小麦などのグルテンを含む原材料や、穀物(グレイン)を使わないドッグフードが海外で人気のようです。
もともと犬は雑食性なので、穀物を抜く必要はありません。
これらのドッグフードが人気なのは、人間の食生活と関係があるといわれています。一方で食物アレルギーを持つが多いのも事実で、これらのフードは有効なのでしょうか。
2019年にはグレインフリーのドッグフードが犬の心臓病を誘発するという結果も公表されています。
グルテンフリー、グレインフリーの違い
グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質です。グルテンを含まない食品やグルテンを摂らない食事法のことを「グルテンフリー」といいます。
グルテンフリーは、もともとグルテンが原因で起こる自己免疫疾患であるセリアック病の人が、食べられるものを判別できるように名付けられたものです。
セリアック病は治療する方法がないため、生涯にわたって、グルテンが含まれていない食品を摂り続けなければなりません。このような経緯からグルテンフリーは、「セリアック病の人の健康に影響があるレベルのグルテンが含まれていない」というのが、正確な意味になります。
具体的には、食品1kgに含まれるグルテンの量が20mg未満であれば、グルテンフリーと表示することができます。
一方、グレインフリーとは、穀物(グレイン)が含まれていないという意味です。
穀物とはでんぷんを主成分とするイネ科作物の種子のことで、さきほど紹介した小麦、大麦、ライ麦に加えて、米、トウモロコシ、ソルガム、アワ、キビ、ヒエなどを含みます。またこれ以外に、ソバ、キヌア、アマランサスや、豆類を含むこともあります。
グレインフリーは、アメリカで一部の人が実践しているパレオダイエット(Paleolithic diet)という食事法で行われています。
パレオダイエットは原始人食や旧石器時代食とも呼ばれるもので、農耕が始まる前の人間の食生活を模倣したもので、魚介類、鳥類、小動物、昆虫、卵、野菜、キノコ、ナッツ類などを食べ、農耕で生産される穀物や豆類は一切食べません。
グルテンフリー・グレインフリーのドッグフード
アメリカではグルテンフリーやグレインフリーのドッグフードが簡単に手に入ります。どんなものなんでしょうか。原材料などを調べてみました。
Blue Buffalo Basics (Dry) for Adult Dogs
- グルテンフリーのドッグフードブランド
- 主な原材料:七面鳥、オートミール(オーツ麦)、 豆、 玄米、 じやがいも
- たんぱく質20%
- 鶏肉、トウモロコシ、小麦、大豆、人工香料、防腐剤は不使用
Hi-Tek Naturals Grain-Free Alaskan Fish Formula Adult (Dry)
- グレインフリーのドッグフードで、魚、ラム、チキンの3種類がある。ここで紹介するのは魚
- 主な原材料:サーモンミール、エンドウ豆、ホワイトフィッシュミール
- たんぱく質35%、ただし植物性たんぱく質が多い
Taste of the Wild, Trout Limited Ingredient Recipe (Dry)
- グレインフリーのドッグフードでさまざまな種類がある。ここで紹介するのは魚のマス
- 主な原材料:マス、レンズ豆、トマト搾りかす、ひまわり油
- たんぱく質27%
Wellness Core Original (Dry)
- グレインフリーのドッグフードでさまざまな種類がある。ここで紹介するのはオリジナル
- 主な原材料:七面鳥、鶏肉チキンミール、エンドウ豆、ジャガイモ、レンズ豆
- たんぱく質34%
Purina ONE® True Instinct Grain Free Formula with Real Beef Dry Dog Food
- 大手メーカーのドッグフードのラインナップの一つとして、グレインフリーがある
- 主な原材料:牛肉、鶏肉、大豆粕、キャッサバ、えんどう豆
- たんぱく質30%
グルテンフリー・グレインフリーのドッグフードの評価は
これについて、ペットの健康に関する情報サイトPetMDおよびアメリカの複数の獣医さんのウェブサイトの掲載情報を調べましたが、答えは全て同じでした。
まず犬は農耕生活が始まるのと同時に人間と暮らし始めたので、犬の消化器は人間と同様、穀物やグルテンを消化できるように、進化しています。
つぎに犬のアレルギーの原因物質については、次のような記述があります。
- 食物アレルギーのある278匹の犬について、原因物質を特定したところ、牛肉が最も多く最も多く95例、2番目は乳製品で55例。トウモロコシは7例であった1)。
- 犬の食物アレルギーの278例の研究では、牛肉、乳製品、鶏肉、卵、子羊、大豆、豚肉、魚が合計231例の原因でした。グルテンを多く含む小麦は、42例であった2)。
- 犬が食物アレルギーは食物過敏症(食物不耐性)を指すことが多く、アレルギーとは異なり、免疫応答を伴わず、牛肉、鶏肉、卵、トウモロコシ、小麦、大豆、牛乳などのドッグフードの不快な成分に対して段階的に反応する3)。
- 犬の食物アレルゲンの種類
一般的な食物アレルゲン:牛肉、乳製品、鶏肉、小麦、子羊
あまり一般的ではない食物アレルゲン:大豆、とうもろこし、卵、豚肉、魚、ご飯4) - 犬の食物アレルゲンの種類
最も一般的な食物アレルゲン:牛肉、乳製品、小麦
最も一般的でない食物アレルゲン:魚、ウサギ5)
一般的な食物アレルゲンの中に小麦が含まれているの事実ですが、本当にその犬にとって小麦がアレルゲンになっているのかどうかは、確認しないとわかりません。確認しないまま、グルテンフリーのドッグフードを選択するのは、無意味であるというのが、共通した意見です。
確認する方法はいろいろあるようですが、アレルゲンと疑われる材料を含まない食事を8~12週間食べさせて、症状の変化を見る除去試験がもっとも確実なようです。
もし、小麦が原因である可能性が高いのであれば、グルテンフリーのドッグフードを3か月間食べさせて、症状が軽くなるか観察してください。この間、小麦成分を含むおやつなどは絶対に与えてはいけません。
そして3か月後に症状がよくなったら、そのまま続ければよいし、そうでなければ、そのドッグフードで使われている別の成分を疑う必要があります。
グレインフリーのドッグフードは、グルテンフリーよりさらに意味がないと思われます。
犬にとってアレルゲンになりやすい成分で、グレインフリーのドッグフードで含まれていないのは、小麦だけです。犬にとってアレルゲンになりやすい牛肉、乳製品、鶏肉、卵を抜かずに、他の成分を抜いても、デメリットしかないと考えられます。
なぜグルテンフリー・グレインフリーの人気があるのか
まずグルテンフリー、グレインフリーは、体によいというイメージがあります。家族である犬には、値段が高くても体によいものを、と思う人が多いのです。でも後で説明しますが、グルテンフリーやグレインフリーのドッグフードが必ずしも体によいとは言えないようです。
つぎに、犬はもともと肉食なんだから、穀物は減らしたほうがよい、と考えている人が多いようです。これも単なる思い込みで、犬は人間と同じ雑食で、肉も穀物も食べます。犬の祖先であるオオカミも、完全な肉食ではなく、雑食もするそうです。
犬は農耕生活が始まった1万年以上前から人間と暮らしてきたので、完全に雑食になっています。
最後に、多くの飼い主は、ペットの食べものを選ぶとき、自分の食べものと同じ選択をする傾向があるといわれています。
飼い主がグルテンフリーだとグルテンフリーのペットフードを、グレインフリーだとグレインフリーのペットフードという具合です。中にはベジタリアンの犬もいるそうですが、犬にとってはちょっとかわいそうな気もします。
アメリカでは30%の人がグルテンを避けているそうで、グルテンフリーは世の中で定着しています。またパレオダイエットを実践している人も人口の1%いるそうです。ペットフードに、グルテンフリー、グレインフリーの製品が登場するのも、うなづけます。
犬の食物アレルギーは症状がでるのに時間がかかる
犬の食物アレルギーと人間の食物アレルギーとは異なる種類のアレルギー反応と考えられています。
人間の食物アレルギーは、アレルゲンが体内に入ってから数分から数時間で皮膚症状や全身症状が現れるもので、血圧の低下や意識障害が起きて死に至ることもあり、即時型アレルギーと呼ばれるものです。
これに対し犬の食物アレルギーは、アレルゲンが体内に入ってから症状が現れるまで数時間から数日かかります。こちらは遅延型アレルギーといって、即時型とはメカニズムが異なるものです。
人間の食物アレルギーと区別するために、食物過敏症、食物不耐症、食物誘発性過敏反応と呼んだほうが適切です。
アレルギー反応は食物に含まれている特定のたんぱく質に対して免疫系が過剰に反応し、そのたんぱく質を排除するための抗体ができ、炎症反応を引き起こします。
この反応が起きるためには抗体が必要なので、1種類の食品や成分に長期間さらされた後に起きるといわれています。また複数の食品や成分にに対して過敏反応を起こす場合もあります。
食物誘発性過敏反応の症状はいろいろありますが、最も多い皮膚の臨床徴候はそう痒症(かゆみ)です。かゆみを感じる場所は、耳、足、腹側が多いようです。
どれくらいの犬がこの食物誘発性過敏反応に苦しんであるのかの、正確なデータはありませんが、大手製薬メーカーMERCKが公開している獣医マニュアルによりますと、
- そう痒症(かゆみ)を持つ犬は9〜40%
- あらゆる形態の皮膚炎を持つ犬は最大24%
- 食物誘発性過敏反応で獣医のケアを受けている犬はの1〜2%
というデータがあります。
飼い主にしたら、なんとかしてあげたいと思うのは当然のことです。しかし先ほど説明したように、何が原因が特定しないで、グルテンフリーやグレインフリーのペットフードを与えても、何の解決にもならないばかりか、症状を悪化させることもあります。
グレインフリーのドックフードのデメリット
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、グレインフリーのドッグフードが拡張型心筋症の発症に関係するという調査結果を発表していました。
2019年6月27日にエンドウ豆、レンズ豆、その他のマメ科植物の種子、およびジャガイモを高い割合で含む、「グレインフリー」とラベル付けされた特定のペット食品を食べる犬の拡張型心筋症(DCM)の報告の調査を開始したことを発表するとともに、500件以上の症例や、犬の心不全のリスクを高めるリスクがある16のブランドのドッグフードを公表しました6)。
この中には、先ほど紹介した商品も含まれています。一部の獣医は、グレインフリーのドッグフードを使わないように、アドバイスをしているとのことです。
セリアック病の犬には治療が必要
ただセリアック病と同じ症状を示す犬も報告されています。アイリッシュセッターという犬種ではグルテン不耐性をもたらす先天性疾患があるそうです。
これはイギリスのアイリッシュセッターでのみ報告されています。この場合はグルテンフリードッグフードは有効です。
まとめ
- グルテンフリーとはグルテンを含む小麦、大麦、ライ麦を含まないこと、グレインフリーとは穀物を含まないこと。アメリカではグルテンフリーやグレインフリーのドッグフードが簡単に手に入る。
- 犬に食物アレルギーが多いのは事実だが、その原因が小麦や穀物とは限らないので、グルテンフリー・グレインフリーのドッグフードを食べさせることに意味はないといわれている。
- グルテンフリーやグレインフリーのドッグフードが人気があるのは、グルテンフリーやグレインフリーが健康によいと思っている人が多いことや、飼い主がそのような食生活をしていることと関係するといわれている。
- 犬は雑食性なので、穀物を抜くことに意味はない。
- 2019年にFDAは、グレインフリーのドッグフードが拡張型心筋症を誘発させる可能性が高いことを公表し、注意を呼び掛けている。
参考文献
1) Abel Pet Clinicウェブサイト https://www.abelpetclinic.com/choose-gluten-free-pet/
2) PetMDウェブサイト記事https://www.petmd.com/blogs/nutritionnuggets/jcoates/2012/nov/is_gluten_free_dog_food_better-29456
3) American Kennel Clubウェブサイト
4) MERCK マニュアル 獣医マニュアル
https://www.merckvetmanual.com/integumentary-system/food-allergy/cutaneous-food-allergy-in-animals
5) mordern dog ウェブサイト
https://moderndogmagazine.com/articles/food-allergies-dogs/15131
6) FDAウェブサイト FDA Investigation into Potential Link between Certain Diets and Canine Dilated Cardiomyopathy
https://www.fda.gov/animal-veterinary/outbreaks-and-advisories/fda-investigation-potential-link-between-certain-diets-and-canine-dilated-cardiomyopathy