普段からおなかの調子が悪い、お腹が弱いと感じている人は多いと言われています。もしかしたら、グルテンが原因?と思って、グルテンフリー生活をされている方や、ネットで検索してこの記事にたどり着いたという方もおられるでしょう。お腹の調子が悪い人が気を付けたほうがよい食べものと食品成分について、わかりやすく解説していきます。
おなかの調子が悪いって具体的にどんな症状?
便秘、下痢、腹部膨満、腹痛・・・。お腹の不調と一口にいっても、いろんな症状があります。便秘には○○が効果的とか、腸活のためにはこれを食べるとよい、などいろいろな情報があふれていますが、あまり信用しないほうがよいと思います。特に情報の発信元が、機能性食品や健康食品を扱っている会社の場合は、なおさらです。
後ほど説明しますが、からだによいと思って摂取していた食べものが、逆に症状を悪化させていた、なんてこともあるのです。
まずは、具体的な症状について整理しておきましょう。
便秘
便秘とは、本来体外に排出すべき糞便を、十分量かつ快適に排出できない状態のことをいいます 1)。便秘の症状は、排便回数が減少するタイプと排便が困難なタイプに分けられ、検査しないと、原因は特定できません。もし以下の項目に 2 つ以上当てはまる場合は、専門医に相談したほうがよいでしょう。
・排便の 4 分の 1 を超える頻度で、強くいきむ必要がある。
・排便の 4 分の 1 を超える頻度で、ウサギの糞のような形状の便、または硬い便である。
・排便の 4 分の 1 を超える頻度で、残便感を感じる。
・排便の 4 分の 1 を超える頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
・排便の 4 分の 1 を超える頻度で、用手的な排便介助が必要である。
・自発的な排便回数が、週に 3 回未満である。
便秘の原因はさまざまで、別の病気が原因で便秘になっていることもあります。便秘薬を飲んでその場しのぎの対応をしても、根本的な解決にはならず、病気の発見が遅れることもあります。たかが便秘と侮らず、診察を受けてください。
なお、グルテンフリーで便秘が解消する!? という情報をたまに見かけますが、グルテンフリーにするだけで、上に挙げた便秘の症状が改善することは、基本的にありません。ただ、グルテンフリーを含めたいろんな対策によって、便秘の症状が緩和する可能性はあるので、とりあえず、最後まで読んでください。
下痢
下痢症は、1 日に 3 回以上起きる軟便または水様便の排泄のことです 2)。下痢が続く期間が1週間未満のものを急性下痢、持続期間が4週間を超えるものを慢性下痢といいます。急性下痢では、細菌、ウイルスなどの病原微生物による感染、食中毒が原因として考えられ、慢性下痢の場合は、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、吸収不良、薬の副作用などが原因として考えられます。
グルテンは過敏性腸症候群や吸収不良と関係があることがわかっているので、グルテンフリーにすることで、下痢の症状が和らぐことがあります。でも、次で説明する腹部膨満と同様、グルテン以外の成分も抜かなければ、十分な効果が得られないことが多いようです。
腹部膨満(鼓腸)
腹部膨満は、腸内にたくさんのガスが溜まって腹部がはり、苦しく感じる状態です。お腹を叩くと、楽器のつづみのように「ポン」とよい音がするのて、鼓腸(こちょう)ともいいます。腸閉塞や急性腹膜炎が原因の場合を除き一過性のもので、1 ~ 2 時間の経つと、元の状態に戻ります。
腹部膨満の原因は、口から飲み込んだ空気、胃液が膵液で中和されるときに出るガス、腸内細菌が作るガスでの 3 つです。詳しくは下の記事をご覧ください。
食後に下腹部が膨れて苦しくなったり、おならが出たりすることは、誰にでもあります。しかし、それが外出先で頻繁に起きたり、自分でコントロールできないとなると、悩みは深刻です。腸内でガスが発生するのには、必ず原因があります。そして、その原因を取り[…]
グルテンは腹部膨満の原因の一つなので、グルテンフリーにすれば、症状が出なくなります。ただグルテン以外にも腹部膨満の原因となる成分があるので、それもあわせて抜かなければ、症状はよくなりません。
腹痛
腹痛といっても、症状は多岐にわたります。便秘・下痢・腹部膨満に伴って起きる腹痛もあれば、ストレスが関係しているものや、内臓の病気が原因で起きている場合もあります。また過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)でも腹痛は起きます。腹痛の原因は素人で判断するのは難しいので、頻繁に起きる場合は専門医の診察を受けてください。
なおグルテンが原因で腹痛が起きる場合は、下痢や腹部膨満の症状を伴うことがほとんどです。
グルテンはからだにどんな影響があるのか
グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質の一種です。小麦の外皮と胚芽を取り除いて粉にしたものが小麦粉ですが、例えば、薄力粉 100 g のうち 8.3 g がたんぱく質で、たんぱく質のうち約 85 % がグルテンです。つまり薄力粉 100 g には、グルテンが 7 g 含まれていることになります。
たんぱく質はからだを作るのに必要な栄養素で、食べものに含まれるたんぱく質は、消化酵素で分解されて最小単位のアミノ酸になり、腸から体内に吸収されます。ところがグルテンは、肉や魚に含まれるたんぱく質とは違った性質を持っています。一つ目は、他のたんぱく質に比べて、分解されにくいということです。そして二つ目は、アレルギー反応を起こす部分構造を持っているということです。
たんぱく質は三次元の立体構造をしているのですが、グルテンは消化酵素によって分解されにくい構造をしています。そのため、肉、魚、大豆などのたんぱく質は、小腸に到達する前に、最小単位のアミノ酸にまで分解されているのに対し、グルテンは分解が不十分な大きな破片(アミノ酸が数十から数千個つながったもの)のまま、小腸に到達してしまいます。この破片は、からだに次のような悪影響を与えることがわかっています。
② 小腸のバリア機能が損なわれ、本来吸収されない物質が体内に入ってしまう(リーキーガット)
③ 小腸でアレルギー反応を起こす
なおグルテンの影響については、別の記事で詳しく説明していますので、あわせてご覧ください。
グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質ですが、消化酵素で分解されにくく、アレルギー反応や炎症反応の原因になるほか、腸のバリア機能を破壊したり、腹部膨満、腹痛、下痢などの原因になることがあります。またグルテンは、さまざまな病気・症状との関連が[…]
グルテンを上手に摂らないようにする方法
グルテンがからだに与える 3 つの悪影響を説明しました。このうち ③ のアレルギー反応は、わずかな量のグルテンで起きます。グルテンのアレルギー反応によって起きるのは、具体的に、
・小麦アレルギー
・セリアック病
です。このいずれかと診断された方は、グルテンは絶対に摂らないようにしてください。またその可能性がある方は、専門医の診断を受けてください。
小麦アレルギーとセリアック病は、どちらも腹痛と下痢が症状として報告されているので、「おなかの調子が悪い」という条件に当てはまりますが、それ以外にも重篤な症状があるので、この記事では取り扱いません。詳しくは下の解説記事を読んでください。
小麦が関係する病気でよく知られているのは、小麦アレルギー、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症の 3 つです。この 3 つは、小麦が入っているものは食べられないという共通点がありますが、原因物質、発症メカニズム、症状、避けるべきたべもの[…]
それ以外の悪影響である ① と ② は、からだの中に入ったグルテンの量に比例して、影響が起きると考えられます。ですから、コストをかけてグルテンを完全に除去するのではなく、からだに入るグルテンの量をできるだけ少なくするようにして、症状が改善するか、観察するのがよいと思います。
それでは、どのようなやり方が現実的なのでしょうか。3 つのモデルケースを比較してみましょう。
ケース 1 平日は普段どおりパンやめん類を食べて、週末だけ完全にグルテンフリーにする。
ケース 2 偶数日は完全なグルテンフリーにして、奇数日はいままでどおり、パンや麺類を食べる。
ケース 3 パンやめん類を食べるのをやめるが、天ぷらの衣、カレーのルー、調味料などに含まれる小麦成分は許容する。
実は、ケース 1 とケース 2 は、何の効果もありません。理由は科学的に説明できます。
口から入った食べものが消化管を通り過ぎて排泄されるまで、24 ~ 48 時間かかります。1 日や2 日、完全にグルテンフリーにしたところで、消化管内にグルテンが残っているので、グルテンを抜いたことにはなりません。
また完全にグルテンフリーにしようとすると、手間と時間とお金がかかります。加工食品やインスタント食品には、小麦成分が使われていることが多く、また、ほとんどの和食には醤油が使われています。完全にグルテンフリーにすると、カレー、シチュー、スープ、揚げ物(から揚げ、フライ、天ぷら、コロッケ)、醤油、麺つゆ、だしの素などが、すべて食べられなくなってしまいます。自宅で料理する場合は、何とか対応できても、外食や中食はほぼできなくなってしまいます。
もちろんお金を出せば、グルテンフリーのレストランやグルテンフリー食品もあります。しかし、もともとグルテンフリー食品は、先ほど説明したグルテンでアレルギー反応が起きてしまう人のためのものです。アレルギー反応が起きない人は、グルテンフリーの基準(食品 1 kg 中のグルテン量が 20 mg 以下)に従う必要はありません。
グルテンを減らすには、グルテンが多く含まれるものから摂らないようにするというのが鉄則です。具体的には、パン、めん類、粉もの、小麦粉を使った菓子類です。もし可能なら、小麦成分を含む加工食品やインスタント食品も摂らないほうがよいのですが、それにコストをかけるよりも、まずはグルテンが多く含まれるものを摂らないようにするほうが、効果的と考えます。
グルテンと合わせて注意すべき成分
お腹の調子が悪くなる可能性がある成分は、グルテンだけではありません。これから説明する成分も、お腹の調子を悪くすることがわかっています。ただ、どれが影響するかについては、個人差があります。なぜかというと、① 消化酵素の強さ、② 腸内細菌の組成、③ アレルギー物質の影響の受けやすさ、は人によって違うからです。
グルテンフリーにするのと合わせて、心当たりがある成分を抜いてみて、ご自身の体調の変化を注意深く観察することで、自分の体質に合わない食品成分を知ることができます。
食物繊維
食物繊維は、野菜、果物、穀類の含まれる成分で、小腸で消化・吸収されずに大腸まで到達し、便になります。そのため便秘がちの人は、食物繊維を多く摂ったほうがよいと言われます、また生活習慣病の予防効果があるため、厚生労働省は、18 ~ 64 歳での男性は 1 日当たり 21 g 以上、女性 18 g 以上の食物繊維を摂取すべきといっています 3)。そのため最近、加工食品を中心に「食物繊維の量」を強調したものや、食物繊維を含んだ健康食品が多く出回っています。
しかし一方で、食物繊維は腹部膨満や下痢の原因にもなります。食物繊維は腸内細菌のエサになり、ガスが発生します。昔から焼いもをたくさん食べると、おならが出るなどといわれますが、これはさつまいもにたくさん含まれる食物繊維が、ガスに変わるためです。また腸内細菌で分解されなかった食物繊維は大腸に到達しますが、その量が多すぎると、大腸の壁を刺激して、急激な排便、すなわち下痢が起こります。
人間の腸内細菌は、一人ひとり組成が違います。そのため、同じものを食べても、ガスが発生しやすい人と、そうでない人、下痢をする人としない人がいます。
ほとんどの日本人は食物繊維が不足しているので、食物繊維を含む食べものの中から、腹部膨満が起こりにくい食べものを探してみて下さい。また一度に摂ると、腹部膨満の原因によるので、1 日 3 食の中で、少しずつ分けて摂るのがよいと思います。
乳糖とカゼイン
乳糖(ラクトース)は牛乳に含まれる糖類、カゼインは牛乳に含まれるたんぱく質です。
牛乳を飲むとお腹が緩くなるという人は多いと思います。これには乳糖が関係しています。乳糖はラクターゼといわれる消化酵素で分解されてから、小腸で吸収されますが、アジア系民族の 90 % の人は、大人になるにつれてこの消化酵素の働きが悪くなるため、乳糖が分解できなくなります 4)。これを乳糖不耐症といいます。
乳糖は小腸で吸収されないため、腸内細菌によって分解されますが、液体の牛乳は小腸を通り抜ける速度が速く、分解されないまま大腸に到達するため、下痢になりやすいのです。個人差はありますが、乳糖不耐症の人は牛乳を 250 ~ 375 mL(乳糖として 11 ~ 16.5 g)を飲んだ場合に、下痢の症状が現れるといわれています。
乳糖は牛乳だけでなく、ヨーグルトやクリームチーズにも含まれています。牛乳に含まれる量に比べて少ないので、下痢をしないまでも、お腹が緩くなっている可能性はあります。乳製品を食べて、お腹が緩くなる人は、どのくらいの量の乳糖でどのような影響が出るのか、確認してみてはいかがでしょうか。ちなみに食品 100 g 中に含まれる乳糖の量は次の通りです 5)。
・ヨーグルト/脱脂加糖 3.6 g
・ヨーグルト/ドリンクタイプ・加糖 3.5 g
・ヨーグルト/全脂無糖 2.9 g
・ヨーグルト/低脂肪無糖 2.7 g
・ヨーグルト/無脂肪無糖 2.6 g
・ナチュラルチーズ/クリーム 2.2 g
・レアチーズケーキ 1.9 g
ところで腸活のために、毎日ヨーグルトを食べている方は多いと思います。腸に乳酸菌(プロバイオティクス)を届ける、善玉菌のエサになる成分(プレバイオティクス)を届けるという意味で、ヨーグルトは有効ですが、乳糖を摂りすぎると、お腹が緩くなることも忘れないでください。ヨーグルトを食べた 1 ~ 3 時間後に決まってお通じがあり、そのお通じは下痢に近い、という場合は、ヨーグルトを食べるのを控えたほうがよいでしょう。
カゼインは乳製品に含まれる主要なたんぱく質で、牛乳に含まれるたんぱく質の 80 % を占めています(残りの 20 % はホエイ)。カゼインもグルテンと同様、消化酵素で分解されにくいたんぱく質で、カゼインを分解しにくい体質の人もいます。その場合は、分解が不十分なカゼインの断片が腸内細菌のエサになって、一時的にガスが発生したり、下痢が起きたりします。
牛乳を飲んで、お腹が緩くなる人の何割かは、カゼインも関係している可能性があります。
カゼインはチーズやヨーグルトに多く含まれています。食品 100 g 中に含まれる乳糖の量は次の通りです 5)。
・ナチュラルチーズ/クリーム 6.6 g
・レアチーズケーキ 4.6 g
・ヨーグルト/脱脂加糖 3.4 g
・ヨーグルト/無脂肪無糖 3.2 g
・ヨーグルト/低脂肪無糖 3.0 g
・ヨーグルト/全脂無糖 2.9 g
・牛乳 2.6 g
・ヨーグルト/ドリンクタイプ・加糖 2.3 g
また牛乳を原料としたプロテイン製品(ホエイプロテインだけのものを除く)には、大量のカゼインが含まれています。これを飲んでお腹が緩くなる場合は、ほぼ間違いなく、カゼインを分解する消化酵素が弱い体質と考えて間違いないでしょう。
食品添加物
加工食品には、食味改善、低カロリー化、保存性の向上などを目的として、さまざまな食品添加物が使われています。食品添加物は加えるメリットがあるので使っているのですが、下記の成分は大量に摂ると、消化・吸収されず腸内細菌のエサとなって、腹部膨満や下痢の原因になる場合があります。
・高果糖液糖
・セルロース(CMC、HPMCを含む)
・スクラロース
・キシリトール
・ソルビトール(ソルビット)
・還元麦芽糖
・難消化性デキストリン
・ポリデキストロース
ここでは詳細は割愛しますが、お腹の不調を感じている方は、避けたほうがよいでしょう
まとめ
- おなかの不調には、便秘、下痢、腹部膨満、腹痛などさまざまな症状がある。食べもの以外が原因で起きている場合もあるので、気になる場合は専門医に相談すべき。からだに特に悪いところがないにもかかわらず、おなかの不調が起きる場合は、特定の食べものや食品成分を避けることで、症状がよくなることもある。
- グルテンはたんぱく質の中でも消化酵素で分解されにくく、アレルギー反応を起こす部分構造を持っている。そのためグルテンを含む食べものを摂ると、①腸内細菌によって急速に分解され、大量のガスが発生する(腹部膨満)、② 小腸のバリア機能が損なわれ、本来吸収されない物質が体内に入ってしまう(リーキーガット)、③ 小腸でアレルギー反応を起こす、といった悪影響が起きることがある。
- アレルギー反応を避けるためには、グルテンを一切摂らないようにするしかないが、それ以外の悪影響を避けるためには、パン、めん類、粉もの、小麦粉を主原料とする菓子類は食べるのをやめ、天ぷらの衣、カレーのルー、調味料などに含まれる少量の小麦成分は許容するのが、費用対効果の優れた対応策である。
- おなかの不調を引き起こす食品成分として、食物繊維、乳糖とカゼイン、食品添加物にも気を付けたほうがよい。人によって影響の有無に違いがあるので、心当たりがある成分を抜いてみて、体調の変化を注意深く観察することが有効。
参考文献
1) 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編、慢性便秘症診療ガイドライン2017
2) 日本臨床検査医学会ウェブサイト
https://www.jslm.org/books/guideline/05_06/059.pdf
3) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会、日本人の食事摂取基準(2020年版)
4) Atenodoro R. Ruiz, Jr., 炭水化物不耐症、MSDマニュアルプロフェッショナル版(2018)
5) 文部科学省、日本食品成分表2020年版(八訂)(2020)