最近、グルテンがいろんなからだの不調に関係しているという研究結果が出ています。病気というほどではないのですが、ときどき、繰り返し、不快な症状が起きるようです。命に関わることはほとんどないため、見過ごされがちですが、原因がわからない慢性的な体調不良ほどつらいものはありません。グルテンが原因かどうか、確認してみませんか。
グルテンの特性
グルテンは、小麦などに含まれる、ちょっと変わったたんぱく質です。たんぱく質は、肉、魚、乳製品、卵、大豆などにも含まれていますが、グルテンは、これらのたんぱく質とは異なる特性を持っています。具体的に説明しましょう。
伸びやすく、弾力があり、粘着性がある
これは、パンやめん類を作る際に欠かせない性質です。米粉パンやそばを作るときに、わざわざグルテンを添加することもあります。
消化酵素で分解されにくい
たんぱく質の中で特に消化されにくいのがグルテンです。消化されなかったグルテンは、大腸で腸内細菌によって分解されてガスに変わるため、腹部膨満や腹痛の原因になります。
アレルギー反応・炎症反応を起こす
分解されずに体内に入ったグルテンは、アレルギー反応や炎症反応を起こします。その結果、作られる炎症性サイトカイニンという物質が、からだのあちこちで、いろんな症状を起こします。
腸のバリア機能を壊す
グルテンは小腸でゾヌリンという物質の分泌を促し、腸の細胞と細胞の間のすき間を広げて、バリア機能を壊すことがわかっています。この状態をリーキーガットといいます。
このような特性が、からたの不調を引き起こす原因になります。
こんな不調はありませんか
グルテンは小麦に含まれているため、グルテンによる不調は、小麦を使った食べものを摂ることで起きます。食べものが原因なんだから、グルテンの影響は胃腸に現れると思われがちですが、必ずしもそうではありません。グルテンの影響は、腸と脳を通じて、全身に及びます。
グルテンが関わっている可能性がある症状を、症状が現れる部位別に紹介します。
◎ は確定、○ は可能性が高い、△ は可能性があるといわれているものです。個別の病気・症状については、このサイト内にその根拠となった医学論文とあわせて詳しく解説していますので、心当たりがある方はそちらも合わせてご覧ください。
神経症状
◎ なんだか頭の中がもやもやしていることがある(ブレインフォグ)
◎ 突然、考える速度が落ちたような気がすることがある
◎ よく寝ても、疲れが取れないことがある(慢性疲労)
○ 手足の決まった部位が、ときどきしびれたり痛くなる
○ 手足のだいたい同じ関節が、ときどき痛くなる
△ 抑うつ状態になることがある、またはうつ病と診断された
△ 統合失調症と診断された
△ 注意欠如・多動症(ADHD)と診断された
消化器症状
○ 腹部膨満(=ガスが溜まる)、腹痛、下痢がよく起きる
○ 胃腸が弱い(=胃腸虚弱である)と感じている
△ 過敏性腸症候群(IBS)と診断された
皮膚症状
△ 手足に湿疹ができることが多い
△ ちゃんとスキンケアしてもニキビ、肌荒れが治らない
△ 原因不明の抜け毛、薄毛や脱毛が起きる
△ アトピー性皮膚炎と診断された
女性特有の症状
○ 鉄欠乏性貧血と診断された
△ 生理前症候群(PMS)と診断された
△ 子宮内膜症と診断された
その他
○ 小麦を含むものを食べるとアレルギー症状が出る
△ 更年期障害の症状が重い
病気やからだの不調は、さまざまな外的要因と、もともと持っていた遺伝的素因が複雑に絡み合って起こります。そのためグルテンだけが原因で、病気になったり、不快な症状が出たりするわけではありません。同じようにグルテンを含む食べものを摂っていても、症状が出る人と出ない人がいます。
グルテンが体調不良の原因なら、もっと騒がれるはずでは
わたしたちは小麦を使った食べものを、毎日のように食べているので、グルテンが原因でからだの不調が起きるなんて信じられない、という方が多いのではないでしょうか。それにグルテンがそんなに有害なら、なぜマスコミはもっと騒がないのだろうと。
その理由は、3 つあります。
グルテンの悪影響は最近になってわかってきた
さまざまなからだの不調にグルテンが関わっているという研究報告が出始めたのは、最近のことです。小麦アレルギーは昔から知られていましたが、グルテンが原因で起きる自己免疫疾患であるセリアック病の診断基準ができたのは、2013 年です。セリアック病の患者数は人口の 1 %といわれており、決して珍しい病気ではありません。また非セリアックグルテン過敏症という病気は人口の 0.5~ 13 % いるといわれており、セリアック病より多くの患者さんがいる可能性があります。数値に幅がある理由は、診断基準が決まっていないからです。
グルテンが原因で起きる病気の研究が精力的に行われるようになったのは、つい最近のことです。いまでは年間 1,000 報を超える医学論文が出ていますが、日本人が書いた論文はわずかです。またこれらの内容が日本で紹介されることは少ないようです。
グルテンの影響を受けない人の方が多い
グルテンの影響を受ける人は 6 人に 1 人くらいいるという報告もありますが、それでも 6 人中 5 人は影響を受けません。すべての人に有害なものは、当然規制されますが、一部の人にしか影響がない場合は、基本的に規制されることはありません。ちなみに小麦アレルギーの患者さんは人口の 0.3 % くらいですが、小麦粉や小麦製品の販売は規制されていません。
グルテンフリーはダイエット法という誤った認識
グルテンを含まない食事法であるグルテンフリーが、海外のセレブの間で流行したこともあり、グルテンフリーをダイエット法と思っている人も多いようです。
もともとグルテンフリーは、セリアック病の人の食事療法でしたが、健康法として取り入れる人が増え、結果的にダイエット効果があったことから、日本ではグルテンフリーダイエットなどという、わけのわからないことばが浸透してしまいました。そして、いまは、そのブームも終わってしまいました。痩せることが目的なら、別の食事法の方が確実に効果が上がります。
現在、アメリカ人の 3 人に 1 人が、グルテンフリー食品を食生活に取り入れているそうですが、それは、ここで紹介しているからだの不調を避けて、健康で長生きするためであり、ダイエットが目的ではありません。
まずはグルテンを抜いて症状が改善されるか確認
みなさんは、心当たりがある症状はありましたか。もしあったら、グルテンを抜いて、その症状が消えるかどうか、確認してみませんか。決して難しいことではありません。グルテンが含まれるものを摂らないだけです。
グルテンフリーの食生活に変えた後、2~3 日で改善する症状もあれば、完全に消滅するために 1 年近くかかる症状もあります。消化器症状だけの場合は、2 週間、グルテンフリーの生活をすれば、グルテンが原因かどうか、わかります。これに対して神経症状は、グルテンフリーにしてから、その症状が消えるまでに最長 1 年かかったという報告もあります。
症状や他の要因によって異なるため、確実なことは言えませんが、まずは 4 週間を目標にチャレンジしてみてください。
グルテンフリーの食生活にチャレンジするとき、完全なグルテンフリーにする必要があるのは、小麦アレルギーとセリアック病の疑いがある場合だけです。それ以外の方は少量のグルテンが含まれる食品は必ずしも避ける必要はありません。例えば次のようなものです。
- しょうゆ、みそ、酢、和風だし、洋風だし、中華調味料など
- 上記を使った総菜、加工食品
- 麦茶、ビール
これだけで、食べられるものが格段に増えるはずです。あなたのこれからの人生が、より健康で快適なものになるかもしれません。ぜひチェックしてみてください。
まとめ
- グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質。他のたんぱく質とは違った特性を持つ。
- グルテンが関わっている可能性がある症状はたくさんある。消化器症状だけでなく、神経症状や皮膚症状もある。
- グルテンの悪影響は最近になってわかってきた。またグルテンの影響を受けない人の方が多いことから、日本ではあまり取り上げられない。