いろいろな種類のお酒(アルコール飲料)がありますが、グルテンフリーと表示されたものは見かけません。どのお酒がグルテンフリーなのか、それはなぜなのか、また小麦アレルギーやグルテンの影響を受けやすい人が飲めるお酒はどれなのか、解説していきます。
グルテンフリーのお酒はどれ
お酒はアルコール発酵で作られる
穀物に含まれるでんぷんを分解して作られたグルコースや、果実や糖蜜に含まれるグルコースそのものを、アルコール発酵でエタノールに変えたのが、お酒です。化学式で書くと、次の通りです。
このあと絞ったり、ろ過したり、蒸留したり、場合によっては樽で熟成させてから、瓶詰されて出荷されます。
醸造酒には原料に含まれるグルテンが残る
お酒は醸造酒と蒸留酒に分けられます。
醸造酒はアルコール発酵したあと絞ったり、ろ過したりして作ります。身近なものとしては、ビール、日本酒、ワインなどがあります。ビールは麦芽から作られるので、グルテンが含まれます。
アメリカではグルテンフリービールなるものが売られていましたが、その一部に対してFDA(食品医薬品庁)はグルテンフリーの表示をすることを2020年10月から禁止しました。最終製品にグルテンが入っていないことを科学的に証明できないと判断したからです。
2020 年 8 月 12 日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、ビール、酢、チーズ、ヨーグルトなどの発酵食品、加水分解食品の、グルテンフリー表示ルールを厳格化しました。これは、現在の分析方法では、発酵食品、加水分解食品のグルテン量を分析で[…]
ところでみなさん、商品について気になったら、メーカーのホームページを見ると思います。ある大手ビールメーカーのホームページに、「大麦にはグルテンは含まれていません(皆無ではない)」という解説が載っていましたが(現在は削除されています)、これは明らかな誤りです。コーデックス委員会(WHOとFAOの国際機関)、アメリカ、カナダ、EU、オーストラリア、ニュージーランドで、大麦はグルテン含有穀物として規定されています。また、「含まれていません(皆無ではない)」って、結局は含まれているということです。食品を扱う大手メーカーでさえ、この程度の認識しかない、ということでしょうか。
蒸留酒はグルテンが残る場合と残らない場合がある
蒸留酒は加熱してアルコール分を蒸発・濃縮しているので、原料の成分はあまり残っていないと考えられます。
しかし、蒸留酒といえども、原料の成分が全く含まれていないわけではないので、小麦アレルギーやセリアック病の場合は、注意が必要です。特に焼酎のように単式蒸留で蒸留され、かつアルコール度数が低い場合は、もとの醸造酒の風味(=成分)が残っていますので、麦焼酎は原料由来のグルテンが残っていると考えたほうがよいでしょう。小麦アレルギーの人は、絶対に飲まないでください。
一方、ウイスキー、ウォッカ、ジンについては、原料のグルテンは蒸留の過程で除去されており、グルテンフリーであるといわれています1)。
グルテンが含まれるお酒と含まれないお酒
主なお酒について、発酵原料(でんぷんや糖質)と蒸留の有無、グルテンの有無をまとめました。なお、お酒の種類はひじょうにたくさんあり、この表に当てはまらないものもあります。またワインのように、原料にグルテン含有穀物を使用していないものでも、熟成のために樽を密封する際に小麦ペーストを使用しているケースもあります。この場合は含有量が少ないので、体に影響が出る場合と出ない場合があると思います。
お酒の種類 | 発酵原料 | 蒸留の有無 | グルテンの有無 | |
---|---|---|---|---|
グルテンを含む | グルテンを含まない | |||
ビール | 大麦麦芽 | 米、トウモロコシ | なし | あり |
ホワイトビール | 小麦麦芽、大麦麦芽、小麦 | なし | あり | |
日本酒 | 米、米麹 | なし | なし | |
芋焼酎 | サツマイモ、米麹 | あり | なし | |
麦焼酎 | 大麦、麦麹 | 米麹 | あり | あり |
米焼酎 | 米、米麹 | あり | なし | |
泡盛 | 米(インディカ米) | あり | なし | |
ウイスキー | 大麦麦芽 | トウモロコシ | あり | なし |
ウォッカ | 大麦、小麦、ライ麦 | ジャガイモ | あり | なし |
ジン | 大麦、ライ麦 | ジャガイモ | あり | なし |
ラム | サトウキビ糖蜜 | あり | なし | |
ワイン | ぶどう | なし | なし | |
ブランデー | 果実 | あり | なし | |
テキーラ | アガベ、糖蜜、トウモロコシ | あり | なし |
グルテンフリービール
ビールは麦芽、ホップ、副原料に水を加えて発酵させた、アルコール分が20%未満のお酒です。副原料はとしては、米、トウモロコシ、小麦などが使われますが、一部の商品は副原料を使っていません。
ビール
ところで麦芽は大麦を発芽させたものなので、もともと大麦に含まれていたたんぱく質が入っており、グルテンフリーではありません。
例えば副原料を使わず、大麦麦芽とホップだけから作られたサッポロ・エビスビールには、たんぱく質が100ml中0.5g含まれています。ホップにもたんぱく質は15%ほど含まれていますが、麦芽の方が使用量は多いので、たんぱく質の半分は大麦麦芽由来と考えてよいでしょう。また大麦中のたんぱく質中にグルテンがどれくらい含まれているのかわかりませんが、仮に小麦と同程度含まれるとすると、2,125ppmのグルテンが含まれる計算になります(あくまでも仮定の計算ですが…)。
海外では、ビールに含まれているグルテンを酵素で分解したグルテンフリービールや低グルテンビール、大麦、小麦以外のもともとグルテンを含まない原料を使ったグルテンフリービール(日本ではビールに分類されない)が市販されています。
サッポロ・エビスビール成分表示
発泡酒・新ジャンル
グルテンフリーの商品は3種類!
のどごし生とドラフトワン
ビールではないけど、ビールの味に近い製品がいろいろと出ていますが、キリン「のどごし生」とサッポロ「ドラフトワン」、サントリー「ジョッキ生」は、グルテンを含む原材料を使っていません。
それぞれの原材料は次の通りです。(/から後は、食品添加物)
- 【キリン・のどごし生】ホップ、糖類、大豆たんぱく、酵母エキス
- 【サッポロ・ドラフトワン】ホップ、糖類、エンドウたんぱく/カラメル色素
- 【サントリー・ジョッキ生】ホップ、コーン、糖類(国内製造)、醸造アルコール、食物繊維、酵母エキス、コーンたんぱく分解物/香料、酸味料、カラメル色素、クエン酸K、甘味料(アセスルファムK)
ビールは大麦麦芽から作られるため、グルテンが入っていますが、これらの商品は麦芽を使用しないことでビールよりも低い税率が適用されるように工夫したものです。開発された当時とは税制が変わり、発泡酒・新ジャンルとビールの税率の差は小さくなったため、お得感が薄れてしまいました。
ただグルテンを摂りたくない人にとっては、貴重な商品です。
ところで最近、サッポロ・ドラフトワンとサントリー・ジョッキ生をスーパーやコンビニで見かけなくなりました。サッポロビールのホームページを見ると、店頭から商品がなくなり次第、一時休売となりますと書いてありました。
のどごしZEROとのどごしSTRONGはグルテンフリーではない!
一方、キリン・のどごし生は、どこでも売っているベストセラー商品です。これに加えて、のどごしZERO、のどごしSTRONG、のどごし<超爽快>という商品が発売されていますが、いずれも大麦が使われていますので、グルテンフリーではありません。似た名前なので注意してください(のどごし<超爽快>は終売しています)。
商品名 | 原材料 |
---|---|
のどごし生 | ホップ、糖類、大豆たんぱく、酵母エキス |
のどごしZERO | 発泡酒(麦芽エキス、ホップ、糖類、食物繊維、大豆たんぱく)、大麦スピリッツ、乳化剤 |
のどごしSTRONG | 発泡酒(麦芽、ホップ、大麦、糖類)、大麦スピリッツ |
のどごし<超爽快> | 発泡酒(麦芽、ホップ、大麦、コーン、糖類) 現在は終売 |
日本の酒税法上、これらの製品はビールではありませんが、海外でグルテンフリービールとして流通しているものの中には、同様の製品があります。味はビールそのものですよね。
キリン・のどごし生とのどごしZERO、のどごし<超爽快>
参考
1) https://www.beyondceliac.org/gluten-free-diet/is-it-gluten-free/liquor/