ルミナコイドは、食物繊維、オリゴ糖、難消化性デキストリンといった、消化酵素で分解されにくいため小腸で吸収されない食物成分の総称で、人間の健康の維持に役立つものです。ところが、ルミナコイドとされている成分の中には、体質によっては有害なものもあるんです。からだによいと思って摂ったルミナコイドが、逆効果になることもあります。
ルミナコイドとはなに、食物繊維との違いは
ルミナコイド(Luminacoid)とは、、日本食物繊維学会が 2003 年に提唱した用語で、食物繊維の概念にマッチしない物質も含めて、腸の健康に役立つ成分の総称です 1)。
完全な和製英語で、luminal(消化管腔内の)+ accord(調和)+ -oid(-質の)から作られたそうです。もちろん、海外では全く通じません。
ルミナコイドの説明に入る前に、食物繊維について簡単に触れておきます。
食物繊維は、人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分のことです 2)。 食べものに含まれているたんぱく質、脂質、炭水化物などは、消化管の中で消化酵素によって分解(消化)され、小腸から体内に吸収されますが、食物繊維は消化酵素で分解されることなく小腸を通過して、大腸まで到達します。
食物繊維は、便秘の予防をはじめとする整腸効果、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の低下など、多くの生理機能が明らかになっています。現在ではほとんどの日本人に不足しており、厚生労働省も積極的に摂取することを勧めています 2)。
ルミナコイドは、この食物繊維の概念にマッチしない物質を含めたということですが、どういう意味でしょうか。
日本食物繊維学会がいうルミナコイドの範囲を、上の図で示します 3)。ルミナコイドには、日本食物繊維学会が言う食物繊維のほかに、
・オリゴ糖
・糖アルコール
・レジスタントプロテイン
・その他(希少糖など)
・レジスタントスターチ
・難消化性デキストリン
が含まれます。
ところで厚生労働省は、食物繊維には難消化性デキストリンとオリゴ糖も含まれるといっています 2)。日本食物繊維学会と厚生労働省で、食物繊維の定義に違いがあるようです。
それはさておき、ルミナコイドの提唱者である日本食物繊維学会は、ルミナコイドを次のように定義しています。
つまり、食べものとして摂ることで、腸内で健康の維持に役立つものということだそうです。
ルミナコイドはからだに害がある成分も含まれる
ルミナコイドは、本当に健康の維持に役立つのでしょうか。実はルミナコイドには、からだに害がある可能性が指摘されている成分が含まれています。
レジスタントプロテイン(グルテンとカゼイン)
レジスタントプロテイン(Resistant protein)というのも、日本人が作った用語のようで、海外の医学論文を調べても、情報がありません。Wikipedia(日本版)によると、
とのことです。体内の消化酵素で分解されにくいたんぱく質といえば、小麦などに含まれるグルテンと、乳製品に含まれるカゼインが代表的なものですが、これが健康の維持に役立つのでしょうか。
グルテンやカゼインが、からだにどのような悪影響を及ぼすかについては、このサイトの他の記事で詳しく解説しているので、そちらをご覧ください。グルテンについては、10 人 に 1 人がからだに悪い影響を受けている可能性があると言われており 4)、グルテンの摂取を控えるグルテンフリーが世界的な流れです。
にもかかわらず、消化酵素で分解されにくいたんぱく質が、健康の維持に役立つなどというメッセージを学会が出していることに、疑問を感じざるを得ません。
オリゴ糖と糖アルコール
オリゴ糖とは、単糖が 2 個から 10 個程度つながった糖質のことです。からだによいイメージを持つ人が多いと思いますが、その理由は消化酵素で分解されにくいため、カロリーが低く、腸内細菌を増やす作用があるからです。
オリゴ糖のうち、単糖が 2 個つながった、スクロース(ショ糖:砂糖の成分)、ラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)は、消化酵素で分解され、小腸で吸収されますが、単糖が 3 個以上つながったものは、消化酵素で分解されにくく、小腸で吸収されません。そのため腸内細菌のエサになるのです。具体的には、次のようなものがあります。
- フラクトオリゴ糖:
グルコース1個にフルクトースが 2~4 個つながった構造をしています。砂糖に近い甘みがありますが、カロリーは 1/2 しかありません。明治が メイオリゴ® という名前で販売しています。 - ガラクトオリゴ糖:
グルコースとガラクトースとフルクトースが 1 個ずつ、つながったものです。砂糖の 1/3 の甘みがありますが、カロリーは砂糖の 1/2 です。ヤクルト薬品工業が オリゴメイト® という名前で販売しています。 - 大豆オリゴ糖:
ラフィノース、スタキオースなど、大豆に含まれるオリゴ糖の総称です。
一方、糖アルコールとは、単糖の構造の一部が変化してできたアルコールのことで、グルコースが変化してできたソルビトールや、キシロースが変化してできたキシリトールが代表的なものです。糖アルコールも甘味がありますが、消化酵素で分解されにくいため、カロリーが低く、腸内細菌を増やす作用があります。
オリゴ糖と糖アルコールもルミナコイドに含まれますが、この 2 つはFODMAPという人間が消化・吸収できず、腹痛、腹部膨満、下痢を起こすことがある成分です。FODMAPについてはこちらをご覧ください。
ふだんからお腹の調子が悪い人は、FODMAP(フォドマップ)という成分が関係しているかもしれません。 FODMAPとは、人間が消化・吸収できない炭水化物で、食物繊維も含まれます。腸活によいといわれている食物繊維が、おなかの調子を悪くし[…]
過敏性腸症候群(IBS:Irritable bowel syndrome)という病気をご存じでしょうか。検査で腸に炎症や潰瘍がないにもかかわらず、慢性的に腹部膨満感や腹痛を訴えたり、下痢や便秘などの便通の異常を感じる病気です。腸が精神的ストレスや自律神経失調などの原因で、刺激に対して過敏な状態になることで起きると考えられています 5)。過敏性腸症候群の人は非常に多く、日本では 10 人に 1 人が過敏性腸症候群といわれています 6)。
FODMAP成分をたくさん摂ると、過敏性腸症候群の症状を悪化させることがあります。逆に FODMAP 成分を含まない食事を摂ることで、過敏性腸症候群の人の 70 %が、症状が改善したとのことです 7)。
ルミナコイドが入った健康食品
ルミナコイドということば自体が知られていないため、ルミナコイドが含まれていることを売りにした健康食品は少ないのですが、2021 年 8 月に、Lulumilk(ルルミルク)という商品が、株式会社 Smart Lab (スマート・ラボ)より発売されています。
これはルミナコイドと有胞子性乳酸菌を配合した粉末で、15〜30 g(大さじ 1〜2 杯分)を 200 ml 以上の水またはお湯でよく溶かして飲むそうです。ルミナコイドにはさまざまな成分がありますが、この製品は分子量や特性、産生有機酸比率が異なる複数種のルミナコイドを配合しているそうです。商品のパッケージに表示されたルミナコイド成分は次のとおりです。
これに加えて、胃酸に強く大腸まで届く有胞子性乳酸菌を加えることで、腸の善玉菌の数を増やす効果が期待されます。
ちなみに値段は、450 gで 8,100 円(税込み)です。1 回に 30 g 飲むとすると、1 回分は 540円(税込み)となります。
過敏性腸症候群の人や、グルテン過敏症の人は、症状を悪化させる可能性があるので、飲むときは注意することをお勧めします。
まとめ
- ルミナコイドは日本食物繊維学会が 2003 年に提唱した用語で、ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分のこと。食物繊維に加え、オリゴ糖、糖アルコール、レジスタントプロテイン、希少糖、レジスタントスターチ、難消化性デキストリンを含む。
- ルミナコイドに含まれるレジスタントプロテインとは、消化・吸収されにくいたんぱく質のこと。小麦などに含まれるグルテンと、牛乳に含まれるカゼインが該当する。いずれも一部の人のからだに悪影響を及ぼすことがわかっており、特にグルテンは 7 人に 1 人が悪影響を受けている可能性がある。
- ルミナコイドに含まれるオリゴ糖と糖アルコールは、ともに消化・吸収されにくく、腹痛、腹部膨満、下痢を起こすことがある FODMAP というグループに含まれている。FODMAP は過敏性腸症候群を悪化させる可能性がある。
- ルミナコイドが入った健康食品が市販されている。過敏性腸症候群やグルテン過敏症の人は、症状を悪化させる可能性がある。
参考文献
1) 奥恒行、「ルミナコイド」をめぐって、 日本食物繊維学会New Letter, 36, 1, 2013
2) 厚生労働省、食物繊維の必要性と健康、e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
3) 奥恒行、ルミナコイドに関する現在の状況と今後の研究食品と開発、48 (1) 15 2013
4) Croall ID, Hoggard N, Aziz I, Hadjivassiliou M, Sanders DS. Brain fog and non-coeliac gluten sensitivity: Proof of concept brain MRI pilot study. PLoS One. 2020; 15(8):e0238283. Published 2020 Aug 28. doi: 10.1371/journal.pone.0238283
5) 厚生労働省、過敏性腸症候群、e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-079.html
6) 日本消化器病学会ガイドライン、過敏性腸症候群(IBS)ガイドQ&A
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html
7) Altobelli E, Del Negro V, Angeletti PM, Latella G. Low-FODMAP Diet Improves Irritable Bowel Syndrome Symptoms: A Meta-Analysis. Nutrients. 2017; 9(9):940. Published 2017 Aug 26. doi: 10.3390/nu9090940