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小麦の奴隷になってはいけません! うまい、安いの小麦に依存性があるってはホント?

最近人気のパン屋さんに、小麦の奴隷というお店があるそうです。このネーミング、インパクトがあり、小麦の特長もよく表現されています。世の中には小麦を使った食べものがたくさんあり、どれもおいしく、値段が安く、手軽に食べることができます。小麦には依存性をもたらす成分が含まれているといううわさもありますが、本当なのでしょうか。

 

 

小麦がうまい、安い、早いのには理由がある

「うまい、安い、早い」というのは、牛丼チェーン店のキャッチフレーズですが、これを地で行く食材があります。小麦です。

小麦はパン、めん類、粉ものはいうに及ばず、菓子類、飲料、調味料、加工食品など、ありとあらゆる食品に使われています。

小麦を使った食品は、どれもおいしいです。パン、うどん、ラーメン、パスタ、お好み焼き、ケーキ、クッキー、ビスケット。いずれも主原料は小麦粉です。小麦を使った食べもので、こどもが嫌いというものは、あまり聞いたことがありません。

しかも、誰もが気軽に買うことができる値段のものばかりです。最近、1斤 1,000 円くらいする高級食パンがブームですが、高くて全く手が出ないというほどではありません。めん類も比較的安いです。例えば外食することを考えたとき、定食やセットメニューを食べるより、うどん、ラーメン、バスタなどの方が、安い値段で満腹になります

そして、小麦を使った食品は、持ち運びがしやすく、保存性に優れ、すぐに食べられるものが多いです。パン、カップ麺、クッキー、ビスケットなど、どれも小麦が原料です。

小麦は品種改良を繰り返し、人類と長い歴史ともにある

人間と小麦との出会いはいまから 2 万 3 千年前にさかのぼります。700 万年前にアフリカで誕生した人類は、野生動物の狩猟や木の実や草を採集することで、食料を得ていました。このような「狩猟採集社会」が長く続きましたが、穀物を育てて計画的に食料を生産することを始めました。「農耕社会」の始まりです。そのとき栽培されていたと考えられるのが、大麦、ライ麦、オーツ麦そして小麦なのです。

当時栽培されていた小麦は、アインコーンやエンマー(あわせて古代小麦とも呼ばれる)という品種で、いま私たちが食べている小麦の祖先にあたります 1)

1~2 世紀に最も発展した古代ローマ帝国では、エンマーをパンや粥にしたものが主食とされてきました。日本では弥生時代にあたり、お米が作られていた時期です。

 

 

その後もヨーロッパや中東では小麦が主食で、パンやパスタが発達するとともに、よりよい品種を開発して生産量を増やすための工夫が続けられてきました。人間はもともと小麦が好きだったわけではないと思いますが、栽培がしやすいこと、加工がしやすいこと、おいしいく栄養があることなどの条件が揃ったため、消費が拡大していきます。

そして 1940 年代から 1960 年代にかけて行われた「緑の革命」で、小麦の生産量は飛躍的に拡大しました。これは品種改良、化学肥料の大量投入、灌漑、農薬の使用などによって、単位面積当たりの穀物の生産量が大幅に増えたことをいいます。

緑の革命は小麦だけでなく、イネ、トウモロコシでも行われました。緑の革命で遺伝子操作が行われたため、これ以降の小麦品種がアレルギーやグルテンに関連する疾患を引き起こす原因になった、との意見もあるようですが、これは事実ではありません。そもそも今から 60 年以上前に、遺伝子操作なんてできるわけがありません。ただ小麦の場合は、製パン特性に優れた品種が長年にわたって選抜されてきたという経緯があります。そのため結果として、グルテンを多く含む品種が増えたことは事実です。

このように、小麦をはじめとする穀物は、定住を基本とする農耕社会が始まるきっかけを作り、文明を発展させるための礎になり、そして経済発展と人口増加を支えるための食料を供給することで、人類の進歩とともに歩んできました。

小麦には依存性があるというのは事実ではない

話は少し変わりますが、おいしいパン、おいしいラーメンを食べると、また食べたくなります。これは小麦に含まれる成分が関係しているという説があります。本当なんでしょうか。

みなさん、ドパミンという名前を聞いたことがあると思います。幸せホルモンと呼ぶ人もいますが、ホルモンではなく、脳内の神経伝達物質の一つです。ドパミンの量が増えることで、快い感情が生まれ、やる気が出て、幸せな気分になれるため、幸せホルモンなどという名前をつけたのでしょう。

お酒を飲むと気が大きくなって、ハッピーになるという人は多いと思います。これはアルコールを飲むことで、脳内のドパミン量が増え、報酬系と呼ばれる神経領域が活性化することが理由と考えられています2)。報酬系が活性化している間は、快い気分になりますが、アルコール濃度が下がると、脳内のドパミン量も下がり、元の状態に戻ります。ただ報酬系はお酒を飲んだら快い感情になることを記憶しているため、またお酒を飲みたくなります。これが依存性です。この依存性が強くなると、お酒が飲めないことでイライラしたり、強い不安を感じたり、手の震え、けいれん、発汗などの症状が現れるようになります。これが禁断症状と言われるものです。

アルコール、麻薬などは、脳内のオピオイド受容体という部位に作用して、ドパミンの量を増やす作用があり、一時的に報酬系を活性化させてくれますが、それがなくなると、強い焦燥感や喪失感を感じて、また快い感情を得るために、アルコールや麻薬が欲しくなります。これがアルコール依存麻薬依存のメカニズムです。

小麦に含まれるグルテンエキソルフィンという物質は、消化管から吸収されて脳のオピオイド受容体に結合し、ドパミンの量を増やす作用があるといわれています。そのため、小麦には依存性があるといわれてきました。しかし小麦に含まれるグルテンエキソルフィンは微量で、アルコールや麻薬などとは違って、その作用は非常に弱いです。小麦を含む食べものを大量に食べることで、ドパミンの量が増えたという臨床データはありません。また小麦を含む食べものによって、禁断症状を起こす科学的根拠はありません。

小麦に含まれているグルテンエキソルフィンが、脳内のオピオイド受容体に結合し、ドパミンの量を増やすのは事実ですが、だからと言って、依存性があるとは言えないというのが結論です。

 

 

小麦の8割は海外からの輸入、自給率は低い

小麦の多くは、海外からの輸入に頼っていることはご存じでしょうか。令和元年度の小麦の自給率は 17 %で 3)、残りはアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入です。国産小麦も増えてはきましたが、まだまだ少ないです。資源のない日本は海外との貿易で成り立っているので、輸入品が悪とはいいません。

また小麦の生産国はいずれも日本の同盟国なので、これらの国から輸入することも賛成です。ただ国内でお米が供給過剰気味であるにも関わらず、海外からの輸入に頼らないといけない小麦を積極的に食べる気にはあまりなれません。日本の食料自給率は 38 % で、先進 7 か国(G7)の中では断トツの最下位です。もし小麦を食べるのなら、国産小麦を食べたいと、私は思います。

ちなみに原材料欄に小麦粉(国内製造)と書いてあるのをよく見ますが、これは国産小麦ではありません。小麦はすべて穀物の状態で輸入されて、それを国内の製粉会社が粉にしています。関税の関係から小麦粉を輸入している例はほとんどないので、小麦粉は基本的に国内製造なのです。また小麦の輸入は、日本政府が一括して行い、価格を決めて製粉会社に売り渡しています。その結果、価格は安定していますが、競争原理も働きません。

小麦を使った食品は、安くておいしく、しかも手軽に食べることができ、満腹感が得られるものが多いです。おいしい食べものは、人を幸せにします。でも、小麦のほとんどは、外国からの輸入であることも忘れないでください。

 

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参考文献

1) ScienceDaily 記事、2015 年 7 月 15 日

https://www.sciencedaily.com/releases/2015/07/150722144709.htm

2) ドパミン、e-ヘルスネット、厚生労働省

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-047.html

3) 令和元年度食料自給率について、農林水産省(2019)

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