グルテンフリー生活をしていると、うっかりグルテンが入ったものを食べた、付き合いでグルテンが入っていることを知りつつ食べた、なんてことありますよね。そんなとき、食べたグルテンをなかったことにする方法があると、助かります。効果が確認されているものから、かなり怪しいものまで、最新の医学論文に基づいて薬剤師が解説します。
グルテンブロッカーと呼ばれる酵素は期待大
グルテンを帳消しにする効果が一番高いのは、グルテンブロッカーと呼ばれる酵素です。
これは黒カビ Aspergillus niger が作るプロリルエンドプロテアーゼ(prolyl endoprotease)(AN-PEP)という名前の酵素です。この AN-PEP は、グルテンの有害となる場所を部分的に分解することが知られており、AN-PEP で処理した小麦粉をパンの原料にすることで、グルテンの害が軽減できないかなど、さまざまな研究が行われています 1)。
最近の研究で、この酵素を含むサプリメントを服用することで、グルテンがそのまま小腸に到達するのを防ぐことができることが明らかとなりました。
スウェーデンで、グルテン過敏症の 18 人に小麦クッキーのお粥を食べてもらい、あわせて AN-PEP が入った錠剤、または AN-PEP が入っていない錠剤のいずれかを飲んでもらうという実験を行いました。
その結果、AN-PEP を服用することで胃でのグルテン濃度は 85 %、小腸でのグルテン濃度は 81~87 % 下がったことが報告されています 2)。
このサプリメントがあれば、例えば外出先のレストランで友人と食事をするとき、仮に 100 % グルテンフリーだと確認が持てなかったとしても、少しは安心して食事ができるようになるかもしれません。また何らかの理由でグルテンが含まれる食品を食べなければならないとき、これを一緒に飲むことで、グルテンの影響を軽くすることができる可能性があります。
一方で AN-PEP はグルテンを 100 % 分解することができないことから、少量のグルテンでからだに影響が出るセリアック病や小麦アレルギーの人が使うには、まだ課題があります。
AN-PEP が入ったサプリメントはすでに市販されていますが、どのような場面で使用するのがよいのか、検討が必要です。
グルテンを分解する消化酵素サプリメントが市販されている
海外では、さまざまな種類のグルテンを分解する効果があるとされるサプリメントが市販されています。このサプリメントについて、その効果を検証した論文があるので、紹介します 3)。
アメリカで市販されている 5 種類のサプリメントには、有効成分として次に示す酵素が含まれていました。
製品 | 有効成分の酵素 | |||
ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4) | プロテアーゼ | ペプシン | ペプチターゼ | |
サプリメントA | ○ | ○ | ○ | |
サプリメントB | ○ | ○ | ||
サプリメントC | ○ | ○ | ||
サプリメントD | ○ | ○ | ||
サプリメントE | ○ | ○ | ○ |
5 種類の製品に共通して含まれている酵素は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)とプロテアーゼです。
DPP-4 はグルテンが分解されにくい原因となっている部分を選択的に分解する酵素です。一方のプロテアーゼは一般的なたんぱく質分解酵素です。
試験管の中での実験では、DPP-4 とプロテアーゼを組合せることで、グルテンが分解されることが確認されています。
これらの消化酵素サプリメントは、グルテンを含む食品と同時に摂る必要があります。なぜなら、食べたものが十二指腸に達する前、すなわち胃の中にあるうちに、グルテンを分解する必要があるからです。
胃内容物の 25 % は約 30 分で十二指腸に到達するといわれているので、胃の中にある 30 分間に分解できなければなりません。実験の結果、30 分間でグルテンの 50〜70 %が分解されることが確認されました。この研究でも、上で紹介した AN-PEP が比較のために使われていましたが、グルテンがほぼ 100 % 分解されていました。
市販の消化酵素サプリメントは、食品中のグルテンを完全に分解することはできないので、グルテン過敏症への影響を帳消しにすることはできないと、この研究では結論付けています。
しかし、グルテンの影響を減らす効果があるので、何らかの理由でグルテンを摂ってしまった場合、その影響を減らす効果はありそうです。ただ食べものが胃の中にある間に飲まなければ効果がありません。
なお消化酵素サプリメントについては、関連記事で詳しく説明しています。
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生のパイナップルでグルテンを分解するのは難しい
生のパイナップル、キウイ、青パパイヤ、イチジクなどには、たんぱく質分解酵素が含まれています。肉を生のパイナップルと一緒に漬け込んでおくと、柔らかくなるという話を聞いたことがあるかもしれません。
このことから、グルテンを含んだ食べものと一緒にこれらの果物を食べると、グルテンの悪影響を減らすことができるのではないか、と考える人もいるようです。実際、青パパイヤ茶を、グルテンの分解を助けてくれるといって販売している人もいますが、効果はほとんどないと考えられます。
まず、生のパイナップルなどに含まれているたんぱく質分解酵素というのは、消化酵素サプリメントに含まれるプロテアーゼです。プロテアーゼはふつうのたんぱく質分解酵素なので、分解されにくいたんぱく質であるグルテンを、プロテアーゼ単独で分解することは困難です。
しかもグルテンが含まれる食べものと一緒に食べなければ効果がありません。昼にパスタを食べたから、夜に生のパイナップルを食べたというのでは、全く効果はありません。
そもそも、プロテアーゼに、グルテンが分解されにくい原因となっている部分を選択的に分解するジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)という酵素を加えた消化酵素サプリメントですら、30 分間でグルテンの半分強しか分解できなかったので、プロテアーゼ単独では、これより分解率が低くなるのは間違いないでしょう。
なお、生のパイナップルや青パパイヤについては、こちらのコラム記事も参考にしてください。
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オメガ3脂肪酸でグルテンをなかったことにはできない
ドコサエヘサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などのオメガ3脂肪酸が、食べたグルテンをなかったことにしてくれる、昼にパスタを食べたら、夜にオメガ3脂肪酸が豊富な魚を食べるとよい、という情報がネット上にあるので、これについても触れておきます。
オメガ 3 脂肪酸、植物フラボノイド、カロテノイドなどの成分には、炎症性メディエーターの産生を調節する機能があるため、小腸のバリア機能を維持し、グルテンの毒性に対して保護的な役割を果たすことが知られています 4)。
ただこれは、グルテンが原因で小腸上皮細胞が損傷したセリアック病の人の栄養療法で、オメガ 3 脂肪酸を取り入れることで、傷んだバリア機能が修復できるという話であり、グルテンフリーの食生活をすることが前提です。
オメガ 3 脂肪酸を摂ることで、グルテンをなかったことにできるわけではありません。
まとめ
- 黒カビ由来のプロリルエンドプロテアーゼ (AN-PAP) という酵素。グルテンの有害といわれる部分を選択的に分解します。グルテンを含んだ食べものと同時に摂る、あるいは小麦粉などをこの酵素で事前に処理する、などの使い方が考えられます。食品中のグルテンを 85 % 程度分解します。サプリメントが市販されています。
- グルテンを分解する消化酵素サプリメント。ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)というグルテンの分解されにくい部分を選択的に分解する酵素と、プロテアーゼという一般的なたんぱく質分解酵素が主な有効成分です。グルテンを含んだ食べものと同時に摂る必要があります。食品中のグルテンを 50 % 強分解します。すでにアメリカで市販されています。
- 生のパイナップルや青パパイヤには、プロテアーゼが含まれます。同時に食べると、たんぱく質を分解する効果はありますが、グルテンはあまり分解されないのではないかと推測されます。
- グルテンを食べた後、オメガ3脂肪酸を摂っても、ほとんど効果はないと考えられます。
参考文献
1) Rees D, et. al., A randomised, double-blind, cross-over trial to evaluate bread, in which gluten has been pre-digested by prolyl endoprotease treatment, in subjects self-reporting benefits of adopting a gluten-free or low-gluten diet, Br J Nutr., 119 (5) 496-506 (2018)
2) König J, et. al., Effective gluten degradation by Aspergillus niger-derived enzyme in a complex meal setting. Sci Rep, 7 (1) 13100 (2017)
3) Janssen G, et. al., Ineffective degradation of immunogenic gluten epitopes by currently available digestive enzyme supplements, PLoS One, 10 (6) e0128065 (2015)
4) Ferretti G, et. al., Celiac disease, inflammation and oxidative damage: a nutrigenetic approach, Nutrients, 4 (4) 243-257 (2012)