グルテンに感受性が高い人は、そうでない人に比べて更年期障害の症状が重いことがわかっています。また、グルテンを摂ることで、更年期障害と似た症状が現れる人もいます。さらに海外ではグルテンフリーにすることで、更年期障害の症状が緩和されたという実績があります。メカニズムは一部未解明ですが、試してみてはいかがでしょうか。
ほとんどの人が経験する更年期障害
加齢とともに、ホルモンの分泌量が低下することによって起こるさまざまな症状をまとめて、更年期障害といいます。
更年期障害はほとんどの人が経験するもので、男性にも起こります。ただ女性の場合は閉経の前後でエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量が急激に減少することで、からだとこころの両方にさまざまな不調が現れます。症状の種類や程度には個人差が大きく、また仕事や家庭環境も複雑に絡むので、対処法も一つではありません。
女性の更年期障害で見られる症状には、次のようなものがあります。からだのありとあらゆるところに、症状が現れます。
精神神経系の症状
- 耳鳴り
- 頭痛
- めまい
- イライラ
- 不安感
- うつ
- 不眠
- 無気力感
循環器系の症状
- のぼせや顔の火照り(ホットフラッシュ)
- 頻脈
- 動悸・息切れ
- 寝汗
- 血圧の変動
- むくみ
運動器官系の症状
- 肩こり
- 腰痛
- 関節痛
- しびれ
- 手指の痛み・しびれ・変形
泌尿器・生殖器系の症状
- 月経異常
- 性交痛
- 尿失禁
- 膀胱炎
分泌系の症状
- ドライアイ
- 喉の渇き
消化器系の症状
- 吐き気
- 胸やけ
- 胃もたれ
- 下痢
- 便秘
グルテンと更年期障害の関係
最近、小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンが更年期障害に関係しているという話が、ちらほら聞かれるようになりました。
簡単にいうと、グルテンの影響で副腎疲労が起こり、その結果、副腎から分泌されるホルモンの分泌が不安定になる、というものです。
アメリカのグルテンフリー協会のウェブサイトや健康・医療系のウェブサイトにも同じような話が載っています。ただ、この関係については、はっきりとわかっていませんし、いろいろな情報が錯そうしているのも事実です。更年期障害とグルテンの関係について、現時点で医学的に明らかになっていることを整理しました。
セリアック病の人は更年期障害の症状が重い
セリアック病はグルテンが原因で起きる自己免疫疾患で、からだに入ってきたグルテンを排除するために、誤って自分の小腸細胞を破壊してしまうことで起きます。セリアック病では、グルテンフリー食を摂ることが、唯一の治療法です。
グルテンフリー食を摂っていないセリアック病の女性は、初潮の年齢が高く、閉経の年齢が若いため、ふつうの女性よりも出産可能期間が短いことがわかっています。また更年期障害の症状である火照りが 1.5 倍、関節痛が 2.2 倍、イライラが 1.6 倍多いという研究結果があります 1)。早期閉経や更年期障害の症状は、グルテンフリー食を導入することで、回避できます。
更年期障害の症状の一部はグルテン関連疾患でも見られる
グルテンが原因で起こる病気には、セリアック病のほかに非セリアックグルテン過敏症(NCGS)があります。セリアック病は遅延型アレルギー反応の一つである自己免疫疾患ですが、非セリアックグルテン過敏症(NCGS)の発生メカニズムはよくわかっていません。
このふたつの病気の共通点は、
- グルテンが原因で起こること。
- グルテンフリー食にすると症状が改善すること。
- 体質によって起こる人と起こらない人があること。
です。
それぞれの症状は次のようなものです。そのうち、太字で示した症状は、更年期障害でも見られるものです。
軽度かつ間欠性の下痢、脂肪便
疱疹状皮膚炎
もやもや感、疲労、関節痛、抑うつ、しびれ、平衡感覚喪失、湿疹、貧血、体重減少、発疹(吹き出物)、頭痛
グルテンによる副腎疲労が更年期障害を悪化させる
グルテンと更年期障害の関係でよくいわれるのか、グルテンが原因で副腎疲労が起き、その結果、更年期障害を悪化させるというものです。
まずグルテンが副腎疲労を起こす理由としてあげられているのは、主に、
- グルテンのために一部の栄養素が吸収できなくなった結果、血糖値が不安定になり、副腎疲労を起こす。
- グルテンを摂取したために体内に炎症性物質が増え、それが副腎に影響して副腎疲労を起こす。
の 2 つです。そして、副腎疲労を起こした結果、副腎皮質から分泌されるエストロゲンの分泌量か減り、更年期障害やPMSの症状を起こします。
わたしがアメリカの PubMed という医学・薬学関係の研究論文データベースをざっと調べたところでは、この説を裏付ける研究結果は見つかりませんてした。ただ、だからといって、この説が間違っているということではありません。あくまで個人的な感想ですが、私は正しいと考えています。
とりあえずグルテンを抜いて体調の変化を確認する
更年期障害はさまざまな原因が複雑に関係して起こるため、グルテンがどのように関わっているのかをきちんと解明することはかなり難しいと思います。きちんとした研究成果が得られるまでには、まだ何年もかかると思います。あなたはグルテンの関与が証明されてから、グルテンフリーを試しますか。
グルテンフリーで更年期障害の症状が改善されたという報告はたくさんあります。その中にはさきほど説明したように、セリアック病や非セリアックグルテン過敏症の人がグルテンフリーにした結果、その症状が改善されたものが混ざっているかもしれません。
ただ、多くの人がグルテンフリー食にしたことで、更年期障害の症状が改善されたというのは、紛れもない事実です。一方で、グルテンフリーにしたことで、更年期障害の症状が悪化したという話は、ほとんど聞きません。
何かを足すのではなく、抜くだけなので、まずは 1 か月グルテンフリーの食生活を送って、様子を見てはいかがでしょう。この記事は更年期障害がテーマですが、ほぼ同じメカニズムで PMS の症状も軽くするといわれています。ぜひ試してほしいと思います。
まとめ
- 加齢とともにホルモンの分泌量が低下することによって起こるさまざまな症状を更年期障害という。症状の種類や程度には個人差が大きく、仕事や家庭環境も関係している。
- セリアック病はグルテンが原因で起きる自己免疫疾患。セリアック病の人は更年期障害の症状が重い。また初潮の年齢が高く、閉経の年齢が若いため、出産可能期間が短い。早期閉経や更年期障害の症状は、グルテンフリー食を導入することで、回避できる。
- グルテンが原因で起きるセリアック病と非セリアックグルテン過敏症で見られる症状は、更年期障害で見られる症状と重複している。
- グルテンを摂ることで副腎疲労が起こり、その結果、副腎皮質から分泌されるエストロゲンの分泌量が減り、更年期障害や PMS が起こるという説がある。
- グルテンフリーにすることで更年期障害の症状が改善された例は多いが、グルテンフリーにしたことで更年期障害の症状が悪化したという話はない。メカニズムは完全に解明されていないが、グルテンフリーにして様子を見ることを強く勧める。
参考文献
1) Santonicola A, et. al., From menarche to menopause: the fertile life span of celiac women. Menopause, 18 (10) 1125-1130 (2011)