パンや牛乳はからだに悪いから、食べるのをやめなさいという本がいくつか出ています。パンにはグルテンがたくさん入っていますが、めん類や粉ものは OK なのでしょうか。また、どうして牛乳はやめたほうがよいのでしょうか。乳製品は大丈夫なんでしょうか。パンと牛乳に含まれる成分と、それを摂らない方がよい理由を、わかりやすく解説します。
パンが問題なのはグルテンと食後血糖値
パンを食べると死ぬとか、長生きできない、といったショッキングなタイトルの本が出ています。書いてある内容は納得できる部分も多いのですが、世の中に浸透しているとはいえません。一方で、パンの人気は相変わらず高く、メディアで美味しいパン屋さんの特集記事などが取り上げられることも多いです。
体質にもよりますが、パンを食べて死ぬことはありません。寿命が短くなる可能性はゼロではありませんが、そもそもパンの摂取量で寿命を比較した研究例はありません。ショッキングなタイトルは注目を集めることができますが、逆に説得力がなくなっているような気がして、残念です。
パンをたくさん食べることで生じる問題は、主に次の 2 つです。
● 小麦に含まれるたんぱく質であるグルテンを摂ることによる影響
● 小麦に含まれるでんぷんによる食後血糖値の上昇
このサイトでは、グルテンがからだに与える影響について、主に解説しています。グルテンは小麦、大麦、ライ麦だけに含まれるたんぱく質で、
① 伸びやすく、弾力があり、粘着性がある
② 消化酵素で分解されにくい
③ アレルギー反応を起こしやすい
④ 腸のバリア機能を壊す
という性質があります。このうち、① と ④ は、グルテンに特によく見られる性質で、② は、グルテンと、このあと説明する、乳たんぱくの カゼイン で見られる性質です。
このような特性があるおかげで、グルテンを含んだ食べものを摂ることで、さまざまな病気や慢性的な不調の原因になることがわかっています。直ちに命に関わることはありませんが、長い間原因が分からず悩んでいた症状に、グルテンが関係している可能性が高いのです。
最近、グルテンがいろんなからだの不調に関係しているという研究結果が出ています。病気というほどではないのですが、ときどき、繰り返し、不快な症状が起きるようです。命に関わることはほとんどないため、見過ごされがちですが、原因がわからない慢性的な体[…]
もう一つの問題は、食後血糖値の上昇です、小麦の主成分であるでんぷんは、消化酵素で分解されてグルコースになります。たんぱく質のグルテンは分解されにくいと説明しましたが、炭水化物の一種であるでんぷんは急速かつ完全に分解されて、小腸で吸収されたグルコースは血液の中に入ります。これが血糖値の上昇です。
食べものを食べた後の血糖値の上昇のしやすさを表す指標に、グリセミック・インデックス(GI:Glycemic Index)があります。でんぷんの量が同じでも、グリセミック・インデックスの値が高い 高 GI 食品 は、食後に血液中のグルコース濃度(=血糖値)が急激に上昇するため、肥満や糖尿病になりやすくなり、低 GI 食品は、血糖値の上昇が緩やかになります(下図)。
パンは高 GI 食品なので、大量に食べ続けると、血糖値が高い状態が続くことで、肥満や糖尿病になる可能性があります。
パンをやめて何を食べたらよいのか
パンがからだに悪い原因は、パンの原料である小麦に含まれるグルテンと、パンを食べると血糖値が急上昇すること(GI値が高いこと)であると説明しました。では、パンの代わりに何を食べればよいのでしょうか。
まず、グルテンの影響を避けるためには、小麦、大麦、ライ麦を原料とした食べものを減らす必要があります。パンだけではなく、小麦粉を使っためん類や、粉ものも含まれます。そのため、パンの代わりに次のようなものを食べることをお勧めします。
- グルテンを含まない食品
- お米を原料とした食品 … ごはん、もち、ビーフン、米粉パン(米粉 100 % のもの)
- 米粉、片栗粉、コーンスターチ、そば粉を使った食品・料理
- グルテンフリーのめん類、パスタ
一方、食後血糖値の急上昇を防ぐためには、パンを食べるのをやめる必要はありません。一度にパンを食べる量を減らしたり、パンの種類や、パンと一緒に食べるものを変えるだけで、GI 値は低くなります。
食後血糖値は食べた量にほぼ比例するので、一回にトーストを 2 枚食べていたのを 1 枚にするだけで、食後血糖値を下げる効果があります。また食パンやフランスパンを、全粒粉パンやクロワッサンのように、消化・吸収に時間がかかるパンに置き換えると、GI 値は低くなります。
アメリカでは肥満や糖尿病を減らすために、国を挙げて全粒粉を使った食べものの摂取を奨励しています。さらに食パンを食べるとき、ジャムを塗って食べるのをやめて、野菜サラダと一緒に食べることで、GI 値はかなり下がります。
このように、食後血糖値の急激な上昇を防ぐという目的なら、いろいろなやり方が考えられます。
ところで、食パンや全粒粉パンの GI 値は実際にいくらなんだろう、と思われませんか。このサイトでは GI 値の一覧表はあえて載せません。それは GI 値が測定条件によって大きく変わるからです。例えば、食パン(白パン)の GI 値はいろいろなところに掲載されていますが、最も高い値で 95、最も低い値で 70 です。
これらの数値は、グルコース 50 g に相当する食パンと水だけを食べたときの血糖値から求めたもので、実際の食事の条件とはかけ離れています。なおグルコース 50 g に相当する食パンとは、6 枚切りの食パン 1.8 枚に相当します。
このようにGI値は数値自体に大きな意味がないので、このサイトでは載せていません。
食後血糖値を下げるためには、パン食をやめてごはん食にしたらよいという話もありますが、かなり怪しいです。ごはんの GI 値は食パンと大きく変わりません。食パンとジャムを、ごはんとふりかけに変えたとしても、GI 値はほとんど変わらないでしょう。
牛乳で問題になるのは乳糖とカゼイン
乳糖
牛乳には乳糖(ラクトース)という炭水化物が含まれています。口から入った乳糖は、ラクターゼという消化酵素で分解されて、グルコースとガラクトースになり、小腸で吸収されます。このラクターゼという酵素は、生まれた直後はたくさん作られていますが、アジア系民族の 90 % の人は、大人になるにつれてラクターゼの活性が下がるため、ラクトースを分解しにくくなります 1)(これを乳糖不耐症といいます)。
乳糖は小腸で吸収されないので、一度に大量の乳糖を摂ると、腹痛や下痢を起こすことになります。一般的には牛乳を 250~375 mL(乳糖として 11~16.5 g)を飲んだ場合に、下痢の症状が現れるといわれていますが、個人差があります。
カルシウムを摂る目的で、牛乳を飲んでいる人も多いと思います。ただ、もし牛乳を飲んでお腹が痛くなったり緩くなったりする場合は、牛乳を飲むのはやめたほうがよいでしょう。腹痛や下痢が起きると、からだに負担がかかります。カルシウムを摂るメリットより、からだに負担をかけるデメリットの方が大きいからです。次に述べるように、別の方法でカルシウムを摂ることを考えてください。
カゼイン
もう一つのカゼインは、牛乳に含まれるたんぱく質です。牛乳に含まれるたんぱく質には、主にカゼインとホエイの 2 種類で、カゼインが 8 割、ホエイが 2 割です。カゼインがからだによくない理由は、さきほど説明したグルテンに似ています。
カゼインは消化酵素で分解されにくいたんぱく質です。たんぱく質が完全に分解されるとアミノ酸になります。アミノ酸は小腸で栄養源として吸収されますし、アミノ酸の状態になると、アレルギー反応を起こすこともありません。ところが分解されにくいたんぱく質は、アミノ酸が数十個から数百個つながった、分子量の大きいペプチドの状態で小腸に到達します。
ペプチドの中には、アレルギー反応や炎症反応を引き起こすものがあります。通常は分子量の大きい物質は、小腸で吸収されることはありませんが、腸のバリア機能が弱っていると、体内に入ってしまうことがあります。その結果、血液によって体内のいろいろな場所に運ばれたペプチドが、いろいろなところで炎症反応を起こすことになります。
牛乳は何で置き換えたらよいのか
牛乳をはじめ、主な乳製品 100 g に含まれる 乳糖、カゼイン、カルシウムの量は次の通りです 2)。なおカゼインの量は当サイトによる推定です。
食品名 | 乳糖 (g) | カゼイン (g) | カルシウム (mg) |
---|---|---|---|
牛乳 | 4.4 | 2.6 | 110 |
ヨーグルト(全脂無糖) | 2.9 | 2.9 | 120 |
ヨーグルト(低脂肪無糖) | 2.7 | 3.0 | 130 |
プロセスチーズ | 0 | 22.7 | 630 |
カマンベールチーズ | 0 | 19.1 | 460 |
クリームチーズ | 2.4 | 8.2 | 70 |
モッツァレラチーズ | 0 | 18.4 | 330 |
バター | 0.5 | 0.5 | 15 |
ヨーグルトには、乳糖もカゼインも含まれますので、牛乳を控えるのであれば、ヨーグルトも控えるべきです。
18~64 歳の人は、カルシウムを 1 日あたり、男性で 737~789 mg、女性で 660~667 mg 摂るべきだといわれています 3)。乳製品はカルシウムを多く含んでいますが、乳糖やカゼインを摂る量を減らすためには、次のような食品で置き換えることができます。
食品名 | 乳糖 (g) | カゼイン (g) | カルシウム (mg) |
---|---|---|---|
豆乳(無調整) | 0 | 0 | 15 |
納豆 | 0 | 0 | 90 |
木綿豆腐 | 0 | 0 | 93 |
油揚げ | 0 | 0 | 310 |
塩さば | 0 | 0 | 27 |
さば水煮 | 0 | 0 | 260 |
しらす干し(半乾燥品) | 0 | 0 | 520 |
干しエビ | 0 | 0 | 7100 |
ししゃも(生干し・焼き) | 0 | 0 | 360 |
うるめいわし(丸干し) | 0 | 0 | 570 |
パンと牛乳に含まれるからだに影響を与える成分
パンと牛乳に含まれていて、からだに影響を与える成分としては、パンに含まれるグルテンとでんぷん、牛乳に含まれる乳糖とカゼインがありますが、からだへの影響の度合いは人によって異なります。パンと牛乳を食べないほうがよい理由と、何で置き換えたらよいか整理しました。置き換えるかどうかは、パンや牛乳に対するあなたの体質や、ふだんの食生活によって異なります。無理のない範囲で、食生活を改善してください。
乳糖
乳製品に含まれる糖類
深刻度 ★★★
どこに入っている:一部のチーズを除くほとんどの乳製品
からだに悪い理由:消化・吸収されず、腹痛、下痢の原因になる。
深刻度の理由:日本人の成人の 90 % が、乳糖を分解する酵素が少ないか、持っていない。
置き換え:乳製品 → 大豆製品、魚、乳糖を含まないチーズ
グルテン
小麦などの主要たんぱく質(小麦のたんぱく質の 85 % を占める)
深刻度 ★★
どこに入っている:小麦、大麦、ライ麦を原料とする食品
からだに悪い理由:消化・吸収が悪く、さまざまな病気、慢性的な不快症状を引き起こす。
深刻度の理由:関係している病気・症状が非常に多い。
置き換え:パン、めん類、粉もの → 小麦を使わない食材、グルテンフリー食材
カゼイン
乳製品の主要たんぱく質(乳のたんぱく質の 80 % を占める)
深刻度 ★
どこに入っている:ほとんどの乳製品
からだに悪い理由:消化・吸収されにくい
深刻度の理由:必ずしも乳製品からたんぱく質を摂る必要はない。置き換えも容易。
置き換え:乳製品 → 大豆製品、魚、肉など
小麦に含まれるでんぷん
深刻度 ゼロ
どこに入っているか:パンなどすべての小麦製品
からだに悪い理由:一度にたくさん食べると血糖値が上がる(GI値が高い)
深刻度の理由:これは小麦でんぷんに特有なものではなく、ほとんどのでんぷんやグルコースで見られる現象
置き換え:不要。食べる量や食べ方を工夫すればよい。
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参考文献
1) Atenodoro R. Ruiz, Jr., 炭水化物不耐症、MSD マニュアルプロフェッショナル版(2018)
2) 文部科学省、日本食品標準成分表 2020 年版(八訂)
3) 厚生労働省、日本人の食事摂取基準(2020 年版)