小麦粉の価格高騰で、米粉パンがマスコミで取り上げられる機会が増えました。先日もNHKのあさイチで、生米パンの紹介がありましたが、米粉パンと生米パンは、作り方が全く異なります。米粉パン、お米パン、生米パン、グルテンフリーパンの違いを整理しました。また、グルテンフリーパンの出来栄えに影響するでんぷんについても、説明します。
米粉パンは米粉から作ったパン
お米を使ったパンを表す言葉で、最も浸透しているのが「米粉パン」です。通常、パンは小麦粉(強力粉)を使って作られますが、米粉パンは、原料の小麦粉の一部または全部を米粉で置き換えたものです。
米粉パンと名の付くものには、いろいろありますが、大きく分けると、次の 4 種類があります
① 小麦粉の一部を米粉で置き換えたパン
② 小麦粉を使わず米粉を使っているが、小麦グルテンを添加したパン
③ 米粉に他のでんぷんや増粘剤等を加えて作ったパン
④ 米粉と糖質、塩、食用油、イースト菌だけで作ったパン
このうち、小麦成分を含まず、グルテンフリーと呼べるのは ③ と ④ だけですが、世の中には ① と ② の方が多いのです。
パンを作るために、小麦粉の中でも主に強力粉が使われるますが、それは小麦粉に含まれるグルテンの量が多いためです。パンはイースト菌(パン酵母)で生地を発酵させますが、グルテンがあるおかげで、イースト菌が作るガスを生地の内部に貯めこむことができるので、生地が膨らみ、ふっくらとしたパンを作ることができます。米粉にはグルテンが含まれていないので、発酵したとき、生地はあまり膨らみません。そのため、米粉 80 % に対し、小麦グルテンを 20 % 添加するのが一般的です。
米粉パン専門店で、米粉 100 % パンとして売られている商品の中にも、グルテンが添加されていることがよくあるので、小麦アレルギーやグルテンに弱い体質の人は注意が必要です。
お米パン、生米パンはお米から作ったパン
お米パンや生米パンは、米粉ではなく、お米から作られるパンです。ただ生のお米をそのまま小麦粉の代わりに使っても、パンにはなりません。
お米の主成分はでんぷんです。でんぶんは、グルコースという物質が鎖状につながってできていますが、生のお米のでんぶんは、でんぷんの鎖と鎖がしっかりとくっついており、人間の消化酵素で分解することができません。生のお米をそのまま食べたら下痢するのは、このためです。
お米パンや生米パンを作るときには、最低でも 2 時間、できれば一晩、お米を水に漬けて、でん粉の鎖の間に水分子を入れて柔らかくします。これを糊化(あるいは、アルファ化)といいます。
ところで、お米を短時間で完全に糊化した状態が「ごはん」です。ごはんはそのまま食べられますね。これはでんぷんの鎖と鎖の間隔が広がることで、でんぷんの鎖に消化酵素が作用して分解することができるためです、またでんぷんの鎖の間隔が広がり、その間に水分子が入るので、やわらかくなります。
お米を水に漬けただけでは、完全な糊化は起こっていませんが、元の状態よりはでんぷんの鎖と鎖の間隔が広がっています。これを水切りしたのちに、ミキサーやミルサー(粉砕機)で細かくして、塩、砂糖、食用油、お湯、パン酵母を加えると、パン生地を作ることができます。
ここから後は、小麦パンや米粉パンと同じです。生地を発酵させ、オーブンなどで焼くことで、パンができ上ります。
お米パン、生米パンには、精米・洗米したお米を使いますが、中には玄米を使っているパンもあります。まだ食べたことがありませんが、ぜひ味わってみたいものです。
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グルテンフリーパンの原材料はいろいろ
グルテンフリーパンは、小麦粉やグルテンを含まないパン全体を指します。日本ではグルテンフリーパン=米粉パンというイメージが強いですが、大豆粉を使ったパンや、米粉に大豆粉、コーンスターチ、片栗粉(じゃがいもでんぷん)、タピオカでんぷん、ホワイトソルガム粉を混ぜて作ったパンなど、さまざまなものがあります。
ちなみにグルテンフリーが普及しているアメリカでは、グルテンフリーパン用のミックス粉が市販されており、原料としてホワイトソルガム粉、じゃがいもでんぷん、コーンスターチ、タピオカでんぷんなどがよく使われています。さらに全粒粉の摂取が推奨されているため、ホワイトソルガムの全粒粉や玄米も使われ、パンの色も濃い茶色をしていることが多いです。
米粉パンの出来栄えは原料の米粉の性質に左右される
米粉は、文字通り、お米を粉にしたものですが、実は日本で昔から使われてきたお米の粉では、米粉パンは作れません。
お米から作った粉には、いろいろな種類があり、用途によって使い分けられてきました。
まず、お米には、ごはんとして食べる「うるち米」と、お餅の原料なる「もち米」があります。「うるち米」を細かく粉にして作った「米穀粉」は、目の粗い順に、並新粉、新粉、上新粉、上用粉、米粉と分かれます。スーパーに行くと、「上新粉」という名前の粉が売っていますが、これも広い意味での「米粉」です。しかし、上新粉を小麦粉の代わりに使ってパンを焼いても、うまく作れません。後で説明しますが、米粉パンには、米粉パン用の米粉を使う必要があります。
一方「もち米」を粉にした米穀粉には、もち粉(=求肥粉)、白玉粉(=寒ざらし粉)、上南粉(=極微塵粉)、新引粉(=イラ粉)、微塵粉(=寒梅粉)、道明寺粉など、さまざまな種類があります。米粉パンの材料としては、あまり使われません。
でんぷんには、アミロースとアミロペクチンの2種類がありますが、うるち米はアミロースとアミロペクチンの割合が2:8ですが、もち米はアミロペクチンだけです。アミロペクチンが多いと粘り気が強くなるので、もち米を原料にしてパンを作ると、パンではなくお餅になってしまいます。
農林水産省は、パン作りに適した米粉の指標を公表しています 1)。それによると、
- 粉の細かさは粒径 75 µm 以下のものの比率が 50 % 以上
- でんぷんの損傷度は 10 % 未満
- アミロース含有率 15 % 以上 25 % 未満
まず粉の粒径が大きいと、パンがうまく膨れません。昔から和菓子などの原料として使われてきた、並新粉、新粉、上新粉、上用粉などは、パン作りには適さないのです。
次に注目すべきは、でんぷんの損傷度です。お米の粒の中ででんぷんは、非常に小さい顆粒の状態で存在していますが、お米を粉にする際に、その顆粒が傷つけられてしまいます。でんぷん粒が傷つけられると、パンがうまく膨れないことがわかっています 2)。
お米を粉にする方法はいろいろありますが、その中で湿式製粉という方法を使うと、でんぷん粒が壊れにくいことがわかっています。また、お米の品種によっても、でんぷん粒の損傷のしやすさに差があるようです。
国内では複数の製パン用米粉が出回っていますが、メーカーによって製粉の仕方や、使われているお米の品種が異なります。A 社の米粉ではうまく作れたのに、B 社の米粉ではうまくいかなかった、なんてことがよくあるのは、このためです。
まとめ
- 米粉パンはパンの原料となる小麦粉の一部または全部を米粉で置き換えたもの。米粉 100 % と表示された米粉パンでも、米粉に小麦グルテンを加えている場合がある。グルテンがあると、生地を発酵したときにイースト菌が作るガスを、生地の内部に貯めこむことができるので、ふっくらしたパンができる。
- お米パン、生米パンは、お米を水に漬けてお米のでんぷんを糊化させたのち、ミキサー等で細かくして、生地の原料にしたもの。
- グルテンフリーパンは、小麦粉やグルテンを含まないパン。米粉以外に、大豆粉、ホワイトソルガム粉、コーンスターチ、片栗粉、タピオカでんぷんなどをミックスして原料として使う。
- 米粉パンには、米粉の粉の細かく、でんぷん粒が壊れておらず、アミロースが約 20 % 含まれている米粉が適しているといわれる。製パン用の米粉として、うるち米を湿式製粉したものが市販されているが、メーカーによってお米の品種や製粉条件が異なるため、パンを作ったとき、出来栄えに差が出る。
参考文献
1) 農林水産省、「米粉の用途別基準」及び「米粉製品の普及のための表示に関するガイドライン」の公表について、平成 29 年 3 月 29 日
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/attach/pdf/index-56.pdf
2) 農研機構、損傷デンプンの量と米粉の形状は米粉の製パン性に影響する
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/warc/2006/wenarc06-14.html