グルテンフリーにチャレンジすると、何日で効果が出るのでしょうか。またチャレンジ期間中、グルテンが含まれる可能性があるものは、完全に抜かなければならないのでしょうか。お醤油まで抜くことになると、ハードルが上がってしまい、長続きしません。症状と目的にあわせたグルテンフリーの上手なやり方と、効果が出るまでの期間を説明します。
グルテンフリーの効果が早く出る症状と長くかかる症状がある
まず、あなたのお悩みは何でしょうか。グルテンフリーにすることで、どのような効果を得たいと思っておられるのでしょうか。
結論からいうと、グルテンフリーの効果が早く出る症状と、効果が出るまでに長い時間がかかる症状があります。
例えば、消化器症状。食事の後、おなかが張って苦しい、ガスがよく出るという症状は、消化されにくいグルテンを腸内細菌が分解することで発生するガスが原因です。ですから、グルテンフリーにすると、ガスのもとになる物質がなくなるので、腹部膨満も解消されます。
腹痛・下痢も同じです。腸内で発生したガスが腸管壁を刺激して、腹痛になったり、腸管壁への刺激が引き金となって、蠕動運動が急に起こって下痢になっています。ですからグルテンフリーにすると比較的早く、場合によっては数日で症状が緩和されます。
消化器症状でも、セリアック病の場合はメカニズムが異なります。セリアック病は、グルテンが原因で主に十二指腸でアレルギー反応が起こり、腸管壁の絨毛細胞(ひだ状の細胞)が破壊されることによって起こります。腹部膨満、腹痛・下痢、脂肪便といった消化器症状に加えて、皮膚症状や全身症状も見られます。遅延型アレルギーのひとつなので、グルテンが体内に入ってから、症状が出るまで 1~2 日かかります 1)。
これまでの研究から、グルテンフリーの食生活を少なくとも2週間続けることで、損傷した絨毛細胞がもとの状態に戻り、消化器症状は見られなくなるといわれています。グルテンフリーチャレンジは 2 週間とよく言われますが、その理由はこれなのです。もともとグルテンフリーは、セリアック病の人のための食事療法なので、グルテンフリーの効果が見られる期間を 2 週間としている場合が多いのです。
一方、同じセリアック病でも、皮膚症状や全身症状が緩和するまでには、長い時間がかかることがわかっています。セリアック病で 9 割の人に見られる症状に、ブレインフォグ(脳霧)があります。これは新型コロナウイルス感染症の後遺症としても見られるもので、頭の中がもやもやしたり、集中力、注意力が低下します。グルテン誘発性神経認知障害ともいわれ、白血球が脳の神経線維の炎症化と損傷を促進し、神経伝達速度(処理速度)が低下することで起きる軽い認知障害です 2)。この症状の場合は、グルテンフリーにすることで 12 か月以内に症状は見られなくなるといわれています。
いったん傷ついた脳の神経が完全に元に戻るまでには、長い時間がかかります。期間は損傷の度合いや、年齢にもよります。損傷の度合いが小さかったり、年齢が若く修復速度が速い場合は、もっと早く、症状が消えることもあります。
このように、症状によっては数日で改善したと感じられる場合もありますし、症状がなくなるまでに1年かかる場合もあります。
それでは、おもな症状別に、グルテンフリーの効果が感じられるまでにどのくらいかかるのか、それまでの間、どのような食事をすればよいのか、解説していきます。
お腹の調子が悪い場合はグルテンフリーを2週間、醤油は抜く必要なし
お腹の調子が悪いので、グルテンフリーにしてみようという方は、多いと思います。それもそのはず。6 人の 1 人の方が、グルテンに弱い体質で、その症状の多くは、消化器に現れているのです。
近年、過敏性腸症候群(IBS)と診断される人が増えています。日本消化器病学会は、日本人の 10 人に 1 人が、過敏性腸症候群といっています 3)。
一方、非セリアックグルテン過敏症(NCGS)という病気も、欧米を中心に増えており、人口の 0.5 ~ 13 %という報告や 4)、人口の 0.6 ~ 10.6 %という報告があります 5)。非セリアックグルテン過敏症は、セリアック病や小麦アレルギーではないが、グルテンの摂取によって腸および腸以外の場所に症状が現れる状態と定義されています。最新の研究では、非セリアックグルテン過敏症は、過敏性腸症候群の一つのタイプではないか、とも言われています 6)。
程度の差はありますが、お腹の不調にグルテンが関わっている人は、かなり多いと思われます。心当たりがある人は、ぜひグルテンフリーを試してみるべきです。
既に述べたように、グルテンが体内に入らなければ、消化器症状は現れません。早い場合は、数日で変化を感じることができます。まずは 2 週間、グルテンを摂らない食生活を送ってみましょう。
日本でグルテンフリー生活をする場合、必然的に和食になります。ところが、ほとんどの和食には、醤油が使われています。
ふつうの醤油は、大豆と小麦が主原料で、その比率はだいたい1:1です。醤油の旨みは、大豆や小麦に含まれるたんぱく質が分解してできたアミノ酸が主成分です。醸造の過程でたんぱく質は分解されるため、醤油にはたんぱく質は残っていません。
グルテンは小麦に含まれるたんぱく質なので、醤油にはグルテンは残っていません。しかしアレルギー反応を引き起こすのは、アミノ酸が数千個つながったたんぱく質ではなく、ペプチドというたんぱく質の破片です。たんぱく質が残っていなくても、その分解物である破片があると、アレルギー反応を引き起こしてしまいます。
小麦アレルギーは、このペプチドが原因で起きるアレルギー反応ですが、製品の醤油にはアレルギーを引き起こすペプチドは残っていないといわれています。そのため、小麦アレルギーの方はほとんどの場合、醤油を摂っても問題ないことがわかっています。
一方、セリアック病の場合は、醤油がどの程度影響するのか、よくわかっていません。セリアック病の研究は欧米で行われていますが、欧米では醤油は日本ほどポピュラーではありません。またセリアック病の原因となるペプチドが、醤油にどれだけ含まれているか、正確に測定することができません。
そのため、醤油は「グルテンフリーではない(=グルテン量が20ppm以下と証明できない)」といわれており、セリアック病の患者さんは、「グルテンフリーでないものは摂るべきではない」ということで、醤油は摂ってはいけないというのが公式見解となっています。
もう一度整理すると、セリアック病の人が醤油を避けるのは、醤油が症状に影響するから、ではなく、醤油がグルテンフリー食品ではない、からなのです。
長々と説明してきましたが、醤油を抜いたり、グルテンフリー醤油を用意することが簡単にできるのなら、念のためそうしてください。そうでない場合は、通常の範囲で醤油は摂っても大丈夫です。
仮にセリアック病であったとしても、醤油以外のグルテンを除去すれば、一日に摂取するグルテンの量をかなり少なくすることができます。醤油を抜くのは、セリアック病の診断が確定してからでも遅くないと思います。
全身症状を改善にはグルテンフリーを3か月、醤油は抜く必要なし
グルテンが原因で起きる可能性がある全身症状とは、具体的に次のようなものです。
- 倦怠感、筋力低下、疲労、関節痛、しびれ
- ブレインフォグ(脳霧、もやもや感)、頭痛、抑うつ
グルテンとの関係については、別の記事で詳しく説明していますのでここでは説明しませんが、いずれも神経系が関わっています。
グルテンが原因で、頭の中がもやもやしたり、集中力、注意力の低下が起こることがありますが、これをブレインフォグ(脳霧)といいます。セリアック病や非セリアックグルテン過敏症の人の 9 割で見られる症状で、白血球が脳の神経線維の炎症化と損傷を促進[…]
簡単にいうと、これらの症状は、グルテンが直接原因となっているわけではなく、グルテンが引き金となって体内で変化が起き、それが原因で別の変化が起き、そして結果的に起きていると考えられます。そのため、グルテンを摂るのをやめてから、症状が完全に消えるまでに、長い時間を要します。
先ほど、ブレインフォグが完全に消えるまでに 1 年かかったケースがあることを説明をしましたが、プレインフォッグ以外の症状は、もっと早い時期に順次改善しています。ですから、まずは 3 か月間、グルテンフリー生活を送ってみてください。
醤油については、抜いたり、グルテンフリー醤油を用意したりする必要はありません。
皮膚症状を治したい場合は専門家に相談を
皮膚症状といってもいろいろあり、原因は多様で、発症メカニズムも複雑です。グルテンだけが原因で皮膚症状が現れることはなく、他の原因とあわさって、症状が出ていることがほとんどです。そのため、何が原因でその症状が出ているのか推定し、それを取り除いていく作業が必要です。
ニキビ、吹き出物、肌荒れは、ちょっとした体調の変化で起きるので、ふだんから食べものや睡眠に気を使っている人も多いでしょう。小麦などに含まれるグルテンは、さまざまな影響を及ぼしますが、その中に、皮膚症状があります。また、グルテンによる下痢・便[…]
慢性的なニキビや吹き出物で悩んでいた人が、グルテンフリーの食生活にしたところ、症状がよくなったとか、アトピー性皮膚炎の人がグルテンフリーにしたところ、症状が軽快したという話はよくあります。またグルテンフリーにしたところ、脱毛が治ったという話もあります。これらは事実ですが、全ての人に同じように当てはまるものではありません。特に脱毛はいろいろなタイプがあり、全てのタイプの脱毛に、グルテンフリーが有効というわけではありません。
抜け毛や薄毛に悩んでいる人はたくさんいます。ネット上には、グルテンフリーの食生活にしたことで、症状がよくなったという記事がある一方で、無意味だという記事も載っています。 海外の情報が断片的に伝わってきており、誤解も多いように感じます。[…]
皮膚症状の改善に効果があるのは事実ですが、グルテンフリーをしながら、他の悪化要因も同時に取り除かなければ効果が出ないので、専門家に相談したうえで、対応することをお勧めします。
お腹の調子がよくならない場合は引き続いてFODMAPも減らす
グルテンフリーを 2 週間やってみたけど、腹部膨満、下痢、腹痛が相変わらず起きたという場合、その原因はFODMAPである可能性があります。
FODMAP とは、
F:Fermentable (発酵性の)
O:Oligosaccharides (オリゴ糖)
D:Disaccharides (二糖類)
M:Monosaccharides (単糖類)
A:and
P:Polyols (糖アルコール)
のことで、小腸で吸収されにくく、大腸でガスに変わりやすい炭水化物の総称です。もともとは過敏性腸症候群の患者さんの治療のために、オーストラリアの大学が考え出した食品分類の指標で、過敏性腸症候群の症状を改善するために、FODMAPを多く含む食品は避けて、FODMAP量の少ない低FODMAP食品を摂ることを推奨しています。
FODMAPについては別の記事に詳しく解説していますが、実は小麦も高FODMAP食品の一つです。グルテンフリーにすると、小麦を抜くことになりますが、そのため摂取するFODMAP量が減り、消化器症状が一時的に改善していた可能性があります。
しかしその場合は、小麦以外の高FODMAP食品を摂ると、お腹の調子は悪くなります。
ふだんからお腹の調子が悪い人は、FODMAP(フォドマップ)という成分が関係しているかもしれません。 FODMAPとは、人間が消化・吸収できない炭水化物で、食物繊維も含まれます。腸活によいといわれている食物繊維が、おなかの調子を悪くし[…]
このように、小麦、大麦、ライ麦を含む食品を抜くグルテンフリーで、お腹の症状がよくならない場合は、原因がグルテンではなく、FODMAPである疑いがあります。その場合は、引き続いて、低FODMAP食品だけを摂る生活を 2 週間、続けてみてください。
まとめ
- 腹部膨満、腹痛、下痢といった消化器症状は、グルテンフリーの効果が早く出る。一方、皮膚症状や全身症状はグルテンフリーを始めてから効果が出るまで、長い時間を要する場合があり、例えばブレインフォグ(脳霧)は症状が消えるまで 1 年かかったという報告がある。
- お腹の不調にグルテンが関わっている人はかなり多いと思われる。グルテンフリーにすると早ければ数日、遅くとも 2 週間で、グルテンフリーの効果を実感できる。まずは 2 週間、グルテンフリーを続けてみること。その際、醤油を抜く必要はない。
- グルテンが原因で起きる全身症状は神経系が関係している。グルテンを摂るのをやめても、症状が消えるまでに時間がかかるため、少なくとも 3 か月、グルテンフリーを続ける必要がある。その際、醤油を抜く必要はない。
- グルテンフリーにしたことで、症状が軽快する皮膚症状はあるが、皮膚症状にはいろいろ種類があり、グルテンだけが原因ではない。そのため、症状ごとに原因を推定して、それを取り除く作業が必要となる。専門家に相談することをお勧めする。
- グルテンフリーを2週間やってみたが、症状がよくならない場合は、その原因は FODMAP である可能性がある。引き続いて、低 FODMAP 食品だけを摂る生活を 2 週間続けてみるのがよい。
参考文献
1) Al-Toma A, Volta U, Auricchio R, et al. European Society for the Study of Coeliac Disease (ESsCD) guideline for coeliac disease and other gluten-related disorders. United European Gastroenterol J. 2019; 7(5):583-613. doi: 10.1177/2050640619844125
2) Gregory W Yelland, Gluten-induced cognitive impairment (“brain fog”) in coeliac disease, Journal of Gastroenterology and Hepatology, 32(S1) 90-93 (2017)
3) 日本消化器病学会ガイドライン
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html
4) Barbaro MR, Cremon C, Stanghellini V, Barbara G. Recent advances in understanding non-celiac gluten sensitivity. F1000Res. 2018; 7:F1000 Faculty Rev-1631. Published 2018 Oct 11. doi: 10.12688/f1000research.15849.1
5) Catassi C, Alaedini A, Bojarski C, et al. The Overlapping Area of Non-Celiac Gluten Sensitivity (NCGS) and Wheat-Sensitive Irritable Bowel Syndrome (IBS): An Update. Nutrients. 2017; 9(11):1268. Published 2017 Nov 21. doi: 10.3390/nu9111268
6) Transeth EL, Dale HF, Lied GA. Comparison of gut microbiota profile in celiac disease, non-celiac gluten sensitivity and irritable bowel syndrome: A systematic review. Turk J Gastroenterol. 2020; 31(11):735-745. doi: 10.5152/tjg.2020.19551