十分寝ても疲れが取れない、いつも疲れている。アメリカでは 4 人に 1 人が慢性的な疲労を感じているといわれ、年齢では 20~50 歳、性別では女性が多いそうです。この症状、グルテンが関係している場合があるのですが、多くの人がそのことに気づいていません。また、ウイルス感染症の後遺症として見られる慢性疲労症候群と、類似点があります。
ひどい疲れや慢性的な疲労の原因はグルテン!?
小麦などに含まれるたんぱく質であるグルテンが、さまざまな病気や症状に関わっているということがわかってきたのは、最近のことです。
グルテンが原因で起きる病気はいろいろありますが、患者数が多いのが、セリアック病と非セリアックグルテン過敏症です。セリアック病は 100 人 に 1 人、非セリアックグルテン過敏症は 100 人 に 6 人の割合で患者さんがいると推定されています。意外と多いことに驚きます。
しかし研究が進んでいるアメリカでも、診断されていない人が多数いるのです。1970 年代からその存在が知られているセリアック病でさえ、初めてセリアック病と診断された平均年齢は 50 歳を過ぎてからなんだそうです 1)。非セリアックグルテン過敏症に至っては、明確な診断基準さえ決まっておらず、後で説明するように、別の病名がつけられているケースも多いようです。
小麦などに含まれるグルテンが原因で起きる病気なので、消化器症状が中心と思われがちですが、実は皮膚や全身にさまざまな症状が出ることがわかっています。どんな症状が現れるか、簡単に説明します。
セリアック病で見られる症状
- 倦怠感
- 筋力低下
- 食欲不振
- 体重減少
- 貧血
- 舌炎
- 口角炎
- ビタミン D 欠乏症
- カルシウム欠乏症
- 不妊
- 月経の停止
非セリアックグルテン過敏症で見られる症状
- もやもや感
- 疲労
- 関節痛
- 抑うつ
- しびれ
- 平衡感覚喪失
- 湿疹
- 貧血
- 体重減少
- 頭痛
倦怠感や疲労は、誰にでも起こることですが、それが慢性的に起こる場合には、その原因を取り除く必要があります。もし、その原因がグルテンなら、グルテンを摂らないようにすることで、症状がよくなる可能性があります。
でも、どのようなメカニズムで、グルテンが疲労や倦怠感を引き起こしているのでしょうか。
セリアック病で見られる疲労は栄養吸収障害が原因
セリアック病は小麦などに含まれるグルテンが原因で、小腸の上皮細胞が破壊されることで、消化器、皮膚、全身にさまざまな症状が現れる病気です。
小腸の上皮細胞が破壊されるので、まずは消化器症状が見られると思われていましたが、最近になって消化器症状が見られないセリアック病が多数見つかるようになりました。
アメリカでセリアック病と初めて診断された平均年齢が 50 歳以上であったと説明しましたが、その理由として、
- 消化器症状が見られないため、食べものが原因だと気づかない
- 全身症状が慢性的で、命に関わるほど重いものではなかったので、見過ごされてきた
- 健康目的でグルテンフリーにしている人が多いため、症状が現れにくかった
ことがあげられます。]
セリアック病の消化器症状は、軽い下痢と脂肪分の多い便ですが、軽い下痢なら、見過ごされてしまうことが多いと思います。また消化器症状が見られなければ、そもそも毎日食べている小麦が原因だなんて、誰も気付かないでしょう。
セリアック病で、倦怠感、筋力低下、食欲不振、体重減少、貧血が起きる原因は、主に栄養吸収障害です。
人間は食べものに含まれる栄養分の 90 % を小腸で吸収します。そのため小腸の内部は細かいひだが多数あり、これを全部延ばしたら、小腸はテニスコート 1 面分もあります。セリアック病は免疫細胞がグルテンを異物と認識して攻撃することで起きます。その結果、グルテンが付着した小腸内部の細かいひだを破壊してしまいます。
食品中に比較的多く含まれる糖分やたんぱく質は何とか吸収されますが、脂肪は吸収効率が落ちるので、セリアック病の人は脂肪が多い便が出ます。また食べたものがうまく吸収されないため、軽い下痢も起きます。
一方、もともと食品に含まれる量が少ないビタミンやミネラルは不足してしまいます。慢性的に栄養不足の状態になり、倦怠感、筋力低下、食欲不振、体重減少、貧血などが起きます。
セリアック病は、関係する特定の遺伝子を持たない日本人には、ほとんど見られないといわれてきましたが、それを否定する研究結果が 2021 年に出ています。この件も含めて、詳しい内容は、関連記事をご覧ください。
セリアック病は、グルテンの成分であるグリアジンを、免疫がからだに有害なものと認識し、グリアジンが付着した小腸の細胞を攻撃し、破壊することで起きます。症状は小腸だけでなく、全身に現れます。患者さんは人口の 1 %といわれていますが、近年、増加[…]
非セリアックグルテン過敏症で見られる疲労はリーキーガットが原因
非セリアックグルテン過敏症とは、グルテンが原因で起きる過敏症のうち、セリアック病以外のものです。この定義からもわかるように、解明途中の病気であり、確定した診断基準がありません。欧米では研究が進んでおり、非セリアックグルテン過敏症と診断される人も増えていますが、日本ではあまり知られておらず、非セリアックグルテン過敏症と診断された人は少ないと思われます。
非セリアックグルテン過敏症とセリアック病との一番の違いは、小腸の細胞が破壊されていないという点です。
非セリアックグルテン過敏症では、下痢、腹痛、腹部膨満(ガスが溜まる)、便秘などの消化器症状がよく見られますが、これ以外に、もやもや感、疲労、関節痛、抑うつ、しびれ、平衡感覚喪失、湿疹、貧血、体重減少、頭痛などの全身症状も見られます。
非セリアックグルテン過敏症でこれらの全身症状が現れるメカニズムは、栄養吸収障害ではなく、本来吸収されない物質が体内に入ることによるものと考えられます。
リーキーガットということばをご存じでしょうか。
「リーキー」とは漏れやすい、「ガット」は腸のことです。口から入った食べもの、雑菌、異物など、ありとあらゆるものが通過する腸には、必要なものだけが体内に入り、有害なものが体内に入らないようにするためのバリア機能があります。このバリア機能が緩んだ状態がリーキーガットです。
グルテンはリーキーガットを引き起こすたんぱく質の分泌を促すことがわかっています。ただこれには個人差があり、小麦を食べたすべての人がリーキーガットになるわけではありません。リーキーガットになると、本来入るはずのない物質が体内に入り、血流に乗って全身へ送られます。その結果、疲労を含むさまざまな全身症状が現れます。
ところで、非セリアックグルテン過敏症で見られる消化器症状は、過敏性腸症候群(IBS)の症状とかなり重複しています。
過敏性腸症候群(IBS)は診断基準が決まっており、その診断基準に当てはまる人は、日本人の 10 人 に 1 人 といわれています。これは日本に限ったものではなく、海外でも人口の 10~15 % が過敏性腸症候群です。ところが最近の欧米の研究で、過敏性腸症候群と診断された人の中に、非セリアックグルテン過敏症の人がかなりの割合で存在することがわかってきました。
日本では、お医者さんで過敏性腸症候群と診断されても、グルテンを含む食品を摂らないように、との指導はありません。そのため、グルテンを含んだ食品を食べ続けるので、いつまでたっても症状はよくなりません。医師からは、生活習慣やストレスが原因ではないかといわれるだけです。
- 過敏性腸症候群と診断されて、お薬を飲んでいるにも関わらず、症状が改善しない。
- 過敏性腸症候群と診断されたが、もやもや感、疲労、関節痛、抑うつ、しびれ、平衡感覚喪失、湿疹、貧血、体重減少、頭痛といった症状にも心当たりがある。
- 慢性的な疲労を感じており、下痢、腹痛、腹部膨満、便秘も見られる。
という場合は、非セリアックグルテン過敏症を疑ってみてはどうでしょうか。
なお、リーキーガット、非セリアックグルテン過敏症については、別の記事で詳しく解説しています。
リーキーガットとは、腸のバリア機能が損なわれた結果、本来なら入らない物質が体内に入る状態になることです。腸のバリア機能の一つが、腸管上皮細胞のすき間を閉じている細胞間接着装置です。ゾヌリンというたんぱく質が作用すると、このすき間が緩んで、腸[…]
小麦アレルギー、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症について、原因物質、発生メカニズム、症状、対応方法を整理しました。この 3つの病気は、小麦に含まれる成分が原因で起こり、症状が似ているため、混同されることが多いのですが、対処方法が異な[…]
新型コロナウイルス感染症の後遺障害は免疫システムの軽い異常
新型ウイルス感染症の後遺障害の一つとして慢性疲労症候群が注目されています。マスコミで取り上げられたことで、広く知られるようになりました。
毎日だるいので、もしかしたら私も慢性疲労症候群?と思うかもしれませんが、ほとんどの場合は、慢性疲労症候群ではありません。
慢性疲労症候群には診断基準があり、
- 日常生活が送れないほどの重度の疲労が 6 か月以上続く
- 筋力低下、関節炎、神経障害などは起きない
- 発症する前は健康で活動的であった
- ストレスとなる出来事のあとで、突然起きることが多い
とされています。
ポイントは日常生活が遅れないほどの重度の疲労です。
具体的にどのような状況かというと、
- 朝起きたときからひどい疲労を感じ、1 日中続く
- 集中力の低下、不眠や、うつ状態になることがある
- 喉、頭、関節、筋肉、お腹に痛みを感じることがある
といわれています。慢性疲労症候群の原因や発生メカニズムは完全に解明されていませんが、
- ウイルス、細菌による感染、毒素への暴露
- 免疫の異常
- 遺伝的素因
の 3 つが関係しているといわれています。ウイルスや細菌に感染したり、毒素が体内に入ると、これを撃退するために免疫システムが働きます。免疫のおかげでこれらの異物を撃退できたあとも、免疫システムに軽い異常が残ってしまう場合があるようです。
慢性疲労症候群になる人の半分以上がアレルギーの病歴を持つことや、家族性があることから、遺伝的素因があるのではないかともいわれています。
アメリカでの慢性疲労症候群の患者数は、新型ウイルス感染症が広がる前の時点で 0.5 %(200 人に 1 人)でした。いまは患者数が増えているかもしれません。もしここで書いた症状に該当する場合は、躊躇せず、受診してください。
まとめ
- 慢性的な疲労に悩んでいる人は多く、アメリカでは 4 人に 1 人。
- 小麦に含まれるグルテンが原因で、倦怠感、疲労を感じることがわかっている。
- グルテンが原因で小腸の細胞が破壊されるセリアック病では栄養吸収障害が原因で倦怠感、筋力低下、食欲不振、体重減少になることがある。
- グルテンが原因でリーキーガットになるといわれている非セリアックグルテン過敏症では、本来体内に入らない物質が入ってしまうことで、もやもや感、疲労、関節痛、抑うつなどが起きる。
- 新型ウイルス感染症の後遺障害の一つである慢性疲労症候群は、ウイルスや細菌による感染が引き金で起こる免疫システムの異常と考えられており、日常生活が遅れないほどの重度の疲労が 6 か月以上続くもの。