お腹の調子がいつも悪い、グルテンと腹痛・下痢・便秘
グルテンに合わない体質
この中にも、グルテンを抜くことで症状が緩和したケースもあります。とにかく、腹痛・下痢・便秘でお悩みの方には、グルテンを抜いた食生活を試してみることをお勧めします。
薬剤師 Hirataの解説
過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群(IBS)は、精神的な緊張や過度のストレスが原因で自律神経のバランスが崩れ、腸の蠕動運動が激しくなったり、腸の痛みを感じやすい知覚過敏状態になったりする病気です。
腸に炎症や腫瘍がないのに、おなかの痛みや下痢、便秘などのお通じの異常を日常的に感じる場合には、過敏性腸症候群(IBS)と診断されることが多いと思います。日本では10人に1人の割合で患者さんがいて、特に女性に多いといわれています。現代社会は多くのストレスにさらされているので、多くの方がこの症状に悩んでいらっしゃることに納得できます。
ただこの過敏性腸症候群(IBS)の症状と、グルテンが原因で起こる症状は、ほとんど一致しています。アメリカでは過敏性腸症候群(IBS)と診断された患者さんに、グルテンを抜いた食事を与えたところ、症状が改善したという報告もあります。過敏性腸症候群(IBS)と診断され、お薬を飲んでいらっしゃる方も、一度グルテンを抜いた食事を2週間続けてみてはいかがでしょうか。
ふだんからお腹の調子が悪い人は、FODMAP(フォドマップ)という成分が関係しているかもしれません。 FODMAPとは、人間が消化・吸収できない炭水化物で、食物繊維も含まれます。腸活によいといわれている食物繊維が、おなかの調子を悪くし[…]
グルテンフリーで吹き出物・肌荒れは治るの?
吹き出物や肌荒れの原因は一つではありません。いろんな原因が複雑に関係していますが、グルテンによって、
- 小腸粘膜の損傷、
- ホルモンバランスの乱れ、
- 過食(食べすぎ)
が起き、それが吹き出物や肌荒れにつながっている可能性があります。
小腸粘膜の損傷
薬剤師 Hirata の解説
ニキビ・吹き出物・肌荒れのメカニズム
ニキビは10代、20代に多い、白色または黒色の発疹で、かゆみはあまりありません。一方吹き出物は20代後半以降で増える赤い発疹で、かゆみや熱感を伴う場合があります。どちらも皮脂の過剰分泌によって毛穴でアクネ菌という細菌が異常繁殖することで起きるのですが、赤い吹き出物は炎症反応が起こっている点がニキビと異なります。
ニキビ・吹き出物・肌荒れの原因は複数あり、人によって状況が違うため、どれが原因か特定するのは困難です。可能性があるものを、ひとつひとつ減らしていくしかありません。
ニキビ、吹き出物、肌荒れは、ちょっとした体調の変化で起きるので、ふだんから食べものや睡眠に気を使っている人も多いでしょう。小麦などに含まれるグルテンは、さまざまな影響を及ぼしますが、その中に、皮膚症状があります。また、グルテンによる下痢・便[…]
ホルモンバランスの乱れ
消化・吸収されにくいグルテンが小腸にとどまることで、副腎という臓器に影響が起こります。これを副腎疲労といいますが、副腎はエストロゲンとプロゲステロンを作る臓器なんです。
薬剤師 Hirata の解説
ホルモン濃度の変化
生理のある年齢の女性は月経周期にあわせて、血液中のホルモンの濃度が変動します。生理4日目頃から17日目頃まではエストロゲンの濃度が高い期間で、比較的肌の調子がよいと思われますが、これ以降、生理前までの期間は、プロゲステロンの濃度がエストロゲンの濃度を上回るようになります。この期間は皮脂の分泌が増え、肌が脂っぽくなるとともに、肌が乾燥し、皮膚のターンオーバーが乱れて、古い角質がうまくはがれずに蓄積する場合があります。そうなると皮膚の角質層が硬くなり、毛穴が詰まることで、ニキビや吹き出物ができやすくなります。
過食(食べすぎ)
みなさん、こんにちは。 今回のテーマは、ニキビ、吹き出物、肌荒れです。多くの女性が経験している肌の悩み。そしてそれを解決…
ひどい疲労・もやもや感
寝ても疲れが取れない!
心配しないで説明を聞いてください。グルテンが原因で起きる症状の一つに、ブレインフォッグ(Brain Fog)といわれるものがあります。直訳すると「脳の霧」です。具体的な症状は1)、
- 集中力の低下
- 注意力の低下
- 少し前のことを覚えていない
- 話したり書いたりしながら、正しい言葉が出てこない
- 物忘れ
- 考えがまとまらない
- 見当識障害(時間や場所、人間関係がわからなくなる)
症状には個人差が大きく、単独で現れる場合もあれば、複数が同時に現れる場合もあります。ブレインフォッグは軽度の認知機能の低下です。
薬剤師 Hirata の解説
ブレインフォッグ(Brain Fog:脳の霧)
よく寝たのに朝からひどく疲れている、いつもはよくしゃべるのに時々会話がぎこちなくなる、考えがまとまらない……。もしこのような症状がたびたび起こるようなら、そればブレインフォッグ(直訳すると「脳の霧」)かもしれません。ブレインフォッグは線維筋痛症、関節リウマチ、多発性硬化症という病気でみられる症状ですが、グルテンに合わない体質の人に起こるセリアック病やノンセリアックグルテン過敏症でもよくみられる症状です。アメリカでは、セリアック病の方の89%、ノンセリアックグルテン過敏症の方の95%が、フレインフォッグを経験しています。
ブレインフォッグについてはまだ研究が進んでいないため、医学的な定義は決まっていません。また消化器症状と関係があるのではないかとの指摘もありますが、メカニズムもよくわかっていません。明らかなのは、グルテンフリーの食事に変えると、1年以内に症状が改善された例があるということだけです。
なお、グルテンが原因で、まっすぐ歩けない、動作が遅い、話すとき呂律が回らないなどの症状が現れる場合は、グルテン失調症という別の病気の可能性があります。
抜け毛・薄毛
一部の脱毛について、グルテンとの関係が指摘されています。
脱毛は複数の原因で起きますので、人によって原因は異なるかもしれませんが、代表的なものを説明しましょう。
栄養障害
グルテン不耐症(正確には、セリアック病とノンセリアックグルテン過敏症)の人は、グルテンを摂ることで、日常的に腸の吸収機能が低下し、腸内細菌のバランスが崩れています。そのことで、本来吸収するはずの栄養素が吸収できない、腸内細菌が作るはずのビタミンが作られず吸収されない、ということが起きています。
具体的にはビオチン、亜鉛、ビタミンCなどです。例えばビオチンの不足は脱毛につながりますし、亜鉛が不足すると毛包幹細胞で髪の生成に関与するコラーゲンの生成ができなくなります。
脱毛に効果があるというサプリメントがありますが、サプリメントは不足している場合にのみ有益で、過剰摂取は症状を悪化させる可能性があります。例えばビタミンA、E、セレンの過剰摂取は、脱毛に関係があるとの指摘もあります。グルテンを含まない食事を摂れば腸の機能が正常になるため、栄養障害が解消でき、脱毛も改善するかもしれません。
自己免疫疾患
自己免疫疾患とは、本来有害でない物質を有害と判断して、免疫系がそれを攻撃することで起きる病気です。グルテンを有害と判断することで、小腸の粘膜に炎症が起こるセリアック病という自己免疫疾患がありますが、脱毛症の患者さんには、セリアック病の割合が高いことが知られています。
一般的に1つ自己免疫疾患があると、2つ目、3つ目の自己免疫疾患が発生しやすくなります。
円形脱毛症は免疫系が毛包を攻撃することで起きる自己免疫疾患で、米国では性別に関係なく人口の0.17%に発生します。セリアック病の患者さんがグルテンを摂らない食事に変えたところ、円形脱毛症が治ったという報告もありますが、そのメカニズムはよくわかっていません。おそらく栄養障害が改善された結果と思よれます。
抜け毛・脱毛・薄毛については、関連記事でグルテンとの関係を詳しく説明しています。
また橋本病も自己免疫疾患の一つで、グルテンが関係している可能性があり、脱毛(頭髪、眉毛、全身)が起きることがあります。
一部の抜け毛・薄毛の発生に、小麦などに含まれるグルテンが関係していることは間違いありません。 ただ抜け毛・薄毛にはいろいろな種類があり、その原因も発生メカニズムも異なるので、グルテンフリーにすれば、抜け毛・薄毛が解決するというものでも[…]
おなかから鳴る音
空腹でもないのに、おなかがグルグル鳴る!?
空腹になるとおなかからグーッと音がします。周囲の人に聞こえないかと気になることもあるでしょう。空腹時は主に胃から聞こえますが、これは胃液が空っぽの胃の粘膜を刺激することで胃の活動が活発化し、鳴ると考えられています。
一方、空腹ではないときに、下腹がグルグルとこと鳴るがありませんか。これは胃ではなく、腸から聞こえる音です。腸官の中には固体、液体とガスが入り混じっていますが、腸管の蠕動に伴ってガスが移動するときに、音が鳴ります。このようにおなかから鳴る音のことを「腹鳴」といいます。
おなかはだれでも鳴るのですが、空腹でもないのにおなかが鳴る、腸からのグルグル音が頻繁に聞こえて気になって仕方がない、さらに下痢や便秘の症状がある場合、過敏性腸症候群(IBS)と診断される場合があります。過敏性腸症候群(IBS)というのは、精神的な緊張や過度のストレスが原因で、自律神経のバランスが崩れ、腸の知覚過敏や、腸の蠕動運動がスムーズに進まくなり、腹鳴、下痢、便秘が起きますが、腸そのものには異常はありません。
近年患者数が増加しており、若い女性、真面目な人、内向的で気が弱い人が罹りやすいといわれています。治療は、原因となる緊張やストレスを取り除くとともに、食習慣、生活習慣の改善を行いますが、下痢、便秘、腹痛などの症状に応じて、消化管を中心とした薬物療法を行います。
一方で、小麦に含まれるグルテンでも、似た症状が出ることがあります。
セリアック病は、小腸の上皮細胞に取り込まれたグルテンの分解物をリンパ球が攻撃して起こる自己免疫疾患ですが、攻撃によって小腸の上皮細胞が傷つくため、腸の知覚過敏により、過敏性腸症候群と同様の症状が起きます。ノンセリアックグルテン不耐症では、グルテンが小腸の上皮細胞に貼りつくことで、腸の正常な動きが妨げられるため、腹鳴、下痢、便秘が起きます。
ただセリアック病も、ノンセリアックグルテン不耐症も、人によって現れる症状がまちまちなので、なかなかわかりにくいというのが現状です。グルテンに対する関心が高い米国ですら、セリアック病であるという診断が下されるまで、平均で4年かかったという報告もあり、その間、患者さんはいろいろなお薬を飲んで、様子を見られていたものと思われます。人よりもおなかが鳴っている気がして、それが気になる方は、一度、グルテンを含む食品を摂るのを止めて、様子を見てはどうでしょうか。
出典
1) Kristin N. Voorhees, Kristen Sweet, Jessica B. Edwards George, Daniel A. Leffler, Neurocognitive Effects of Gluten Exposure: Results of a Nationwide Survey, 15th International Celiac Disease Symposium (2013), https://www.beyondceliac.org
2) Verywell hearth https://www.verywellhealth.com/gluten-a-cause-of-brain-fog-563112
参考文献
1) Emily L. Guo et. al., Diet and hair loss: effects of nutrient deficiency and supplement use, Dermatol Pract Concept, 7(1) 1-10 (2017)