ふだんからお腹の調子が悪い人は、FODMAP(フォドマップ)という成分が関係しているかもしれません。
FODMAPとは、人間が消化・吸収できない炭水化物で、食物繊維も含まれます。腸活によいといわれている食物繊維が、おなかの調子を悪くしている可能性があるのです。FODMAPとは何で、どのような影響を及ぼすのか、解説します。
FODMAPとは
FODMAP(フォドマップ)は人間が消化・吸収できず、腸内細菌のエサになる、炭水化物の総称で、腹痛、腹部膨満、下痢を起こすことがあるものです。
FODMAPは、
O:Oligosaccharides オリゴ糖
D:Disaccharides 二糖類
M:Monosaccharides 単糖類
A:and
P:Polyols 糖アルコール
の頭文字をとったものです。
炭水化物ってなに?
容器に入ったり包装されたりする食品には、栄養成分として炭水化物の量が必ず表示されています。でも、炭水化物って、何のことでしょうか。
炭水化物とは、分解すると単糖になる物質とその誘導体、のことで、糖質と食物繊維に分けられます。
糖質は消化・吸収されて、ヒトのエネルギー源になるもの、食物繊維は消化・吸収されず、エネルギー源にならないものですが、例外もたくさんあります。
最近、食品の栄養表示欄に、「糖質」「糖類」「食物繊維」の量が表示されていることもありますが、とにかくわかりにくいです。整理すると次のようになります。
単糖類
単糖類というのは、炭水化物の構成単位となる、一番小さい糖類のことです。主な単糖類としては、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、フルクトース(果糖)があります。
このうちフルクトースだけがFODMAPになります。しかも、同時に存在するグルコースの量と比較したとき、グルコースの量より多い分だけがFODMAPになります。
二糖類
二糖類というのは、単糖類と単糖類がくっついてできている糖です。同じ種類の単糖類同士が結合している場合もあれば、異なる種類の単糖類が結合していることもあります。
主な二糖類には、グルコースとフルクトースが結合したスクロース(ショ糖)、グルコースとガラクトースが結合したラクトース(乳糖)、グルコースが 2 個結合したマルトース(麦芽糖)があります。
このうち、ラクトースを分解する酵素の活性が低い人(アジア系民族の 90 %)にとっては、ラクトースがFODMAPになりますが、分解する酵素を持つ人にとっては、FODMAPになりません。
なお、スクロースは分解すると、グルコースとフルクトースになりますが、グルコースとフルクトースが同量できるので、スクロースが分解して生じるフルクトースは、FODMAPにはなりません。
多糖類
単糖類が 3つ以上つながったものを、多糖類といいます。
一方で、単糖類が 2~10 個つながったものを、オリゴ糖といいます。ということは、二糖類はオリゴ糖? などといい始めると、複雑になるので、ここでは単糖類が 3~10 個つながった多糖類を、オリゴ糖と呼ぶことにします。
多糖類には、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン、フルクタンなど、いろんな種類があります。それぞれの構造と、小腸での分解・吸収のされやすさ、そしてFODMAP に該当するかどうかを、整理しました。どれも、加工食品の原材料表示で、よく見かけるものばかりですね。
多糖類で、単糖まで完全に分解されて吸収されるのは、でんぷんだけです。フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖は分解されないため、FODMAPになります。
また、グルコースが枝分かれしながらつながったデキストリンは、一部しか分解されないため、やはりFODMAPになります。
さらに、フルクトースがつながったフルクタンも分解されないので、FODMAPです。ちなみにフルクタンには何種類かあり、そのうちの一つがイヌリンです。
炭水化物のうちFODMAPはどれ
このように、炭水化物には、FODMAPに該当するものが、かなり存在します、下の図で赤字で示したものが、FODMAPになります。
FODMAPが腹痛、腹部膨満、下痢を起こすメカニズム
食べものは消化(分解)され、小腸で吸収されます。吸収されなかったカスは、大腸へ送られ、水分が吸収されたのち、便となって排泄されます。FODMAPは、小腸で吸収されない、あるいはされにくい成分です。吸収されなかったのなら、そのまま便となって出てくれればよいのですが、そんなに簡単な話ではないのです。
FODMAPが腹痛、腹部膨満、下痢を起こすメカニズムとして、これから説明する 3 つが考えられています。
小腸で吸収されなかった成分が水を引き寄せる
分解・吸収されなかったFODMAPは、主に固体です。消化管の中の固体の量が増えると、消化管が詰まってしまいますので、本能的に水で薄めて、流動性を高めようとします。そうすると、小腸の中にある物質の量が増えます。小腸の壁を刺激することで、お腹が張った感じがし、痛みを感じます。これは小腸で吸収されない成分すべてに起こうる現象です。
最近、プレバイオティックスといって、腸内細菌のエサになる成分を積極的に摂ることを推奨する動きがあります。この成分は小腸で分解・吸収されないので、摂りすぎると、人によってはここに書いたような症状を引き起こす場合があります。
腸内細菌がガスを発生させる
小腸で吸収されなかったFODMAPは大腸へ送られます。腸内細菌はこれをエサにして発酵し、ガス(水素、二酸化炭素、メタン)を作ります。エサの量が多くなると、ガスの発生量も多くなり、お腹が張った感じになります。またガスが腸管壁を刺激するので、痛みを感じ、場合によっては腸の急速な蠕動運動で下痢になります。
腸内細菌による分解は、分子量の小さいものほど速く進みます。ですから、単糖類>二糖類>オリゴ糖>食物繊維の順で、ガスが急速に発生すると考えてよいでしょう。したがって、フルクトース、ラクトース、フルクトオリゴ糖などは要注意です。
大腸で再び水を引き寄せる
大腸では、小腸から送られてきたカスを腸内細菌が分解し、人間が必要とする酪酸や乳酸を作ります。また大腸では、その残りカスから水分が吸収されて、便が作られます。このカスが大腸の中に長く留まり、水分が吸収され過ぎると、便秘になります。一方、カスの中には水分を引き寄せる性質があるものがあります。そのような成分が大腸にやってくると、大腸の中にあるカスの水分量が高くなります。水分量が高くなると膨張するので、腸の壁を刺激し、下痢が起こることになります。
チューイングガムに使われるキシリトールには、食べ過ぎるとお腹が緩くなることがありますという注意書きがありますが、キシリトールはこれに該当するFODMAPです。また甘味料として使われるソルビトールは、吸収されず大腸で水を引き寄せます。ちなみにソルビトールは、胃のレントゲン撮影の際にバリウムと一緒に飲む下剤としても使われています。
グルテンとFODMAPの関係
グルテンは、小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質で、ほかのたんぱく質と比べて分解されにくいという特徴があります。たんぱく質は、胃と十二指腸の消化酵素で分解され、最小単位のアミノ酸になって、はじめて、小腸の粘膜から吸収されます。完全に分解されなかったグルテンは吸収されず、
- 小腸で水を引き寄せ、体積が増え、小腸の壁を刺激することで、お腹が張った感じがしたり、痛みを感じたりします。
- これが大腸へ送られると、腸内細菌がガスを発生させ、お腹が張った感じになります。またガスが腸管壁を刺激するので、痛みを感じ、場合によっては腸の急速な蠕動運動で下痢になります。
- 分解されなかった固体(カス)は、大腸で再び水を引き寄せて膨張し、腸の壁を刺激するため、下痢が起こります。
これは、FODMAPが腹痛、腹部膨満、下痢を起こすメカニズムと全く同じです。腹部膨満、腹痛、下痢の原因がグルテンなのか、FODMAPなのか、あるいは両方なのか、完全に判別することは困難です。なぜなら、グルテンを含む食品には、FODMAPも多く含まれているからです。
ところで、グルテン不耐症に分類されている病気の一部は、グルテンでなく、FODMAPが原因ではないかといわれるようになりました。いつもおなかの調子が悪い人が、グルテンが原因かも、と思って、グルテンフリーの食生活に切り替えた結果、症状がよくなることがあります。
でもその理由が、グルテンを摂取しなくなったことによるものなのか、FODMAPの摂取量が減ったことによるものなのか、わからないままです。一方で、過敏性腸症候群と診断された人の 30 %は、実はグルテン不耐症だったという報告もあります。
グルテンが関係する代表的な病気は次の3つです。このうち小麦アレルギーとセリアック病は、グルテンによるアレルギー反応であることがはっきりしていますが、ノンセリアックグルテン過敏症については、原因がグルテンではない可能性が指摘されています。
小麦アレルギー | セリアック病 | ノンセリアック グルテン過敏症 |
|
発症メカニズム | 即時型アレルギー反応 | 遅延型アレルギー反応の一つである自己免疫疾患 | 小腸粘膜の変化(アレルギー反応ではない) |
摂取後発症までの時間 | 数分~数時間 | 数日から数週間 | 数時間~数日 |
主な症状 | 皮膚症状が主体だが、血圧の低下や意識障害をきたして死に至る危険性あり | 腹痛、下痢、腹部膨満、栄養吸収障害に伴う貧血、カルシウム欠乏症 | 腹痛、下痢、腹部膨満、もやもや感、抑うつ、発疹(吹き出物)、貧血 |
いずれの場合も、小麦、グルテンを含まない食事に切り替えることで、症状が治まります。小麦アレルギーとセリアック病については、アレルギー反応の原因物質(アレルゲン)が特定されていますが、ノンセリアックグルテン過敏症については、グルテン以外の物質、具体的には、
- 小麦などに含まれるたんぱく質の一種
- 小麦など多くの食品に含まれる難消化性の炭水化物であるFODMAP
が原因である可能性が指摘されています。
FODMAPは人間が消化・吸収できず、腸内細菌のエサになる炭水化物の総称で、体質によっては、腹痛、腹部膨満、下痢を起こすことがあります。小麦には、FODMAPの一種であるフルクタンが重量の 1.2 % 含まれており、小麦粉から作られたパンにも 1.4~1.7 %含まれます 1)。
ノンセリアックグルテン過敏症の典型的な症状が、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感ですが、これはフルクタンを含む FODMAP の摂取で起こる症状とほとんど同じです 2)。ですから、ノンセリアックグルテン過敏症の疑いがある人が、何が原因か突き止めるためには、グルテンフリーにするだけではなく、FODMAPの摂取もやめて、体調の変化を観察する必要があるのです。
低FODMAPは過敏性腸症候群の治療のため
過敏性腸症候群(IBS)は、通常の検査では腸に炎症・潰瘍・内分泌異常などが認められないにもかかわらず、慢性的に腹部膨満感や腹痛を訴えたり、下痢や便秘などの便通の異常を感じる病気です。腸が精神的ストレスや自律神経失調などの原因で刺激に対して過敏な状態になることで起きると考えられています 3)。低FODMAPの食事療法は、もともと過敏性腸症候群の患者さんの治療のために考えられたもので、70 % の患者さんに効果が認められています 4)。オーストラリアでは、低 FODMAPの食品、食事を見分けるアプリがあるほどです。
日本では、過敏性腸症候群の人は人口の 14 %、欧米でも人口の 10~20 %といわれており、決して珍しい症状ではありません 5)。一方、ノンセリアックグルテン過敏症の人は人口の 6 % 程度いる可能性があるといわれています。さらにヨーロッパで、過敏性腸症候群と診断されたうちの 30 %が、実はノンセリアックグルテン過敏症だったという研究結果もあります 6)。グルテンが原因で起こる消化器症状と、過敏性腸症候群で見られる消化器症状は、ほぼ一致しています。
食品のグルテン量とFODMAP量
この図は、さまざまな食品に含まれるグルテンの量と、FODMAPの量を推定したものです(写真の食品に含まれる実重量で表しています)。
小麦を含む食品は、グルテンもFODMAPも多く含むため、グルテンフリーにすることで、摂取するFODMAPの量は減少します。
ただ、乳製品や大豆を含む食品など、グルテンフリー食品の中にも、FODMAPを多く含む食品があります。不快な症状を解消するために、グルテンフリーにチャレンジしても、FODMAPが原因の場合には、症状がよくならないことがあります。自分の症状の原因を突き止めるためにグルテンフリーに挑戦する場合には、同時に摂取するFODMAPの量も減らす方がよいでしょう。
さまざまな食品を、FODMAPの多い、少ないと、グルテンを含む、含まないで分類したのが、下の表です。なおFODMAPの多い、少ないについては、オーストラリアのモナッシュ大学の分類に基づいています 7)。
参考文献
1) Ewa Pejcz et. al., Technological Methods for Reducing the Content of Fructan in Wheat Bread, Foods, 8 (12) 663 (2019)
2) Skodje GI, et.al., Fructan, Rather Than Gluten, Induces Symptoms in Patients With Self-Reported Non-Celiac Gluten Sensitivity, Gastroenterology, 154 (3) 529-539 (2018)
3) 過敏性腸症候群、e-ヘルスネット、厚生労働省
4) Emma Altobelli et. al., Low-FODMAP Diet Improves Irritable Bowel Syndrome Symptoms: A Meta-Analysis, Nutrients 9 (9) 940 (2017)
5) 福土審、過敏性腸症候群 Irritable Bowel Syndrome, Future Direction of Research in Irritable Bowel Syndrome, 消心身医 20 (1) 23-26 (2013)
6) Carlo Catassi et.al., Non-Celiac Gluten Sensitivity: The New Frontier of Gluten Related Disorders, Nutrients 5 (10) 3839–3853 (2013)
7) High and low FODMAP foods, Monash University
https://www.monashfodmap.com/about-fodmap-and-ibs/high-and-low-fodmap-foods/