グルテンが原因、グルテン失調症とブレインフォッグ

グルテンが原因で小脳の機能が損なわれる、グルテン失調症(gluten ataxia)

小脳は人間の運動機能をコントロールしているため、小脳が損傷を受けると平衡感覚に異常を来たし、細かな運動が難しくなります

グルテン失調症(gluten ataxia)とは、小脳の損傷が原因の運動失調症のうち、小麦たんぱく質のグルテンが原因で起きる病気で、グルテン運動失調ともいわれます。

グルテン失調症では、まっすぐ歩けない、動作が遅い、話すとき呂律が回らないなどの症状が現れます。一方で意識や知覚は正常です。発症の平均年齢は48歳で男女差はありませんが、その患者さんの24%は栄養吸収不良を併発していたことが報告されています1) 2)

グルテン失調症の患者さんは、小麦たんぱく質のグルテンの成分であるグリアジンを異物と認識しており、体内に抗グリアジン抗体(AGA)抗体を持っています

AGAにはIgGとIgAの2種類がありますが、IgGまたはIgA、あるいはその両方を持っていると報告されています3)。なおこの抗体は、小麦アレルギーなどの即時型アレルギーを起こすIgE抗体とは異なり、遅延型アレルギー反応に関与しているものです。

グルテン失調症は自己免疫疾患のひとつ

ところで人間の体には無数の細胞がありますが、それぞれの細胞の表面には、特定の物質とだけ結合することができるような鍵穴があり、その鍵穴に入る鍵を持った物質とだけ結合できるようになっています。

小脳で神経伝達を担っている細胞の中に、プルキンエ細胞顆粒細胞というのがありますが、この細胞にも鍵穴があります。

一方、グリアジンの表面にも鍵穴があります。人間の体がグリアジンを異物と認識すると、グリアジンを攻撃するための抗体(抗グリアジン抗体)が作られますが、グリアジンが持つ鍵穴に合う鍵を、抗グリアジン抗体は持っています。そのことによって、抗グリアジン抗体は効率よくグリアジンと結合して、グリアジンを攻撃できるのです。

グルテン失調症

問題は、小脳のプルキンエ細胞と顆粒細胞が持つ鍵穴に、抗グリアジン抗体が持つ鍵が入ることです。

体内に抗グリアジン抗体が増えると、グリアジンを攻撃するだけでなく、小脳のプルキンエ細胞や顆粒細胞まで攻撃してしまいます。もともと抗グリアジン抗体は、グリアジンという異物から自分の身を守るために作られたものでした。ところがこれが誤って自分の体を攻撃してしまうのです。このような状態を自己免疫疾患といいます。

グルテン失調症は自己免疫性小脳失調症の一つと言われています4)

なお抗グリアジン抗体が小腸細胞を攻撃するセリアック病も自己免疫疾患です。先ほどグルテン失調症の患者さんの24%が栄養吸収不良を併発していると述べましたが、これは抗グリアジン抗体が小腸細胞を攻撃したためと考えられます。

グルテン失調症の患者さんの小脳を調べると、小脳皮質全体に斑状にプルキンエ細胞が消失しているほか、小脳のいたるところに炎症が起きたときに増える細胞が認められます。しかしグルテンフリー食を行うことによって、ある程度運動失調が改善し、その効果は持続することが分かっています2)

ブレインフォッグ(Brain Fog:脳の霧)

よく寝たのに朝からひどく疲れている感じがする、頭の中がもやもやして考えがまとまらない、考える速度が遅くなったような気がする、自分がしゃべっているのがぎこちなく感じる……。こんな症状、思い当たりませんか。

こんな症状があっても、疲れがたまっているんだろう、最近ストレスが多いから、もう歳だから……と、片づけていませんか。もしこのような症状が毎日続くとしたら、心配になってお医者さんのところへ行くでしょう。でも、たまにしか起きなかったら、やっぱり何かのせいにして、そのままにしてしまうことが多いと思います。

欧米では、Brain Fog(脳の霧)と名付けられた症状が、多数の医学論文で報告されています。具体的に、次のような症状が報告されています5)

なお、症状には個人差が大きく、これらの症状が単独で現れる場合もあれば、複数の症状が同時に現れる場合もあります。

  • 集中力の低下
  • 注意力の低下
  • 少し前のことを覚えていない
  • 話したり書いたりしながら、正しい言葉が出てこない
  • 物忘れ
  • 考えがまとまらない
  • 見当識障害(時間や場所、人間関係がわからなくなる)

Brain Fogは軽度の認知機能の低下と考えられます。

Brain Fogはグルテンが原因で起きる病気で見られる

グルテンが原因で起こるセリアック病、ノンセリアックグルテン過敏症(NCGS)と診断された人の多くが、Brain Fogの症状を示しています。アメリカでの調査では、セリアック病患者の89%、ノンセリアックグルテン過敏症患者の95%が、Brain Fogを経験しています。

Brain Fogの症状と、現れた頻度を表にまとめました6)

Brain Fogが起こるメカニズム

セリアック病やノンセリアックグルテン過敏症(NCGS)の人は、自分の体にとっての異物であるグルテンが体内に入ると、それを撃退するために、炎症性サイトカイニンという物質を作ります。この炎症性サイトカイニンが次々と生産されると、血液中の炎症性サイトカイニンの濃度が上昇し、体全体に循環することになります。

脳の血管には、血管脳関門といって、異物が脳の中に入らないようにしているバリアがあります。ところが炎症性サイトカイニンが血液脳関門の上皮細胞に結合すると、このバリア機能が緩み、脳へ白血球が入っていきます。白血球は脳の神経線維の炎症化と損傷を促進するため、神経伝達速度(処理速度)が低下し、認知障害が起こると考えられています7)

Brain Fogに関する研究はまだ始まったばかりで、原因物質と発症メカニズムが完全にわかっているわけではありませんが、この仮説で説明することができます。

Brain Fogに心当たりがあるならグルテンフリーを

グルテンを異物と認識する人、すなわち、グルテンに弱い体質の人は、本人が気づいていない人も含めると、5~6人に1人はいると推定されます。もしBrain Fogの症状に心当たりがあるのなら、一度グルテンフリーの食生活を試してみてはどうでしょうか。

セリアック病、ノンセリアックグルテン過敏症と診断された人が、グルテンフリーの食事を摂るようになると、12か月以内にBrain Fogの症状が見られなくなることがわかっています7)

腹痛、下痢、便秘のような消化器症状と違って、神経症状はすぐに変化があらわれないので、数か月間、グルテンフリー生活を続ける必要があります。でも、いったん破壊された神経線維は、すぐにはもとに戻りません。神経線維の破壊が進むと、体のあちこちに痛みを生じることもあります。

とにかく、心当たりのある人は、1日でも早く、グルテンを含む食品を食べるのを控えることです。


参考文献
1) Hadjivassiliou M et.al., Gluten ataxia in perspective: epidemiology, genetic susceptibility and clinical characteristics, Brain 126(3) 685-691 (2003)
2) Hadjivassiliou M et.al., Gluten ataxia, Cerebellum 7(3) 494-498 (2008)
3) Jonas F Ludvigsson et. al., The Oslo definitions for coeliac disease and related terms, Gut 62 (1) 43-52 (2011)
4) Mitoma H et. al., Consensus Paper: Neuroimmune Mechanisms of Cerebellar Ataxias, Cerebellum 15(2) 213-232 (2016)
5) Anderson J., Gluten-Related Neurological Symptoms and Conditions, very well health (2020)
https://www.verywellhealth.com/gluten-related-neurological-symptoms-and-conditions-562317
6) Kristin N. et.al., Leffler, Neurocognitive E­ects of Gluten Exposure: Results of a Nationwide Survey, 15th International Celiac Disease Symposium (2013), https://www.beyondceliac.org
7) Gregory W Yelland, Gluten-induced cognitive impairment (“brain fog”) in coeliac disease, Journal of Gastroenterology and Hepatology, 32(S1) 90-93 (2017)

 

グルテンフリー食品まとめ

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