グルテンフリーにしなくてもグルテンの悪影響を避ける方法!?

グルテンを完全に抜く生活はかなり大変です。食べられるものが限られ、グルテンフリー食材が手に入らないこともあります。また値段の安い食品には、小麦がよく使われるので、グルテンフリーにすると食費がかかります。

一番困るのは、知らないうちにグルテンが入ったものを食べてしまうことです。グルテンフリー以外の方法で、グルテンによる悪影響を防ぐための手段が研究されており、近い将来、実用化するかもしれません。

セリアック病の唯一の治療法は完全なグルテンフリー

セリアック病はグルテンに含まれる成分が原因で免疫反応が活発になり、誤って自分の小腸の粘膜を攻撃することで起きる病気です。100人に1人の割合で発生するといわれています。セリアック病の研究が進んでいる欧米でも、自分がセリアック病と気づいていない人が多く、その人たちは何の処置も受けないまま、症状に苦しんでいるそうです。

セリアック病の唯一かつ確実な治療法が、生涯にわたっての完全なグルテンフリーです。

西洋式の食生活をしていると、1日に10~15gのグルテンを摂ることになりますが、セリアック病の人はこれを50mg未満にする必要があります。もちろんグルテンに対する感受性には個人差があるため、10mgで腸の粘膜への症状が出る人もいます。

ただ、一応1日50mgが目安とされ、これに基づいてグルテンフリーの表示基準、すなわち食品中のグルテンの量が20ppm未満のとき、グルテンフリーと表示することが決められています(1日の食事量を2.5kgとして計算)。

セリアック病では、小腸粘膜の細胞が破壊されることで、栄養が吸収できなくなるとともに、腸のバリア機能が破壊されることで、次のような症状が出ます。

  • 消化器症状 … 軽度かつ間欠性の下痢、脂肪便(便中脂肪量7~50g/日)
  • 全身症状 … 倦怠感、筋力低下、食欲不振、体重減少、貧血、舌炎、口角炎、アフタ性潰瘍、ビタミンD欠乏症、カルシウム欠乏症、妊孕性の低下、月経の停止
  • 皮膚症状 … 疱疹状皮膚炎(強いかゆみを伴う水疱性丘疹が肘、膝、殿部、肩、および頭皮の伸側面に対称性に出現する)

数年前までは、セリアック病は消化器症状が主体と考えられていましたが、最近の論文では消化器症状が見られないケースも多数報告されています。セリアック病は食べものに含まれるグルテンが原因で起きるのですが、明確な消化器症状が見られないことで、食べものが原因だと気づかず、発見が遅れることが多いようです。

グルテンフリー以外の治療法が求められている

セリアック病は食事に含まれるグルテンが原因なので、グルテンフリーにすれば上で紹介したような症状は現れません。ただこれらの症状が完全になくなるまでには、グルテンフリーにしてから、最長1年かかるといわれています。

グルテンフリーにするといっても、現実にはかなり大変です。グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれていますが、特に小麦は多くの加工食品で使われています。グルテンフリー表示ができるまでは、消費者は食品の原材料表示をいちいち確認する必要がありました。いまはグルテンフリー表示を目印に、食材を選ぶことができるようになりました。また欧米ではレストランのメニューにも、グルテンフリーの表示がされることが多くなっています。

ただ、これですべて解決したわけではありません。

表示が間違っていたケースや、知らないうちにグルテンが含まれる食品を摂ってしまったというケースが後を絶ちません。グルテンが体内に入ったらすぐに下痢をするとか、発作が起きてしまうという場合は、細心の注意を払って生活しますが、グルテンを摂ってから症状が出るまでに数日から数週間かかるため、グルテンを摂ったことに気づかないことが多いのです。

そのためグルテンフリー以外に、セリアック病を治療する方法が求められています。

腸に到達する前に食べたグルテンを分解する薬

グルテンが原因で起きる病気はセリアック病以外にもいくつかあります。原因はそれぞれ異なりますが、共通しているのは、

  • グルテンが分解されにくいこと
  • グルテンの一部に免疫系に作用する部分があること

の2点です。そのためグルテンが小腸に到達する前に、グルテン、特に免疫系に作用する部分を分解することができれば、グルテンの影響を回避することができます。

グルテンを含む食品を食べても、体に影響がない人がほとんどです。それらの人に比べて、グルテンの影響を受けやすい人は、グルテンを分解する能力が低いこともわかっています。

グルテンを分解する薬というのは、具体的にはたんぱく質分解酵素です。現在、次の2つが有望と考えられています。

プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)

この酵素は、グルテンの免疫系に作用する部分を分解します。

グルテンが入った食べものと一緒にPEPが含まれる錠剤を飲むと、胃と小腸でグルテンの免疫原性が下がることがわかっています。これに、グルテンの分解されにくい部分を分解する作用があるジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)という酵素を組合せることで、食べたものが腸に到達する前にグルテンが分解できないか、臨床実験で検討されました。

グルテンを分解する効果は認められましたが、その効果は限定的でした

つまり食品に含まれるグルテンを、セリアック病の人に影響を与えない濃度まで確実に完全に分解することができなかったようです。そのためPEPとDPP-4を使った治療法の研究は、2017年に第II相臨床試験(フェーズ II)で行き詰ったようです1)

なおPEPとDPP-4がグルテンを分解する効果は認められているので、これらを使ったサプリメントが欧米で市販されています。下記の記事も参考にしてください。

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グルテンフリー生活をしているにもかかわらず、グルテンが入っているものを食べてしまったとき、これを帳消しにすることができる消化酵素サプリメントがあることを、別の記事で紹介しました。 [sitecard subtitle=関連記事 url[…]

グルテン加水分解酵素カクテル「ラチグルテナーゼ」

複数の酵素を組みあせたものを酵素カクテルといいます。

ラチグルテナーゼは、大麦由来のシステインエンドプロテアーゼと細菌由来のSC-PEPを1:1で混ぜたもので、セリアック病患者の小腸粘膜保護と、誤って摂取したグルテンの分解の両方に効果があるといわれています。

セリアック病協会が2021年5月にウェブサイトで公表した研究ニュースによると、第IIb相臨床試験(フェーズ IIb)を完了し、市場承認に先立つ第Ⅲ相試験に向けて準備を進めているとのことです2)。これはImmunogenX, Inc.という企業と、セリアック病の治療で著名なメイヨークリニックが共同で開発を進めています。

第IIb相臨床試験では意図的なグルテン摂取よる影響を軽減するためのラチグルテナーゼの能力を実証しました。

6週間の期間中にラチグルテナーゼを使った場合、使わなかった場合と比べて小腸の損傷は60〜88%、セリアック病の症状は53〜99%、それぞれ少なくなりました。また尿の分析により、体内へ吸収されたグルテン免疫原性ペプチドは95%の減少していることも分かったそうです。

これは近いうちにグルテンを分解する最初の薬として、承認される可能性があります。

腸のバリア機能を強化する薬 酢酸ララゾチド

腸には口や肛門からさまざまな異物が侵入する可能性があるので、異物が体内に侵入するのを防ぐためのバリア機能が備わっています。

バリア機能の一つに、腸管上皮細胞のすき間を狭くすることで、異物の透過を防ぐ「細胞間接着装置」というものがありますが、グルテンは細胞間接着装置を緩めることがわかっています。バリア機能が低下した状態が、いわゆる「リーキーガット」です。グルテンの分解物を含め、本来なら体内に入らない物質が体内に入ることで、

  • 頭痛
  • 錯乱
  • 集中力の低下
  • にきび、発疹、湿疹
  • 関節痛
  • 広範囲にわたる炎症

が起きます。これらはセリアック病や非セリアックグルテン過敏症で見られる症状と一致しています。なおリーキーガットについては、こちらの記事を参考にしてください。

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リーキーガットの状態を修復し、腸のバリア機能を強化する「酢酸ララゾチド」という薬が開発されています。この薬は細胞間接合装置を閉じることにより、グルテン分解物(ペプチドといいます)が体内に浸透するのを防ぎます1)

セリアック病や非セリアックグルテン過敏症で見られる皮膚症状や全身症状は、体内に侵入したグルテンペプチドが関係しているので、グルテンペプチドの侵入を防ぐことで、これらの病気の症状改善につながる可能性があります。

これまでの試験の結果、酢酸ララゾチドによって、セリアック病の症状が軽減されるとともに、セリアック病特有抗体レベルが低下することがわかっています。

酢酸ララゾチドは3つの第II相臨床試験(フェーズ II)を完了し、現在第Ⅲ相試験が進められています。グルテンに関する薬の中で最も実用化に近いといわれています。

セリアック病に効くワクチンの開発

セリアック病は、グルテンの特定の断片を自分にとっての「異物」とみなし、自分の免疫系がこれを攻撃することで、全身でさまざまな炎症反応が起きる病気です。

一方で多くの人はこの断片(エピドープといいます)を異物とみなさないため、グルテンを含む食品を食べても、何も起きません。

この違いの原因は、「制御性T細胞」という免疫細胞を作るかどうかです。制御性T細胞にはある特定のエピドープを免疫細胞が異物と認識しないようにする働きがありますが、セリアック病の人はこの機能が低下しているのです。

そこでこの制御性T細胞の増殖を誘導し、グルテンに対する耐性を回復させるためのワクチンが開発されています1)

アメリカのImmusanT, Incという企業が開発中のNexvax2ワクチンワクチンは、3種類のグルテンエピトープが使われています。第II相臨床試験が実施されており、安全性は確認済みですが、有効性はまだ実証されていません。このワクチンはHLA-DQ2遺伝子型を持つ人にのみ有効です。

ゲノム編集によりグルテンを含まない小麦の開発も

グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質の一種です。ゲノム編集という技術を使って、グルテンを含まない小麦、大麦、ライ麦の開発が進められています。

ゲノム編集は遺伝子組み換えとよく混同されますが、全く別の技術です。

遺伝子組み換えは、もともと生物が持っていなかった遺伝子をゲノムに挿入することで、新たな機能を付加する技術です。これに対してゲノム編集は、もともと生物が持っていた働きがわかっている遺伝子を狙って切断などして、変えることです。

単純にいうならば、小麦のゲノムからグルテンを作る遺伝子を切断すれば、グルテンを含まない小麦が作ることができます。

オランダとイギリスの研究グループは、CRISPR-Cas9法をという方法で、グルテンの免疫原生エピドープであるグリアジンに適用することに成功しました3)。これにより、製パン特性を維持しながら、セリアック病の免疫原性を持たない小麦を作ることができます。

プロバイオティクスは症状を軽くする効果に期待

人間の腸内には1000種類、10兆個の細菌が棲んでいますが、このうち、人体によい影響を与える細菌やそれを多く含む食品をプロバイオティクスといいます。善玉菌といった方が、わかりやすいかもしれません。

乳酸菌、ビフィズス菌や納豆菌、酪酸菌なとがプロバイオティクスで、腸内環境を改善する乳酸菌飲料、ヨーグルトやサプリメントが多数販売されてます。

プロバイオティクスは、病原性細菌の異常増殖を防ぎ、腸粘膜バリアを維持する上で重要な役割を果たしています。そのためセリアック病の患者さんにプロバイオティクスを補給すると、炎症性免疫応答を抑制できる可能性があります。

プロバイオティクスだけでは、セリアック病のようにメカニズムが複雑な病気を治療することはできませんが、症状を軽くする効果が期待されています。

まとめ

  • セリアック病はグルテンに含まれる成分が原因で免疫反応が活発になり、誤って自分の小腸の粘膜を攻撃することで起きる病気。100人に1人の割合で発生する。唯一かつ確実な治療法が、生涯にわたっての完全なグルテンフリーである。
  • 食品の表示が間違っていたたため、あるいは知らないうちにグルテンが含まれる食品を摂ってしまったというケースが後を絶たない。しかも症状が出るまでに数日から数週間かかるため、グルテンを摂ったことに気づかないことが多い。グルテンフリー以外に、セリアック病を治療する方法が求められている。
  • 腸に到達する前にグルテンを分解する薬が開発されている。プロリルエンドペプチダーゼ(PEP)は、グルテンのうち免疫系に作用する部分を分解する。これとグルテンの分解されにくい部分を分解するジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)を組合せた臨床試験が行われたが、フェーズ IIで行き詰った。ただ、それぞれの成分を含むサプリメントは市販されている。
  • グルテンを分解する2種類酵素を組合せたラチグルテナーゼという酵素カクテルが、臨床試験のフェーズⅢに向けた準備を進めている。小腸の損傷とセリアック病の症状を抑える効果が確認されている
  • 酢酸ララゾチドという薬は、リーキーガットの状態を修復し、腸のバリア機能を強化する作用がある。現在臨床試験のフェーズⅢが行われており、グルテンに関する薬の中で最も実用化に近い。
  • セリアック病に効果のあるワクチンや、グルテンを含まないゲノム編集小麦の開発も進められている。またプロバイオティクスはセリアック病の症状を軽くする効果が期待されている。

参考文献
1) Segura V, et. al., New Insights into Non-Dietary Treatment in Celiac Disease: Emerging Therapeutic Options, Nutrients 13 (7) 2146 (2021)
2) Significant Clinical Progress for Latiglutenase, Celiac Disease Foundation, Research News, 2021/05/06
https://celiac.org/about-the-foundation/featured-news/2021/05/significant-clinical-progress-for-latiglutenase/
3) Jouanin A, et. al., CRISPR/Cas9 Gene Editing of Gluten in Wheat to Reduce Gluten Content and Exposure-Reviewing Methods to Screen for Coeliac Safety, Front Nutr, (7) 51 (2020)

 

グルテンフリー食品まとめ

小麦粉を置き換えるには、グルテンの役割をカバーするための知識や技術が必要です。メーカーさんの工夫によって製造されている、おすすめのグルテンフリー食材をカテゴリー別にご紹介!