グルテンフリーが健康によいというのはウソ、グルテンフリーなんて無意味といった話が、雑誌やネット上に載っています。医師や管理栄養士の話として、事実とは異なることが掲載されるのは、いかがなものかと思います。ここではグルテンフリーに関するウソ情報を 3 つ紹介し、どこがどう間違っているのか、科学的根拠を示しながら説明します。
グルテンフリーは意味がないのか?
グルテンフリーなんてやっても無駄、意味がない、グルテンフリーの効果なんてウソ、という話が、雑誌やネット上に載っています。その多くはライターが、医師、管理栄養士など、この分野の専門家といわれる方のお話を引用して書いているようです。
グルテンフリーについて、どのような意見を持つかはその方の自由なのですが、明らかに事実と異なることでも、それが専門家の話として掲載されると、それを読んだ人は事実として受け取ってしまいます。ライターが専門家の話を引用するのは、記事の信頼性や権威性を高めるのが目的ですが、結果的に間違った情報に信頼性や権威性を与えてしまっています。
ここでは、明らかに間違っているにも関わらず堂々と掲載されている、グルテンフリーに関するウソ情報を3つ紹介します。またその情報のどこが事実と異なるのか、最新の医学論文に基づいて解説します。
間違った情報 (1) グルテンにアレルギー反応がければ小麦を食べても健康被害はない
まず、アレルギー反応について簡単に説明します。特定の食べものや花粉、ハウスダストにアレルギー反応を示す人はたくさんいます。花粉症もアレルギー反応のひとつです。アレルギー反応を示すかどうかは、血液中に特定の物質に対する IgE 抗体があるかないかを調べることで比較的簡単にわかります。グルテンにアレルギーを示す人は、グルテンを構成するたんぱく質であるグリアジンかグルテニンのどちらかに対して、IgE 抗体を持っています。
では、グリアジンかグルテニンに対してアレルギー反応がなければ、小麦を食べても健康被害はないのでしょうか。
いいえ。そんなことはありません。
小麦が関係している病気で、グリアジンまたはグルテニンによるアレルギー反応以外で発生するものはいくつかありますが、その中でもっとも患者数が多いといわれているのが、非セリアックグルテン過敏症(NGCS : Non-Celiac Gluten Sensitivity)です。これは、セリアック病や小麦アレルギーがない場合に、グルテンの摂取によって腸および腸以外の場所に症状が現れる状態、として定義されているもので、症状としては、腹部膨満、下痢、便秘、腹痛、吐き気、嘔吐、裂肛(切れ痔)、もやもや感、頭痛、関節痛、しびれ、平衡感覚喪失、抑うつ、疲労、湿疹、発疹(吹き出物)、貧血、体重減少などが報告されています 1)。また、患者数は人口の 0.5~13 % と推定されています。人口の 13 % とするならば、6 人 に 1 人ということになります。
こんな病気、聞いたことがないという方がほとんどだと思います。それもそのはず。本格的に研究が進み始めたのは 2010 年頃からで、毎年約 300 報の論文が出ていますが、日本での研究は数えるほどしかありません。症状を見ればわかるように、命に関わるようなものではないので、病院に行かずに市販薬で対応している人も多いと思われます。また症状が重く、病院にかかった人の多くは、過敏性腸症候群と診断されているようです 2, 3)。
非セリアックグルテン過敏症は、グルテンのほかに、ATI、小麦胚芽凝集素、フルクタンが発症に関わっています。過敏性腸症候群で見られるのと同じ腹部膨満、下痢、便秘、腹痛といった消化器症状に加え、もやもや感、頭痛、関節痛、しびれ、平衡感覚喪失、抑[…]
小麦に対するアレルギー反応がなくても、小麦が原因で起きる病気は、可能性が指摘されているものも含めると、たくさん存在します。
医療機関でIgE抗体検査を行いグルテンアレルギーと診断された人は小麦を避けるべきですが、基本的にアレルギー反応がない人はグルテンフリーにする必要はなく小麦を食べても健康被害はまったくありません。
残念ながら、専門家が言ったとは信じがたい内容です。
間違った情報 (2) グルテンの摂取でリーキーガットになるのはアレルギーの結果
リーキーガット(leaky:漏れやすい、gut:腸)とは、腸のバリア機能が損なわれて、本来なら体内に入るはずがない物質が入る状態になることです。人間は栄養の 90 % を腸から吸収していますが、口や肛門を通じて外界とつながっている腸は、ウイルス、病原菌をはじめとするさまざまな異物にさらされています。
そのため腸管壁には強力なバリア機能があり、からだに必要なものは通すが、そうでないものは通さないことで、われわれのからだを守っています。
小麦に含まれるグルテンがリーキーガットを起こすことや、リーキーガットがさまざまな病気の発症と関わっていることが知られるようになり4)、グルテンフリーに関心を持つ人が増えてきました。ところが、グルテンでリーキーガットになるのは、グルテンによるアレルギーで体内に炎症反応が生じた結果という情報がありました。
こんな話、聞いたことがありません。
腸管上皮細胞には細胞間接着装置という特別な機能があり、細胞と細胞のすき間を広げたり閉じたりすることで、物質の通過を調節できるようになっています。この調節にはゾヌリンというたんぱく質が関わっており、腸管上皮細胞でゾヌリンが分泌されるとすき間が広がり、腸がリーキーガットの状態になります。そして、グルテンを構成するたんぱく質であるグリアジンがゾヌリンの分泌を増やすことがわかっています 5, 6)。
グルテンを摂取してリーキーガット症候群になるのは、グルテンアレルギーによって体内に炎症が生じた結果と考えてよさそうです。
何の根拠もありません。
これを読むと、グルテンアレルギーでない人は、リーキーガットにならないと取れますが、決してそんなことはありません。小麦アレルギーでない人で、グルテンが原因と思われるリーキーガットになっている例はたくさんあります。
一方、リーキーガットに関する研究論文は多数出ていますが、小麦成分やグルテンによるアレルギー反応で起きる炎症反応が原因でリーキーガットになると書いている論文は、見たことがありません。
間違った情報 (3) グルテンフリーで冠動脈疾患のリスクが高まる
もともとグルテンフリーという表示は、セリアック病の患者さんが食べても健康に悪影響を及ぼさないという意味です。セリアック病はグルテンに含まれるたんぱく質成分のグリアジンが原因で起きる自己免疫疾患で、グリアジンを異物と勘違いして免疫系がこれを攻撃するため、自分の小腸の細胞を破壊してしまう病気です。根本的な治療法はなく、生涯にわたってグルテンを含まないものを食べる必要があります。
セリアック病は、グルテンの成分であるグリアジンを、免疫がからだに有害なものと認識し、グリアジンが付着した小腸の細胞を攻撃し、破壊することで起きます。症状は小腸だけでなく、全身に現れます。患者さんは人口の 1 %といわれていますが、近年、増加[…]
セリアック病でない人がグルテンフリーを実践しても、冠動脈疾患のリスクが減るどころか、全粒粉摂取量の低下によりむしろリスクを増やす可能性もあり、勧められない。
セリアック病でない人がグルテンフリーを実践すると、かえって腸内の健康状態を悪くしてしまう可能性がある。
という説明をしているサイトがあります。これは欧米人の場合の話で、日本人には当てはまりません。
アメリカ、カナダ、オーストラリアやヨーロッパの一部の国では、国が全粒穀物の摂取を推進しています 7, 8)。全粒穀物とは種皮や胚芽も含めた穀物のことで、食物繊維、ビタミン、ミネラルが多く含まれます。そのため全粒穀物を多く摂ることで、食後血糖値の急激な上昇を防ぎ、肥満、糖尿病、冠動脈疾患の予防になることがわかっています。アメリカ政府が出しているアメリカ人のための食事ガイドラインの最新版(Dietary Guidelines for Americans, 2020 – 2025)では、成人は摂取する穀物の少なくとも半分を全粒穀物にすることを推奨しています 7)。
一般的に小麦は種皮と胚芽の部分を取り除いて小麦粉にされますが、種皮や胚芽も含めて粉にした全粒粉という粉もあり、欧米では全粒粉で作ったパン、パスタ、シリアル、クッキーなどが店頭にたくさん並んでいます。ところがグルテンフリーの代替食品は、食物繊維が少ないだけでなく、脂肪や糖質が多く含まれるため肥満になり、糖尿病や心血管疾患、ディスバイオシス(腸内細菌叢のバランス異常)が起きる可能性が指摘されています 9)。
グルテンフリーによって、冠動脈疾患のリスクが増えるとか、腸内の健康状態が悪化するというのは、まさにこのことを指していますが、もともと日本人が食べている小麦粉は全粒粉ではないので、グルテンフリーにしたところで食物繊維の摂取量が大幅に減るとは考えられません。しかも日本でグルテンフリーにする場合は和食中心のメニューになることが多く、脂肪や糖質の摂取量は逆に減るのではないかと考えられます。
日本の食生活の実情をよく見ないで、海外でいわれていることをそのまま引用したケースです。
まとめ
- 「グルテンにアレルギー反応がなければ小麦を食べても健康被害はない」というのはウソ。小麦が関係している病気で、アレルギー反応以外のメカニズムで起きる病気は複数知られており、非セリアックグルテン過敏症は、最大で 6 人に 1 人いる可能性もある。
- 「グルテンでリーキーガットになるのは、グルテンによるアレルギーで体内に炎症反応が生じた結果」というのはウソ。グルテンが小腸でゾヌリンというたんぱく質の分泌を促すことでリーキーガットになることが明らかになっており、グルテンによるアレルギー反応とは無関係。
- 「グルテンフリーで冠動脈疾患のリスクが上がり、腸内の健康状態が悪化する」というのは欧米人の場合の話で、日本人には当てはまらない。グルテンフリーの代替食品に食物繊維が少なく、脂肪、糖類が多いことが原因。日本人はもともと全粒粉はほとんど食べておらず、グルテンフリーにした場合も和食中心の食事になるので、食物繊維の減少、脂肪、糖類の過剰摂取にはならない。
参考文献
1) Barbaro MR, Cremon C, Stanghellini V, Barbara G. Recent advances in understanding non-celiac gluten sensitivity. F1000Res. 2018; 7:F1000 Faculty Rev-1631. Published 2018 Oct 11. doi: 10.12688/f1000research.15849.1
2) Catassi C, Alaedini A, Bojarski C, et al. The Overlapping Area of Non-Celiac Gluten Sensitivity (NCGS) and Wheat-Sensitive Irritable Bowel Syndrome (IBS): An Update. Nutrients. 2017; 9(11):1268. Published 2017 Nov 21. doi: 10.3390/nu9111268
3) Usai-Satta P, Bassotti G, Bellini M, Oppia F, Lai M, Cabras F. Irritable Bowel Syndrome and Gluten-Related Disorders. Nutrients. 2020; 12(4):1117. Published 2020 Apr 17. doi: 10.3390/nu12041117
4) Fasano A. All disease begins in the (leaky) gut: role of zonulin-mediated gut permeability in the pathogenesis of some chronic inflammatory diseases. F1000Res. 2020; 9:F1000 Faculty Rev-69. Published 2020 Jan 31. doi: 10.12688/f1000research.20510.1
5) Fasano A. Zonulin, regulation of tight junctions, and autoimmune diseases. Ann N Y Acad Sci. 2012; 1258(1):25-33. doi: 10.1111/j.1749-6632.2012.06538.x
6) Hollon J, Puppa EL, Greenwald B, Goldberg E, Guerrerio A, Fasano A. Effect of gliadin on permeability of intestinal biopsy explants from celiac disease patients and patients with non-celiac gluten sensitivity. Nutrients. 2015; 7(3):1565-1576. Published 2015 Feb 27. doi: 10.3390/nu7031565
7) Dietary Guidelines for Americans, An official website of the United States government
https://www.dietaryguidelines.gov/
8) Whole Grain Guidlines Worldwide, Oldways Whole Grains Council
https://wholegrainscouncil.org/whole-grains-101/how-much-enough/whole-grain-guidelines-worldwide
9) Marciniak M, Szymczak-Tomczak A, Mahadea D, Eder P, Dobrowolska A, Krela-Kaźmierczak I. Multidimensional Disadvantages of a Gluten-Free Diet in Celiac Disease: A Narrative Review. Nutrients. 2021; 13(2):643. Published 2021 Feb 16. doi: 10.3390/nu13020643