小麦アレルギー、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症について、原因物質、発生メカニズム、症状、対応方法を整理しました。この 3つの病気は、小麦に含まれる成分が原因で起こり、症状が似ているため、混同されることが多いのですが、対処方法が異なります。小麦を食べると調子が悪くなるという方は、一度読んでみてください。
小麦アレルギー
小麦に含まれるたんぱく質が原因で起きる即時型アレルギー反応
原因物質
小麦に含まれるたんぱく質が、原因物質です。アレルギー反応の原因物質をアレルゲンといいます。小麦には数百種類のたんぱく質が含まれますが、このうち一つまたは複数がアレルゲンになります。
小麦に含まれるたんぱく質 | 関連する症状 | |
---|---|---|
グルテン | α-グリアジン | 加水分解小麦たんぱく運動誘発アナフィラキシー(HWPEIA) |
β-グリアジン | ||
γ-グリアジン | ||
ω-5グリアジン | アナフィラキシー 小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA) |
|
高分子量グルテニン | ||
低分子量グルテニン | ||
α-アミラーゼ、トリプシンインヒビター(ATI) | ||
アシル-CoAオキシダーゼ | ||
ペルオキシダーゼ | ||
脂質輸送タンパク質 | パン職人喘息 |
発生メカニズム
人間には自分のからだに有害なものを排除するために、免疫機能を持っています。小麦に含まれるたんぱく質を有害なものとみなして、これを排除しようとして過剰な反応が起きるのが小麦アレルギーです。
アレルゲンが体の中に入る経路は、食べ物として入る場合(経口摂取)だけでなく、皮膚から入る場合(経皮摂取)、呼吸器から入る場合(経気道摂取)もあります。
体の中にアレルゲンであるたんぱく質が入ると、それを排除するため、IgE という抗体が生産されます。マスト細胞という細胞の表面に結合した IgE にアレルゲンが結合すると、マスト細胞からヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジン(PGE2)、ロイコトリエンなどの炎症メディエーターが放出されます。その結果、アレルゲンが体に入ってから 30 分以内に、体のいろいろな部位に炎症が生じます。
症状
小麦アレルギーを含め、一般的な食物アレルギーで見られる症状は次の通りです。この一部が症状として現れます。
皮膚 | 紅斑、じんましん、血管性浮腫、掻痒(かゆみ)、灼熱感、湿疹 | |
粘膜 | 眼症状 | 結膜充血・浮腫、掻痒(かゆみ)、流涙、眼瞼浮腫(まぶたの腫れ) |
鼻症状 | 鼻汁、鼻閉(鼻づまり)、くしゃみ | |
口腔咽頭症状 | 口腔・咽頭・口唇・舌の違和感・腫脹 | |
呼吸器 | 咽頭違和感・掻痒感・紋扼感(締め付けられるような感じ)、嗄声(しわがれ声)、嚥下困難、咳嗽(せき)、喘鳴(ぜいぜい音)、陥没呼吸(息を吸い込むとき胸の一部が陥没する状態の呼吸)、胸部圧迫感、呼吸困難、チアノーゼ | |
消化器 | 悪心、嘔吐、腹痛、下痢、血便 | |
神経 | 頭痛、活気の低下、不穏、意識障害、失禁 | |
循環器 | 血圧低下、頻脈、徐脈、不整脈、四肢冷感、蒼白(末梢循環不全) |
有症率
人口の 0.2~1 % 1)
対応
小麦が入っている食べものは食べないようにしてください。ただし、乳幼児期に発症した小麦アレルギーの場合は、少しずつ食べさせて治療していく場合もあるので、必ず医師の指示に従ってください。
セリアック病
グルテンの構成成分グリアジンによる自己免疫疾患、小腸の細胞が損傷する
原因物質
小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質であるグリアジン。これはグルテンの構成成分です。
発生メカニズム
人間には自分の体を守るために免疫という機構があり、体の外から入っている異物を取り除く役割を果たしていますが、セリアック病の患者さんは小麦に含まれているグリアジンを異物と見なして、それを取り除くためにT細胞という細胞の働きが活発になります。
T細胞はもともと、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を見つけてそれを殺す働きをするもので、私たちの体を守るために重要な役割を果たしています。小麦タンパクは小腸の粘膜から吸収されるため、活発になったT細胞は、グリアジンが存在する小腸の粘膜を攻撃してしまいます。その結果、粘膜炎症や絨毛萎縮が生じ、栄養吸収不良が起こり、さまざまな症状が現れます。
このように、免疫系が自分自身の正常な細胞や組織に対して過剰に反応し攻撃する病気を自己免疫疾患といい、遅延型アレルギー反応の一つです。したがって、小麦を食べると数分以内に症状が出る即時型の小麦アレルギーとは異なり、小麦を食べてから症状が現れるまでに 1~2 日かかります。
症状
この表に記載してあるものの、一部が現れます 2)。中には無症状の場合もあります。
部位 | 症状 |
---|---|
全身症状 | 倦怠感、筋力低下、食欲不振、体重減少、貧血、舌炎、口角炎、アフタ性潰瘍がみビタミンD欠乏症、カルシウム欠乏症、月経の停止 |
消化器症状 | 軽度かつ間欠性の下痢、脂肪便(便中脂肪量7~50 g / 日) |
皮膚症状 | 疱疹状皮膚炎(強いかゆみを伴う水疱性丘疹が肘、膝、殿部、肩、および頭皮の伸側面に対称性に出現する) |
有症率
人口の 1 % 3)
対応
グリアジンがからだに入らなければ、症状は起きません。厳密なグルテンフリー食を行ってください。
さらに詳しい情報はこちらをご覧ください。
セリアック病は、グルテンの成分であるグリアジンを、免疫がからだに有害なものと認識し、グリアジンが付着した小腸の細胞を攻撃し、破壊することで起きます。症状は小腸だけでなく、全身に現れます。患者さんは人口の 1 %といわれていますが、近年、増加[…]
非セリアックグルテン過敏症(NCGS)
グルテンと小麦に含まれる成分が原因で胃腸と腸外にさまざまな症状が起きる
原因物質
・小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質であるグルテン
・小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質であるATI(amylase-trypsin inhibitors、アミラーゼ・トリプシンインヒビター)
・小麦の胚芽に含まれるたんぱく質である小麦胚芽凝集素(WGA)
・小麦やニンニク、たまねぎに含まれる難消化性多糖類であるフルクタン
発生メカニズム
非常に複雑です。ポイントだけ書き出します。
① グルテン、フルクタンが十分に消化されずに小腸へ到達し、腹痛、腹部膨満、下痢を起こす。
② グルテンの構成成分であるグリアジンがゾヌリンを分泌させ、リーキーガットを起こす。
③ グルテンが一部分解しててきるグルテンエキソルフィンが脳のオピオイド受容体と結合する。
④ ATI、小麦胚芽凝集素が炎症性サイトカイニンを分泌する。
⑤ 抗グリアジン抗体が原因で小脳の細胞が破壊される。
詳しくはこちらをご覧ください。
非セリアックグルテン過敏症は、グルテンのほかに、ATI、小麦胚芽凝集素、フルクタンが発症に関わっています。過敏性腸症候群で見られるのと同じ腹部膨満、下痢、便秘、腹痛といった消化器症状に加え、もやもや感、頭痛、関節痛、しびれ、平衡感覚喪失、抑[…]
症状
この中のいくつかの症状が、グルテンを含む食べものを摂ってから、数時間から数日で現れます。
・消化器症状:腹部膨満、下痢、便秘、腹痛、吐き気、嘔吐、裂肛(切れ痔)
・神経症状:もやもや感、疲労、関節痛、抑うつ、しびれ、平衡感覚喪失、頭痛
・皮膚症状:湿疹、発疹(吹き出物)
有症率
人口の 0.5~13 % 4) あるいは 人口の 0.6~10.6 % 5)
対応
小麦を含むものを食べないようにしてください。ただし、小麦アレルギーやセリアック病の患者さんのような、厳密なグルテンフリーは必要ありません 6)。
参考文献
1) Mumolo MG, Rettura F, Melissari S, et al. Is Gluten the Only Culprit for Non-Celiac Gluten/Wheat Sensitivity?. Nutrients. 2020; 12(12):3785. Published 2020 Dec 10. doi: 10.3390/nu12123785
2) MSDマニュアルプロフェッショナル版 / 01. 消化管疾患 / 吸収不良症候群 / セリアック病
3) Lebwohl B, Ludvigsson JF, Green PH. Celiac disease and non-celiac gluten sensitivity. BMJ. 2015; 351:h4347. Published 2015 Oct 5. doi: 10.1136/bmj.h4347
4) Barbaro MR, Cremon C, Stanghellini V, Barbara G. Recent advances in understanding non-celiac gluten sensitivity. F1000Res. 2018; 7:F1000 Faculty Rev-1631. Published 2018 Oct 11. doi: 10.12688/f1000research.15849.1
5) Catassi C, Alaedini A, Bojarski C, et al. The Overlapping Area of Non-Celiac Gluten Sensitivity (NCGS) and Wheat-Sensitive Irritable Bowel Syndrome (IBS): An Update. Nutrients. 2017; 9(11):1268. Published 2017 Nov 21. doi: 10.3390/nu9111268
6) Dieterich W, Zopf Y. Gluten and FODMAPS-Sense of a Restriction/When Is Restriction Necessary?. Nutrients. 2019; 11(8):1957. Published 2019 Aug 20. doi: 10.3390/nu11081957