グルテンは小麦、大麦、ライ麦とその交雑種にだけ含まれるたんぱく質です。グルテンフリーが一般的な海外では、これらを置き換えるための食材が比較的簡単に手に入ります。ここでは欧米でよく使われている代替食材を紹介します。この中にはネット通販で高い値段で販売されているものもありますが、購入する必要はありません。
お米(Brown rice)
イネ科イネ属の植物の種子で、種皮と胚芽を取り除いた精白米が主に食べられます。欧米で食べられるお米は、日本で食べられるジャポニカ種ではなく、細長いインディカ種が多いようです。またリゾットやジャンバラヤ(炊き込みご飯)にするなど、日本とは食べ方が異なります。
アメリカでのお米の販売価格は、日本の 1/4 ほどです。
日本ではもともとお米を主食にしていました。ご飯のおかずの中にも、小麦を使わないで作ることができるメニューがたくさんあります。日本人はパン食を和食に変えることで、苦労せずにグルテンフリーにすることができます。
アメリカでの販売価格 1.6 ドル/ 1 kg
オーツ麦(Oats)
イネ科カラスムギ属のエンバク(燕麦)という植物の種子で、マカラスムギやオーツ麦(英語のOatが由来)とも呼ばれます。次に紹介するするソルガムに次いで、世界で 6 番目に生産量が多い穀物です。日本でもオーツ麦は栽培されていますが、ほとんどが飼料用です。令和 2 年における作付面積は 411 km2 で、東京都 23 区の 2/3 くらいの面積になります 1)。
オーツ麦を種皮や胚芽が付いたまま押しつぶしたり、カットしたものがオートミールで、牛乳や水で煮て食べます。欧米ではよく食べられるメニューです。また日本でも最近人気があるグラノーラは、オートミールに玄米や麦などを混ぜ、蜂蜜や油を混ぜて焼き、ドライフルーツやナッツを加えたものです。一方、ミューズリーは煮て柔らかくしたオートミールに果物やナッツを加えて固めたものです。
いずれも食品スーパーで簡単に手に入りますが、グラノーラとミューズリーの中には、小麦や大麦が使われているものがあり、すべてがグルテンフリーというわけではありません。このほか、オートミールはパン、クッキー、ケーキの生地に混ぜ込んで使われることもあります。
日本で売られているオートミール、グラノーラ、ミューズリーは、ほとんどが輸入したオーツ麦を使っています。
オーツ麦にはグルテンは含まれていませんが、流通の段階でグルテン含有穀物が混入する可能性があり、アメリカではグルテンフリーと表示されたオートミールと、表示されていないオートミールが販売されています(写真のものはグルテンフリー)。また EU、オーストラリア、ニュージーランドなどでは、オーツ麦もグルテン含有穀物に加えています。
アメリカでの販売価格(オートミール) 6.1 ドル/1 kg
ソルガム(Sorghum)
イネ科ソルガム属の植物の種子で、日本ではモロコシ、タカキビ、コーリャン(高粱)、ソルゴーとも呼ばれる雑穀の一種です。乾燥に強く、小麦、米、トウモロコシが育たない場所でも栽培できることから、世界中で栽培されており、小麦、米、トウモロコシ、大麦に次いで、世界で 5 番目に多く生産される穀物です 2)。2019 年の生産量は5,900万トンです。
日本では室町時代から栽培されており、過去にはソルガムの粉を食用にしていた時期もありましたが、現在は食用ではなく、青刈りして発酵させたものを牛の飼料として使うために栽培されています。日本での飼料用ソルガムの作付面積は 130 km2(令和 2 年度)と、山手線の内側の面積の 2 倍もあります 1)。
アメリカでの販売価格 21.1 ドル/1 kg
ミレット(Millet)
イネ科キビ亜科に属する穀物の総称で、一般的にキビと呼ばれますが、さまざまな種類のものが含まれます。日本では、キビ、アワ、ヒエ、シコクビエなどの種類がありますが、ミレットはこれらをすべて含みます。
アフリカの乾燥地帯や半乾燥地帯では、キビは主要な食料源となっています。煮てお粥のようにしたり、煮たものを団子にして食べることもあります。岡山名産のきびだんごは、もともとキビの粉を原料にしていたといわれています。
アメリカでの販売価格 8.5 ドル/1 kg
テフ(Teff)
東アフリカのエチオピア原産の、イネ科スズメガヤ属の植物の種子です。長さ 1 mm、幅 0.8 mm ほどで、世界一小さい穀物ともいわれます。テフというのは現地の言葉で、見失うという意味なんだそうです。
エチオピアではテフの種子を皮ごと石臼で挽いてテフ粉を作り、インジェラといわれるパンケーキを作って主食にしています。テフ粉に水と塩を加えて生地を作り、3 日ほど寝かせると、テフの表面に付着している酵母によって乳酸発酵が起きますが、これを焼いたのがインジェラです。
テフ粉は味にクセがなく、ナッツのような風味があるため、パンケーキ、クッキー、ケーキ、マフィン、パン、麺など、さまざまな料理で小麦粉の代わりに利用できます。またテフ粉は全粒粉であるため、食物繊維やミネラルが多く含まれる点も、人気がある理由です。現在では南アフリカやアメリカ、ヨーロッパでも栽培が始まっています。
アメリカでの販売価格 23.5 ドル/1 kg
ワイルドライス(Wild rice)
イネ科マコモ属のアメリカマコモという植物の種子で、長さは 1.5 cm、色は褐色から黒色です。水を加えて茹でて食べます。もともとはアメリカの先住民族インディアンが食べていたもので、現在ではスローフードとして食べられています。サラダに加えたり、肉や魚の付け合わせやスープにして食べるそうです。
アメリカでの販売価格 29.6 ドル/1 kg
そば(Buckwheat)
タデ科ソバ属の植物の種子です。日本ではそば粉に小麦粉を加えて麺をうち、茹でて食べますが、海外ではそば粉を小麦粉の代わりに使っています。ガレットやパンケーキのように、水で溶いたそば粉をフライパンで焼いたり、クッキーやケーキを作る際に、小麦粉の代わりにそば粉を使います。またそば粉を使ったパスタもあります。
アメリカでの販売価格 21.4 ドル/1 kg
キノア(Quinoa)
南米アンデス山脈の高地で食用に栽培されてきたヒユ科アカザ属の植物の種子で、キヌアとも呼ばれます。小麦、米、トウモロコシに比べて栄養価が高いことから、スーパーフードとして注目され、南米をはじめ世界 10 0か国以上で栽培されており、2019 年の生産量は 16万トンです 3)。種子は直径 2 mm ほどで、脱穀すると扁平な円形の白い種子が得られます。
南米ではキノアを煮てスープとして食べるほか、リゾットにもします。粘性の高いでんぷんを含むことから、キノア粉を小麦粉の代わりに使うと、コシの強い生地を作ることができます。この生地を焼くことで、クッキーやパウンドケーキのようにして食べることができます。
近年、スーパーフードとしてキヌアが高値で取引されるようになり、ペルーやボリビアではもともとキヌアを食べていた人がキヌアを買えなくなるという問題が起きています。
アメリカでの販売価格 29.9 ドル/1 kg
アマランサス(Amaranth)
ヒユ科ヒユ属の植物で、古代の南米では種子を食用にしていました。茹でた種子をそのまま食べたり、サラダや肉、魚の付け合わせにすることもできます。またアマランサスの粉をほかの粉と混ぜて、クッキーやパウンドケーキを作ることもあります。
アメリカでの販売価格 20.4 ドル/1 kg
タピオカ(Tapioca)
熱帯原産のトウダイグサ科イモノキ属の低木である キャッサバの根茎から得られたでんぷんです。数年前にタピオカパールという粒が入ったタピオカミルクティーが流行しましたが、これの原料です。お菓子の材料や料理のとろみ付けに使われるほか、めん類や菓子類にもちもちとした食感を与えるためにも使われます。
でんぷんの粉なので、小麦粉の代用品として使うことができます。
アメリカでの販売価格 14.6 ドル/1 kg
アロールート(Arrowroot)
熱帯アメリカ原産のクズウコン科クズウコンの根茎(イモ)から採ったでんぷんです 4)。主にでんぷんを採るために栽培され、でんぷんのことをアロールートと呼びます。アロールートは良質のでんぷんで、ビスケット、ケーキ、パンの材料や幼児食に用いられています。小麦粉を置き換える場合は、小麦粉と同量のアロールートで置き換えます。
アメリカでの販売価格 13.6 ドル/1 kg
まとめ
ここで紹介した、グルテンフリーのときに小麦、大麦、オーツ麦を置き換える代替食材 11 種類をまとめます。
名称 | 種・属 | 部位 | 価格 (ドル/1 kg) |
コメ | イネ科イネ属 | 種子 | 1.6 |
オーツ麦 | イネ科カラスムギ属 | 種子(全粒穀物) | 6.1 |
ソルガム | イネ科ソルガム属 | 種子 | 21.1 |
ミレット | イネ科キビ亜科 | 種子 | 8.5 |
テフ | イネ科スズメガヤ属 | 種子(全粒穀物) | 23.5 |
ワイルドライス | イネ科マコモ属 | 種子 | 29.6 |
ソバ | タデ科ソバ属 | 種子 | 21.4 |
キノア | ヒユ科アカザ属 | 種子 | 29.9 |
アマランサス | ヒユ科ヒユ属 | 種子 | 20.4 |
タピオカ | トウダイグサ科 イモノキ属 |
根茎から抽出したでんぷん | 14.6 |
アロールート | クズウコン科 | 根茎から抽出したでんぷん | 13.6 |
参考文献
1) 農林水産省、令和2年産飼料作物の作付(栽培)面積及び収穫量、えん麦(緑肥用)の作付面積
2) Global trends in sorghum production, Nuseed
https://nuseed.com/eu/global-trends-in-sorghum-production/
3) Global quinoa production 2010-2019, Statista
https://www.statista.com/statistics/486442/global-quinoa-production/
4) 日本新薬、山科植物資料館