リーキーガットとは、腸のバリア機能が損なわれた結果、本来なら入らない物質が体内に入る状態になることです。腸のバリア機能の一つが、腸管上皮細胞のすき間を閉じている細胞間接着装置です。ゾヌリンというたんぱく質が作用すると、このすき間が緩んで、腸管上皮細胞の透過性が増します。リーキーガットとの関係が指摘される病気もあります。
腸が人間のからだを守るしくみ
人間の腸は、小腸と大腸に分かれます。
小腸は長さが 5~7 mあり、おなかの内で曲がりくねった状態で存在します、人間が生きていくために必要な栄養分の 90% は、小腸で吸収されます。
一方の大腸は、長さが 1.5 m と小腸より短いのですが、太さは小腸の 2 倍あります。水分を吸収して便を作るのが、主な役割です。
小腸は、栄養分を効率よく吸収できるように、小腸の内側は細かいひだ状になっており、このひだを全部延ばして広げると、テニスコート 1 面分の広さ(200 m2 )があります。広い面積をから吸収された栄養分は血液に入り、全身へ送られます。
このようにさまざまな栄養分を吸収することができる小腸からは、場合によっては、からだに有害な物質が入ってしまう可能性があります。これを阻止しているのが、
- 腸内細菌叢
- 免疫機能
- バリア機能
の3つです。
腸内細菌叢
人間の腸には 1,000 種類の細菌が 100 兆個生息しており、それを腸内細菌叢といいます。腸内細菌の中には、病原性のある菌の増殖を抑えたり、消化管の中に入ってきた有害物質を、体外へ出すことによって、体を守る働きをしています。
免疫機能
ところで、人間は、自分の体にないもの(非自己)と、自分の体にあるもの(自己)を見分けて、非自己から自己を守る機能を持っており、これを免疫機能といいます。
また、免疫機能を発揮する細胞は免疫細胞といい、体をつくる細胞とは異なり骨髄や胸腺で作られ、血管を通って必要な部位に供給されます。人間の持つ免疫細胞の 70 % が腸にあるといわれています。例えば有害な細菌が小腸へ入ってきたら、免疫細胞は細菌の存在をキャッチして、これを排除するために働きます。
バリア機能
からだを守る仕組みの3 つ目であるバリア機能は、小腸や大腸の内側に存在する粘膜によるもので、物理的な壁となって有害物質が通り抜けるのを防いだり、有害物質を化学的に変化させることで、体内への侵入を防いでいます。
リーキーガットは、腸のバリア機能が低下している状態といえます。
腸のバリア機能
腸のバリア機能は、口や肛門を介して外界と接している腸の内側と、毛細血管が張り巡らされている腸の外側とを何重にも分けることで、異物が体内に侵入するのを防いでいます。
このバリア機能には、物理的バリアと化学的バリアがあります 1)。
物理的バリア
物理的バリアは、腸の内側から、粘液層、糖衣、細胞間接着装置の三重の層になっています。
粘液層
ムチンという、糖たんぱく質による粘り気の強い層が、腸管の表面を覆っています。この粘液層があるため、細菌やウイルスは腸管の細胞に近づくことができません。
糖衣
大きな塊の糖がムチンに結合して凝集しており、細菌やウイルスが腸管の内部へ侵入することを防いでいます。
細胞間接着装置
腸管の壁(腸管上皮)は、多数の細胞が並んでできていますが、細胞と細胞のすき間が開くと、そこから異物が侵入する可能性があります。この腸管上皮細胞同士を密着結合や接着結合させることで、細胞と細胞のすき間を閉じているのが、細胞間接着装置です。
ゾヌリンというたんぱく質が腸管上皮表面にある受容体に結合すると、細胞間接着装置が緩んで、透過性が増加することがわかっています。
化学的バリア
これとは別に、化学的バリアというものもあります。これは粘液層や糖衣に存在する化学物質が、細菌に作用し、抗菌活性を発揮するものです。
腸のバリア機能が失われるのは、腸管上皮細胞の細胞間接着装置が緩むことである、との説明もありますが、実際にはそんなに単純なものではなく、複数のメカニズムによって。バリア機能が失われるのです。
リーキーガットで見られる症状
リーキーガット(Leaky Gut)を直訳すると、漏れやすい腸という意味になります。
腸が持っているバリア機能が低下して、本来なら体内に入るはずがない物質が入るようになった状態が、リーキーガットです。リーキーガットは比較的新しい概念で、現時点では医学的にきちんと定義されていません。
リーキーガットになると、本来、からだに入らないはずの物質が、体内に入ってしまいます。その一方で、小腸における栄養吸収機能が正常に働かなくなるため、特定の栄養素が吸収されなくなることもわかっています。
リーキーガットで起きる可能性がある症状は次の通りです。
消化器に見られる症状
・慢性的な下痢、便秘
・腹部膨満(鼓腸)
本来からだに入らないものが入ることによって起きる症状
・頭痛
・錯乱
・集中力の低下
・にきび、発疹、湿疹
・関節痛
・広範囲にわたる炎症
栄養吸収機能の低下に伴う症状
・栄養失調
・倦怠感
リーキーガットとの関係が指摘されている病気
次に示す病気は、リーキーガットとの関連性を指摘されています。因果関係がはっきりしているものもあれば、可能性が指摘されているという状態のものもあります。
自己免疫疾患
人間には、自分のからだを守るための免疫というしくみが備わっています。病原菌などが体内に入ると、免疫が働いて、病原菌を攻撃し、破壊します。ところが、この免疫が、誤って自分のからだの組織を攻撃してしまうのが、自己免疫疾患です。原因はわかっていません。
・セリアック病(小腸の細胞が自己免疫で破壊される)
・Ⅰ型糖尿病(膵臓の細胞が自己免疫で破壊される)
・多発性硬化症(神経線維が自己免疫で破壊される)
・クローン病
それ以外の病気
・慢性疲労症候群
・線維筋痛症
・関節炎
・食物アレルギー
・喘息
・多嚢胞性卵巣症候群
・自閉症
なぜリーキーガットになるのか?
リーキーガットになる原因はよくわかっていませんが、以下に示すような要因が絡み合っていると推定されています。
・遺伝的素因
・食物繊維が少なく、糖分と飽和脂肪酸が多い食事
・グルテンを含む食事
・大量のアルコール摂取
・ストレス
・特定の種類の薬(NSAIDs、プロトンポンプ阻害薬、抗生物質など)
・放射線療法
・一部の食品添加物
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小麦グルテンとリーキーガットの関係
腸のバリア機能の一つである細胞間接着装置は、腸管上皮細胞のすき間を狭くすることで、異物の透過を防いでいます。
ゾヌリンというたんぱく質は細胞間接着装置を緩めることで、腸の透過性を高めますが、実はグルテンがゾヌリンの腸内での放出を高めることが知られています 2)。
特にグルテンが原因で起きる自己免疫疾患であるセリアック病の人は、ふつうの人と比べるとゾヌリンの濃度が高いこともわかっています 3)。一方、セリアック病でない人に対しては、グルテンが腸の透過性を増加させたという研究例と、腸の透過性には影響がなかったという研究例があり、結論が得られていません。
グルテンはゾヌリンを活性化しますが、その結果、すべての人の腸透過性が増加するわけではないというのが、現時点でわかっていることです。
リーキーガットにならないためには
リーキーガットという症状が存在し、それが正常な状態でないことは、多くの医師が認めています。そういう意味からはリーキーガットは、病気といえそうです。
しかし、リーキーガットの原因や発生メカニズムはおろか、定義も診断基準もはっきりしていないので、病院でリーキーガットだと診断されることはほぼないと思います。
一方で、特定の食事やライフスタイルを変えることによって、リーキーガットに関連する症状が緩和される可能性があります。
リーキーガットの原因となりうる食べものを控える
・アルコール
・加工食品
・アレルギーや過敏症を引き起こす可能性のある食品(グルテン、FODMAPs、乳糖、果糖)
・人工甘味料、食品添加物
腸内細菌叢を正常な状態に保つ
いま流行りのことばでいうと、腸活です。
・プロバイオティクス(善玉菌)の摂取
・プレバイオティクス(善玉菌のエサになる物質)の摂取
生活習慣の改善
・定期的な運動
・十分な睡眠
・ストレスを減らす
・禁煙
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まとめ
- リーキーガットとは、狭い意味では腸のバリア機能が低下によって、本来なら体に入らない物質が体内に入ることをいうが、広い意味では、腸内細菌叢の変化や免疫機能の低下も含めて、このような状態が起きることをいう。
- 腸には内側から粘液層、糖衣、細胞間接着装置の三重の物理的バリア機能と、粘液層や糖衣に存在する物質が、細菌に作用し、抗菌活性を発揮する化学的バリア機能がある。
- リーキーガットでは下痢、便秘、腹部膨満(鼓腸)、倦怠感、頭痛、錯乱、集中力の低下、にきび、発疹、湿疹といった多様な症状が現れる。また多くの自己免疫疾患や慢性疲労症候群、線維筋痛症、食物アレルギーとの関係も指摘されている。
- リーキーガットの原因は不明だが、遺伝的素因、食物繊維が少なく、糖分と飽和脂肪酸が多い食事、アルコール摂取、ストレス、特定の種類の薬やグルテンが関係しているといわれている。
- ゾヌリンというたんぱく質は細胞間接着装置を緩めることで、腸の透過性を高めるが、グルテンがゾヌリンの腸内での放出を高めることがわかっている。ただゾヌリン濃度の増加によって、すべての人で腸の透過性が増加するわけではない。
- リーキーガットの治療法としては、リーキーガットを引き起こすと考えられる食事を控える、腸内細菌叢を整える、生活習慣を改善することか有効とされている。
参考文献
1) 奥村龍、粘膜バリアによる腸内細菌と腸管上皮の分離, J. Jpn. Biochem. Soc., 89 (5) 731-734 (2017)
2) Fasano A. Zonulin, regulation of tight junctions, and autoimmune diseases, Ann N Y Acad Sci., 1258 (1) 25-33 (2012)
3) Drago S, et. al., Gliadin, zonulin and gut permeability: Effects on celiac and non-celiac intestinal mucosa and intestinal cell lines, Scand J Gastroenterol. 41 (4) 408-419 (2006)