グルテンフリーに関心がある方は、毎日の食生活に気を配っておられると思います。そんなみなさんなら、デブ菌・ヤセ菌、FODMAPという言葉を聞いたことがあるかもしれません。ここでは、デブ菌・ヤセ菌、FODMAPについて、わかりやすく解説するとともに、グルテンフリーを実行するなら、ぜひ知っておいてほしいことも説明します。
腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があって割合が大事
人間の腸には、細菌(バクテリア)がおり、これをまとめて腸内細菌と呼びます。
成人の場合、その種類は 1,000 種以上、数は 600 兆~1,000 兆個といわれています 1)。人間の体を構成している細胞の数が 60 兆個なので、それを上回る数の細菌がわたしたちの腸の中に棲んでいるわけです。何のためにこんなに多くの細菌を、わたしたちは飼っているのでしょうか。目的は 4つあります。
一つ目は、難消化性の食物繊維やオリゴ糖を分解し、酢酸、プロピオン酸、酪酸を生産することです。酢酸とプロピオン酸は細菌の、酪酸はヒトの直腸上皮細胞のエネルギー源として使われます。
二番目は、ヒトが必要とするビタミン類(ビタミンB群、ビタミンKなど)を生産し、供給することです。ビタミン類は食物として摂取することも可能ですが、腸内細菌がつくるビタミンは、不可欠です。
三番目は、神経伝達物質のセロトニンを合成し、ヒトに供給することです。
そして最後は、病原体や異物を排除し、からだを守ることです。この機能が低下すると、すぐに病気にかかってしまいます。
このように、腸内細菌はわれわれが生きていくうえで、なくてはならないものなのです。
ところで、1,000 種以上の細菌は、その性質から 3 つのグループに分けられています。善玉菌(ぜんだまきん)、悪玉菌(あくだまきん)と日和見菌(ひよりみきん)です。
悪玉菌って「ばいきんまん」みたいな名前ですが、ちゃんとした正式名称です。英語でも Bad bacteria といいます。
善玉菌は、上で説明した 4 つの働きをすることで、われわれのからだを守ってくれる大切な菌です。
これに対し悪玉菌は、細菌毒素や発ガン物質を作ったり、腹部膨満の原因となるガスを発生させるなど、ロクなことをしません。それなら、腸の中にする菌をすべて善玉菌にすればよいと思うのですが、それはできません。多種類の菌がバランスをとって共存することで、環境の変化に対応しているのです。
日和見菌は、腸内細菌の中で、最大勢力です。日和見菌は、健康なときはおとなしくしていますが、体が弱ると腸内で悪い働きをはじめる菌です。嫌な奴ですね。この日和見菌にもいろいろな種類があるのですが、その2大勢力が、デブ菌とヤセ菌なのです。詳しく見ていきましょう。
デブ菌とヤセ菌は日和見菌をグループ分けしたもの
デブ菌とヤセ菌は、正式名称ではありません。肥満体質の人の腸内に多く見られる菌のグループをデブ菌、やせ型の人の腸内に多くいる菌のグループをヤセ菌と呼んでいます。
カロリーの高い食事、脂肪が多い食事を摂っている人の腸では、Firmicutes や Proteobacteria という種類の菌が多く、Bacteroidetes という種類の菌が少ないそうです。この状態がひどくなると、腸内毒素症という病気になります。
Firmicutes や Proteobacteria という種類の菌が、いわゆるデブ菌で、食物から効率よくエネルギーを生産し、人間の脂肪組織を増加させてくれます。さらに炎症性サイトカインが分泌されることで、2 型糖尿病やメタボリックシンドロームに近づくことになります。一方、Bacteroidetes がヤセ菌といわれているものです 2)。
腸内細菌の比率は、食習慣を含めた生活環境や年齢で変わるといわれています。
0 歳から 104 歳まで 367 人の健康な日本人被験者の糞便サンプルを分析した結果があります 3)。横軸の数字は年齢で、それぞれの色は、下から、黄色:放線菌(ビフィズス菌などの善玉菌)、赤色:Bacteroidetes(日和見菌・ヤセ菌)、青色:Firmicutes(日和見菌・デブ菌)、ピンク色:Proteobacteria(日和見菌・デブ菌)、黒色:その他です。これを見たら、ほとんどがデブ菌ということになりますね。
腸内細菌は肥満と密接な関係があります、太ったお嬢さんの大便を母親に大便移植すると、2年後に母親が肥満したという結果もあるんです 1)。こんな話を聞くと、自分の腸の中のデブ菌を減らして、ヤセ菌に変えたいって、誰しも思いますよね。そこで、○○を食べたら、ヤセ菌が増える・・・という怪しい話が絶えません。
腸内細菌のバランスは、その人が生まれてから長い間に形作られてきたものなので、何かを食べたくらいで、簡単に変わることはありません。ただ、善玉菌やヤセ菌を増やし、悪玉菌とデブ菌を減らすための方法はあります。
善玉菌とヤセ菌を増やし、悪玉菌とデブ菌を減らす方法
プロバイオティックスを摂ることで善玉菌を増やす
ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌などの善玉菌を、サプリメント、食物などの形で摂取し、補うことで、善玉菌を増やすことができます 4)。善玉菌とそれを含む食品をプロバイオティクスといいます。具体的には、ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物などの発酵食品です。
ただこの方法には課題もあります。
まず摂取した善玉菌は腸内にある程度の期間は存在しても、棲みつくことはないので、定期的に補充する必要があります。また口から入った善玉菌は腸へ到達するまでに、酸性の胃を通らなければならないため、死んでしまう場合があります。生きたまま腸まで届く方がよいといわれていますが、死んでしまっても善玉菌の体を作る成分が腸に届くため、全く効果がないわけではありません。
プレバイオティックスを摂ることで善玉菌を増やす
善玉菌のエサになる成分を、プレバイオティクスといいます。具体的には食物繊維とオリゴ糖です。これを摂ることで、善玉菌を増やすことができるので、サプリメントやこれらの成分を添加した食品がたくさん出回っています。食物繊維とオリゴ糖については、のちほど詳しく説明します。
ところで善玉菌とそれを含む食品がプロバイオティクス、そのエサがプレバイオティクス。似ているので、わかりにくいですね。
ちなみにプレバイオティクスとプロバイオティクスを合わせて、シンバイオティクスといいます。
悪玉菌を減らす
悪玉菌を減らす方法は2つあります。
一つ目は善玉菌を増やすこと。善玉菌は乳酸、酢酸、酪酸を作ることで腸内を酸性にし、悪玉菌が増殖しにくくします。
もう一つは悪玉菌のエサになる食物を控えること。動物性たんぱく質や脂質は、悪玉菌のエサになります。
ただ二番目の方法はお勧めしません。動物性たんぱく質も脂質も、からだにとっては必要なものなのです。悪玉菌を減らすことが目的ではなく、健康になることが目的であることを忘れないでください。
FODMAPはデブ菌を減らしてヤセ菌を増やす成分
善玉菌が増えるとヤセ菌が増え、悪玉菌が増えるとデブ菌が増えます。ですから、食べ物でいうと、発酵食品と食物繊維とオリゴ糖を多く含む食品を摂れば、デブ菌が減って、ヤセ菌が増えるという理屈になります。
これ以外に、デブ菌、ヤセ菌についての著書 5) によれば、白米、麺類、パン、スイーツ、肉類がデブ菌を増やす原因になるとのことなので、摂りすぎないようにしたほうがよいとのことでした。
ところで、デブ菌を減らしてヤセ菌を増やす食品の多くが、FODMAPといわれる成分を多く含んでいることはご存じでしょうか。
FODMAPを多く含む食品は、過敏性腸症候群の症状を悪化させるといわれています。わたしは過敏症腸症候群じゃないから関係ない・・・。そう思わないでください。過敏性腸症候群の人は、日本の人口の 14 %、欧米でも人口の 10~20 %もいます 6)。健康なるために取っているもので、逆にお腹の調子を悪くしている可能性もあります。
FODMAP成分が少ない食事や食品を “Low FODMAP foods” あるいは “Low FODMAP diet” といいます。これを日本語訳すると「低FODMAP食」で、多くの人がこの名詞を使っています。
ところが「低FODMAP食」という名詞は、ある個人によって商標登録されており、使用にあたっては制限が課され、場合によっては使用料を請求されることもあります。商標登録することの是非はさておき、特許庁が商標として認めた以上は、これに従わなければなりません。
したがってこのサイトでは「低FODMAPの食品」「低FODMAPの食事」という表現を使っています。
FODMAPは過敏性腸症候群を悪化させる炭水化物
FODMAPとは、
F (Fermentable):発酵性の
O (Oligosaccharides):オリゴ糖
D (Disaccharides):二糖類
M (Monosaccharides):単糖類
And
P (Polyols):ポリオール(多価アルコール、糖アルコール)
の頭文字をとったものです。
炭水化物は三大栄養素の一つですが、それを構成する最小単位である単糖類にまで分解されて、初めて小腸で吸収されます。
単糖類が 3 個以上つながったオリゴ糖、2 個つながった二糖類はそのままでは吸収されないので、消化酵素で単糖類に分解する必要がありますが、中には分解されにくいものがあります。
また単糖類にも、吸収されやすいものとされにくいものがあります。そうなると、分解されにくいオリゴ糖と二糖類、吸収されにくい単糖類は、小腸で吸収されないまま、大腸へ送られます。腸内細菌がこれをエサにして発酵・分解しますので、発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類という名前がついています。
FODMAPを多く含む食品は、10人に1人くらいの日本人のおなかの調子を悪くしている可能性があります。
善玉菌を増やすのに有効といわれるオリゴ糖が、あなたの腸内環境を悪化させているかもしれません。
オリゴ糖は善玉菌のエサになりますが、日和見菌のエサにもなります。そのためオリゴ糖から酢酸、プロピオン酸、酪酸だけでなく、ガスも生産されるのです。オリゴ糖を摂り過ぎると、お腹がパンパンに張って、ガスが出やすくなりますし、下痢をすることもあります。そうなると、善玉菌が減り、悪玉菌が増えてしまいます。
善玉菌のエサになるといわれるプレバイオティクスの中で、FODMAPに該当するものとしては、オリゴ糖のほかに、二糖類の乳糖(ラクトース)があります。日本人の 75 %は乳糖を分解する酵素を持たないか、あるいは生産する能力が低いため、乳糖を分解できない場合があります。乳糖はそのままでは吸収されないので、大量のヨーグルトや牛乳を摂ると、下痢をすることがあります。
FODMAPとグルテンはどちらも消化・吸収が悪い
FODMAPは、小腸で吸収されにくい炭水化物です。一方、小麦などに含まれるたんぱく質の一種であるグルテンも、人によっては消化・吸収されにくいことがわかっています。
FODMAP、グルテンとも、腸内細菌のエサになり、腸内にガスが溜まる原因になるほか、腸壁を刺激して腹痛や下痢を起こすこともあります。さらに食物繊維もFODMAPとほぼ同じ作用があります。整理すると、次のような関係になります。
デブ菌を減らしてヤセ菌を増やすためには、善玉菌を増やす必要があります。
そのためには善玉菌そのもの(プロバイオティクス)を補給する方法と、善玉菌のエサになるオリゴ糖や食物繊維(プレバイオティクス)を補給する方法があります。
オリゴ糖や食物繊維は小腸で消化・吸収されにくくいので、そのまま大腸へ送られます。そして善玉菌を増やして便秘を解消させることもありますが、人によっては腹痛、腹部膨満、下痢を引き起こすこともあります。下痢が慢性的に起きるようになると、デブ菌や悪玉菌が増えてしまうことになります。
小麦はグルテンを含む代表的なたべものですが、実は小麦にはオリゴ糖の一種であるフルクタンも重量の 1.2 %も含まれており 7)、高FODMAP食に分類されます。
グルテンは他のたんぱく質と比べて消化・吸収されにくいのですが、フルクタンも消化・吸収されにくく、そのまま大腸へ送られ、腸内細菌のエサになります。その結果、グルテンとフルクタンがダブルで腹痛、腹部膨満、下痢の原因になることがあります。
最後に動物性たんぱく、脂質が多い食品を多く食べるとデブ菌、悪玉菌が増えるといわれますが、いずれも人間が生きていくうえで必要な栄養素なので、適度に摂取すべきと考えます。
何を食べればよいのか?
FODMAPが多い、少ないと、グルテンを含む、含まないで、食品を分類しました。なお、FODMAPについては、オーストラリアのモナッシュ大学の分類に基づいています 8)。
グルテンは小麦、大麦、ライ麦に含まれます。
この中でわたしたちがよく食べるのは小麦ですが、小麦にはFODMAPが含まれています。小麦粉の約 70 %はでんぷんなのですが、オリゴ糖の一種であるフルクタンが重量の 1.2 %も含まれており、小麦粉から作ったパンにも1.4~1.7 %含まれます 7)。非セリアックグルテン過敏症の典型的な症状が、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感ですが、これはフルクタンを含むFODMAPの摂取で起こる症状でもあります 9)。
結局、何を食べたらよいのかは、あなたの症状と目的によります。
体調不良を解消したい、過敏性腸症候群を治したい
この場合は、低FODMAPのグルテンフリー食品だけで、2~4 週間様子を見てください。それで症状がよくなったら、グルテンフリーの高FODMAP食品も積極的に食べて、症状の変化を観察してください。
グルテンフリーの高FODMAP食品で症状が悪化するようであれば、あなたの不調の原因はグルテンではなく、FODMAPにある可能性があります。
その場合、FODMAPを多く含む食品をできるだけ摂らないようにしてください。FODMAPが原因で起きている症状は、アレルギー反応ではないので、厳密に抜く必要はありません。あなたの体調と相談しながら、可能な範囲でやればよいと思います。
善玉菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖が不足する可能性があります。その場合は、ビフィズス菌や乳酸菌を含むおくすりで、善玉菌そのものを補給すればよいでしょう。
グルテンフリーの高FODMAP食品の摂取で症状が悪化しない場合は、あなたの不調の原因はFODMAPではなく、小麦などに含まれるたんぱく質である可能性があります。具体的に何かは調べないとわかりませんが、グルテンや、アミラーゼ・トリプシン・インヒビター(ATI)というたんぱく質に影響を受ける人がいることがわかっています。
腸内環境を整え、デブ菌を減らしてダイエットしたい
グルテンフリーも低FODMAPもダイエットが目的の食事法ではないのですが、うまくやればダイエットになります。
まずあなたは、便秘気味ですか、それとも下痢気味ですか。
慢性の腹痛がなく便秘気味であれば、FODMAPは摂ったほうがよいと思います。グルテンフリーの食品をバランスよく摂ってはどうでしょうか。グルテンを含む食品には、糖質が多く含まれるものも多いので、グルテンフリー食に変えることで、結果的に糖質の摂取量が減り、ダイエット効果が期待できるかもしれません。
下痢気味の場合は、FODMAPによって症状が悪化している可能性が高いので、グルテンフリーの低FODMAPの食品だけにして、2~4週間、様子を見てください。下痢気味の場合は、ダイエットよりも、お腹の症状を改善することの方が優先されます。慢性的におなかの調子が悪いということは、悪玉菌が増える原因にもなります。
将来のために強く健康な体を作りたい
健康なからだを作るためには、からだに負担になるものを食べないことです。体に負担になるものとは、
- もともと食品に含まれるべきではない異物
- 消化・吸収が悪いもの
- アレルギーの発症が多く報告されているもの
などです。
小麦は、消化・吸収の悪いグルテンとオリゴ糖の両方が含まれているため、消化器に負担をかける可能性があります。さらに小麦はアレルギーの発症が多く報告されています。グルテンフリー食品で、食品添加物や残留農薬ができるだけ入っていないものを食べることが、健康なからだづくりに欠かせないと思います。
FODMAPを多く含む食品を3~8週間完全に抜いて体調の変化を観察し、そのあと、FODMAPを含む食品を1種類ずつ摂取して、体調の変化を観察する…。 低FODMAPチャレンジの正しいやり方として、このような方法が紹介されています。 […]
まとめ
- 人間の腸には 1,000 種以上、600 兆~1,000 兆個の細菌が棲んでおり、人間の生命維持に密接にかかわっている。腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類に分けられ、バランスを保って共存している。デブ菌、ヤセ菌は日和見菌の一種であり、高カロリー、高脂肪食を摂る人はデブ菌が多く、その逆の人はヤセ菌が多い。
- デブ菌を減らしてヤセ菌を増やすには、善玉菌を増やす必要がある。善玉菌を増やすには、善玉菌そのもの(プロバイオティクス)を補給する方法と、善玉菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖(プレバイオティクス)を補給する方法がある。
- FODMAPは、分解・吸収されにくい炭水化物の総称で、腸内細菌のエサとなってガスが溜まったり、腹痛や下痢を起こしたりすることがある。善玉菌のエサになるオリゴ糖はFODMAPの一つ。グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質で、こちらも人によっては分解・吸収されにくいため、ガス発生、腹痛、下痢を起こすことがある。
参考文献
1) 辨野義己、腸内細菌叢と疾病、ドクターサロン、60 (2) 14-18 (2016)
2) 山城雄一郎、腸内細菌:宿主の健康と疾病への密接な関係、順天堂醫事雑誌 60(1) 25-34 (2014)
3) Toshitaka Odamaki et. al., BMC Microbiol, 16, 90 (2016)
4) 腸内細菌と健康、厚生労働省e-ヘルスネット(2019)
5) 藤田紘一郎、腸で寿命を延ばす人、縮める人(2018)
6) 福土審、過敏性腸症候群 Irritable Bowel Syndrome, Future Direction of Research in Irritable Bowel Syndrome, 消心身医 20 (1) 23-26 (2013)
7) Ewa Pejcz et. al., Technological Methods for Reducing the Content of Fructan in Wheat Bread, Foods, 8 (12) 663 (2019)
8) High and low FODMAP foods, Monash University
https://www.monashfodmap.com/about-fodmap-and-ibs/high-and-low-fodmap-foods/
9) Skodje GI, et.al., Fructan, Rather Than Gluten, Induces Symptoms in Patients With Self-Reported Non-Celiac Gluten Sensitivity, Gastroenterology, 154 (3) 529-539 (2018)