輸入小麦の残留農薬グリホサートとグルテン不耐症の意外な関係

小麦や大豆の収穫前に使われるグリホサートという農薬がグルテン不耐症の原因ではないかといわれています。

小麦に残留したグリホサートが人間の腸内細菌叢のバランスを崩し、腹痛、腹部膨満、下痢などを起こすためです。グリホサートは植物と細菌を死滅させますが、動物には影響はなく、土壌中で微生物によって分解されるため、安全と考えられてきました。

しかし最近になって、腸内細菌叢への影響が指摘されるようになっています。

グルテン不耐症とはグルテンが関係する病気の総称

これまでにグルテンが関係する病気、症状は多数報告されています。

グルテンを自分自身の免疫系が誤って攻撃することで起きるセリアック病、腸のバリア機能が損なわれるリーキーガット、小脳の運動調節機能が損なわれるグルテン運動失調、頭の中がもやもやしたり、集中力、注意力が低下するグルテン誘発性神経認知障害などがあります。

グルテンフリーガイド

グルテンは多くの病気、症状との関係が疑われています。あなたの不調も実はグルテンが原因かも!?どのようなメカニズムでその症…

さまざまな病気、症状のうち、上にあげたものは、発生のメカニズムと症状がある程度はっきりしているので、独立した呼び名がついていますが、これ以外にもグルテンが関係すると思われる病気、症状はたくさんあります。

グルテンが関係する病気、症状のうち、名前がついていないものをまとめて「グルテン不耐症」と呼ぶことがあります。これはグルテンに対して耐性がなく、グルテンを摂ることで健康上問題となる場合の総称です。

グルテン不耐症の原因はグルテン以外にもある!?

グルテン不耐症の原因は「グルテン」と誰もが考えていました。ところがグルテン不耐症と考えられている病気、症状の中には、グルテン以外の物質が原因で起きているものがあることが、最近わかってきました。

例えば、当サイトでも詳しく取り上げている「非セリアックグルテン過敏症(NCGS:non-celiac gluten sensitivity)」は、グルテン以外の要因も発症に関わっていると考えられるようになり、「非セリアックグルテン/小麦過敏症(NCWS:Non-celiac gluten or wheat sensitivity)という呼び方に変わりつつあります。

現在NCWSは「小麦アレルギーおよびセリアック病ではないが、グルテンの摂取によって誘発される腸および腸外の症状を特徴とする臨床実体」と定義されています1)
このNCWSの発症に関係があると思われている物質で、グルテン以外の要因とは、具体的に次のようなものです。

  • α-アミラーゼ/トリプシン阻害剤(ATI) … 小麦に含まれるたんぱく質の一種
  • 小麦胚芽凝集素(WGA) … 小麦に含まれるたんぱく質の一種
  • フルクタン … 小麦に含まれる人間が消化・吸収できない炭水化物(=食物繊維)
  • グリホサート … 化学合成された除草剤

このうちグリホサートだけが、唯一、小麦に含まれる成分ではなく、小麦を栽培する際に使われる農薬です。収穫した小麦に付着した残留物が原因で、体に不調が起きている可能性があるということです。

除草剤のグリホサートは収穫前の農作物にも散布される

グリホサートはホームセンターで「ラウンドアップ」という名前で販売されている除草剤の有効成分で、正式には「グリホサートカリウム塩」といいます。

植物に散布すると葉の表面から吸収され、アミノ酸やたんぱく質といった植物の生育に不可欠な成分の合成を妨ぐことにより、植物を枯らします。グリホサートが阻害する代謝経路(シキミ酸回路といいます)は、植物と微生物にしか存在しないため、動物には影響はありません。

また土に落ちた成分は土の粒子に吸着され、その後、微生物によって分解されるため、3週間以内に半減するといわれています。土に吸着された成分は、除草剤としての効果はなくなります。そのため、グリホサートは安全な除草剤として、広く使われています。

グリホサートは雑草を枯らす目的以外にも、農作物の品質を守るため、農作物に直接散布するいう方法も認められています。

小麦は出てきた穂が成熟し、黄金色の穂が枯れて褐色になってから収穫されます。このとき子実の水分量は低くなっている必要があります。小麦が成熟した後にグリホサートをかけて植物の成長を止めることで、雨が降った場合でも、子実の水分量を確実に下げることができ、品質のよい小麦を収穫することができます。

大豆は豆がついて成熟したのち、さらに葉が落ちて、豆が乾燥してから収穫されますが、半分の葉が落葉した段階でグリホサートを噴霧することで植物の成長を止め、豆の乾燥を促進し、品質のよい大豆を得ることができます。

収穫前の小麦や大豆にグリホサートを噴霧することで、農産物を乾燥するという手法は、1990年代に広まりました。

このように収穫前に使う農薬を「プレハーベスト農薬」といいます。どちらも農産物の乾燥を確実に行うため、枯れ始めてから散布して植物の成長を止めており、農薬をかけて植物を枯らしているわけではありません。なお日本では、小麦への使用は行われていませんが、大豆への使用は認められています。

グリホサートは輸入小麦や食パンから検出されている

土壌中のグリホサートは微生物によって分解され消失しますが、農作物に付着したグリホサートは分解しません。海外で生産される小麦は収穫前にグリホサートを使っているケースがあるようです。どの国でどれくらいの量を使っているのか、またグリホサートが噴霧された小麦の比率はどれくらいなのかなど、詳細はわかりませんが、農林水産省が実施している輸入小麦の残留農薬を分析結果を見ると、おおよその傾向がつかめます2)

農作物グリホサートの分析において、定量下限値(含まれている濃度を示すことができる最低濃度)はサンプル1kgあたり0.01~0.02mg(濃度で0.01~0.02ppm)です。この定量下限値を下回っていれば、含まれていない可能性があります。令和2年度に農林水産省が実施した輸入小麦に含まれるグリホサートの分析結果の概要は次のとおりです。

輸入小麦のグリホサートの分析結果(令和2年度)

生産国 アメリカ オーストラリア カナダ フランス
検査した試料数 159 46 82 11
定量下限値以上の試料数 156 9 82 0
定量下限値未満の試料数 3 37 0 11

北米産の小麦はほとんどの試料から定量下限値以上のグリホサートが検出されたのに対し、オーストラリア産、フランス産では定量下限値未満の試料の方が多くなっています。なお令和元年度も全く同じ傾向でした。

日本は主にアメリカ、カナダ、オーストラリアの3か国から小麦を輸入しており、その銘柄は次の通りです。

  • カナダ産ウェスタン・レッド・スプリング(1CW)  主にパン用
  • アメリカ産ダーク・ノーザン・スプリング(DNS)  主にパン・中華麺用
  • アメリカ産ハード・レッド・ウィンター(HRW)   主にパン・中華麺用
  • オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW)  主に日本麺用
  • アメリカ産ウェスタン・ホワイト(WW)      主に菓子用

アメリカ産、カナダ産の大半からグリホサートが検出されているということは、うどんやそうめんに使われる小麦以外は、グリホサートが残留している可能性があるということになります。

一方、小麦粉、パンに含まれるグリホサートの量を、一般社団法人農民連食品分析センターが分析し、結果をウェブで公開しています3) 4)

それによりますと、国産小麦を使った小麦粉製品3種類すべてにおいて、グリホサートは検出されませんでしたが、輸入小麦を使った小麦粉製品16種類のうち8種類からグリホサートが検出されています。また食パン13種類のうち国産小麦または有機小麦を使用した4種類からはグリホサートは検出されませんでしたが、残りの9種類の食パンからは0.07~0.23ppmのグリホサートが検出されています。

つまり、国産小麦粉とそれを使った製品にはグリホサートが検出されることはありませんが、輸入小麦粉とそれを使った製品からは、グリホサートが検出されています。

グリホサートは安全というのが国内外の公式見解

内閣府食品安全委員会は2016年にグリホサートに係る食品健康影響評価の結果を公表しました5)

まず一日許容摂取量は体重1kgあたり1日1mgとし、急性参照用量は設定不要としました。つまり体重50kgの人が、一生にわたってグリホサートを毎日50mgずつ取り続けても健康には影響はなく、一度に大量に摂取することで急性中毒などを起こす心配もないということです。

また発がん性、神経毒性、催奇形性、遺伝毒性、生殖に対する影響も認められなかったと結論付けています。なお発がん性については、2015年に国際がん研究機関が、グリホサートをヒトに対しておそらく発がん性がある物質に指定したことで、世界中で注目を集めることになりましたが、その後多くの国や欧州食品安全機関(EFSA)が、ヒトの発がんリスクの可能性は低い、あるいはないという見解を示しています。

これらの動きと関連があるのかどうかわかりませんが、2017年に小麦中のグリホサートの残留基準値が、5ppmから30ppmに緩和されました。

国内で市販されている食パンから最大で0.23ppmのグリホサートが検出されましたが、体重50kgの人なら毎日217kgの食パンを食べ続けても、影響はないということになります。これについては、一般社団法人日本パン工業会もウェブ上で同様の見解を表明しています6)

安全なグリホサートがなぜグルテン不耐症の原因になるのか

発がん性も神経毒性もない安全なグリホサートが、グルテン不耐症の原因といわれるのはなぜでしょうか。それはグリホサートが腸内細菌に影響を与える可能性があるからです。

グリホサートは動物には影響しませんが、植物や細菌が生きていくために必要なアミノ酸やたんぱく質の合成を阻害します。最近の研究から、食べものと一緒に摂取されたグリホサートが、腸内毒素症を引き起こす可能性が指摘されています。

腸内毒素症とは、腸内細菌のバランスが崩れた状態で、ガスの発生、腹痛、腹部膨満、下痢などが起きます

腸内には1,000種類、10兆個の細菌が棲んでいます。この細菌は、体に有益な善玉菌、体に害を与える悪玉菌と、ふだんは何もしないが、からだが弱ってくると腸内で悪い働きをする日和見菌に分けることができます。

これまでの研究から、日和見菌グリホサートに対して耐性が強いことがわかっています7)。食品に含まれるグリホサートの残留物が善玉菌や悪玉菌の数を減らす一方で、耐性のある日和見菌は数が減らないため、腸内細菌のバランスが崩れる可能性があります。腸内細菌のバランスが崩れると、腸のバリア機能が低下することもわかっています。

グリホサートが含まれる可能性がある食材で、最もよく口にする可能性があるのが小麦です。小麦を食べるのを止めることで、ふだんから悩んでいた不快な症状が解消することがあります。そのため、それは小麦に含まれるグルテンが原因だと思っている人が多いようです。

ただ現時点では、グリホサートが原因であるとの結論が出たわけではありません。食品に残留しているグリホサートと腸内細菌叢の関係を調べるのは、非常に難しいといわれています。

まず農薬にはグリホサートが単独で含まれているわけではなく、アジュバントと呼ばれる除草剤の効果を高める薬剤も含まれています。また残留農薬は、グリホサートだけではありません。他の農薬も影響している可能性があります。

現時点ではグリホサートが腸内細菌叢を変化させることで、人間のからだに影響を与えている可能性は高いが、確証はないということです。

グリホサートが含まれるものはできるだけ避けたほうがよい

グリホサートは安全だという人たちが根拠としているデータには、腸内細菌叢への影響に関するデータは含まれていません。グリホサートと腸内細菌の関係については、最近になってから指摘されるようになったためです。

グリホサートが発明されてから50年、日本で使われるようになってから40年しか経っていないため、まだわからないことが多いということでしょうか。

グリホサートの使用によって、農産物の生産性や品質が向上したのも事実なので、問題点だけを指摘して、使用をやめろというつもりはありません。一方でグリホサートが人間のからだや環境に全く影響がないわけでもなさそうです。グリホサートが含まれる可能性がある食品を摂らないことができるのであれば、そのようにした方がよいと思います。

まとめ

  • グルテンが関係する病気、症状のうち、発生メカニズムと症状が明確でないものをまとめて、グルテン不耐症と呼ぶことがあります。
  • グルテン不耐症は、グルテン以外の物質が原因である可能性が指摘されており。その一つとして小麦に残留したグリホサートという農薬があげられている。
  • グリホサートは植物と微生物が持つアミノ酸やたんぱく質を合成する経路を阻害することで、死滅させる。動物には影響はなく、土壌に残ったものは微生物に分解されるため、安全な除草剤として広く使われている。また収穫前の小麦や大豆に噴霧することで、農産物を乾燥させ、品質を向上させる目的でも使われている。
  • グリホサートは輸入小麦や輸入小麦を使った食パンから検出されている。国産小麦とそれを使ったパンからは検出されていない。
  • グリホサートは安全というのが国内外の公式見解で、日本では一日許容摂取量は体重1kgあたり1mgに設定されている。発がん性や神経毒性などもないとされている。
  • グリホサートがグルテン不耐症の原因といわれるのは、グリホサートが腸内細菌叢のバランスに影響を与え、腸内毒素症を引き起こすから。腸内毒素症になると、ガスの発生、腹痛、腹部膨満、下痢などが起きる。これをグルテンが原因と思い込んでいる可能性がある。
  • グリホサートにはまだわからないことがある。グリホサートが含まれる可能性がある食品は避けたほうがよい。

参考文献
1) Mumolo MG, et. al., Is Gluten the Only Culprit for Non-Celiac Gluten/Wheat Sensitivity? Nutrients, 12 (12) 3785 (2020)
2) 輸入米麦のかび毒、重金属及び残留農薬等の分析結果、農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/seisan/boeki/beibaku_anzen/bunsekikekka.html
3) 小麦製品のグリホサート残留調査1st、一般社団法人農民連食品分析センターhttps://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_flour_1st/index.html
4) 食パンのグリホサート残留調査、一般社団法人農民連食品分析センター
https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_bread_1st/index.html
5) グリホサートに係る食品健康影響評価の結果、内閣府食品安全委員会(2016)
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20100216003
6) 残留農薬(グリホサート)に関するパンの安全性について、一般社団法人日本パン工業会(2021) https://www.pankougyokai.or.jp/information/glyphosate.html
7) Barnett JA, et. al., A Critical Review of the Literature Surrounding Glyphosate, Dysbiosis and Wheat-Sensitivity. Front Microbiol, 11:556729 (2020)

グルテンフリー食品まとめ

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