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腸内細菌叢のバランス異常、ディスバイオシスは様々な病気を引き起こす

ディスバイオシスは腸内細菌のバランスが崩れた状態で、腹部膨満、腹痛、下痢などが起きます。また肥満、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、うつ病、食物アレルギーとの関係も指摘されています。最近になって注目されるようになったため、日本で取り上げられることはまだ少ないですが、海外では毎年3,000以上の論文が出ています。

ディスバイオシスとは

ディスバイオシス(Dysbiosis)とは腸内細菌のバランスが崩れて異常な状態になり、腹部膨満、腹痛、下痢が起きることです。腸内毒素症と訳されることもありますが、毒素と関係しているわけではなく、認められた呼び名ではないので、ここでは ディスバイオシス と呼ぶことにします。

この症状は、肥満、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、うつ病、食物アレルギーと関係があると考えられています 1)

人間の腸には 1,000 種類、100 兆個の腸内細菌がいます。腸内細菌は、難消化性の食物繊維やオリゴ糖を分解して酢酸、プロピオン酸、酪酸を生産し、酢酸とプロピオン酸は腸内細菌の、酪酸はヒトの直腸上皮細胞のエネルギー源として使われます。このほか人間が必要とするビタミン類(ビタミン B 群、ビタミン K など)や神経伝達物質のセロトニンを合成して、人間に供給しているほか、病原体や異物を排除することで、わたしたちの健康を支えています。

この腸内細菌はその役割によって、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分けられますが、通常その比率は 2:1:7 といわれています。上で説明した機能は、主に善玉菌が担っているため、腸内細菌のバランスが崩れると、からだにいろいろな影響が生じます。

ところで腸内細菌のバランスが正常な状態とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。腸内にどんな種類の菌がどれくらいの数いるのかは、人によって全く異なります。また同じ人でも、年齢とともに変化します。そのため菌の種類、数の比率などで、正常な状態を定義することができません。そのため異常な状態であるディスバイオシスについても、具体的に定義することができないのです。

ただ一般的には、ディスバイオシスになると

・菌の種類(多様性)が減少する

・善玉菌のビフィズス菌や乳酸菌が減少する

・悪玉菌のクロストリジウムやウェルシュ菌が増加する

といわれています。

ディスバイオシスに関する論文が増えてきたのここ 10 年のことです。これまでも腸内細菌のバランスが崩れることで、いろいろな症状が現れることはわかっていましたが、その状態をディスバイオシスと呼んで注目するようになったのは、最近のことです。そのため、日本ではディスバイオシスに関する情報はほとんどありません。海外ではさまざまな病気と関わっていることから注目されており、2021 年には 3000 を超える医学論文が出版されています。

 

 

ディスバイオシスになるとどうなるか

ディスバイオシスで見られる症状には、腸内症状と腸外症状があります。腸内症状としては、腹部膨満、腹痛、下痢、便秘、臭いのきついおならなどがあります 1)。食べたものが原因で、このような症状が出ることはよくあります。

 

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でも腸内細菌のバランスが崩れることによっても、このような症状が出るのです。ディスバイオシスがどのような原因で起きるのか、見てみましょう。

ディスバイオシスの原因となるもの

腸内細菌の種類や数の比率は、食べたもので変化します。例えば食物繊維、オリゴ糖を多く含むものを食べるとビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌が増え、善玉菌が作る乳酸、酢酸、酪酸によって腸内が酸性になるため、悪玉菌が増殖しにくくなります。一方、悪玉菌のエサになる動物性たんぱく質や脂質を多く摂ると、悪玉菌が増えます

そして腸内細菌のバランスが異常な状態になると、腹部膨満、腹痛、下痢、便秘、臭いのきついおならなどの、ディスバイオシスの症状が現れます。

ここでは、食べもの以外で、ディスバイオシスの原因になるものを紹介します。

お薬

ディスバイオシスの原因としてもっとも厄介なのが、病気を治すために服用しているお薬です。次のようなものが影響します。

  • H2ブロッカー 2):胃酸の分泌を減らす薬で、胃潰瘍、逆流性食道炎の治療に使われます。市販薬としてはガスター10があります。
  • NSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)3):抗炎症・解熱鎮痛薬で、アスピリン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシン、アセトアミノフェンなど多くの種類があります。市販の解熱鎮痛薬、かぜ薬に含まれている成分です。
  • プロトンポンプ阻害薬 4):胃酸の分泌を減らす薬で、胃潰瘍、逆流性食道炎やピロリ菌の除去で使われます
  • 抗生物質 5):細菌の増殖を抑える薬で、細菌が原因となる感染症で使われます。

 

お医者さんから処方されている場合は、心当たりがあったも、自分の判断で服用を中止してはいけません。必ずお医者さんか薬剤師さんに相談してください。一方、市販薬を常用している場合は、影響のない範囲で使用を中止してもかまいません。鎮痛薬、かぜ薬、胃薬(ガスター10)の常用は好ましくありません

 

 

人工甘味料

砂糖の代わりに使われる人工甘味料の一部が、腸内細菌叢のバランスと多様性を破壊し、ディスバイオシスを引き起こす可能性があるといわれています。ただどの人工甘味料がディスバイオシスの原因となるかについては意見が分かれています。

Nettleton JE ほか(2016)6) による研究論文

スクラロース、アスパルテーム、サッカリン … 腸内細菌叢のバランスと多様性を破壊する

Ruiz-Ojeda FJ ほか(2019)7) による研究論文

サッカリン、スクラロース、ステビア
 … 腸内細菌叢の組成を変える
Plaza-Diaz J. ほか(2020)8) による研究論文

ステビア
 … 腸内細菌叢を変化させる
サッカリン、スクラロース … 腸内細菌叢に変化を起こすが、健康影響はない。
アスパルテーム、アセスルファムK … 腸内細菌叢への影響なし、または変化は限定的

 

なお人工甘味料でも、キシリトール、イソマルトース、マルチトール、ラクチトールなどの糖アルコールは善玉菌であるビフィズス菌の数を増やす作用があります 7)

残留農薬(グリホサート)

グリホサートという農薬をご存じでしょうか。ホームセンターで「ラウンドアップ」という名前で売られている除草剤です。グリホサートは除草剤として使われるほかに、小麦、大豆の乾燥剤としても使われています。どういうことかというと、収穫する前にグリホサートを噴霧して小麦や大豆の成長を止めることで、植物の水分を減らし、品質の低下を防いでいるのです。

グリホサートは動物には全く作用せず、土壌中ですぐに分解するため人体には安全といわれており、輸入小麦、輸入大豆で多く使われています。また国産大豆でも使用されています。実際に、輸入小麦から作られた小麦粉やパンから、グリホサートが検出されています 9, 10)

このグリホサートがディスバイオシスを引き起こし、その結果、グルテン過敏症に似た症状やうつ病の症状を引き起こしている可能性があります 11-14)。グリホサートが腸に入ると、善玉菌が減り、悪玉菌と日和見菌が増えるようです。

ディスバイオシスが関係する病気

ディスバイオシスはさまざまな病気の発症と関係していると考えられています。腸内症状として説明したものも含めて、紹介していきます。

体重増加と肥満

ディスバイオシスになると、体重の増加と肥満が起きるといわれています。そのメカニズムは、

  • 満腹感を感じる物質の生産を変化させることで、満腹感を感じにくくなり、食べる量が増える。
  • 血糖値の上昇によってインスリンが分泌されても、インスリンが結合した受容体からのシグナル伝達が起こりにくくなり、結果的に血糖値が下がらなくなる(インスリン抵抗性)。

の2つが考えられています 15)

肥満の人とそうでない人で、腸内細菌叢に違いがあることがわかっており、肥満の人が痩せると、腸内細菌の種類と比率が変わります。

過敏性腸症候群(IBS)

通常の検査では腸に炎症・潰瘍・内分泌異常などが認められないにも関わらず、慢性的な腹部膨満、腹痛、下痢、便秘などが起きる病気で、日本人の 10 人 に 1 人がかかっているといわれています 16)。ディスバイオシスは過敏性腸症候群の発症に深く関わっていると考えられています 17)

炎症性腸疾患(IBD)

広い意味では腸に炎症を起こす全ての病気を指しますが、狭い意味では潰瘍性大腸炎とクローン病のことを意味します 18)。潰瘍性大腸炎もクローン病も原因が不明で、病状が悪い時期(再燃期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返すという特徴があります。日本には潰瘍性大腸炎の患者さんは 20 万人クローン病の患者さんは 7 万人いるといわれています。

ディスバイオシスは炎症性腸疾患の発症に関係しています 19-21)

うつ病

世界の人口の 4.4 % がうつ病といわれていますが、このうつ病の発症にディスバイオシスが関係している可能性があるといわれています 22-24)。現時点では発症のメカニズムの全容はわかっていませんが、腸内細菌のバランスをよくすることで、うつ病の治療に効果があることがわかっています。

食物アレルギー

食物アレルギーの患者さんも増加しています。食物アレルギーの人は健康な人と比較して、明らかに異なる腸内細菌叢を持っており、ディスバイオシスが食物アレルギーの発症に先行することがわかってきました。さらにプロバイオティクスやプレバイオティクスなどの、善玉菌を増やすことで腸内細菌叢を改善するための食事療法が、食物アレルギーの予防と治療のために有効であることもわかっています 25, 26)。さらに善玉菌が食物繊維から生産する短鎖脂肪酸(乳酸、酢酸、酪酸)が、食物アレルギーに対する保護効果を示すこともわかってきました 27)

 

まとめ

  • ディスバイオシス(Dysbiosis)とは腸内細菌のバランスが崩れて異常な状態になり、腹部膨満、腹痛、下痢が起きること。腸内毒素症と訳されることもある。
  • ディスバイオシスになると、腸内細菌の種類(多様性)の減少、善玉菌(ビフィズス菌や乳酸菌)の減少、悪玉菌(クロストリジウムやウェルシュ菌)の増加が起きる。
  • ディスバイオシスで見られる腸内症状には、腹部膨満、腹痛、下痢、便秘、臭いのきついおならがある。
  • ディスバイオシスは食べたものが原因で起きることもあるが、それ以外の原因として、お薬、人工甘味料、残留農薬(グリホサート)などがある。
  • ディスバイオシスは、体重増加と肥満、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、うつ病、食物アレルギーの発症に関係している。

 


参考文献

1) Carding S, Verbeke K, Vipond DT, Corfe BM, Owen LJ. Dysbiosis of the gut microbiota in disease. Microb Ecol Health Dis. 2015; 26:26191. Published 2015 Feb 2. doi: 10.3402/mehd.v26.26191

2) Lin YT, Lin TY, Hung SC, et al. Anti-Acid Drug Treatment Induces Changes in the Gut Microbiome Composition of Hemodialysis Patients. Microorganisms. 2021; 9(2):286. Published 2021 Jan 30. doi: 10.3390/microorganisms9020286

3) Syer SD, Wallace JL. Environmental and NSAID-enteropathy: dysbiosis as a common factor. Curr Gastroenterol Rep. 2014; 16(3):377. doi: 10.1007/s11894-014-0377-1

4) Bruno G, Zaccari P, Rocco G, et al. Proton pump inhibitors and dysbiosis: Current knowledge and aspects to be clarified. World J Gastroenterol. 2019; 25(22):2706-2719. doi: 10.3748/wjg.v25.i22.2706

5) Neuman H, Forsythe P, Uzan A, Avni O, Koren O. Antibiotics in early life: dysbiosis and the damage done. FEMS Microbiol Rev. 2018; 42(4):489-499. doi: 10.1093/femsre/fuy018

6) Nettleton JE, Reimer RA, Shearer J. Reshaping the gut microbiota: Impact of low calorie sweeteners and the link to insulin resistance?. Physiol Behav. 2016; 164(Pt B):488-493. doi: 10.1016/j.physbeh.2016.04.029

7) Ruiz-Ojeda FJ, Plaza-Díaz J, Sáez-Lara MJ, Gil A. Effects of Sweeteners on the Gut Microbiota: A Review of Experimental Studies and Clinical Trials [published correction appears in Adv Nutr. 2020 Mar 1;11(2):468. Adv Nutr. 2019; 10(suppl_1):S31-S48. doi: 10.1093/advances/nmy037

8) Plaza-Diaz J, Pastor-Villaescusa B, Rueda-Robles A, Abadia-Molina F, Ruiz-Ojeda FJ. Plausible Biological Interactions of Low- and Non-Calorie Sweeteners with the Intestinal Microbiota: An Update of Recent Studies. Nutrients. 2020; 12(4):1153. Published 2020 Apr 21. doi: 10.3390/nu12041153

9) 小麦製品のグリホサート残留調査1st、一般社団法人農民連食品分析センター

https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_flour_1st/index.html

10) 食パンのグリホサート残留調査、一般社団法人農民連食品分析センター

https://earlybirds.ddo.jp/bunseki/report/agr/glyphosate/wheat_bread_1st/index.html

11) Aitbali Y, Ba-M’hamed S, Elhidar N, Nafis A, Soraa N, Bennis M. Glyphosate based- herbicide exposure affects gut microbiota, anxiety and depression-like behaviors in mice. Neurotoxicol Teratol. 2018; 67:44-49. doi: 10.1016/j.ntt.2018.04.002

12) Rueda-Ruzafa L, Cruz F, Roman P, Cardona D. Gut microbiota and neurological effects of glyphosate. Neurotoxicology. 2019; 75:1-8. doi: 10.1016/j.neuro.2019.08.006

13) Barnett JA, Gibson DL. Separating the Empirical Wheat From the Pseudoscientific Chaff: A Critical Review of the Literature Surrounding Glyphosate, Dysbiosis and Wheat-Sensitivity. Front Microbiol. 2020; 11:556729. Published 2020 Sep 25. doi: 10.3389/fmicb.2020.556729

14) Liu JB, Chen K, Li ZF, Wang ZY, Wang L. Glyphosate-induced gut microbiota dysbiosis facilitates male reproductive toxicity in rats. Sci Total Environ. 2022; 805:150368. doi: 10.1016/j.scitotenv.2021.150368

15) Gomes AC, Hoffmann C, Mota JF. The human gut microbiota: Metabolism and perspective in obesity. Gut Microbes. 2018; 9(4):308-325. doi: 10.1080/19490976.2018.1465157

16) 日本消化器病学会ガイドライン、過敏性腸症候群(IBS)ガイドQ&A

https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html

17) Casén C, Vebø HC, Sekelja M, et al. Deviations in human gut microbiota: a novel diagnostic test for determining dysbiosis in patients with IBS or IBD. Aliment Pharmacol Ther. 2015; 42(1):71-83. doi: 10.1111/apt.13236

18) 日本消化器病学会ガイドライン、炎症性腸疾患(IBD)ガイドQ&A

https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibd.html

19) Carding S, Verbeke K, Vipond DT, Corfe BM, Owen LJ. Dysbiosis of the gut microbiota in disease. Microb Ecol Health Dis. 2015;26:26191. Published 2015 Feb 2. doi:10.3402/mehd.v26.26191

20) Ni J, Wu GD, Albenberg L, Tomov VT. Gut microbiota and IBD: causation or correlation?. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2017; 14(10):573-584. doi: 10.1038/nrgastro.2017.88

21) Nishida A, Inoue R, Inatomi O, Bamba S, Naito Y, Andoh A. Gut microbiota in the pathogenesis of inflammatory bowel disease. Clin J Gastroenterol. 2018; 11(1):1-10. doi:10.1007/s12328-017-0813-5

22) Flux MC, Lowry CA. Finding intestinal fortitude: Integrating the microbiome into a holistic view of depression mechanisms, treatment, and resilience. Neurobiol Dis. 2020; 135:104578. doi: 10.1016/j.nbd.2019.104578

23) Capuco A, Urits I, Hasoon J, et al. Gut Microbiome Dysbiosis and Depression: a Comprehensive Review. Curr Pain Headache Rep. 2020; 24(7):36. Published 2020 Jun 6. doi: 10.1007/s11916-020-00871-x

24) Doroszkiewicz J, Groblewska M, Mroczko B. The Role of Gut Microbiota and Gut-Brain Interplay in Selected Diseases of the Central Nervous System. Int J Mol Sci. 2021; 22(18):10028. Published 2021 Sep 17. doi: 10.3390/ijms221810028

25) Bunyavanich S, Berin MC. Food allergy and the microbiome: Current understandings and future directions. J Allergy Clin Immunol. 2019; 144(6):1468-1477. doi: 10.1016/j.jaci.2019.10.019

26) Zhao W, Ho HE, Bunyavanich S. The gut microbiome in food allergy. Ann Allergy Asthma Immunol. 2019; 122(3):276-282. doi: 10.1016/j.anai.2018.12.012

27) Shu SA, Yuen AWT, Woo E, et al. Microbiota and Food Allergy. Clin Rev Allergy Immunol. 2019; 57(1):83-97. doi: 10.1007/s12016-018-8723-y

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