抜け毛や薄毛に悩んでいる人はたくさんいます。ネット上には、グルテンフリーの食生活にしたことで、症状がよくなったという記事がある一方で、無意味だという記事も載っています。
海外の情報が断片的に伝わってきており、誤解も多いように感じます。現時点でわかっていることを整理しましたので、あなたの症状と照らし合わせてみてください。
抜け毛・脱毛・薄毛
抜け毛・脱毛・薄毛はヘアサイクルの乱れ
毛は毛根から生えています。毛根の細胞は、毛を作って少しずつ体の外に押し出しており、頭髪は月に 1 cm ずつ伸びています。髪の毛は永久に伸び続けるのではなく、2 ~ 6 年伸び続けると、やがて抜け落ちます。そしてまたしばらくすると、同じ毛根から新しい毛が生えるということを繰り返しています。
これをヘアサイクルといい、人間は一生の間に、この周期を 10~30 回繰り返しています。
ヘアサイクルは、成長期、退行期、休止期、脱毛期の 4 つに分けられます。
さきほど説明したように、成長期は 2~6 年続きます。そして、髪への栄養供給がストップして成長が停止する退行期が 2~3 週間続きます。さらに成長が完全に停止して、毛が抜けやすい状態の休止期が 2~3 か月続きます。休止期には、同じ毛穴で、次の新しい毛が生える準備が行われています。そしてその後、毛が抜け落ちる脱毛期を経て、再び成長期に入ります。
人間の頭皮には 10~15 万個の毛根があり、そのうち成長期にあるものが 85 %、退行期にあるものが 1~2 %、休止期にあるものが 10~15 %といわれています 1)。そして、1 日平均して 25~100 本の毛が抜けています。
このサイクルが乱れた状態が、脱毛や薄毛です。成長期の期間が正常な状態より短くなり、髪が十分伸びないうちに退行期や休止期に移行すると薄毛になります。また成長期にある細胞の数が減少すると脱毛症になります。
抜け毛・脱毛・薄毛の原因
抜け毛・脱毛・薄毛の原因は、さまざまなものがあります。主なものをあげてみました。
- 女性ホルモンの減少(産後、加齢)
- 男性ホルモンが変換されてできた物質が「脱毛因子」を生産する
- ストレスのため交感神経が優位になり、血管が収縮して毛母細胞に十分な栄養が届かない
- 栄養不足のため、毛母細胞に必要な栄養が届かない
- 遺伝的素因(アトピー素因を含む)
- 炎症(免疫系が自分の毛根などを誤って攻撃する自己免疫疾患)
- 薬剤(化学療法薬など)、金属(ヒ素など)、放射線
- 物理的刺激(ドライヤーの熱、三つ編み・ポニーテールなど)
グルテンと脱毛との関係
グルテンフリーで脱毛が治った!?
グルテンフリーの食生活に変えたことで、抜け毛、脱毛、薄毛の症状が改善したという話はよくあります。海外の雑誌やウェブサイトにもそのような記事がたくさん載っており、日本にもその情報が断片的に伝わってきています。一方で、効果がなかったという話もあり、いったいどちらが正しいのでしょうか。
結論からいうと、グルテンフリー食にしたことで、抜け毛、脱毛、薄毛の症状が改善したというのは事実です。一方で、症状が改善しなかったケースもあります。
脱毛にはいろいろな種類があり、原因も発生メカニズムもさまざまです。また、一つの要因で脱毛が起きるのは、薬剤、金属、放射線くらいで、多くの場合は、複数の要因が複雑に絡み合って起きています。そのため、ある人はグルテンフリー食にすることで症状が改善したが、別の人は改善しなかった、ということが、普通に起きるのです。
セリアック病と円形脱毛症の関係
グルテンと脱毛の関係で、因果関係が明確に説明されているのは、セリアック病の患者さんに多く見られる円形脱毛症が、グルテンフリー食で治ったというものです。
セリアック病は、欧米では 100 人に 1 人の割合で見られる病気で、体内に入ったグルテンを異物とみなして免疫系が過剰反応し、炎症反応によって自分自身のからだを傷つけしまう自己免疫疾患という病気です。
具体的には、食べものに含まれるグルテンを排除するために、免疫系がグルテンが付着した小腸の細胞を破壊することで、結果として消化器、皮膚、全身にさまざまな症状が現れるというものです。詳しい内容は関連記事をご覧ください。
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一方、円形脱毛症は免疫系に関わる T細胞 が、健康な毛根を攻撃し、ヘアサイクルの周期を混乱させ、健康な毛が突然抜け落ちることで起こる自己免疫疾患です。
セリアック病も円形脱毛症も、免疫系が自分のからだを攻撃することで起きる自己免疫疾患で、その発症には共通する要因がありそうです。これまでに明らかになっている研究成果を整理すると、
- セリアック病の人に円形脱毛症が多くみられる。
- セリアック病と診断されてグルテンフリー食に切り替えたところ、脱毛の症状が改善した。
- 円形脱毛症の人がグルテンフリー食で治ったことをきっかけとして、セリアック病であることがわかった。
- 円形脱毛症の症状が改善した後にグルテンを含む食品を摂ると、再び脱毛の症状が悪化した。
ということです。
円形脱毛症の方は、一度、グルテンフリーを試してみてください。
グルテン過敏症の人の抜け毛と薄毛
セリアック病や非セリアックグルテン過敏症など、グルテンが原因で消化器、皮膚、全身に悪影響を及ぼす病気をまとめて、グルテン過敏症と呼びます。
これらの病気の患者さんで、抜け毛や薄毛の症状があった人が、グルテンフリー食に変えたところ、抜け毛や薄毛の症状が改善したとの報告があります。
これについては、次のようなメカニズムが考えられます。
- グルテンの摂取による副腎疲労でホルモンバランスが崩れていたものが、グルテンフリー食によって解消された。
- グルテンの摂取により消化器、皮膚、全身で起きていた不快な症状が解消した結果、ストレスが減少した。
- グルテンの摂取で小腸上皮細胞が破壊されたり、慢性的な下痢で腸内細菌叢が変化したため、ビタミン、ミネラルが吸収できていなかったが、グルテンフリー食にすることで栄養不足が解消された。
これはさきほど説明したセリアック病と円形脱毛症のように、因果関係がきちんと説明されているわけではありません。また臨床試験を行った結果、グルテンフリー食とそうでない食事で、有意な差が得られたというものでもありません。
ただ、グルテンフリー食にしたことで、抜け毛・薄毛の症状が改善されたことに対して、説明がつきます。今後は臨床試験などを行うことで、これらのメカニズムが正しいのかどうか、検証されることになります。
グルテンフリーで脱毛が悪化するとの説
グルテンフリー食で脱毛が悪化するという指摘もありますが、これはグルテンフリーの代替食材を摂ることによるデメリットをいっているもので、グルテンフリーのデメリットではありません。
グルテンフリー食で脱毛が悪化するメカニズムとしては、次の 2 つが考えられます。
ダイエットに伴う栄養不足
欧米では、ダイエット目的で、グルテンフリー食を取り入れる人が多くいます。これらの人たちは、とにかく早く痩せたいので、グルテンを含む食品だけでなく、食品そのものの摂取を制限しています。栄養のバランスを考えたうえで行えば問題ないのですが、極端な食事制限をすると、必要な栄養分が摂れなくなり、脱毛の症状を悪化させる可能性があります。不足すると脱毛の原因になる栄養素とは、具体的に次のようなものです。
ビタミン ・・・ ビタミンD、ビタミンB群(特にナイアシンとビオチン)
ミネラル ・・・ 鉄、亜鉛
たんぱく質
必須脂肪酸 ・・・ リノール酸、α-リノレン酸
グルテンフリー代替食材による害
グルテンフリーが一般的な欧米では、グルテンが含まれる食品に対し、グルテンフリーの代替食材が用意されています。ただ、小麦を使わずに、もとの食品に似せて作っているので、糖分や脂肪分を多く含んでいたり、食品添加物をふんだんに使っていることがあるようです。
代替食材を摂ることで、本来摂らなくてよかった成分を体内に入れた結果、脱毛の症状を悪化させる可能性があります。
日本では、欧米のようなグルテンフリー代替食材は出回っておらず、グルテンフリーにする人の多くが、洋食を和食に変えたり、小麦粉を米粉で代替したりするので、このような問題が起きる可能性はほとんどありません。
こんな症状がある人はいませんか
慢性的な下痢、腹痛、腹部膨満感
抜け毛、薄毛とおなかの調子は、一見無関係のように思うかもしれませんが、慢性的に下痢、腹痛が起きるとか、食後にいつもお腹が張った感じがするとか、下痢と便秘を繰り返すとという場合、それが原因でストレス、炎症、栄養不足が起こり、その結果、抜け毛や薄毛が起きている可能性があります。
非セリアックグルテン過敏症が、抜け毛と関係あるかもしれないという説明をしましたが、過敏性腸症候群(IBS)も関係があるのではないかといわれています。
とにかく、慢性的におなかの調子が悪い方は、何が原因で起きているのか調べて、その原因を取り除いてみてはどうでしょう。原因物質としてはグルテンのほかに、FODMAPといわれる難消化性物質も考えられます。
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もやもや感(ブレインフォッグ)と疲労
いつも頭の中に霧がかかったような感じがするとか、体の疲れが取れないという場合も、グルテンの関与を疑ってみるべきです。グルテンが原因で体内で慢性的な炎症反応が起きると、もやもや感や疲労、関節痛、抑うつといった症状が現れます。体内で起こっている炎症反応は、抜け毛の原因になります。
新型ウイルス感染症の後遺症として、ブレインフォッグや抜け毛が報告されているのは、みなさんもご存じでしょう。これはウイルスを撃退するために体内で起こった炎症反応の結果、起きている症状なのです。
体重の減少
急激なダイエットも含め、体重が減少している場合は、栄養不足で抜け毛が起きている可能性があります。特に、たんぱく質、必須脂肪酸、ビタミン、ミネラルの不足が起き、体重減少とあわせて、抜け毛が起きている可能性があります。
いずれにしても、グルテンと抜け毛・脱毛・薄毛は、何らかの関係がありそうです。
ここでの説明に一つでも当てはまるものがあったなら、グルテンフリーを試してみてはいかがでしょうか。なおさらに詳しい内容については関連記事もご覧ください。
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まとめ
- 頭の毛根では毛を作って月に 1 cm ずつ体外に伸ばしているが、2~6 年経つと抜けて生え替わる。これをヘアサイクルと呼んでおり、成長期、退行期、休止期、脱毛期の4つに分けられる。成長期が 2~6 年と一番長く、頭皮にある毛根の 85 % が成長期にある。
- ヘアサイクルが乱れた状態が脱毛や薄毛。成長期の期間が短く、髪が十分伸びないうちに退行期や休止期に移行すると薄毛になる。また成長期にある細胞の数が減少すると脱毛症になる。
- 抜け毛・脱毛・薄毛の原因にはさまざまなものがあるが、主なものとして、ホルモン、ストレス、栄養不足、炎症、薬剤、放射線、物理的刺激などがある。
- グルテンフリー食で抜け毛、脱毛、薄毛の症状が改善したというのは事実だが、改善しなかったというのも事実。
- セリアック病と円形脱毛症はともに自己免疫疾患で、グルテンフリー食でセリアック病、円形脱毛症とも症状が改善する。
- グルテン過敏症で抜け毛や薄毛の症状のある人が、グルテンフリー食にしたことで、症状が改善したという報告がある。
- グルテンフリーで脱毛の症状が悪化するのは、栄養素の不足によるものと思われる。
参考文献
1) Kamal V. Patel et. al., Hair Loss in Patients with Inflammatory Bowel Diseas, Inflammatory Bowel Diseases, 19 (8) 1753-1763 (2013)
2) Michael Benigno et. al., A Large Cross-Sectional Survey Study of the Prevalence of Alopecia Areata in the United States, Clin Cosmet Investig Dermatol, 13, 259-266 (2020)