルゲンとなって起きた小麦アレルギーが、HWPEIAです。

石けんは毎日使うものです。その中に含まれている成分が、目や鼻の粘膜や皮膚に毎日のように付着した結果石けんを使い始めてから数か月から数年後に、小麦アレルギーを発症する人が現れました。その結果、ある日突然、石けんを使うと、眼や皮膚のかゆみを感じるようになり、やがて鼻炎になりました。そうしているうちに、今度は、小麦を食べたときに食物アレルギーの症状が出始めました。

この小麦アレルギーも小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)と同様、洗顔したり、小麦を含む食べものを食べた後、運動すると、血圧低下や呼吸困難といったアナフィラキシーショックが起きるようになりました。これは、食べもの以外のものが原因で、食物アレルギーが起きたきわめて珍しいケースです。

 

 

アトピー素因がある人に気を付けてほしいこと

アトピー素因のある人は、もともとアレルギー反応を示しやすい体質です。最初は何も起こらなくても、長期間にわたって特定の物質に接触し続けることで、ある日突然、それがアレルゲンとなって、炎症反応(アレルギー反応)が始まります。

花粉症、ベイカーぜん息、加水分解小麦たんぱく運動誘発アナフィラキシー(HWPEIA)とも、最初は何も起こりませんが、毎日毎日、同じ物質に接し続けることで、それがアレルゲンに変わることがあります。

食物アレルギーでは、乳、卵、小麦が三大アレルゲンといわれています。どれも栄養価が高いものなので、止める必要はありませんが、長期間にわたって、毎日毎日摂り続けるのは、止めた方がよいのではないかと思います。

特に学童期以降に発症した小麦アレルギーは、アナフィラキシーショックを伴う場合があり、命に関わる場合があります。さらに、小麦はあらゆる食べものに含まれているため、いったん小麦アレルギーになると、食生活が大変になります。

アトピー素因のある方、アトピー素因のあるご家族をお持ちの方は、ぜひ、小麦を食べる量を減らしてください。どれくらい減らしたら、アレルギー症状が起きないのかは、人それぞれなのでわかりません。ただ、減らすことでアレルギー発症の可能性が下がることは間違いありません。

まとめ

  • アトピー素因は、アトピー性皮膚炎を始めとする免疫に関わる病気になりやすい遺伝的な体質のこと。日本人の 40 %近くがアトピー素因を持つ可能性がある。
  • アトピー素因がある人は、アトピー性皮膚炎になりやすい。ただアトピー性皮膚炎はアトピー素因に、さまざまな要因が合わさることで発症すると。
  • アトピー素因を持つ人は、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、食物アレルギーを発症しやすい。
  • 小麦にはグルテンを含め、50 種類以上のたんぱく質が含まれており、その中のいくつかは小麦アレルギー、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)、ベイカーぜん息、加水分解小麦たんぱく運動誘発アナフィラキシー(HWPEIA)といったアレルギーを起こすことがある。
  • アトピー素因のある方、アトピー素因のあるご家族をお持ちの方は、小麦を食べる量を減らした方がよい。

 

参考文献

1) 日本皮膚科学会、日本アレルギー学会、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018、日本皮膚科学会誌、128 (12) 2431-2502 (2018)

2) 環境省、花粉症環境保健マニュアル2019、2019 年 12 月改訂版

3) 厚生労働省、平成22年度リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト (2010)

4) 東京都健康安全研究センター、花粉症一口メモ、令和3年度版

5) Cartledge N, Chan S. Atopic Dermatitis and Food Allergy: A Paediatric Approach. Curr Pediatr Rev. 2018; 14(3):171-179. doi: 10.2174/1573396314666180613083616

6) 厚生労働科学研究班、食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017

7) Morita E, Chinuki Y, Takahashi H, Nabika T, Yamasaki M, Shiwaku K. Prevalence of wheat allergy in Japanese adults. Allergol Int. 2012; 61(1):101-105. doi: 10.2332/allergolint.11-OA-0345

8) 日本小児アレルギー学会食物アレルギー研究会、食物アレルギー診療ガイドライン2016ダイジェスト版

9) Brisman J. Baker’s asthma. Occup Environ Med. 2002; 59(7):498-426. doi: 10.1136/oem.59.7.498

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