過敏性腸症候群(IBS)の症状、原因と症状を悪化させる食べもの

過敏性腸症候群IBS : Irritable Bowel Syndrome)は、通常の検査で、腸に炎症・潰瘍・内分泌異常などが認められないにも関わらず、慢性的に腹部の膨張感腹痛を訴えたり、下痢便秘などの便通の異常を感じる、という症候群です。

命に関わる病気ではありませんが、日常生活に支障をきたします。日本人の10人に1人が過敏性腸症候群1)、その予備軍ともいえる下部腹痛の人は6人に1人もいます2)。症状が現れるのは男性より女性の方が多く、年齢別では20~30歳代が多いようですが、年齢が高くなるにつれて減少するようです。

ここでは、過敏性腸症候群の症状について解説するとともに、その症状を悪化させる可能性がある食べ物やグルテンとの関係について、説明します。

過敏性腸症候群の症状

過敏性腸症候群は、本人の意思とは関係なく

  • 急にお腹が痛くなる(腹痛
  • 急に下痢をする
  • ガスが溜まっておなかが張る(腹部膨満
  • おならが出てしまう(音が出る、臭いがする)

という症状が現れます。命に関わることはありませんが、会議やテストなどの緊張する場面や、電車やバスの中など物理的にトイレへ行けない環境で、突然このような症状が起きるので、日常生活に与える影響は極めて深刻です。

過敏性腸症候群には、国際的に統一された診断基準があります。最新のものは2016年に作られたRome (ローマ)Ⅳ基準です3)。それによると、

過去3か月の間に、平均して週1日以上お腹の痛みが繰り返し起こり、下記の2項目以上の特徴を示す場合に、過敏性腸症候群とされます。
① 排便によって症状がやわらぐ
② 症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)
③ 症状とともに便の形状(外観)が変わる(柔らかくなったり硬くなったりする)
しかもこれらの症状が、少なくとも6か月前に現れ、過去3か月間、見られること。

でも、週1回くらいなら、このような症状はあるという人は多いのではないでしょうか。

日本では10人に1人が過敏性腸症候群です。海外もほぼ同様で、人口の10~15%が過敏性腸症候群といわれています。ただ地域による差はあるようで、南アメリカで21%で最も多いのに対し、東南アジアで7%と少なくなっています4)

過敏性腸症候群にはいろいろなタイプがあり、それぞれ症状が違います。タイプの分け方も、

  • 便秘型
  • 下痢型
  • 混合型(便秘と下痢が繰り返し起こる)
  • 分類不能型

の4つに分けている場合もあれば、

  • 不安定型
  • 慢性下痢型
  • 分泌型
  • ガス型

の4つに分けていることもあります。後者の分け方の方が、実態に即していると考えるので、後者のタイプごとに症状を見ていきましょう。

過敏性腸症候群 不安定型

腹痛や腹部の不快感とともに下痢と便秘を数日毎に繰り返します。便秘のときは腹部が張って苦しく、排便したいにもかかわらず出ない、また出てもごく小さな便しか出ないという状態です。そして数日後には、また下痢をします。交代制便通異常とも呼ばれます。

過敏性腸症候群 慢性下痢型

ちょっとした緊張、不安、ストレスがあると便意を催し、激しい下痢の症状があらわれます。神経性下痢とも呼ばれます。

過敏性腸症候群 分泌型

強い腹痛が続いた後に、大量の粘液が排出されます。排便のコントロールができない場合もあります。

過敏性腸症候群 ガス型

お腹にガスが溜まって張ります。そしてガスが出やすくなります。症状が重くなると、おならのコントロールができなくなり、人前でもガスやにおいが漏れてしまうことがあります。

過敏性腸症候群の原因は? 心当たりをチェック

日本消化器病学会のガイドラインを見ると、

過敏性腸症候群になる原因はわかっていません。原因が明らかにされる日が楽しみです。

書いてありました。思わず「えっ、他人事…」と思ってしまいました。

原因と引き金は違うかもしれませんが、次のようなことが引き金として関係しているといわれています。

  1. ストレスや不安
    脳と腸は密接につながっており、ストレスや不安を感じると腸の蠕動運動が激しくなり、痛みを感じやすくなります。トイレに行けない状況で、もしトイレに行きたくなったらどうしようと不安になり、下痢をしてしまう。そのような悪循環に陥っているケースが多いようです。多くの人が、過敏性腸症候群の一番の原因は、ストレスや不安だといっています。
  2. 知覚過敏
    腸にはたくさんの神経が張り巡らされており、便が溜まるとそれが腸壁を刺激して、蠕動運動が起き、排便されます。ところが腸が知覚過敏になっていると、少しの刺激で急激な蠕動運動が起きます。これが下痢です。またふつうでは感じない程度の刺激で腹痛を感じてしまうこともあります。
  3. 腸粘膜が弱くなる
    細菌やウイルスに感染して腸炎になった後、過敏性腸症候群になりやすいことがわかっています。このことから、腸粘膜が傷ついたり弱くなることで、少しの刺激で痛みを感じたり蠕動運動が起きるようになっている可能性があります。
  4. 腸内細菌叢の変化
    人間の腸には100兆個の腸内細菌がいますが、その菌の種類が変わることで体調が変化することがわかっています。最近「腸活」ということばが流行っていますが、腸内細菌のバランスをよい状態に保つことで、健康になることがわかっています。

過敏性腸症候群の治療や薬、対処法はあるのか

日本で行われている治療

日本ではだいたい次のような治療が行われているようです。

食習慣・生活習慣の改善

  • 暴飲暴食を避けて、栄養のバランスの摂れた食事を規則的に摂る。
  • 高脂肪食を控える。
  • アルコールを控える。
  • 睡眠・休養を十分とる。

不安を和らげるための薬物治療

  • 抗不安薬を服用し、不安を和らげる(不安が強い場合に限られる)

また、過敏性腸症候群に効くサプリメントというのもいろいろあるようです。

・ℓ-メントール(ペパーミントオイル)
・乳酸菌
・ビフィズス菌

私は、症状との適合性を考えずにサプリメントを摂ることは、薬剤師として賛成しかねます。そもそもサプリメントは食品なので、効果・効能は期待しないほうがよいです。

そもそも過敏性腸症候群としてひとまとめにしていますが、タイプによって起きている症状が全く違います。下痢をしやすい人と便秘がちな人、下痢と便秘を繰り返す人、下痢をコントロールできない人、ガスが溜まりやすい人、同じ治療法でよいわけがありません。

症状を誘発する食べものを摂らないことも重要

下痢、便秘、ガスはすべて食べたものから発生しています。ですから、症状を緩和するためには、まずは下痢しにくい食べ物、便秘しにくい食べ物、ガスが発生しにくい食べ物を摂るところから始めるべきです。

下痢を起こしやすい食べもの

人によって違うとは思いますが、①腸管壁に刺激を与える食べもの、と②消化されにくい食べものが考えられます。

①腸管壁に刺激を与える食べもの

  • 香辛料
  • アルコール
  • 炭酸
  • にんにく、たまねぎ
  • コーヒー
  • 冷たいもの

②消化されにくい食べもの

  • 脂肪の多い食品
  • 小麦に含まれるグルテン
  • 植物性たんぱく質(大豆たんぱく、小麦たんぱく)
  • FODMAP成分を多く含む食べもの(FODMAPについては、このあと説明します)

③乳糖を含む食品

日本人の75%は乳糖(ラクトース)を分解する酵素を持っていないか、酵素を作る能力が低いといわれています。牛乳、ヨーグルト、アイスクリームなどの乳製品には乳糖が含まれていますので、これらを多く摂ると、下痢になる場合があります。

便秘を起こしやすいたべもの

よく知られているように、食物繊維が不足すると便秘になるといわれています。食物繊維には2種類あります。水溶性食物繊維は腸の中で水を吸って膨れ、便の体積を増やしてくれます。また不溶性食物繊維は便そのものになります。食物繊維が少ない食べ物は、便が形成されにくく、便が形成されないと排便されにくくなるので、単純に考えると食物繊維が少ない食べものが、便秘を起こしやすいということになります。

しかし、便秘の原因は、食物繊維の不足だけではありません。ほかにもいろいろな要因が重なり合って、便秘が起きています。食物繊維が少ない食べもので便秘する人もいれば、便秘しない人もいるので、食物繊維を摂りさえすれば、便秘は解消されるとは考えないほうがよいです。

しかも食物繊維には問題点もあります。腸内細菌は食物繊維を分解してガスを作りますので、食物繊維を多く含む食べものを食べると、腸内にガスが溜まり、おならが出やすくなります。実際にガスが溜まりやすく、便秘がちという人も多いのです。

ガスを発生しやすい食べもの

いま説明した食物繊維のほかに、ガスが発生しやすい成分をまとめてFODMAPと呼びます。
FODMAPとは、

F:Fermentable      発酵性の
O:Oligosaccharides   オリゴ糖
D:Disaccharides     二糖類
M:Monosaccharides   単糖類
A:and
P:Polyols        糖アルコール

の頭文字をとったものです。

これは過敏性腸症候群について研究しているオーストラリアのモナッシュ大学が提唱しているもので、FODMAP成分が少ない食事を摂ることで、過敏性腸症候群の患者さんの70%以上に効果が認められています5)。オーストラリアでは過敏性腸症候群の患者さんのために、低FODMAPの食品、食事を見分けるアプリがあります。

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FODMAPの少ない食事を試してみては

いま、「下痢を起こしやすい食べもの」、「便秘を起こしやすいたべもの」、「ガスを発生しやすい食べもの」を紹介しましたが、みなさんはこれらの食べものを意識して生活されているでしょうか。

体調管理に人一倍気を使わなければいけないアスリートは、このような情報を踏まえて、毎日食べるものを選んでいます。過敏性腸症候群の治療においても、何を食べ、何を食べない、という対応をもっとすべきだと思います。特にFODMAPの少ない食事を選択することで、過敏性腸症候群の患者さんの70~86%に効果があったという論文が出ているにもかかわらず、日本ではあまり知られていません5) 6)

この記事を読まれた方は、ぜひ、試してみることをお勧めします。

まとめ

  • 過敏性腸症候群では、慢性的な腹部の膨張感や腹痛、下痢や便秘などの便通の異常が起きることで、日常生活に支障をきたす。日本人の10人に1人が過敏性腸症候群といわれている。
  • 原因は不明だが、ストレス、不安、腸粘膜の損傷、腸内細菌叢の変化が関係しているといわれている。対症療法による治療が行われるが、食事に積極的に介入するということはあまり行われていない。
  • 下痢、便秘、ガスはすべて食べたものから起きているので、症状を緩和するためには、食べものを管理するところから始めるべき。
  • FODMAPが少ない食事を摂ることで、過敏性腸症候群の患者さんの70~86%に効果があったという論文が出ている。

参考文献

1) 日本消化器病学会ガイドライン
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html
2) わかりやすい病気のお話シリーズ12 過敏性腸症候群 日本臨床内科医会(2006)
3) Lacy BE, Patel NK. Rome Criteria and a Diagnostic Approach to Irritable Bowel Syndrome. J Clin Med. 2017;6(11):99. Published 2017 Oct 26. doi:10.3390/jcm6110099
4) Patel N, Shackelford K. Irritable Bowel Syndrome. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; July 10, 2021
5) Altobelli E, Del Negro V, Angeletti PM, Latella G. Low-FODMAP Diet Improves Irritable Bowel Syndrome Symptoms: A Meta-Analysis. Nutrients. 2017;9(9):940. Published 2017 Aug 26. doi:10.3390/nu9090940
6) Nanayakkara WS, Skidmore PM, O’Brien L, Wilkinson TJ, Gearry RB. Efficacy of the low FODMAP diet for treating irritable bowel syndrome: the evidence to date. Clin Exp Gastroenterol. 2016;9:131-142. Published 2016 Jun 17. doi:10.2147/CEG.S86798

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