ブレインフォグという軽い認知障害、ご存じですか。頭の中に霧がかかったような感じがして、集中力や注意力の低下、物忘れなどの症状が出ます。新型コロナウイルス感染症の後遺症としても、報告されています。ところでこのブレインフォグ、グルテンが原因で起こるセリアック病や非セリアックグルテン過敏症の人の9割で見られる症状なんです。
ブレインフォグの原因は炎症反応
えっ? ブレインフォグって、グルテンが原因で起きるんじゃなかったの? 新型コロナウイルス感染症の後遺症でも起きるの?
新型コロナウイルスに感染し、熱は下がったものの、仕事ができなくなってしまった、というニュースを聞き、そして、その症状をブレインフォグという、と聞いたときには、ちょっと驚きました。わたしはもともとグルテンには弱い体質なので、グルテンを摂るとどんな症状が出るのかについての知識が、少しはありました。
いま一度、ブレインフォグの原因を思い返してみると、自己免疫疾患であるセリアック病では、グルテンを撃退するために、炎症性サイトカインという物質がたくさん作られて、それが脳の認知機能を低下させる、ということだったはずです(詳細はこちらの記事を見てください)。
ということは、新型コロナウイルス感染症にかかると、炎症性サイトカインがたくさん作られる、ということでしょうか!
グルテンが原因で、頭の中がもやもやしたり、集中力、注意力の低下が起こることがありますが、これをブレインフォグ(脳霧)といいます。セリアック病や非セリアックグルテン過敏症の人の 9 割で見られる症状で、白血球が脳の神経線維の炎症化と損傷を促進[…]
当サイトの薬剤師の解説
ウイルスに感染すると、これを撃退するために免疫が働きます。
免疫は私たちのからだに生まれつき備わっている機能で、体内にウイルスや細菌のような「異物」が侵入すると、からだの中のさまざまな免疫細胞が炎症反応を起こし、異物を攻撃し、排除しようと働きます。ウイルスに感染すると熱が出ますが、これもウイルスを殺そうと、わざと高い温度にしているためです。この炎症反応に関わる物質が、炎症性サイトカイニンやケミカルメディエーターといわれる化学物質です。ウイルスに感染すると、炎症性サイトカイニンがたくさん作られ、ウイルスと戦っているのです。
コロナ後遺症とグルテンのブレインフォグは同じメカニズム?
ブレインフォグは、どのようなメカニズムで起きるのでしょうか。
当サイトの薬剤師の解説
さきほど説明したように、ウイルスに感染すると炎症性サイトカイニンが作られます。
新型コロナウイルスは人間にとって手ごわいウイルスで、人によっては撃退するまでに時間がかかる場合があります。ウイルスが存在し続ける間、炎症性サイトカイニンも作り続けられ、血液中の濃度も上昇します。
そして、大量に作られた炎症性サイトカイニンは血液に乗って全身に運ばれます。
脳の血管には、血管脳関門といって、異物が脳の中に入らないようにしているバリアがあります。ところが炎症性サイトカインが血液脳関門の上皮細胞に結合すると、このバリア機能が緩み、脳へ白血球が入っていきます。
白血球は、脳の神経線維の炎症化と損傷を促進するため、神経伝達速度(処理速度)が低下し、軽い認知障害が起きます。これがブレインフォグといわれるものです。
ですから、新型コロナウイルス感染症で起きるブレインフォグは、グルテンを「異物」と認識するグルテン過敏症の人がグルテンを摂ったときに起きるブレインフォッグと、同じメカニズムと推定されます。
ブレインフォグの症状と回復までの期間
ブレインフォグの症状と回復までの期間について、詳しく教えてください。新型コロナウイルスならではの症状とかあるのでしょうか。
当サイト薬剤師の解説
血液中の炎症性サイトカイニンの濃度が下がると、脳への白血球の侵入はなくなるので、脳の神経線維の炎症化と損傷は、ある程度のところで治まります。
ただ、損傷の度合いによっては、神経線維がもとの状態に回復するまでに時間がかかるため、ウイルスが体内から消えた後も、しばらくの間、後遺障害としてブレインフォグが残ることが考えられます。
今回の感染症では、味覚障害や嗅覚障害も、後遺障害として報告されています。断定はできませんが、これも脳の味覚や嗅覚に関わる神経線維が損傷を受けたことによる可能性があります。
回復までの期間は、損傷の程度によるので、人によって違います。グルテン誘発性神経認知障害としてのブレインフォグの場合、グルテンフリーの食事を摂るようになると、12 か月以内に神経認知障害の症状が見られなくと言われています。
どうすれば早くもとに戻るのか?
原因がグルテンなら、取り除けば改善する、ということですね。それにしても12 か月とは、長いです。症状が長引いてしまった場合、なにかできることはあるのでしょうか。
当サイト薬剤師の解説
いまのところ有効な手立てはないようです。損傷した脳の神経線維がもとに戻るのを待つしかない、ということです。
グルテンが原因の神経認知障害は、症状がなくなるまで、最長 12か月程度といわれていますが。新型コロナウイルス感染症による味覚障害も、解消するまでに、3 か月から最長 1 年かかったという報告が海外でありました。
ただ、効果が検証されているわけではありませんが、できるだけ炎症反応を起こさないようにするのは有効ではないかと思います。例えば、風邪をひかない、アレルギー反応を起こさないなど・・・。
花粉症もアレルギー反応なので、花粉が飛ぶ時期には早めに薬を飲んで予防するとともに、原因物質を吸い込まないように注意することが大事です。
まとめ
- ウイルス感染の後遺症として最も多いといわれている「ブレインフォッグ」は、脳の神経線維の炎症化と損傷によって、神経伝達速度(処理速度)が低下し、軽い認知障害が起きている状態。
- ウイルスを撃退するために免疫細胞が作った炎症性サイトカイニンが原因で起きていると考えられる。
- グルテンを異物と認識するグルテン過敏症の人がグルテンを摂ったときに起きる「ブレインフォッグ」と同じメカニズムと推定される。
- 味覚障害、嗅覚障害も同じメカニズムで起きていると考えられる。
- 損傷を受けた神経線維が元の状態に戻るのを待つしかない。