グルテンフリーパンは、お店によって、味と食感が全然違います。これは原材料や作り方を独自に工夫しているからです。食品添加物を使うと、小麦粉のパンに近い味や食感が得られるので、一部のお店では使っているようです。グルテンフリーパンに使われる食品添加物にはどんなものがあり、人体にどのような影響があるのかについて解説します。
グルテンフリーパンは美味しくない!?
グルテンフリーのパンのことを、日本では米粉パンと呼ぶことが多いと思います。これは小麦粉を米粉で置き換えることによって、グルテンフリーにしているからです。
グルテンフリーのパンは海外にもありますが、米粉以外に、トウモロコシ、ソルガムなどの穀物粉、大豆、ひよこ豆、エンドウ豆などの豆類の粉、じゃがいも、キャッサバから採ったでんぷんなどが使われれています。ただ、原材料として最もよく使われるのは米粉とトウモロコシでんぷん(コーンスターチ)のようです。
小麦粉を単に別の粉で置き換えただけでは、小麦粉のパンに近いものはできません。グルテンフリーの食生活が定着している欧米では、多くの人がグルテンフリーパンを食べていますが、7 割の人が、味と食感に不満を持っているそうです 1)。どのような原材料で作ったとしても、小麦粉を使わないグルテンフリーパンは、小麦粉のパンに比べて固く、劣化する速度が速いといわれています。
そのため、美味しく、保存性のよいグルテンフリーパンを作るための研究が世界中で行われており、過去 10 年で 400 を超える研究論文が出ています。そして、これから説明する成分を加えることで、グルテンフリーパンの味、食感、保存期間を改善する効果があることが証明されており、一部はすでに使われています。
サイリウム(オオバコ)
サイリウムは植物の種子の殻
サイリウム(psyllium)とは、オオバコ属(Plantago spp.)の植物の種子の殻を粉末状にしたものです。オオバコは、日本でも道端などでよく見られる雑草ですが、グルテンフリーパンに使われるサイリウムはヨーロッパやインドで栽培されたブロンドサイリウム(種名:Plantago ovata(プランタゴ・オバタ))という植物の種子から作られており、日本で手に入るものは、すべて輸入品です。
なお、国産品と表示したものがネット通販などで手に入りますが、これは輸入した原材料を、国内で加工して粉末したという意味で、国内で栽培したわけではありません。
サイリウムの粉に水を加えて混ぜると、透明なゼリー状になります。これはサイリウムに含まれる多糖類が水と結びついて、粘性を持つためです。グルテンフリーパンの生地にサイリウムを入れると、小麦粉のパンに近いものができることは以前から知られており、海外ではグルテンフリーパンや、グルテンフリーパン用のミックス粉で、よく使われています。
グルテンフリーパンにサイリウムを加えて、パンの品質と貯蔵寿命を調べた 2021 年の研究によると、小麦粉のパンに比べて 8 倍の固さであったグルテンフリーパンが、穀物粉に対して 17 %(重量比)のサイリウムを加えることによって、パンの構造、外観、質感、受容性が改善され、特に固さが 65〜75 % 減少したとのことです 2)。
さらに 72 時間後でも香り、食感、風味の点で、許容できるものであると判断され、サイリウムの添加によって、パンの劣化速度を遅らせることが証明されています。
海外で販売されているグルテンフリーパンにサイリウムがよく使われるのは、クリーンラベルの表示ができるためです。クリーンラベルとは、可能な限り少ない成分を使用して作られた製品を指すもので、健康志向や環境意識の高いヨーロッパでは、クリーンラベル製品を求める傾向があります 3)。後で説明する HPMC や CMC を添加した場合、クリーンラベルの表示はできません。
市販されているグルテンフリーパンにサイリウムがどれくらい入っているのかわかりませんが、パンを軟らかくするとともに、劣化速度を遅らせる効果が高いことは間違いないようです。
サイリウムは食品添加物(既存添加物)
日本でサイリウムは、どのような扱いになっているのでしょうか。サイリウムは 食品添加物(既存添加物)です。食品添加物は厚生労働大臣が指定するものですが、既存添加物は長い食経験があることを理由に、例外的に大臣の指定を受けることなく使用・販売が認められたものです。食品添加物の中でも、比較的安全なものと考えてよいでしょう。
それでも食品添加物ですので、加工食品に含まれる場合は、必ず表示しなければなりません。その際、「サイリウムシードガム」、「サイリウムハスク」、「サイリウム」のいずれかの表記しか認められていません。「オオバコ」、「オオバコ粉末」といった表記をたまに見かけますが、食品衛生法違反になる場合があります。
サイリウムは安全か
サイリウムは植物由来・天然由来で、海外で広く使われているから安全だ、という説明もあるようですが、植物由来・天然由来であることと、安全であることは、何の関係ありません。自然に生えている毒キノコは、植物由来・天然由来ですが、安全ではないですよね。
まずサイリウムは下剤としても使われる成分です。どういうことかというと、サイリウムの主成分は食物繊維で、人間の体内で消化・吸収されず、腸内で水分を吸収して膨らみ、腸を刺激します。
大量に摂取すると、体質によっては下痢を起こす可能性があります。また摂取されたサイリウムは腸内細菌によって急速に分解されて、ガスが発生することがあるので、腹部膨満が起きやすい人は、要注意です。
さらにサイリウムによる食物アレルギー(即時型アレルギー)も報告されています。これはサイリウムの粉末を繰り返し扱うことによって起きるもので、小麦によるベーカー喘息とよく似ています。日本でも 1997 年に厚生労働省から注意喚起の通知が出ています 4)。
グルテンフリーパンを食べるのは、小麦アレルギー、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症、過敏性腸症候群など、健康上の理由から小麦やグルテンを避けている人が多いです。このうち、非セリアックグルテン過敏症と過敏性腸症候群では、消化器症状がよく見られるので、腹部膨満、下痢、腹痛を引き起こす可能性があるサイリウムは避けるべきです。特にやわらかいグルテンフリー米粉パンで、食品添加物の欄の最初の方に、サイリウムが記載されている場合は、多く使われている可能性があるので、要注意です。
また、すでに説明したようにサイリウムがアレルゲンとなって、小麦アレルギーと似たメカニズムで即時型アレルギーが起きることがわかっています。小麦アレルギーの人や、それ以外の食物アレルギーをお持ちの方は、念のため摂取を控えたほうがよいと思います。
HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)
HPMC はおがくずを分解し化学反応したもの
HMPC も、グルテンフリーパンに比較的よく使われる食品添加物です。HPMC も植物由来・天然由来と表示されていることがあります。確かに植物由来には違いがありませんが、もともと人間が食べない、木材の「おがくず」などが原料です。植物由来と名乗っているものの中には、このようなものもあることを、ぜひ覚えておいてください。
サイリウムは植物の種子の皮を単に粉末にしただけでしたが、HPMC は化学反応によって作られています。
作り方を簡単に説明しますと、最初におがくずなどからセルロース繊維(パルプ)を取り出します。セルロース繊維(パルプ)は紙の原料になるもので、人間の髪の毛の 1/4 ~ 2/3 の細さの繊維です。セルロース繊維は水には溶けませんし、人間が食べても消化できません。
このセルロース繊維の表面には水酸基(-OH)がたくさん存在しますが、この一部を化学反応によって、メチル基(-CH3)とヒドロキシプロピル基(-CH2CHOHCH3)に置き換えたものが、HMPCです。HPMCは、メチル基とヒドロキシプロピル基のおかげで水に溶けるようになり、増粘剤として使うことができます。
HPMCを作る際の化学反応で使われるのが、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、塩化メチル、酸化プロピレン、酸化エチレンなどの化学薬品です。最終製品であるHPMCには残っていないといわれますが、できれば使いたくない化学薬品です。
HPMCは食品添加物(指定添加物)
HPMC も食品添加物ですが、サイリウムが既存添加物であるのに対し、HPMC は指定添加物です。指定添加物とは、食品衛生法に基いて、厚生労働大臣が使用してよいと定めた食品添加物です。HPMC が使われるようになったのは比較的最近のことです。2003 年に食品添加物として認可され、2007 年から安定剤、増粘剤として広く利用できるようになりました。
小麦粉にはグルテンというたんぱく質が含まれており、小麦粉に水を加えてこねることで、生地の中に伸縮性のあるネットワーク構造を作ります。グルテンフリーのパンではこれがないため、発酵のときに酵母が作った炭酸ガスが生地の外に出てしまい、パンが膨らみません。HPMC を生地に加えると、グルテンのようなネットワーク構造ができ、生地が膨らむため、ふっくらとした柔らかいパンができます。
また HPMC は水と結合としやすい性質があります。パンは製造直後から水分の蒸発が始まり、どんどん固く、パサパサになっていきます。HPMC を加えたパンは、HPMC が水分をしっかりつかんで逃さないため、しっとりしており、また乾燥して劣化する速度を遅くすることができます。お店にとっては、消費期限を延ばし、流通コストを抑えるメリットがあります。
HPMC の添加量は、原材料(主原料、副原料)の種類、水分添加量によって最適値が変わるので、日本で販売されているグルテンフリー米粉パンに HPMC がどれくらい添加されているのかはわかりませんが、さまざまな研究報告から推定すると、 0.1 ~ 2 % の間で添加されていると思われます。
HPMCは安全か
HPMC は指定添加物として広く使われるようになるにあたって、さまざまなテストが行われました。それによると、口から入った HPMC はほとんど体内に吸収されず、遺伝毒性、発がん性、生殖発生毒性もなかったとのことです 5)。ただ、難消化性食物繊維を大量摂取した際に見られるような、軟便等の軽微な症状が見られるそうです。
HPMC は健康な人が摂取する場合、健康上の問題はなさそうですが、非セリアックグルテン過敏症や過敏性腸症候群のように、腹部膨満、下痢、腹痛を起こしやすい人が食べることが多いグルテンフリーパンに使うのは、いかがかと思います。非セリアックグルテン過敏症や過敏性腸症候群の人は、HPMC が使われている食品は避けたほうがよいでしょう。
CMC(カルボキシメチルセルロース)
CMC-Na と CMC-Ca の2種類がある
CMC は HPMC よりも広く使われている食品添加物で、CMC-Na(カルボキシメチルセルロースナトリウム)とCMC-Ca(カルボキシメチルセルロースカルシウム)の 2 種類があります。この 2 種類には使用するにあたって大きな違いはなく、どちらも増粘剤、乳化剤、安定剤としてさまざまな加工食品で使われています。
CMC の製造方法は HPMC とほぼ同じで、おがくずなどから取り出したセルロース繊維(パルプ)に苛性ソーダやモノクロロ酢酸などの化学薬品を反応させて作られます。
この CMC にも、HPMC と同様、グルテンフリーパンの生地を膨らませる効果や、水分を保持してパン劣化を防ぐ効果があることが報告されています。添加量についても、HPMC と同様、0.1 ~ 2 % の範囲と推定されます。
なお筆者は国内で製造されるグルテンフリーパンに CMC が使われている例は知りませんが、後で述べるように、日本ではナノ化した CMC を焼き菓子やパンに使う動きがあります。
CMCは食品添加物(指定添加物)
CMCも、HPMC と同様、指定添加物です。
CMCは安全か
口から入った CMC は体内に吸収されず、遺伝毒性、発がん性、生殖発生毒性もないから安全というのが、一般的な見解です。ところが、最近になって CMC が腸内細菌叢、腸の粘膜バリア、炎症メカニズムに影響することで、炎症性腸疾患(IBD)、大腸がんや、メタボリックシンドロームや肥満を引き起こしている可能性が高いという研究報告が出ています。
日本ではグルテンフリーパンに CMC が使われているケースはほとんどないと思われるので、ここでの詳しい説明は省略します。関心のある方は別のサイトに詳しい説明があるので、ご覧ください。
カルボキシメチルセルロース(CMC)は増粘剤、乳化剤、安定剤として多くの加工食品で使われています。木材パルプの成分である…
一方、ここ数年、ナノサイズ化したCMCを食品添加物として焼き菓子やパンに使う動きがあります。これまで説明してきた CMC や HPMC は、人間の髪の毛の 1/4 ~ 2/3 の細さのセルロース繊維を化学処理して作っています。ところが大手製紙メーカーの日本製紙は、繊維の細さをさらに 1/200 ~ 1/1000 に細かくしたCMCを開発し、CM化CNF(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)として、食品添加物や化粧品原料として売り込んでいます。ナノサイズ化された CMC の太さは、数ナノメートルから数百ナノメートルということで、いわゆる「ナノ物質」に該当するものです。
同社のホームページによると、「CM 化 CNF を食品に添加することで、CNF の粘性や保水性、保形性により、食品に新しい特徴を持たせることが期待できます。」とあり、食品衛生法上は「カルボキシメチルセルロースナトリウム」と表示すればよいと言っています 6)。
ただ、消化管に入った CMC が体内に吸収されないというのは、セルロース繊維と同じ太さの CMC についての話であって、それを 1/200 ~ 1/1000 にすると、腸管壁を通り抜ける可能性があります。この点についてテストが行われ、人体に影響がないことが確認されたという説明はないようです。ちなみにナノサイズの CMC を食品添加物として使っているのは、日本だけです。もし食品添加物として CMC が使われている場合は、注意した方がよいでしょう。
チアシード
スーパーフードとして有名になったチアシード
チアシードは中米原産のシソ科のチアという植物の種子で、オメガ 3 脂肪酸を多く含むことから、スーパーフードとして注目されています。無味無臭ですが、水に漬けると水分を吸収し、ゼリー状の物質に変わります。これはチアシードに多く含まれる多糖類が水と結合し、ゼリー状になるからです。そのまま食べたり、飲み物に加えたりして食べられています。
グルテンフリー米粉パンの生地に 5 ~ 14 % のチアシードを粉状にしたものを加えた 2017 年の研究では、いずれもパンの食感が改善され、加えない場合に比べ、脂質、たんぱく質、食物繊維の含有量が増加したと報告されています 7)。
発酵のときに発生するガスをパン生地内部に閉じ込める効果はあまりありませんが、水分を保持する効果が高いので、出来上がったパンはしっとり、やわらかくなります。このほかチアシードには、脂質、たんぱく質、食物繊維が含まれているため、グルテンフリー米粉パンの栄養的価値を高める効果もあります。
チアシードは食品でおおむね安全
チアシードは食品添加物ではなく、食品です。グルテンフリーパンの原材料として使うときには、原材料欄の「/」より前に記載されます。
チアシードは長い間食品とて使われてきたもので、安全と考えてよいでしょう。ただチアシードの 40 % を占める食物繊維は、人間が消化・吸収できません。非セリアックグルテン過敏症や過敏性腸症候群で、腹部膨満、腹痛、下痢の症状が見られる人は、摂り過ぎないように注意が必要です。
これ以外にもさまざまな食品添加物が
これまでに説明した物質以外にも、さまざまな食品成分や添加物を入れることで、グルテンフリー米粉パンの味、形状、食感、保存性が改善されることがわかっています。主なものと添加することで得られる効果を簡単に紹介します。なおこれらは小麦粉から作られる従来のパンにも使われることがあります。
食物繊維
・食感の改良
・比容積の増大(膨らませる)
・水分保持量の増大
・賞味期限の延長
・栄養的価値の改善
酵素製剤
・香りの改善
・比容積の増大(膨らませる)
・賞味期限の延長(でんぷんの老化の防止)
乳化剤
・食感の改善
・加工性の改善(生地の付着防止)
増粘多糖類(キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアガムなど)
・比容積の増大(膨らませる)
・水分保持量の増大
・食感の改良
・賞味期限の延長
たんぱく質
・焼き色の改善(きつね色にする)
・栄養的価値の改善
サワードウ(乳酸菌と酵母を主体としたパン種)
・食感の改良
・賞味期限の延長(でんぷんの老化の防止)
まとめ
- サイリウムはオオバコの種子の皮を粉状にしたもの。グルテンフリーパンに加えることで、パンが膨らみ、柔らかくなる。またパンの劣化速度を遅らせることができる。
- HPMC はおがくずなどを化学処理したもので、指定添加物。健康な人が摂取する場合、問題はないといわれている。
- CMC もおがくずなどを化学処理して作る指定添加物。さまざまな食品に使われているが、近年、消化器に悪影響を与えるという研究報告がある。
- チアシードはチアという植物の種子で、スーパーフードとして注目される。パンの食感を改善し栄養的価値を高める効果がある。
参考文献
1) Šmídová Z, Rysová J. Gluten-Free Bread and Bakery Products Technology. Foods. 2022; 11(3):480. Published 2022 Feb 7. doi: 10.3390/foods11030480
2) Fratelli C, Santos FG, Muniz DG, Habu S, Braga ARC, Capriles VD. Psyllium Improves the Quality and Shelf Life of Gluten-Free Bread. Foods. 2021; 10(5):954. Published 2021 Apr 27. doi: 10.3390/foods10050954
3) Asioli D, Aschemann-Witzel J, Caputo V, et al. Making sense of the “clean label” trends: A review of consumer food choice behavior and discussion of industry implications. Food Res Int. 2017; 99(Pt 1):58-71. doi: 10.1016/j.foodres.2017.07.022
4) 厚生労働省、サイリウム種皮、サイリウムシードガム等サイリウムを含む食品又は添加物によるアレルギーの報告について、平成 9 年 12 月 26 日
https://www.ffcr.or.jp/tsuuchi/1997/12/6B0F2EACDC1652D7492565F300275200.html
5) ヒドロキシメチルプロピルセルロースの使用基準改正に関する添加物部会報告書(2006
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/12/dl/s1218-4e.pdf
6) 日本製紙、製品情報:セルロースナノファイバー(CNF):cellenpia
https://www.nipponpapergroup.com/products/cnf/
7) Sandri LTB, Santos FG, Fratelli C, Capriles VD. Development of gluten-free bread formulations containing whole chia flour with acceptable sensory properties. Food Sci Nutr. 2017; 5(5):1021-1028. Published 2017 Jun 26. doi: 10.1002/fsn3.495