グルテンフリーの食品や料理を提供する側は、グルテンフリーであることをきちんと証明しなければなりません。食品に含まれるグルテンの量はどうやって測定するのでしょうか。グルテンに含まれる免疫原性ペプチドの量を、抗原抗体反応を使って分析し、そこからグルテンの量を計算しています。その場で使えるポータブルの測定キットもあります。
グルテンについて
グルテンは、小麦、大麦、ライ麦とその交雑種に含まれるたんぱく質です。小麦は胚乳、胚芽、種皮から成りますが、でんぷんが多く含まれる胚乳の部分を粉にしたのが小麦粉です。そのため小麦粉の 約 90 % はでんぷんですが、たんぱく質も 8~13 %含まれています。ちなみにお米(うるち米の精白米)にも約 6 % のたんぱく質が含まれています。
小麦に含まれるたんぱく質は 100 種類以上ありますが、そのうちホルデインとグルテリンという種類のたんぱく質が 80~85 % を占めています。このホルデインとクルテリンを含め、水に溶けないたんぱく質をあわせて、グルテンといいます。つまりグルテンという物質があるのではなく、複数のたんぱく質の集合体をグルテンと呼んでいます。
なお小麦、大麦、ライ麦によって、ホルデインとグルテリンの呼び方が異なります。ややこしいのですが、小麦ではそれぞれグリアジン、グルテニンと呼ばれるので、この記事でも、そのように呼ぶことにします。
プロラミン | グルテリン | |
小麦 | グリアジン | グルテニン |
大麦 | ホルデイン | グルテリン |
ライ麦 | セカリン | グルテリン |
特性 | ・粘着性(凝集性)がある ・伸展性(伸びやすさ)がある ・水に溶けにくく、消化されにくい |
・弾力性がある ・強度がある |
小麦に水を加えてこねると、グリアジンとグルテニンが絡み合って、網目状のグルテンができます。グルテンはグリアジンとグルテニンがもともと持っていた特性をあわせ持つため、伸びやすく、弾力性と粘着性があります。これがパンやめん類を作るときに欠かせない特性となっているのです。
もともと小麦に含まれるたんぱく質は、水やアルコールに溶けるかどうかで分類されてきました。グリアジンは水には溶けないが、60 % エタノールには溶けるたんぱく質、グルテニンは水にも 60 % エタノールにも溶けないたんぱく質です。
グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質で、伸びやすく、弾力と粘着性があるため、パンやめんの生地を作る際に、なくてはならない成分です。一方で、消化酵素で分解されにくく、免疫原性があるため、からだに悪影響を及ぼすことがあります。このグ[…]
グルテンの量を測定する方法
サンプル含まれる免疫原性ペプチドの量から計算している
グルテンの量は、サンプルに含まれる免疫原性ペプチドの量を測定し、そこからそこからグルテン全体の量を推定しています。少し難しい内容ですが、できるだけわかりやすく説明していきます。
たんぱく質は、20 種類のアミノ酸が数千個から数万個、規則正しく配列してできています。食べものに含まれるアミノ酸は消化酵素によって分解され、アミノ酸が数十個から数百個程度つながったペプチドになり、さらに分解されてアミノ酸になり、小腸で吸収されます。
ところが、グルテンに含まれるたんぱく質の中には、消化酵素で分解されにくく、ペプチドの状態で分解が止まってしまうものがあります。このペプチドには、人間のからだの中で免疫反応を引き起こす免疫原性や、毒性を持つものがあることがわかっています 1)。
グルテンが原因で起きる自己免疫疾患であるセリアック病を起こす免疫原性ペプチドについては研究が進んでおり、複数の免疫原性ペプチドが存在することがわかっています。このうち グリアジン33-mer が、セリアック病を起こす作用が最も強いことがわかっています 2)。
これらの免疫原性ペプチドは、すべてアミノ酸配列がわかっています。アルファベットはアミノ酸の一文字略号です。(P:プロリン、Q:グルタミン、L:ロイシン、F:フェニルアラニン、Y:チロシン、E:グルタミン酸、I:イソロイシン、W:トリプトファン)
含まれる たんぱく質 |
アミノ酸配列 | ペプチドの名称 |
α-グリアジン | LQLQPFPQPQLPYPQPQLPYPQPQLPYPQPQPF | グリアジン33-mer |
EPEQPIPEQPQPYPQQ | ||
EPEQPIPEQPQPYPQ | ||
QLQPFPQPELPY | ||
β-ホルデイン | ELQPFPQPELPYPQPQ | |
PQPELPYPQPE | ||
ω-グリアジン、C-ホルデイン | EQPFPQPEQPFPWQP | |
ω-グリアジン | QQPFPQPEQPFP |
免疫原性ペプチドの量はモノクロナール抗体で調べる
免疫原性ペプチドを有無を調べるために開発されたのが、モノクロナール抗体というものです。
例えば最近開発された G12 というモノクロナール抗体は、
QPQLPY、QPQLPF、QPQQPY、QPQQPF
という 4 種類のアミノ酸配列に結合します。
そのためα-グリアジンに含まれるグリアジン33-mer の赤色部分
LQLQPFPQPQLPYPQPQLPYPQPQLPYPQPQPF
に結合することで、α-グリアジンの量を知ることができます。
また同じく A1 というモノクロナール抗体は、
QQPYPQP、QQPFPQP、QLPYPQP、QLPFPQP
という 4 種類のアミノ酸配列に結合します。
そのためα-グリアジンに含まれるグリアジン33-merの赤色部分
LQLQPFPQPQLPYPQP QLPYPQP QLPYPQPQPF
の赤色部分と、ω-グリアジンに含まれる
QQPFPQPEQPFP
というペプチドの赤色部分に結合するため、α-グリアジンとω-グリアジンの量がわかります。
さらに分析会社でよく使われるR5というモノクロナール抗体は、
QQPFP
というアミノ酸配列の部分に結合するので、ω-グリアジンに含まれる
QQPFPQPEQPFP
というペプチドの赤色部分に結合し、ω-グリアジンの量を知ることができます。
実際の分析はサンドイッチELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay、酵素免疫測定、エライザ)法がという方法で行われます。あらかじめフーレート上にモノクロナール抗体を固着させ、そこへグルテンを含むサンプルを入れます。試料中にグルテンがあると、モロクロナールと抗原と結合します(図1)。
次にマーカーを付けたモノクロナール抗体を加えると、モノクロナール抗体はグルテンに結合します。洗浄後に、マーカーの濃度を測定することで、グルテンの量を測定することができます(図2)。
これは2種類のモノクロナール抗体でグルテンという抗原をサンドイッチしていることから、サンドイッチELISA法と呼ばれます。
食品検査会社で行うグルテンの分析
食品や料理に含まれるグルテンの量は、食品検査会社にサンプルを提出すれば、分析してもらうことができます。例えば、一般財団法人日本食品分析センターでは、次の 2 種類の検査キットを使った分析を引き受けています 3)。分析費用は、1 検体あたり 121,000円(税込み、1 検体のみの場合)かかります。
RIDASCREEN Gliadinを使った分析
R5 モノクロナール抗体を使ったサンドイッチELIZA法の検査キットを使い、グリアジンの量を調べます 4)。キットはドイツのR-Biopharm AGが製造します。この方法は国連のCodex委員会が指定したグルテンの分析法として認められています。
- 定量限界(濃度を測定できる最低濃度):グリアジンとして2.5ppm、グルテンとして5ppm
- 検出限界(有無を判別できる最低濃度):グリアジンとして0.5ppm、グルテンとして1ppm
Wheat/Gluten (Gliadin) ELISA Kitを使った分析
この検査キットは森永製菓の関連会社である株式会社森永生科学研究所が製造・販売しているもので、小麦グリアジンに対するポリクローナル抗体を使用します 5)。ポリクローナル抗体を使うと、モノクローナル抗体よりも感度が高くなります。そのため、R5 モノクロナール抗体を使ったサンドイッチELIZA法に比べ、定量限界、検出限界とも高くなっています。なお大麦ホルデインおよびライ麦セカリンも検出可能ですが、過小評価する傾向があります 6)。またこの方法は国連の Codex 委員会が指定したグルテンの分析法ではありません。
- 定量限界(濃度を測定できる最低濃度):小麦タンパク質として 0.3 ppm
- 検出限界(有無を判別できる最低濃度):小麦たんぱく質として 0.3 ppm
ポータブルのグルテンセンサーも発売されている
食品検査会社で分析をすると、検査費用が 10 万円以上かかるうえ、結果が出るまで 2 週間近く待たなければなりません。5 分程度でグルテンの濃度を知ることができるセンサーがアメリカで発売されています。ニマ グルテンセンサー(NIMA Gluten Sensor)という名前の装置で、マサチューセッツ工科大学の技術を使ってNima Labs, Inc.が開発したポータブルセンサーです 7)。
検査したい食品サンプルを検査カプセルにいれて、本体にセットすると、5 分以内に 20 ppm以上グルテンが含まれているかどうかを判定し、表示します。ただしグルテン濃度はわかりません。このセンサーは α-グリアジンのグリアジン33-mer に結合する14G11と13F6という2種類のモノクロナール抗体を使用しています 1)。この装置は本体が 280 ドル(約 3 万円)で、使い捨ての検査カプセルが、1 回あたり 370 円になります。
また、2021 年にはアリス グルテンセンサー(Allis Gluten Sensor)という新商品も発売されました。こちらは検査時間は 2 分で、グルテン濃度まで表示されるそうです。ただ、装置の仕様や原理については、いまのところわかっていません。詳しくはこちらを確認してください。
欧米ではレストランでグルテンフリーと書かれたメニューをよく見かけますが、その1/3はグルテンフリーではない、といわれています。グルテンフリーという表示を信じて食べたところ、実はグルテンが入っていた、なんてことが頻繁に起こるため、その場で、食[…]
まとめ
- グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質の集合体。小麦ではグリアジンとグルテニンが大半を占める。
- たんぱく質はアミノ酸が数千個から数万個つながっているが、これが部分的に分解されると、アミノ酸の数が数十個から数百個程度つながったペプチドになる。
- グルテンが部分的に分解されてできるペプチドの中には、人間のからだの中で免疫反応を引き起こす免疫原性や、毒性を持つものがある。
- サンプルに含まれる免疫原性ペプチドの量は、抗原抗体反応を利用して、モノクロナール抗体で調べることができる。これを利用してグルテンの量を測定する。
- 食品や料理に含まれるグルテンの量は食品検査会社で行うことができる。ただし 10 万円程度の検査費用と 2 週間程度の日数がかかる。
- その場で数分以内にグルテンフリーかどうかを判断できる、ポータブルのグルテンフリーセンサーも出回っている。
参考文献
1) Cebolla Á, Moreno ML, Coto L, Sousa C. Gluten Immunogenic Peptides as Standard for the Evaluation of Potential Harmful Prolamin Content in Food and Human Specimen. Nutrients. 2018; 10(12):1927. Published 2018 Dec 5. doi: 10.3390/nu10121927
2) Herrera MG, Benedini LA, Lonez C, et al. Self-assembly of 33-mer gliadin peptide oligomers. Soft Matter. 2015; 11(44):8648-8660. doi: 10.1039/c5sm01619c
3) 一般財団法人日本食品分析センターウェブサイト
https://www.jfrl.or.jp/service/allergens
4) R-Biopharm AGウェブサイト
https://food.r-biopharm.com/products/ridascreen-gliadin/
5) 株式会社森永生科学研究所ウェブサイト
https://www.miobs.com/product/gluten/index.html
6) Gluten Free Dietitianウェブサイト
https://www.glutenfreedietitian.com/assessing-the-gluten-content-of-foods-sandwich-elisas/
7) Zhang J, Portela SB, Horrell JB, et al. An integrated, accurate, rapid, and economical handheld consumer gluten detector. Food Chem. 2019; 275:446-456. doi: 10.1016/j.foodchem.2018.08.117