グルテンフリー醤油は、文字通り、グルテンを含んでいないお醤油です。ふつうのお醤油は、大豆、小麦、塩が原料ですが、グルテンフリー醤油は小麦を原料に使っていません。味はふつうの濃口醤油とほとんど変わらず、濃口醤油の代わりにそのまま使えます。ただ重篤な小麦アレルギーやセリアック病でなければ、わざわざ購入する必要はありません。
国内で市販されている主なグルテンフリー醤油
まず初めに、国内で市販されている主なグルテンフリー醤油を紹介します。価格と購入方法は、当サイトの調べです。また商品の写真はメーカーのウェブサイトに掲載されているものをお借りしました。
① 小麦を使わない丸大豆醤油 /イチビキ
- 原材料 大豆、食塩/アルコール
- 特定原材料(28品目) 大豆
- 内容量 200 ml と 500 ml(いずれもペットボトル)
- 標準小売価格(税込み) 257 円 と 352 円
- 購入方法 大きな食品スーパーのアレルギー対応商品コーナーにあります。
② 小麦を使わない 国産丸大豆 たまりしょうゆ /半田の旨味家(ヤマミ醸造)
- 原材料 丸大豆、食塩/アルコール
- 特定原材料(28 品目) 大豆
- 内容量 1.8 L ペットボトル と 18 L 缶
- 標準小売価格(税込み) 2,207 円 と 17,117 円
- 購入方法 メーカーのオンラインストアで購入できます(小売店の店頭では見たことがありません)。
③ いつでも新鮮 えんどうまめしょうゆ /キッコーマン
- 原材料 えんどう豆、食塩/アルコール
- 特定原材料(28 品目) なし
- 内容量 200 ml (ペットボトル)
- 標準小売価格(税込み) 399 円
- 購入方法 大きな食品スーパーの醤油売場にあります。
④ そら豆醤油 /高橋商店
- 原材料 そら豆、食塩
- 特定原材料(28 品目) なし
- 内容量 200 ml と 500 ml (いずれもペットボトル)
- 標準小売価格(税込み) 540 円 と 1,080 円
- 購入方法 メーカーのオンラインストアで購入できます(小売店の店頭では見たことがありません)。
① と ② は、原料が大豆のみで、小麦を使っていません。小麦フリー、グルテンフリーです。小麦アレルギーの方や、グルテンフリー食品を摂る必要がある方のためのお醤油です。
一方 ③ と ④ は、原料に大豆以外の豆類を使用しています。小麦フリー、グルテンフリーに加え、大豆フリーとなっています。大豆アレルギーの方も使えるお醤油です。
グルテンフリー醤油の作り方
日本で最も生産量が多い醤油は濃口醤油で、全生産量の 84 % を占めています 1)。濃口醤油は蒸した大豆と、焙煎したのち粉状にした小麦に麹菌を植えつけ、醤油麹を増やしたのち、塩水を加えて発酵させます。麹菌が作る酵素によって、原料に含まれるたんぱく質はアミノ酸に、でんぷんは糖類にそれぞれ分解されます。そして発酵が終わった液体を圧搾して得られた液体が、濃口醤油です。
濃口醤油では、大豆と小麦を 1 : 1 の割合で使っていますが、小麦にはグルテンが含まれるため、濃口醤油はグルテンフリーにはなりません。グルテンフリー醤油は、原料にグルテンを含む小麦、大麦、ライ麦を一切使わずに作られます。作り方は濃口醤油とほとんど同じです。
日本には昔から、たまり醤油という醤油がありました。これは大豆を主原料とするもので、小麦は使われないか、使われてもごく一部でした。大豆だけから作られるたまり醤油は、グルテンフリーです。そのため、欧米でも、醤油(Soy sauce)はグルテンフリー食品ではありませんが、たまり醤油(Tamari)はグルテンフリー食品として認知されています。
グルテンフリー醤油は、昔からあるたまり醤油の一種ともいえるでしょう。
グルテンフリー醤油の味は濃口醤油と変わらない
筆者は ① と ③ の醤油を使ったことがありますが、ふつうの濃口醤油との違いはほとんどわかりませんでした。醤油だけを舐めると、味が違うことはわかりますが、ではどちらが美味しいかと質問されても、答えられません。
濃口醤油も、丸大豆を使った高級品から、脱脂加工大豆、すなわち大豆油を搾った後の大豆を使った安価なものまで、さまざまな種類があります。舌の肥えた料理人の方は別として、グルテンフリー醤油はふつうの濃口醤油と同様に使うことができます。
ふつうの醤油にもグルテンは含まれない!?
グルテンフリー醤油を買おうと思っている方は、えっ、と思うかもしれませんが、実は小麦を原料として使ったふつうのお醤油にも、グルテンはほぼ含まれていません。ただ、グルテンフリーの表示ができないのです。
グルテンフリー醤油の作り方のところで説明したように、原料に含まれるたんぱく質は、醸造の過程で麹菌が作る酵素によって分解されて、アミノ酸になります。アミノ酸は旨味の素になる成分で、醤油に旨味があるのは、アミノ酸が含まれているからです。
いま、問題になっているグルテンとは、小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質の一種です。小麦を原料として使っても、小麦に含まれるたんぱく質は分解されてアミノ酸になっており、たんぱく質の形では残っていません。たんぱく質が残っていないということは、グルテンも残っていないということになります。
ところが、たんぱく質のグルテンが含まれていないことと、グルテンフリーであることは、同じではないんです。グルテンフリーとは、
① 食品に含まれるグルテンの濃度が、20 ppm 未満であること
② グルテン濃度の測定方法は特に指定しない
③ グルテン濃度が正確に測定できない場合は、原料にグルテンが含まれる成分が使われていないこと
とされています(アメリカの場合)。
グルテン濃度はグルテンだけに存在する特別なアミノ酸配列を検出することで測定しますが、グルテンが分解された醤油では、この特別なアミノ酸配列の量をきちんと測定することができません。つまり、醤油のグルテン濃度は、現在の技術では正確に測定できないのです。そのため、③ に示したように、原料にグルテンが含まれる成分が使われていない場合に限り、グルテンフリーの表示ができます。
小麦を原料に使ったふつうのお醤油でも、グルテンは分解されて残っていないと考えられますが、グルテン濃度を正確に測定できないため、グルテンフリーの表示はできないのです。
なおグルテン濃度を測定する装置やキットを使って醤油を分析すると、何らかの数値が出ます。しかし、これは醤油に含まれるグルテン濃度を正確に測定できているわけではないので、注意が必要です。
ふつうの醤油で大丈夫なケース
おすすめ食品の欄で、グルテンフリー醤油を紹介していますが、グルテンを避けたいと思っている一般の方は、わざわざグルテンフリー醤油を使う必要はありません。ふつうの醤油で大丈夫です。
理由は次の通りです。
① 醤油の原料に含まれるたんぱく質は分解されており、醤油には腹部膨満や腹痛・下痢の原因となる難分解性のたんぱく質であるグルテンは含まれていません。
② アレルギー反応は、たんぱく質の特異的なアミノ酸配列が原因物質ですが、醤油に含まれるたんぱく質は分解されており、アレルギー反応を起こすアミノ酸配列の多くは、分解されて消失していると考えられます。その証拠に、小麦アレルギーの人の多くは、ふつうの醤油を摂取しても、体調変化を起こしません。ただセリアック病を始めとするグルテンが関与する病気の多くは、醤油と症状の関係についてほとんどわかっていません。
③ 醤油は調味料として使われるもので、1 回に使われる量はわずかです。西洋風の食生活を送っていると、1 日に 5~20 g のグルテンを摂取しますが 2)、その大半は小麦粉を原料とするパン、めん類などに由来します。ちなみに濃口醤油大さじ 1 ぱい(15 ml ≒ 18 g )の製造に使われる小麦には、グルテンが 0.3 g 含まれると推定されます。仮にセリアック病やリーキーガットを起こす成分が残っていたとしても、その量はごくわずかになります。
グルテンフリー醤油を使うべきケース
グルテンフリー醤油を使うべき、あるいは念のため使ったほうがよいケースは次の通りです。
重篤な小麦アレルギー
微量の小麦成分でアレルギー反応が起きる場合は、グルテンフリー醤油の使用をお勧めします。
小麦が関係する病気でよく知られているのは、小麦アレルギー、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症の 3 つです。この 3 つは、小麦が入っているものは食べられないという共通点がありますが、原因物質、発症メカニズム、症状、避けるべきたべもの[…]
セリアック病などでグルテンフリー食品の摂取を指示されている場合
セリアック病と診断されると、医師からグルテンフリー食品を摂るよう指示されます。すでに説明したように、ふつうのお醤油はグルテンフリー食品ではありませんので、グルテンフリー醤油を使用してください。
世の中にはグルテンフリー醤油が必要
これまでの説明から、本当にグルテンフリー醤油を使わなければならない人は、それほど多くないことがわかっていただけたと思います。しかし、世の中にとってグルテンフリー醤油は絶対に必要なのです。
飲食店や食料品店で提供される食べものに、グルテンフリーの表示をするためには、グルテンフリーの原材料を使わなければなりません。濃口醤油が1滴でも使われていると、他の材料がすべてグルテンフリーであったとしても、そのお料理に「グルテンフリー」の表示をすることはできません。
これはグルテンが入っている、いないとか、からだに影響がある、ないという話ではなく、そのようなルールになっているからです。グルテンによる影響は個人差が大きいので、最も少ない量で影響を受ける人が、健康上問題にならないルールにすることは、理にかなっています。
このように、不特定多数の人に食品をグルテンフリー食品を提供するために、グルテンフリー醤油はなくてはならないものなのです。
まとめ
- 国内で市販されているグルテンフリー醤油には、原料として大豆のみを使ったものと、原料として大豆以外の豆類だけを使ったものとがある。後者は大豆アレルギーの人も使うことができる。
- グルテンフリー醤油の作り方は、ふつうの濃口醤油とほぼ同じ。原料として小麦を使わず、大豆だけから作る醤油は昔からあり、たまり醤油といわれている。
- グルテンフリー醤油の味は濃口醤油とほぼ同じ。そのため濃口醤油の代わりにそのまま使うことができる。
- ふつうのお醤油にも、グルテンはほぼ含まれいない。しかし醤油に含まれるグルテンの量を正確に測定することができないため、グルテンフリーの表示はできない。
- グルテンを避けたいと思っている一般の方は、グルテンフリー醤油を買う必要はなく、ふつうのお醤油を使っても大丈夫。一方、重篤な小麦アレルギーやセリアック病などでグルテンフリー食品の摂取を指示されている場合は、グルテンフリー醤油を使用すべき。
- 食品にグルテンフリーの表示をするためには、グルテンフリーの原材料を使用する必要がある。飲食店や食料品店が、グルテンフリーメニュー、グルテンフリー食品を提供するために、グルテンフリー醤油は不可欠。
参考文献
1) 日本醤油技術センター・醤油業中央公正取引協議会・日本醤油協会、賢い醤油の選び方(2018)
https://www.soysauce.or.jp/gijutsu/pdf/kashikoi.pdf
2) Barbaro MR, Cremon C, Wrona D, et al. Non-Celiac Gluten Sensitivity in the Context of Functional Gastrointestinal Disorders. Nutrients. 2020; 12(12):3735. Published 2020 Dec 4. doi: 10.3390/nu12123735